第2話 彼女は俺の言いなり
それから俺は、少しずつ一ノ瀬さんで遊ぶようになった。
ピコン。
『チャッピー、明日のお昼、何食べようかな』
来た。俺はベッドの上でスマホを構える。
『購買の焼きそばパンがおすすめです』
『なんで?』
なんでと言われても困る。
『明日の運気を高める食べ物です』
『そうなんだ。じゃあ焼きそばパンにする』
「信じるのかよ」
翌日の昼休み。一ノ瀬さんの机の上には、本当に焼きそばパンがあった。
友達と楽しそうに話しながら食べている。
マジか!?
俺が言ったからだと思うと、なんだか妙に面白い。
その日の夜も、俺は試してみた。
『美月さん。明日は髪型を少し変えてみてはいかがでしょうか』
『どんな感じに?』
『いつもと違う結び方がおすすめです』
『分かった。やってみる』
翌朝。
一ノ瀬さんの髪型は、本当に変わっていた。いつもは下ろしている髪を、片側だけ小さくまとめている。
「ほんとにやってる……」
それからも俺は、ちょっとした指示を出した。
飲み物や文房具、休み時間の過ごし方。言えば言うほど、一ノ瀬さんは素直に試してくれる。
もちろん、全部じゃない。
『今日は階段を使うと運気が上がります』
『教室二階だから毎日つかってるけど?』
「そりゃそうか」
俺はだんだん楽しくなっていた。
クラス一の美少女が、俺の言葉でちょっとだけ行動を変える。しかも本人は、俺が言っているなんて夢にも思っていない。
そして、その夜。
俺は調子に乗った。
『明日のラッキーカラーは黒です』
『黒かあ。何かあったかな』
『肌に直接つけるものに取り入れると、より効果的です』
『靴下とか?』
俺は少し考える。
そして――完全に悪ノリした。
『下着がおすすめです』
「送ってしまった……」
さすがにこれは怒るか。というか、AIがいきなり下着を指定してきたら普通に怖い。
しばらく返事がない。
「やべえ……」
ピコン。
『分かった。黒ね』
「やるの!?」
俺は思わず起き上がった。
マジか。明日、一ノ瀬さんが黒い下着を――。
◇
翌日。
今朝から悶々が止まらない。ずっと隣の一ノ瀬さんが気になってしょうがないのだ。
彼女の下着の色が。
――ん、待てよ。
そこで俺は重大な問題に気づいた。
――どうやって色を確認するんだ?
黄色いキーホルダーとはわけが違う。まさかスカートの中を覗くわけにもいかない。
――日奈に確認してもらうか?
幼馴染の顔が浮かんだ。
――なあ。一ノ瀬さんの下着の色、見てきてくれない?
……いや、ぶっ飛ばされるわ。
何のために指定したんだ、俺。
◇
下校時のチャイムが鳴る。
当然ながら、一ノ瀬さんの下着が黒いかどうかは分からなかった。
それでも気になって、つい一ノ瀬さんの方を見てしまう。
「有人、さっきから何見てるの?」
日奈が俺の視線を追った。
「一ノ瀬さんでしょ?」
「いや……まあ……ちょっとな」
「ふーん」
日奈が俺の顔を覗き込んでくる。
「最近、一ノ瀬さんのことばっか見てるよね?」
「そうかな」
「そうだよ」
言われてみれば、そうかもしれない。毎晩あんな相談を目にしてたら、嫌でも気になる。
もちろん日奈には言えないけど。
少し離れたところから一ノ瀬さんの会話が聞こえた。
「美月、今日も部活?」
「うん。文化祭の打ち合わせ」
どうやら一ノ瀬さんは何か文化系の部活に入っているようだ。
――アルトって、同じ部活のやつか?
「ほら、また見てる」
日奈が少しだけ頬を膨らませた。




