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小さくて大きなわがまま  作者: しがない竜
第2章2節 施しの植木鉢 下

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第68話 「最後通牒」

 街の上の空だけ、雲が退けられ、風すらも優しくなる。


 どう考えても、人為的な現象にセロンは胸騒ぎがした。これほどの大規模な環境操作が出来るのは一人しか知らなかった。


 少しすると、風に乗って、低い厳格な声が耳に響いて来る。


「侵略者に告ぐ。貴様らの暴虐を歓迎する者などこの街にいない。分をわきまえて、即時撤退しろ。さもなくば、血の海を見ることになろう。断っておくが、我々は人命を優先する程の人情は無い。戦闘が始まれば、見境は無い。それでも歯向かってくるのであれば、多くの尊い命が失われることになる。心しておけ」


 一拍の間があった。


下町(しもまち)に住む全ての平民に告ぐ。今から一刻後に、人の有無関係なしに、下町で大規模な戦闘を始める。死にたくなければ、侵略者に与するのは止めて、広場に集結しろ。素直に従う者には、身の安全を保障しよう。期限は一刻だ。この通告は室内外関係なく、風が通じる場所には届くようになっている。仮に聞き逃している者がいるなら、近くにいる者が伝達しろ」


 声はそれ以上、聞こえてはこなかった。


 無茶苦茶な布告だ。下町の平民など何とも思ってない。勝手に争いの場にして、人が居ようが居まいが関係なく、戦闘を始める気だ。セロンは、張り詰めた焦燥感で落ち着いていられなかった。


 今までは、人の気配なんて無かったのに、建物内から多くの人々がぞろぞろと飛び出してくる。皆、深刻そうな顔をし、広場のある方へ向かっている。選択の余地は無いと、意思の無い亡者のように、同じ目的地に向かっていく。


 セロンは早くあっくんと合流しようと思い、救難信号機を起動した。そのまま、宿屋に向かって走り出す。それと同時だった。ほんの僅かな時間しか経過してないのに、あっくんが、音もなく、支道から現れた。


「セロン、大丈夫か?」


「あっくん! 僕は大丈夫。けど、大変なことに……」


「ああ、とにかく一度、宿に帰るぞ」



 宿屋についた時、一人の重厚な鎧を纏った男が入り口で待っていた。治安維持部隊隊長のフィルズ・アスターだった。彼と合流し、三人は、宿屋の三階、借りている部屋へ向かう。もう無人と化した宿を見て、セロンは、宿主の身に何かあったに違いないと確信を持っていた。けれど、探している暇は無い。


 三階の部屋の中、静かな空気が部屋全体を覆っている。


「セロン、スクミ―はどうした?」


 あっくんが、スツールに腰を掛けて、訊いてきた。セロンは、どぎまぎしながら、できるだけ顔に出さないように取り繕った。


「何か、個人的な用があるって何処かに行っちゃったよ」


「あいつ……報酬減額だな」


 セロンはスクミ―に心の中で謝った。そして、別に悪いことしている訳じゃないのにどうして嘘をついてしまったのだろうかと自分の咄嗟の判断を不思議に感じていた。


「さて、敵が最後通牒をしてきた件だが、どうするか決めようか」


「我ら部隊の立場も任務も変わらない。街を仕切る長が、抵抗してくるのであれば、鎮圧するまでだ」


 フィルズはテーブルに向かう椅子に座り、厳かな顔で表情変えず告げた。


「街の者が犠牲になってもか?」


「奴らは、平民は自分たちの所有物で、好きなように扱う権利があるとほざいていた。街の民にも訊いたが、酷い従属的な支配をされているようだ。放置していたらどのみち多くの犠牲者が出る。多少、強引にでも制圧するしかない」


 フィルズは動じない姿勢だった。あっくんとセロンは黙る。それを否定的と捉えたのか、フィルズは付け加えた。


「だからと言って、見殺しはしない。出来る限り、戦闘に巻き込まれないように庇いながら敵を鎮圧するつもりだ」


「敵の有利環境で勝てるのか?」


 あっくんが訊いた。セロンは素直に聞く側に回った。


「かなり苦戦を強いられるな。だが、数では圧倒的にこちらが勝っている上、相手だって、無尽蔵の体力ではない。持久戦に持ち込めば、自ずと勝利はこちらに転がって来る」


 フィルズは自信満々に断言した。


「敵は街の者に広場へ集まるように呼び掛けていたが、集めといて人質にする可能性もあるぞ」


「これまで、機会は幾らでもあったのに、人質にしてないのをみるに、すぐに人質にはしないだろう。だが、戦況が悪くなると策の一つとして講じて来るだろうな」


「どうする気だ?」


 あっくんが足を組んで素っ気なく訊いた。


「俺は、人質に取られる前に、敵が集めた住民の保護に向かう。親玉はお前に任せたい」


「楽な方を選んでないか?」


 あっくんが目を細めて、疑いを向ける。


「むしろ、こちらの方が、大人数を扱うという点において負担は大きい。それにもう動いている」


 フィルズは淡々と答えた。あっくんが面倒くさそうにため息をつく。


 ベッドにちょこんと座るセロンは、ふと疑問に思ったことを質問した。


「街の外は猛獣や魔獣で溢れていなかった? どうやって部隊は中に入ったの?」


「街近辺に居る獣共は、部隊の脅威ではない。行く手を阻むのであれば、駆除するだけだ」


 フィルズは当然のように即座に答えた。セロンは、何だか、猛獣や魔獣に恐怖していたのが恥ずかしくなってきた。つい、布団の縁を握り、俯いてしまう。少しの間、バツの悪い思いをしていたが、ふと、ロウから食料調達を頼まれていたのを思い出す。


「フィルズさん、多くの人が数日食べれるくらいの食料って貰えませんか? できれば、日持ちがするやつ」


「構わないが、状況が落ち着いて来てからになるぞ」


「うん、それでいいよ」


 セロンは、ほっと一息ついた。これで、ロウとの約束を果たせる。役に立てる。



 大体の話がまとまり、フィルズが部屋を後にする。セロンは、普段いない人が同じ空間にいたせいか、体が凝り固まっている気がして、仰向けに倒れ込み、大きく伸びをした。あっくんも同じ気持ちだったのか、足を延ばし机に頬杖を突き始めた。


「どうも釈然としない……」


 あっくんは、ぽつりと小さく呟く。


「何か不満があるの?」


 セロンが反応し口を挟む。あっくんは、目線を下に向け、難しい顔をしたままで、答えは返ってこなかった。再び、セロンは寝転がり、二人はしばらく言葉を発さなかった。殆ど、何の音もしない。セロンは何か言おうかと、漠然と考えていると、突然あっくんが囁き声で提案してきた。


「セロン、お前も戦うか?」


「えっ?」


 セロンは体をはね上げ、目をぱちくりさせる。突如の持ちかけに反応に困ってしまった。


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