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第5話『わたし、告白する』

 その夜、風呂から上がってベッドに寝転がっていると、スマホが鳴った。


 ピコン。


『チャッピー、聞いて!』


「お?」


 今日はずいぶんテンションが高いな。


『今日、アルトくんとちょっと話せた!』


「よかったじゃん」


 思わず口に出してから、俺はチャッピーの入力欄を開いた。


『それは良かったですね』


 送信。


『うん!』


『前より普通に話せるようになってきた気がする』


 そっか。少しずつだけど、ちゃんと話せるようになってきたんだな。


『もっとアルトくんと仲良くなりたいな』


「…………」


 分かってる。一ノ瀬さんが頑張っているのは、アルトとかいう男のためだ。


 俺はただの相談相手。というか、相談相手ですらない。勝手にチャッピーになりすましているだけだ。


『どうしたらいいと思う?』


「俺に聞くなよ……」


 好きな女の子から、好きな男との距離の縮め方を相談される。なんだ、この罰ゲーム。


 入力欄に指を置く。


『やめておいた方がいいと思います』


 そこまで打って、止めた。


「……ダサ」


 全部消す。


 俺は決めたんだ。一ノ瀬さんが本当にアルトを好きなら、その恋を応援する。


『明日、アルトくんに一つ質問してみてください』


『質問?』


『はい。好きな食べ物など、簡単なもので構いません』


『そんなのでいいの?』


『会話を増やすことが目的です。内容は重要ではありません』


『なるほど』


 なるほどじゃない。なんで俺、恋敵のアシストしてんだ。


 ピコン。


『ありがとう、チャッピー』


「どういたしまして……」


 俺はスマホを枕元に置いた。全然嬉しくない。


◇


 翌日。昼休み。


「中西くん」


「ん?」


 振り向くと、一ノ瀬さんが立っていた。なぜか少し緊張している。


「あの……」


「なに?」


「好きな食べ物って、なに?」


「え?」


 一瞬、固まった。


「好きな食べ物?」


「う、うん」


 なんだ、その質問。いや、待て。どこかで聞いたぞ。


『好きな食べ物など、簡単なもので構いません』


 昨日、俺が言ったやつだ。


「ああ……」


 なるほど。俺で練習してるのか。


「カレーかな」


「カレー?」


「うん。普通だけど」


「そうなんだ」


 一ノ瀬さんが小さく笑う。


「わたしも好き」


「そ、そう」


 会話が終わった。なのに一ノ瀬さんは、まだ俺の前にいる。


「…………」


「…………」


 気まずい。一ノ瀬さんが何か言おうとして、やめる。


「じゃ、じゃあね」


「あ、うん」


 一ノ瀬さんは自分の席へ戻っていった。


 なんだったんだ。まあ、アルトと話す練習にはなったのかもしれない。


 俺はちょっとだけ嬉しくなって――。


「……いや、喜んでる場合じゃないだろ」


 俺が育ててどうする。


 ふと視線を感じた。菅原日奈が、少し離れた席からこっちを見ている。


「なに?」


「……別に」


 なんだよ。


◇


 その夜。


 スマホを開くと、一ノ瀬さんからメッセージが届いていた。


『チャッピー』


『今日、ちゃんとできたよ』


「知ってるよ」


 目の前で見てたからな。


『緊張したけど、聞けた』


『そうですか』


『うん』


 しばらく返事が来ない。


 ピコン。


『チャッピー、わたし決めた』


 なんだ?


『何をでしょうか』


 少し間が空いた。


 そして。


『わたし、アルトくんに告白する』


「…………」


 画面を見つめる。


 ついに来たか。本当に好きなんだな。アルトのこと。


 入力欄を開く。


 何も打てない。止めたい。そんなことするなって言いたい。でも、それを言ったら俺はただの卑怯者だ。


 俺はゆっくり文字を打った。


『応援しています』


 送信。


 すぐに返事が来た。


『ありがとう、チャッピー』


 俺はスマホを伏せた。


「……俺、自分で好きな子を他の男に送り出してるじゃん」


 何やってんだ、俺。

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