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小さくて大きなわがまま  作者: しがない竜
第2章1節 施しの植木鉢 上

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第61話 「魔法アイテムについて」

 セロンは、(なか)ば強引にフィルゲートおばさんに連れられ、おばさんが開いている魔具店まで来てしまった。相変わらず、通りも広場も鎮まり返っており、人々は駄々と歩いている。銀のオブジェがひと際、(まぶ)しく光っていた。


 促されるままに魔具店に入り、カンターの近くの古ぼけた椅子に座らされた。少しすると、フィルゲートおばさんが、店の奥からフチ広がりのカップを持ってやってきた。


「どうぞ、メール―ティーさ。飲んでいって」


 フィルゲートがおおらかな深みのある声で勧めて来た。またまた、知らないお茶だった。セロンは、茶色の液体を見つめ、匂いを嗅いだ。甘く、森の匂いがした。口に含んでみると、蜜のような甘さと、鼻から抜けるように木の香りがした。


「不思議な味、飲んだことない」


「そうかい? 各地で流通しているからそれ程珍しくないさ」


「そうなの?」


 きっと山に(こも)っていたから、知らなかったんだ。けど、読んだ本にも出てこなかった気がしたのは何でなんだろう? セロンは、カップの中を覗き込みながら考えた。


「それで、どうだい? 人が消える問題の解決は進んでいるかい?」


 フィルゲートが唐突に質問してくる。セロンは顔を上げた。このことが訊きたくて、僕を連れて来たのかな? とセロンは思う。


「進んでいるような、進んでいないような……」


 セロンは、今までの調査した経緯を説明した。特に、街長ランデールについては、憎々しげに熱弁した。


「それなら、ランデールを倒そうっていうのかい?」


 フィルゲートおばさんが目を丸くしている。


「あいつが居るから平民は酷い目にあっているんだよ。どう? あいつが来る前は、もっと平和だったんでしょ?」


「そりゃあ、平和だったさ。皆、のんびり暮らしていたものさ」


「やっぱりそうなんでしょ。ランデールを懲らしめないと」


 セロンは固い決心を持った眼差しで言った。フィルゲートは、感嘆したようにほーっと声を漏らしている。


(たくま)しいじゃないか。だとしたら、出来ることがあれば、力になろうじゃないか。そうだ、うちの魔具はどうだい? 無償では渡せないが、安くするわよ」


「えっ、安く売ってくれるの?」


 セロンは目を輝かせた。


「ああ、特別だよ」


 セロンはメール―ティーを飲み干して、カップをカウンターにそっと置いた。椅子から降りると店の中を歩き回り、棚に整然と並べられている魔法アイテムをじっくり見る。買いたい魔法アイテムは、決まっていたが、改めてどんなのがあるのか見ておきたいのである。セロンは、使い切りと説明に書かれた丸い形のアイテムを見て、質問した。


「使い切りって一度使ったら終わりっていう意味?」


 フィルゲートがセロンの元まで来て、セロンの前の棚に視線を向けた。


「そうさ。その丸いのは、爆弾さ。火のマナリスが中に組み込まれているのさ」


「へー、けど、一度使ったら終わりだなんて、もったいないね」


 セロンは使い切りの魔法アイテムは知らなかったので、高価な魔法アイテムを消費するなんて贅沢だと思った。


「消費系の魔具で使われている、マナリスを直接組み込むタイプは、それほど貴重でもないさ。それよりも、生物の体を使った魔具の方がよっぽど貴重さ」


「ん? 生物の体を使った魔具?」


 なんのことだが良くわからなかった。


「知らないのかい?」


 セロンは頷いた。フィルゲートはそうかい、と言って快く説明してくれた。


「生物の体を使った魔具は、文字通り、生物の体を加工して作った魔具さ。そして、これがマナリスを直接組み込む魔具とは雲泥の差が生まれるのさ」


「どうして?」


「性能が違うからさ。マナリスを直接組み込むタイプは、それほど複雑な操作は出来ない。しかしね、生物を使った魔具は、まるで自分自身の魔法のように、発動できるのよ。それに、その元になった生物の魔法力がそのまま備わっているし、魔法の系統も元の生物依存なのさ。言わば、元になった生物の魔法がそのまま使える、生きた魔法アイテムなのさ」


