偉業
出されたお菓子と紅茶をどうしたか?
頂きましたよ。そしてすごく美味しかったですとも。ランドの店で買った紅茶も良かったけどここ素晴らしい。いちじくパイの方も日本の高級洋菓子店で売っているような上品な味と舌触りで絶品でした。
「美味しかった……」
「だなー」
『うふふ、お粗末さまです』
いつの間にかリラックス空間と化していたが聞くべきことがあるんだった。
「あの、あなたがこのダンジョンのボスなんですか?和風デュラハンを倒しても宝箱が出なかったし、奥に続く扉も閉じたままだった」
『いえ、それは違います。一時的に私がダンジョンボスと判断されているだけ、といいますか。本来のダンジョンボスはリ――ではなくて、さんで間違いないです。私が立ち去ればダンジョンボス撃破の報酬が出現して奥の扉も開きますよ』
「なるほど…」
いや、全然なるほどじゃないんだけど突っ込んで聞いても良いものか。
和風デュラハンの名称がヒノモトデュラハンということと、骸骨さんに害意がないということは分かったが。
『それにしてもすごいですね。弱体化していたとはいえ、ヒノモトデュラハンさんを倒すなんて』
手を合わせて素直に褒めてくれているのだが、いかんせん見た目が骸骨なのでシュールな絵面になっている。てかあれで弱体化してたんかい。
「あれはトーカが一人で倒したんだよ。私は隠れてただけだから」
「それは――」
『それは違います!』
俺の言葉に被せるように骸骨さんが否定の言葉を発した。
死の気配が強まり、それをまともに浴びて息が詰まった。
「っ」
『あ、ごめんなさい…。でも、エルフさんは』
「エレナ。こっちはトーカね」
『ローヘレイネスです。…私は見ていました。エレナさんが、トーカさんのサポートをしているのを。パーティ戦はそれぞれ役割があって、作戦があって、それらを組み合わせて戦うんです。あの場面で自分の役割に徹して前に出なかったのはすごいことです。やっぱり自分が戦いたい、活躍したい、なんとか仲間を助けなきゃって、色々な気持ちはみんなどこかにあって。だからパーティの勝利のために、一番のことを考えてそれを実行するのは結構難しいんです。エレナさんもあの時助けに行きたいっていう気持ちありましたよね?でもそれを押し殺して自分のやるべきことをやった。その判断、忍耐力は素晴らしいものです』
「そうだぞ。あの時エレナがリビングアーマー達を纏めてくれてなかったら勝てなかったんだからな」
「はは、そう言われると悪い気はしないね。ありがとう、ローへイ?……ロー」
『まぁ!あだ名…嬉しいですっ』
エレナとローヘレイネスが手を取り合って親交を深めている。
でもあだ名はたぶん覚えられなくて仕方なしに縮められただけだと思うぞ。騙されるな。
しかしローヘレイネスがこんなに熱く語るとは。そういうタイプには見えなかったが第一印象と実際の性格が一致しないことなんてよくあるしな。
「ローは何者なの?」
『えっと、ごめんなさい。それは言えないんです。……原初の迷宮はご存じですか?』
ご存じないなぁ、と思ったらエレナは知っていたようだ。
「『天臨の塔』と『奈落門』だよね?一番古い、Sランクダンジョン」
『そうです。『奈落門』の最奥に来て頂けたら、もう少し詳しくお話出来るんですが…』
「え、原初の迷宮ってどっちも未踏破だよね?」
『いいえ、昔、大昔には、踏破されたことがあるんですよ?』
遠い過去を懐かしむようにローヘレイネスが呟いた。その声は気のせいか嬉しそうな色を帯びていた。
「あの、ローヘレイネスさん」
『あ、ローで良いですよ?』
気に入ったのか。
ローヘレイネスから常に死の気配を感じている身としては気軽に呼び捨てしにくいんだけど。まぁいいか。
