第6話 アルト、俺じゃん?!
朝から、どうにも落ち着かない。
『わたし、アルトくんに告白する』
昨夜、一ノ瀬さんがチャッピーに送ってきた言葉が、ずっと頭に残っている。
告白するって、いつだ? 今日? それとも、もう少し先?
授業が始まってからも、つい一ノ瀬さんの様子を気にしてしまう。
休み時間になるたびに、誰かのところへ行くんじゃないかと目で追ってしまう。でも、それらしい男子と話している様子はない。
そもそもアルトって誰なんだ。うちのクラスじゃないのか。やっぱり同じ部活の男子か?
「有人、さっきから一ノ瀬さんのこと見すぎ」
「え?」
隣から声がして、振り向く。日奈が呆れたような顔で俺を見ていた。
「見てないって」
「見てる」
「見てない」
「見てる」
「…………」
なんなんだよ。
俺は一ノ瀬さんから目を逸らした。
◇
放課後。
帰ろうと鞄を持ったところで、声をかけられた。
「中西くん」
「ん?」
一ノ瀬さんだった。
「あの……ちょっと、いい?」
一ノ瀬さんは、明らかに緊張している。
どうしたんだ? 今日、アルトに告白するんじゃなかったのか?
「こっち……来てくれる?」
「あ、うん」
一ノ瀬さんについて教室を出る。連れてこられたのは、ひと気のない校舎の屋上だった。
一ノ瀬さんは俺の前に立ったまま、なかなか口を開かない。
「…………」
「…………」
なんだ、この空気。
「あのね……」
ようやく一ノ瀬さんが顔を上げる。
「前に、中西くんが鼻歌を歌ってたことあったでしょ?」
予想していなかった言葉に、俺は戸惑う。
「ああ……」
忘れもしない。例の恥ずかしすぎる黒歴史だ。
「初めて聞いたとき、びっくりしたの」
「びっくり?」
間抜けすぎて?
「うん。すごく綺麗な声だなって」
「…………」
なんだこれ。めちゃくちゃ恥ずかしい。
「わたしね……」
「う、うん」
「中西くんの声……好きなの」
「……声?」
「うん。それから、ずっと気になってて……」
一ノ瀬さんは俯いたまま続ける。
「中西くんのアルトボイス、もっと聞きたいなって」
ん? 今、なんて言った?
「アル……ト……?」
アルト。アルトボイス。
『今日、アルトくんとちょっと話せた!』
昨日のメッセージが頭に浮かぶ。
『もっとアルトくんと仲良くなりたいな』
いや、待て。
昨日の昼休み。
『好きな食べ物など、簡単なもので構いません』
俺がそうアドバイスした翌日、一ノ瀬さんは俺のところへ来た。
『好きな食べ物って、なに?』
俺はてっきり、アルトと話すための練習だと思っていた。
そして昨夜――。
『わたし、アルトくんに告白する』
「…………」
俺は目の前の一ノ瀬さんを見る。
一ノ瀬さんが好きなのは、アルト。俺の声は、アルトボイス。昨日、一ノ瀬さんが話しかけた相手は俺。そして今日、呼び出されたのも俺。
「…………え?」
待て待て待て。もしかして。いや、もしかしなくても。
アルト、俺じゃん!
好きな女の子から、好きな男との距離の縮め方を相談されて、その男と話す方法まで教えて、告白すると言われて――。
『応援しています』
俺、そう送ったよな?
全部――俺のことだったのか?
「中西くん?」
「え? あ、うん」
一ノ瀬さんが不思議そうに俺を見ている。
まずい。頭が全然追いつかない。
一ノ瀬さんは一度俯くと、ぎゅっと手を握った。そして、意を決したように顔を上げる。
「だから……」
心臓が大きく跳ねた。
『わたし、アルトくんに告白する』
昨夜の言葉が蘇る。
アルトは俺。
だったら――これから一ノ瀬さんが告白する相手って、俺?
一ノ瀬さんの顔が真っ赤になっていく。俺まで息の仕方が分からなくなる。
そして、一ノ瀬さんが口を開いた。
「だから、わたしの――」




