第58話 「死神」
宿屋の三階、中央、一番広い部屋でセロン達は、それぞれ得た情報を伝え合うことになった。セロンは、夜になり、今まで張りつめていた緊張の糸も途切れた為、眠気が襲って来た。それでも、二人から話は聞いておきたいので、座ったまま、目を瞑るのを我慢した。
「今日で大体、Pマナリスの在り処は、把握できた」
あっくんはさらっと告げた。長テーブルの前の椅子に座りながら脚を組んでいる。
「それなら、取りに行くの?」
セロンは半分目を閉じ、あまり口を動かさずに訊いた。
「それが、そうとも、いかないんだよな。厄介な所にあるからな。強引に盗ろうしたら、貴族と争わなきゃいけなくなるかもな」
あっくんは面倒くさそうに言った。話は続く。
「まあ、Pマナリスの獲得は、これから詰めていくから心配はいらない。それでだ、セロンが躍起になっている、人が消える問題だが、貴族も消えているのは本当らしいな」
「そうなの?」
「以前から、ずっと下町の方へ来て、平民達に陰湿な行為をしていた令息が、ある日忽然と来なくなったそうだ。そして、息子が行方不明になり発狂した父親が、下町に来て、当たり散らかしていたそうだ」
「へー……」
セロンは首をかしげた。スティアの保護施設でロウさんから聞いた話では、貴族の企みによって、悪制を押し付ける為に、一方的に主張しているだけの可能性が高いと言っていたからだ。あっくんの情報によると、それは否定されるので、実際のところどうなのか、よくわからなくなってしまった。
「下町の平民、複数人の証言だ」
あっくんが付け加えた。
少しの間が生まれる。
「それでは、次はミーの番でしゅね」
隣でベットに後ろ脚で立っているスクミ―が口を開いた。得意そうである。
「ミーが仕入れた情報は、死神でしゅ」
「死神?」
セロンとあっくんは同時に訊いた。
「巷で噂になっている話でしゅわ。人が忽然と消える原因は死神の仕業であると」
「どんな噂なの?」
「今から数年前に、恐ろしい事件があったんでしゅわ。街にいた五人の子供と家にいた貴族一家が、何の争いもなく、バタバタと倒れて死んでしまったんでしゅ。なんの外傷もなし、毒を盛られた痕跡もなし、唯一、不可解な点と言えば、近くに真っ黒なぼろ切れを被った人が通ったっていうだけみたいでしゅね。目撃した人は、まるで、その者に命を吸い取られたみたいで、不気味だったから、死神が出たと震え上がったそうでしゅよ」
話を聞いたセロンは気味が悪く、寒気がした。そんな力を持つ人がいたら、誰も太刀打ちできないんじゃないかと、戦々恐々だった。しかし、疑問がすぐに口に出た。
「けど、それなら遺体は消えないんじゃない?」
「確かに、殆どは目撃情報があるんでしゅが、死んだ貴族のうち、一人は消えて居なくなってしまったらしいんでしゅよね」
「へー……、それが今も続いている、人が消える問題に関わっているってこと?」
「あくまでも可能性の話でしゅわ。その死神なら、誰にも知られず、人を消すのもわけないという話でしゅ」
スクミーは腕を組んで、鼻高々に答える。セロンは、新しい情報が増えて、悩みが増すばかりになった。あっくんも頬杖をついて、考え込んでいる様子だった。
それからも三人でいくつかの情報共有をしたが、核心に迫るような内容はなかった。セロンは頭が回らなくなってくる。
「やっぱり、貴族の暮らす上町に行ってみないと、分からないこともあるんじゃない?」
セロンが眠たそうな声で訊いた。
「よそ者は一切、受け入れてくれないぞ」
あっくんはあっさりと言った。
「それなら、潜入するとか…」
「街の者は完全に管理されてるんだ。知らんものが入ったら、すぐに顔が割れる」
あっくんは、淡々と否定する。
セロンは眠たそうな目で、周りを見た。そして、窓の外が暗いのに目がいく。働かない頭で、適当に思いついた事を言ってみた。
「夜に忍び込めばいいんじゃない? 夜なら、皆、寝ているでしょ」
セロンは自分も眠たいのできっとそうだと思った。
「……まあ、試してみるのも悪くないか」
セロンは否定されると思っていたので、あっくんがセロンの意見を受け入れたのを少し驚いた。正直、適当に言っただけだった。
「仕方ない、今からでも、様子を見て来るか」
あっくんが椅子から立ち上がった。
「えっ、今から? 僕も行く」
セロンがフラフラと立ち上がった。
「お前は寝てろ。どうせ、立っているだけでも辛いんだろう?」
心外だった。だけど、事実で、今にも気を失いそうなので、結局、セロンはそのままベットで寝てしまった。
目が覚めた時はもう既に朝だった。窓から、差し込む日の光で気持ちよく目覚め、セロンはベットから起き上がった。昨日の鬱憤や疲れが嘘みたいに無くなり、やる気が漲ってくる。横を見ると、長テーブルに相変わらず、もう既にあっくんが座ってコーヒーを飲んでいた。朝飯がテーブルに並んでいて、スクミ―も器用に食べている。
セロンは、挨拶をして、席に着き、朝ご飯をご馳走になった。お腹が空いていたので、一気に平らげてしまう。そして、セロンは、昨日、あっくんが夜に貴族の住む上町に潜入しに行ったのを思い出し、訊いてみた。
「どうだったの? 何か手掛かりはあった?」
「うん? ああ、まあ、そうだな……」
あっくんはなんだか歯切れが悪い様子で、コーヒーを含んでいた。
「どうしたの? 何かあったの?」
「うーん、いや、まあ……夜でも貴族様は活発だったな」
「えっ? 貴族は夜でも起きてるの?」
セロンは驚いた。平民の街の下町は夜になると、昼間以上に人気が無くなるので、貴族の街もそうなのかと思った。そして何よりも、夜寝ないなんて、信じられないと思った。
「そうだ……」
あっくんは、何だか話すのは気が進まない、というような仕草だった。それでも、セロンは、気になって仕方がない。
「どんな感じだったの? 教えて欲しい」
セロンは、前のめりになり、あっくんをじっと見つめた。
「聞きたいか? 聞くんじゃなかったって思うぞ」
「そうなの?」
「ああ、……酷い惨状だった」




