ただいま
偉業に対する報酬は一人につき一つ貰えるとのことだったが、俺とエレナの偉業を両方消費してとある情報を教えてもらった。その情報は二人分の偉業でギリギリ対価として足りるというものだった。
少しエレナが不安定になったがどうにか落ち着きを取り戻した。
その後は少し雑談をした。
ローは信じられないほど博識で色々な話を聞かせてくれた。ただ、やはり情報開示に制限があるようでところどころぼかしたり、それは答えられないとはっきり言われたこともあった。それでも収穫は多かったが。
「ありがとうね、ロー!」
『いえいえ、こちらこそ楽しい時間でした』
別れの挨拶とばかりに再度エレナに抱きつかれたローヘレイネスがぎゅっと抱き返している。くくく、いいぞエレナ。もっとやれ。ローヘレイネスの脳内美少女化に成功した俺には眼福以外の何物でもない。
しかしずっとこのままともいかないか。
後ろ髪を引かれつつエレナを引き剥がす。
「ほらエレナ、その辺で」
「あ、ごめんね?」
『いえいえ、ずっとこのままでも良いですよ。朽ち果てるまで……』
「ひぇっ」
『骸骨ジョークです』
「トーカ、ビビり過ぎ」
くっ、エレナに揶揄われるとは。屈辱だ。
『こほん。それではまたお会いできる日を楽しみにしていますね』
「ああ、また」
「またね」
ローヘレイネスがポンと手を合わせるとまた周囲の景色が切り替わり、元のボス部屋に戻った。
「……なんだったんだろうな、ローって」
「なんだったんだろうね。ダンジョンの妖精?まぁ分からないけど良い子だし恩人には違いないよ」
「だな。しかし……偉業か」
確かに光明は見えた。しかし何とも果てしない道のりのようにも思える。
まぁ悪い話ばかりではない。
今回ローヘレイネスに出会わなければ石化復活薬の入手目途は正直立っていなかっただろうから。
「しかしエレナは動じないな」
「え?」
「ローのことだよ。あの圧を感じてなかったにしても見た目はワイトだろ?それに喋るし、いきなり転移したし。普通もっと驚くもんじゃないの?」
「確かに。どうしてかな」
少し考えて、
「んー…。あ、わかった。身近に非常識代表がいるから非常識耐性がついたのかも」
「ほう?そんな非常識な奴がいるのか。けしからんな」
「非常識かつ自重しないね。気を付けないと色んなとこから目を付けられるよ」
「忠告痛み入る……」
「もう手遅れかもしれないですけどー」
不吉なこと言わないでくれ。
と、軽いノリに戻って来たところでダンジョンボスの撃破報酬の確認だ。
和風デュラハン――ヒノモトデュラハンの死体があった位置に宝箱が出現していた。
「金箱だよ!」
「おお、初めて見た!」
「私も」
宝箱は木、鉄、銀、金、宝石とランクが上がるにつれて中身のグレードも上がっていく。
Cランクダンジョンでは大半が木箱。運が良くて鉄。
銀から上はBランクダンジョン以上でなければ出ず、金はAランクダンジョンでもなければ滅多にお目にかかれないというのだからテンションも上がるというものだ。
「ね、開けて良い?」
「もちろん」
「よっしゃ、何が出るかなー?……わぉ!!」
「これは……」
撃破報酬に罠はないのでエレナが気負いなく宝箱を開け、俺達はその中身に目を剥いた。
中には宝飾品や古い時代の金貨がぎっしり入っていた。
「こ、これいくらくらいになるかな?」
「見当もつかない…」
最低でも金貨1000枚はいくか?
なんにせよランドに査定してもらってだな。
っと、これは…。
「ヒノモトデュラハンの刀か?いやそれにしては短いな」
ヒノモトデュラハンが使っていた大刀にかなり似ているが、そこまでの大きさはない。刃長70cmくらいか。あいつの使っていたのは120cm程あったからだいぶ短い。
それにおどろおどろしい脈動もない。――その代わりかなり錆ていて使い物にはならなそうだ。
これは修理でどうにかなるのか?
一応鍛冶師に見てもらうか、と刀をアイテムボックスに入れた時、エレナが驚愕するのが分かった。
「え、これって…。トーカ!これ、スキルオーブだよ!」
「マジ?」
「マジ!」
「おぉ、これが。本当に出るんだなぁ」
エレナが手に取ったのは七色の光を内包した水晶。砕くことでスキルを獲得出来るスキルオーブだ。
ダンジョンで極稀に発見されるアイテムで、売ればどんなクズスキルでも金貨100枚は下らないという激レア品である。
「なにが入ってるんだろうね?」
スキルオーブに何のスキルを封じてあるのか知るには鑑定スキルを使うしかない。そのため鑑定屋に持ち込むのだが、この鑑定屋が結構お高い。鑑定自体が激レアだし非常に需要の多いスキルなので仕方ないけど。
しかし思った以上の収穫だ。ローヘレイネスのサービスかな?
