突然のアッパー
第32章
レノミンは無意識に・・・本当に無意識に腰に力を入れて、反動を使い、グーで国王を殴っていた。
「あっ、すいません・・国王・・つい、本当に悪気はなかったのです」
「ごめんなさい・・」
と言い残し、グレースと国王を残してその場からいなくなった。
国王は突然のアッパーを食らって、半分程、倒れたが、グレースがいち早く背中に周り助けてくれた。
「お父様・・・何?お母様に叱られる事をしたのですか?あんな怖いお母様・・初めて見ました。グーでお父様を一撃です」
「うん、お父様・・計算を間違ったんだ。きっと・・・・だから、グレースも数字の計算はなるべく正確にした方がいいと思うよ・・・・イテテテテ・・・」
グレースは青い顔をして、財務表を手にティアの元に向かった。半分泣きながらトボトボ歩いて・・・計算・・・怖い・・・グス・・・・グス、グス・・
レノミンは部屋に戻ってカギを掛けて、布団をかぶって震えていた。なんて事をしてしまったのだろうか・・・でも、絶対に国王が悪い。あんな気持ち悪い事、言って・・・・子供・・なんて・・・。
レノミンは国王が自分の前世を話してくれた時に、国王の事がわかった。彼は有名な音楽プロデューサーで、大金持ちで女性とのうわさが絶えない、キラキラ輝いている芸能人、自分とは真逆の人間だと知っていた。
当時、沖の事件はトップニュースで何日もテレビのワイドショーで流れていた。
ネットニュースしか見ないレノミンでも、クリックしてしまう程に世間を賑わせていた。
国王の話は本当、奥さんと子供は駐車場で事故に遭い亡くなった。
そして、沖が最初は疑われていたのは確かだ、しかし、それには理由があった。警察が介入してわかった事だが、沖と息子さんのDNA鑑定で二人は親子ではないとわかった事が発端だった。
沖には殺意があったと警察は判断した。
しかし、その後、警察が割と鮮明なビデオを発見して、子供が先に飛び出し、その後を奥さんが追って、そして、事故にあった。
しかし、事件が起こってから、本当に沖は一度も姿を見せた事が無く、そのまま沖自身も自殺した。その後は報道のあり方が議論され、狂ったような連日の報道がなくなった。
それから数か月後、小さな記事を発見して、クリックしたのを覚えている。
どうしてクリックしたのかはわからないが・・・・
奥さんのご実家の両親は二人ともあまりのショックで痴呆状態で発見され、施設に入ったと、二人とも自分には子供も孫もいたことは無いと、施設の職員に話している。と記事にあった。
だから、自分たちも違う世界に転生されいる事を考えると、きっと、沖の奥さんとお子さんもどこかに存在しているのではないだろうか・・・とも、思っていた。
沖は奥さんとお子さんを探していた・・・・まだ、二人を愛しているのかとも思った。それは、それで、素晴らしい事だとレノミンは思っていた所にあの言葉・・・許せない・・・
トントン、
「レノミン様、ミンクです」
「よろしいでしょうか?」
「今日は、このまま眠ります。明日、起こして下さい」レノミンは怖くなって部屋から出てこなくなった。
一度籠ると出て行く事が出来なくなるのが引きこもり・・・・・部屋で食事を取るようになり、執筆中と名目を打ち、部屋から出なくなった。
実際、籠る事で文章は進んでいたのも本当の事だった。
グレースは最近の周りの変化について行けずに、戸惑っていたがレノミンの代わりに国王が、学校でも家庭でも気をつかい、手助けした。
しかし、別荘内の大人は薄々、国王と何かあったのではと、疑い始めている。誰も口にはしないが・・
年の終わりが近づき、サンドロも帰って来た。
冬には沢山の蟹が海で捕れるので、別荘の皆さんにとコロネ国王が、たくさんの蟹や魚介を持たせてくれた。湖畔の近く、冬の暖かい昼間に使用人たちとバーベキューを行い、皆で楽しく食事をした。
あれ以来、国王とは距離を取っているレノミンだが、この日は大勢の目もあり、普通を装って思いっきり食べた。
「お母様、美味しいね」
頷く、レノミン、そこに国王が近づいて来て話しかける。
「ここのバーベキュー台は上手く出来ていますね。レンガを上手く組み合わせて火に風が入るように工夫してある。鉄板も丁度いい大きさで、誰の考えですか?」
「バルト?だったでしょうか?---覚えていません・・・・」
「これは、レノミンさんが特注で作らせた物で、前は肉や野菜も焼いて良くたべました。肉は本当に美味しくて、考えるだけでもヨダレが出ます」とサンドロが答えていた。
それを聞いて、国王が
「あの調理台に水道を引いたのもレノミンさんですか?」
「---はい、」と頷いた。
(シマッタ!! ここの施設は、前世の町にあるバーベキュー広場を、真似したものをつくり、どうしても焼き肉が食べたくなった時に、作ってもらったのだった。前世ではアウトドア的な物に無縁だったので、自分では冒険したつもりで、バルトにお願いしたのだ・・・。誰にもバレないと思って・・。)
レノミンは国王には、絶対に自分も日本出身とは悟られたくない。
今まで何事も無く、何年も暮らしてきたのだから、このまま、この別荘で静かに暮らすことが一番の願いだから・・・お願い!私をそんな目で見つめないで・・・
「レノミンさん・・・」
と、国王が話かけると、レノミンはどこかに消えていた。
「------」
その場の使用人の冷たい目に国王はやり切れないと思っていた。
それからしばらくして、国王の執務室、
「ねぇ、君はさぁ・・・レノミンさん・・・僕のこと避けているのはなぜだと思う?」と、
家令に聞いていた。
「それは私たちの間でもこの冬一番の謎です」
「---国王が何か私たちの領主に失礼なことをしたのではないか・・・と、周りは思っています。すいません・・・・失言です・」
「---失礼と言えば・・・そうなるのかも知れないが・・・」
「ねぇ、レノミンさんって、今は独身だよね。誰とも結婚していない、ただ、子供が二人いて、一人は皇太子、もう一人は次期領主、レノミンさんは現領主だけど、独身・・・、独身だと、どこかの誰かが縁談を申し込みに来る可能性があるとは考えない??」
「---領主に縁談ですか?あるのですか?どこの誰ですか?」
「前に4国の国王で旅をした時に、カタクリ国の国王は、いつもレノミンさんが僕に興味を示さないとわかると、とっても機嫌がよくなる。ずっと、考えていたのだけど、最初はグレースを自分の家系の誰かと縁組をしたいと思っているのかと・・・でも、この前、グレースが領主の勉強を始めたと、電話でカスター国王に話していた時、カスター国王は、領主の勉強を始めるには遅いくらいだと、グレースに言ったんだ。頑張れって!! 」
「だから・・・もしも、グレースが嫌いな勉強をして、カスター国王のせいで領主になれないとなると、きっと、グレースはカスター国王を嫌いになるはずだ。グレースはそういう子供だとも、わかっていると思う。君たちもグレースがいれば、この領土は安泰で、グレースが結婚して、子供が生まれれば、またまた安泰になる」
「---レノミンさんはどうだろう??作家の仕事はここでなくても出来る。---そして、霧の存在・・・霧はこの湖でしか発生しないのか??もしかすると、レノミンさんの力で発生するとしたら?カタクリ国の女系の生存者は、レノミンさんとグレースだけになる」
「君はどう思う??」
「それを思うのはカタクリ国だけだろうか?」