「ローはさ、どうして姿を見せたんですか?さっきの話じゃ俺達が和風デュラハン…ヒノモトデュラハンと戦ってる時からいたんですよね。観戦が目的なら姿を見せる必要はない。何か他に目的があったんじゃないですか?」
『あ、そうでした』
「忘れてたの?うっかりさんだね」
『えへへ。ごめんなさーい』
エレナが軽い調子で言い、ローヘレイネスも満更でもなさそうにしている。
こう見ると仲の良い友人同士に見えるな。片方骨だけど。
『実はクリア報酬についてご相談がありまして。ええと、ダンジョンボス撃破の報酬アイテムとは別に私からも贈り物をしたいんです。とても素晴らしい戦いを見せて頂いたお礼に』
「え、アイテムをくれるんですか?その、代わりに寿命を半分持っていくとか、受け取った瞬間に死のカウントダウンが始まるとかないです?」
『な、ないですないです!』
「そうよトーカ。ローに失礼。謝って」
「あ、うん。ごめんなさい」
『いえいえ!いんですよ!こんな見た目だし、かなり抑えているんですけど、トーカさんは魔力探知できるくらいに魔力に鋭敏みたいですから。やっぱり怖い、ですよね』
しょぼん、と項垂れるローヘレイネス。
くっ、そんな風にされると罪悪感が…。
加えてエレナの目も痛い。
ローヘレイネスからは一貫して害意は感じない。確かに今のは俺が悪かったな。
「トーカ…?」
「ああ、その。すみませんでした。ローの魔力?なのかな。感じたことないくらいに強かったからつい。失礼なことを言ってしまいました」
90°で謝罪。
『あ、いいんですよ!頭を上げてください。え、えへへ。こんなにお話できたの久しぶりで、ちょっと大げさにしてしまいました。えっと、もしトーカさんが気に病まれるなら、エレナさんみたいにもっと普通に接してくれるとうれしいなー、なんて…』
「それが謝罪になるなら」
『だ、駄目ですよねー…ううぇえ?い、いいんですか!?』
「あ、ああ。こういう感じでいいかな?」
『ああ、神はいるのですね…』
邪神信仰してそうな見た目で何を言っているのか。
祈りを捧げるローヘレイネスに突っ込みを入れるか迷った。
◇
謎の祈りを終えたローヘレイネスが恥ずかしそうに恐縮している。
『失礼しました。話を戻しますが、お礼はどういったものが良ろしいですか?』
そう言えばそんな話をしてたんだった。
「どういうのがあるんだ?」
『そうですね。ええと、アイテムか加護を贈らせて頂こうかと…。今回果たした偉業は、ちょっと特殊というか、特別枠なのであまり豪華なモノは贈れないんですが…。すみません』
「偉業、っていうのは?」
『ダンジョンにて容易には成せないこと。越え難い壁を越えることを私達は偉業、と呼びます』
私達、ね。
さっきからあからさまに含みがある。でも聞いても答えてくれなさそうだよなぁ…。
「偉業を達成するとこんな風にローが現れるのか?」
『今回は特別です。ここのダンジョンボスのヒノモトデュラハンさんには個人的に思い入れがあったので。通常は宝箱にこっそりランダムで追加したり、ですね。まぁそれも滅多にあることではないのですけど』
ローヘレイネスの話を聞いて納得した。偉業とやらがどんなことか明確ではないが恐らく強い魔物を倒すとかダンジョンをクリアする類だろう。それならローヘレイネスの目撃情報が噂になって然るべきだが俺は全く聞いたことがなかった。
「加護ってのはどういうものなんだ?」
『ささやかですが私の力の一部をお渡しします。ダンジョンにいる限り少しだけ強くなりますし、成長も早まります。その代わり強い魔物と出会いやすくなりますので、もし加護をご希望であればご注意ください』
成長促進は良いな。
強い魔物との遭遇がどの程度なのか分からないがささやかってことはあまり強い効果ではなさそうだ。それにエナジードレインの特性を考えたら悪いばかりでもない。
「アイテムはどんなのが貰える?」
