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第4話「……それ、やっぱり有人じゃん

 あたし――菅原日奈は、最近ちょっと焦っている。


 原因は、有人だ。


 幼馴染の中西有人。家も近くて、小さい頃からずっと一緒。学校でも普通に話すし、一緒に帰ることだって珍しくない。


 だから、距離は近い。


 近いんだけど――。


「おはよう中西くん。今日は良いお天気ね」


「お、おはよう一ノ瀬さん」


 なに、あれ。


 少し離れた席から、あたしは二人をじっと見る。


 一ノ瀬美月。


 クラスで一番目立つ美少女で、男子から声をかけられることも多いし、いつも誰かに囲まれている。


 その一ノ瀬さんが、わざわざ有人のところまで来て挨拶した。しかも、ちょっと緊張してるように見えた。


 なんか面白くない。


 ◇


「有人」


「ん?」


 休み時間。あたしは有人の机に手をついて、顔を近づけた。


「なにしてんの?」


「別に?」


「いや、近いって」


 有人が少しだけ身体を引く。


「いいじゃん。幼馴染なんだから」


「そういう問題か?」


 そういう問題だ。少しくらい意識しろ。


 さらに肩をくっつけてみる。


「暑い」


 なんなの、こいつ。


「有人って、ほんと失礼だよね」


「なんでだよ」


「知らない」


「理不尽すぎるだろ。わけ分かんない」


 全然分かってないのはそっちだ。


 あたしはため息をついて、自分の席へ戻った。


◇


 放課後。


「有人、一緒に帰ろ」


「ああ、いいよ」


 鞄を持って、二人で学校を出る。いつもの帰り道だけど、今日は少しだけ違う。


 歩きながら、有人の腕に自分の腕を絡めてみた。


「……なに?」


「別に」


「歩きにくいんだけど」


「……うるさいなあ」


「なんで怒ってんだよ」


 ほんと、腹立つ。少しくらい照れるとか、そういう反応はないわけ?


「有人さぁ」


「ん?」


「あたしって、ただの幼馴染なの?」


 有人がこっちを見る。


「何それ、前から幼馴染に決まってるだろ?」


「……もういい」


「なんなんだよ」


 あたしは絡めていた腕を離して、少しだけ早足になる。


「おい、日奈」


 後ろから有人の声がするけど、振り返らない。


 絶対、意識させてやる。


◇


 その夜。


 あたしはベッドに寝転がってスマホを開く。しばらく迷ったあとGeminiを起動した。


『幼馴染の男子に、女として意識してもらうにはどうしたらいい?』


 AIに相談すると、秒で返事が表示された。


「速っ!」


『長い間、幼馴染として過ごしてきた相手に異性として意識してもらうには、これまでとは少し違う一面を見せることが効果的です。


 たとえば、普段とは違う服装や髪型にしてみる、二人きりで出かける機会を作る、さりげなく距離を縮めてみるなど、「いつもの幼馴染」とは違う印象を与えてみましょう。


 ただし、急に態度を変えすぎると相手を戸惑わせてしまう可能性があります。大切なのは、これまで築いてきた関係を壊さず、少しずつ異性として意識してもらうことです。


 また、相手の反応をよく観察することも重要です。もし他に気になる人がいるようなら、焦って距離を縮めるのではなく――』


「長い長い長い」


 あたしは無駄に長文の返事を途中で読むのをやめた。どうにもAIは使いこなせない。


 文頭だけが頭にこびりついている。


『長い間、幼馴染として過ごしてきた相手に異性として意識してもらうには、これまでとは少し違う一面を見せることが効果的です』


「それができたら苦労しないって……」


 AIに返事をする。いや、自分自身に。壁打ちだ。


『ずっと一緒にいたから、完全に幼馴染としか見られてないみたい』


 送ってから、しばらく画面を眺める。


『でも、諦めたくない』


 送信。


 スマホを胸の上に置いた。


「……有人のくせに」


◇


 翌日。


 休み時間に廊下を歩いていると、少し先に一ノ瀬さんがいた。窓際に立って、教室の中を見ている。


 その視線の先を何となく追うと、有人がいた。


 一ノ瀬さんが小さく何かを呟く。


「……今日こそアルトくんに」


「アルト?」


 一ノ瀬さんがびくっと振り返った。


「あ……す、菅原さん」


「アルトって誰?」


「え?」


「今、アルトくんって言ったよね?」


 一ノ瀬さんの顔がみるみる赤くなる。


「それが一ノ瀬さんの好きな人?」


「ち、違うから!」


 一ノ瀬さんはそれだけ言うと、逃げるようにその場を離れていった。


「……なんなの?」


 残されたあたしは、一人で首を傾げる。


「アルト……」


 なんとなく口にしてみる。


「あると……」


「有る人……」


 そこで、あたしは幼馴染の名前を思い浮かべた。


 中西有人。


 今朝、一ノ瀬さんはわざわざ有人のところまで挨拶に来た。それに、さっき一ノ瀬さんが見ていた相手も有人だった。


「一ノ瀬さんの好きなアルトって……」


 あたしは教室にいる幼馴染を見つめた。


「……それ、やっぱり有人じゃん」

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