↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
6/12

第1話  ラッキーカラーはひよこ色

 あれから数日。


 今夜も俺は一ノ瀬さんのチャッピーになっていた。


 もちろん、本物のチャッピーが消えたわけじゃない。相変わらずAIは普通に返事をしている。ただ、ときどきそこに俺が混ざる。


『チャッピー、今日もアルトくんと話せなかった』


『焦る必要はありません。まずは自然な会話のきっかけを作ってみてはいかがでしょうか』


『自然なきっかけって?』


 自分で返しておいてなんだけど、恋愛経験なんてほとんどない俺に聞く方が間違っている。


 それでも一ノ瀬さんは、俺の返事をチャッピーの言葉だと思って素直に聞いてくれる。


 最初は罪悪感もあった。


 他人の恋愛相談を勝手に覗いて、そのうえAIになりすまして返事までしている。普通に考えれば、かなりまずいことをしている。


 でも、慣れというのは怖い。


 数日も続けていると、いつの間にか一ノ瀬さんから相談が来るのを待つようになっていた。


 ピコン。


『今日、アルトくんが笑ってた』


 また例のアルト。はいはい、そうですか。


『あの声で、わたしにも笑顔を向けて欲しいな』


「また声の話かよ……」


 俺はベッドに寝転がったまま画面を眺める。


 アルト。


 いったいどこの誰なんだ。そこまで考えて、ふと手を止めた。


「……そういや」


 俺は別のスレッドを開いた。


「なあ、チャッピー」


『はい。なんでしょうか?』


「これ、本当に一ノ瀬さんなのか?」


『確認できません』


「だよな」


 学校のタブレットを経由していることや、これまでの内容から一ノ瀬さんだと思い込んでいる。


 でも、本人だという決定的な証拠はない。


「なんか確かめる方法ない?」


『現実世界で確認可能な行動を依頼する方法があります』


「現実世界?」


『例えば、明日のラッキーカラーを指定し、その色を身につけてもらう方法です』


「なるほど」


 それなら直接名前を聞く必要もない。しかも不自然じゃない。


「たまには役に立つこともあるんだな」


『ありがとうございます』


「褒めてないけどな」


 俺は一ノ瀬さんのスレッドに戻った。


 ちょうど新しい文章が届いている。


『チャッピー、明日のラッキーカラーって何色?』


 どうやらこっちのAIが話題を振ったようだ。いつもポンコツなくせに、たまには良い仕事してくれるじゃないか。


 俺は少し考えた。黒や白じゃ制服と区別がつかない。青もありがちだ。


 だったら、もっと分かりやすい色。


『黄色でございます』


 送信。


『黄色ね。分かった、何か探してみる』


 本当に一ノ瀬さんなら、明日、何か黄色いものを身につけてくる。


 これではっきりする。


 ◇


 翌朝。


 教室に入って、真っ先に一ノ瀬さんを見た。


 いた。


 いつもの席で友達と話している。制服もいつも通り。髪にも何もつけていない。


「……黄色は?」


 鞄を見る。ない。


 筆箱。遠くて分からない。


「違ったのか……?」


 まあ、考えてみれば当然か。


 たまたま相談内容が一ノ瀬さんと重なっていただけで、別人だった可能性だってある。


 そう思いながら席へ向かう。


 そのとき、一ノ瀬さんが鞄からスマホを取り出した。


「あ」


 揺れている。


 スマホについた、小さな黄色いひよこのキーホルダー。


「……マジかよ」


 一ノ瀬さんがちらとこちらを見た。一瞬、目が合う。


 慌てて目を逸らす俺。心臓が妙に速い。


 ――本当に一ノ瀬さんだった。


 あの相談をしているのは、間違いなく目の前にいる一ノ瀬美月だ。


 ◇


 休み時間。


 スマホを開くと、メッセージが届いていた。


『チャッピー、ちゃんと黄色つけてきたよ』


 俺は顔を上げた。


 少し離れたところで、一ノ瀬さんが友達と笑っている。


 クラスでも目立つ美少女。


 男子から声をかけられることも多いし、いつも誰かが周りにいる。


 そんな一ノ瀬さんが、夜になるとチャッピーに恋愛相談をしている。


 しかも――。


 彼女の黄色いキーホルダーを思い出す。俺が言ったから、言われた通りにつけてきた。


 ◇


 その日の夜。


 ピコン。


『チャッピー、聞いてくれる?』


 いつものメッセージが届く。俺はスレッドを開いた。


 画面の向こうにいるのは、一ノ瀬美月。


 そして、俺の言葉をチャッピーの言葉だと信じている。


「これ、どこまで言うこと聞くんだ?」


 俺は画面を見ながら、少しだけ口元を緩めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。