『アイテムは結構色々ありますよ。武器や防具、素材とか、回復薬とか』
「回復薬……。ねぇ、ロー。石化復活薬はある?」
エレナの言葉にハッとする。
そうか。石化復活薬がここで手に入ればエレノアを治してやれる。
しかしそう都合良く話は進まない。
ローヘレイネスは申し訳なさそうな顔(骸骨なので表情は分からないがそういう雰囲気)で頭を下げた。
『申し訳ありません。今回の偉業では石化復活薬はお渡し出来ません』
ない、ではなく渡せない、か。
「そ、そんな!でもあるんだよね!?だったら――」
「エレナ」
「っ、………ごめん、ロー。取り乱した」
『いえ……』
エレナの気持ちも理解できる。
石化復活薬はエレノアの治療に必須だがダンジョンでのみ発見されるアイテムのため供給量がとても少ない。普通にダンジョンに潜っていても手に入れられる可能性はかなり低いし、購入するとなれば目玉が飛び出るほどの金が必要だ。この機会に入手できるならエレナじゃなくても目の色が変わるというものだ。
「でも、どうしても必要なの……」
「分かってるよ。けど聞いてたか?ローは今回の偉業では出せない、って言ったんだ」
俺の言葉にはっとするエレナ。そしてローヘレイネスに窺うように確認をとる。
「別の偉業なら、石化復活薬をもらえる……?」
『はい。石化復活薬でしたら、Aランク中位の魔物を合計レベル80以内かつ個人レベル60以内で討伐するか、Aランク上位以上の魔物を合計レベル200以内かつ個人レベル70以内で討伐できたらお渡し出来ます』
「っ!!ありがとう!!!」
『わわっ』
がばっ!
と、感極まったエレナがローヘレイネスに抱きついた。
そんな二人を見ながら思う。ローヘレイネスが骸骨ではなく美声に相応しい美女、あるいは美少女だったら……。
いや、ないものねだりなど負け犬の発想。俺は負け犬か?否。断じて否ッ!
ないなら作ればいい。日本人の想像力を舐めるなよ!!
脳内でローヘレイネスの声に適合する美少女を検索。エンジェルリップの娼婦数名がヒット。彼女らをモンタージュ作成のように組み合わせ、更にローヘレイネスの雰囲気に合うよう微調整を加える。この間僅か0.2秒!
見える。見えるぞ!
恥じらいながらエレナの抱擁を受ける、線の細い美少女が!
「いと、尊し……」
と、俺の煩悩は一旦置いておいて。
ひと仕事終えた達成感に浸りながらも考える。
偉業か。条件は非常に厳しいが、宝くじに当たるような確率を頼りにダンジョンを探し回ったり、金貨を何十万枚と集めるよりはいくらかマシだ。最終手段としてAランク冒険者を雇ってAランク中位の魔物を討伐する手も……いや、無理か。イステリアにAランク冒険者はいないし、ルカ共和国全体でも2人しかいなかったはずだ。たった2人のAランク冒険者には高難度依頼がいくつも回されて一介の冒険者からの依頼など受けてもらえないだろう。
それにレベル制限があるのもかなり厳しい。この世界、スキルの獲得が困難なせいで強くなろうとしたらレベルアップが近道というか王道だ。しかしいくら強くてもパーティの合計レベルが規定を越えてしまうと偉業とは認定されなくなってしまう。
取り合えずの目標としては俺とエレナのレベルアップをしつつ出来る限りスキルを獲得して戦力アップ。そして俺達でも倒せそうな相性の良いAランク中位の魔物を探すってところか。
そんな都合の良い魔物いるかねぇ?一応リディアやランドに聞いてみるか。
それにしても指定のレベル以下での強敵撃破でボーナスアイテムが貰えるとか随分とゲーム染みた仕様な気がする。どういうつもりなんだろうか。聞いても答えてもらえない気はするが。
「エレナ、そろそろ放してやったらどうだ?」
「あ、ごめんなさい。つい」
『いえいえ。大変貴重な体験ができました。ふふ、エレナちゃん、良い匂いでした』
骨なのに匂い分かるのか。