 知らなかった。生物の身体が魔法アイテムになっていたなんて。けど、だとしたら、その魔法アイテムを作るには……。セロンはそこまで考えて、複雑な気持ちになった。


「元の生物っていうのは……?」


「恐らく、殆どは魔獣さ。狩った後に加工するのさ」


 フィルゲートは、あっさりと答えた。殆どは、というのは、それ以外もあるという訳なのか。セロンは、内心、何処か不安が募るのを感じた。


「だから、生物由来の魔具は、他と比べて値段が張るのさ。カウンターの横の一画にあるのがそうさね」


 セロンはへーと答えて、カウンターの隣にある数少ない魔法アイテムを確認した。厚いショーケースの中で、濃紫(こむらさき)(きぬ)の布に乗せられ、高貴さを放っている。値段はとてもセロンが払える額ではなかった。セロンはたじろぎ、自分には縁の無いものだと悟った。


 フィルゲートは、他にも魔法アイテムの使用には、エネルギーが必要で、単純に使用者自身の身体エネルギーを使うか、他のエネルギーで代用するかで、使い方を工夫できると教えてくれた。


 ある程度説明を聞き終えたセロンは、前から決めていた欲しい魔法アイテムの棚まで歩いて向かった。尻尾をゆらゆらと揺らして、気分が高鳴っている。


「フィルゲートさん、これは何回でも使えるんでしょ?」


 セロンは踏み台に乗って、ショーケース越しに指をさした。


「そうさ。壊れなければ何度でも使用可能さ。それが欲しいのかい?」


「うん、これって空を飛べるんでしょ?」


「空を飛ぶために作られた物じゃないが、確かに飛べないことはないね、それに……」


「これください」


 セロンは食い気味に言った。他にも、もしかしたら飛べるような魔法アイテムがあるのかもしれない。だけど、これには思い入れがある。だから迷いはしなかった。


 フィルゲートが豪語したように、セロンは値引きしてもらった。値段は、金貨七十枚値引きされた、金貨百三十枚だった。胸が満たされたような気持になった。早く使用してみたいと思った。購入した魔法アイテムは、支払って、すっかり隙間が出来た巾着袋の中に入れた。入れる時は、スクミ―に受け取ってもらい、吸い込まれるように収まっていった。


 新しい情報も得られ、いい買い物も出来て、上機嫌のセロンはそのまま、店を出ようと思った。踵を返そうと思ったその時だった。カンターの端に黒で金縁の高そうな本があるのが目に入る。セロンは、この店を見渡す限り、唯一の本だったので、気になり、訊いてみた。


「そこにある本って何?」


「これかい?」


 フィルゲートは本を手に取って見せてくれた。


「魔具屋にとってはロマンさ」


 フィルゲートは夢見るような笑顔で言った。


「ロマン?」


「ずっと昔から存在していた魔具が載っているのさ。夢のような絶大な効果を持つ魔具がね」


 これまた初耳だった。


「それって今でも存在してるの?」


「本があり、それに載っているという事は、あるってことじゃないかい?」


 フィルゲートは、声を弾ませ答えた。何だか、若さを取り戻したような雰囲気すらある。セロンは、少し本を見せてもらった。しかし、世界の秩序を乱しかねないような内容も書いてあって、興味というよりも恐怖の方が勝った気持ちになった。もし本当に存在するのなら、悪用されないのだろうかと不安が込み上げて来た。それでも、フィルゲートおばさんの顔を見ると、楽しそうで、口には出せなかった。その代わり、少し気になったことを訊いてみた。


「フィルゲートおばさんって、その~……、本当におばさん? それに本当に平民?」


 少し、失礼に当たるかもしれないと思った。けれど、おばさんのような見た目なのに、時々、無邪気な子供のように見える時があり、不思議な感覚だったのだ。それに、こんな高価な魔具を売るのは平民には出来ないんじゃないかと思ったのである。


「それは内緒さ。けれどもう七十年以上は生きていると言っておくわね」


 その表情は、不敵な笑みで、意地悪そうな顔だった。人の寿命は知っているが、フィルゲートがとても七十歳以上には見えなかった。それ以上は教えてくれないと思い、セロンは、それ以上追及しなかった。


 フィルゲートに、別れを告げて、セロンは魔具店を後にした。扉に吊るされた呼び鈴が、軽やかな音色を響き渡らせ、心地が良かった。


 その直後、待っていたとばかりに巾着(きんちゃく)(ぶくろ)がもそもそと動き、スクミ―が何か言いたそうに顔を出した。


「この買ったアイテム、どう使う気でしゅか?」


 スクミーは(いぶか)し気な表情をしていた。セロンは得意げな顔になる。


「丁度、今すぐに使いたいところがあるんだよ」


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