◇
地下墓地の奥にあった扉を抜けるとすぐに転移陣の間があった。
他にルートはなかったのでこの新ルートが正規ルートで間違いない。だが依頼をやり遂げた達成感よりも疲労感の方がだいぶ強い。
「流石に疲れたな」
「そうだね。結局二週間近くダンジョンに潜ってたのかな?トーカがいなかったら途中で餓死してたよ」
「アイテムボックス様様だよなぁ」
多分一番活躍したスキルはアイテムボックスだ。
大量の食料と水を確保していなかったら転移陣を封じられた時点で詰んでいた。
荷運び人を雇っていればどうにかなるんだろうが小人数パーティではどうしても荷物の量が限られてしまう。その点アイテムボックスを持っているのはチート級のアドバンテージと言えるだろう。
容量は今やトラック二台分くらい入るし温度調節機能もあるから冷凍設定で収納しておけば腐らせる心配もほとんどない。温め直しが必要になるが本当に有能なスキルだ。
転移陣の間に入ると脳内にアナウンスが流れた。
『『墓所の主』討伐を確認。闇の魔力が消失したことにより転移陣の再起動が可能になりました。再起動しますか? Y/N』
イエス…で良いんだよな?
似たようなシチュエーションでここに閉じ込められてるから疑い深くなっているがイエス以外に選択肢はない。
「再起動してくれ」
『了承……。転移陣の再起動に成功しました』
「……。何もないな?」
「そうみたいだね」
少し待ってみたが転移陣の再起動が成功したというアナウンスの後には何もなかった。
「帰ろう。きっと姉さんもすごく心配してると思う」
「だな」
俺達は転移陣に乗り、既存ルート――表ダンジョンの第一層に転移した。
◇
俺達が冒険者ギルドに顔を出したところちょっとした騒ぎになった。
というのも生存が絶望視されていたようなのだ。
まぁ考えてみれば当然か。二人組で持っていける食料は精々一週間分程度だが、新ルート――いや、もう正規ルートと言っていいか――に入る際の荷物から食料は多く見積もっても2~3日分。そうギルド職員と上等連合から報告があったらしい。
アイテムボックスのことは明かせないから仕方ないにしても随分と心配をかけてしまったようだ。
リディアなどは俺の顔を見るなり大泣きしてしまった。
その後いつものしかめっ面のまま機嫌が良いという謎の感情表現を繰り出すギルド長に正規ルートの概要だけを説明し、その日は帰宅させてもらうことにした。ギルド長は仔細まで知りたそうにしていたが流石に配慮してもらえた。もし「報告を終えるまで帰さん」とか言われたら人目も憚らず床を転げ回って駄々を捏ねる所存でいたのですんなり帰してもらったことに少しだけ拍子抜けした。
まぁその代わり明日以降は聞き取りと報告書の山が待っているのだろうが。明日は明日。明日の俺が頑張ってくれ。
緑の小竜亭に着いたのは丁度太陽が頭上に差し掛かった頃。
久しぶりのシャワーとベッドが俺達を待っている。
そしてエレノアも。
「お帰りなさい」
部屋にはいつものようにエレノアがいて、普段とまるで変わらない、まるで朝出かけて今戻ったかのような出迎えをされた。
ギルドから連絡があっただろうに俺達の帰還を微塵も疑っていなかったみたい――いや、違う。エレノアの目元が薄っすらと赤くなっている。よく見ると目の下には僅かに隈。
やはり相当心配していたようだ。だがそれを気取らせまいとあえて普段通りの振舞いをしている。
その気遣いに申し訳なさを覚えつつ、信じて待っていてくれたエレノアに感謝を込めて俺達は返した。
「「ただいま」」
2章 完
これで2章終了です。ここまで読んで頂きありがとうございました。
明日は閑話を投稿します。
その後は少し期間が空くと思いますが3章も大枠は考えているので宜しければまたお付き合いください。
少しでも面白いと思って頂けたら感想やブックマーク、↓の☆☆☆☆☆で評価頂けると執筆のモチベーションが爆上がりするのでよろしくお願いします。




