表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転移先で最初の職業選択を間違えてもリカバリーは効く  作者: 葵あさ
2章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

80/86

地下墓地の前哨戦

 おおよそ午後6時過ぎ――これだけ長時間時計を見なかったことはないので多少のズレはあるかもだが――俺達は30層のボス部屋へ挑戦しようとしていた。

 昨日あれだけ乱れていたエレナの体力が心配だったが、これ以上セーフティゾーンに留まると変異体が生まれるかもしれない。29層に戻ってしばらく経てば変異体誕生までの時間はリセット出来るので、一度29層を覗いたらワーウルフゾンビがリポップしていた。しかも今度は二体。

 トラップだってエレナの踏んだ一か所だけとは限らない。

 どこにあるかも分からないトラップに気を配りながらワーウルフゾンビ二体を相手にする。……不可能ではないと思うがこちらもかなり消耗を強いられる。それなら今のコンディションでボスに挑戦した方が勝率が高いだろうという公算だ。


 一応あの後、エレナは仮眠と食事を取って体力回復に努めた。それに加えて上等連合からの差し入れにあったキラービーの蜂蜜を食べたことで完全にとは言えないまでも、戦闘に支障がない程度には回復している。

 それにしても上等連合からの差し入れはどれも役立つ物ばかりだった。流石はギルドの信頼厚いベテランパーティだ。見た目と言動はおかしいけど。

 心の中で上等連合の三人に感謝しつつ隣に立つエレナに目線を送る。


「分かる?」

「うん、すごい圧。20層のわんちゃんなんか話にならない」


 オルトロスゾンビをわんちゃん呼びするのはどうかと思うが俺も同意見だ。

 扉の向こうから伝わってくる瘴気を帯びた圧は、20層のボスであるオルトロスゾンビとすら比べ物にならない。


「ダンジョンボスだろうな」

「そうだね。火矢残り全部渡して」

「あいよ」


 これまでとは明らかに格の違う相手だ。俺もエレナも出し惜しみをするつもりはない。

 出来ればエレナにコイルガンの魔法陣を持たせてやりたかったが、今装備しているアームガードは一度魔法陣を使ってしまったので再利用は不可能。胸当ても練習で魔法陣を使用しているため使えない。他に魔法陣を描くことが出来て、コイルガンの要である相対位置固定をクリア出来る部位がないため、出し惜しみしないとは言ってもコイルガンなしでの戦闘になる。

 敵はこれまでになく強大。

 こちらは切り札がなく、体調も万全とは言えない。

 それでもエレナの表情に絶望はない。


「頼りにしてるよ、相棒」

「こちらこそ、相棒」


 ぐっと伸ばしてきたエレナの拳にこちらの拳をぶつけ、扉を開ける。

 瞬間。粘度を伴っていると錯覚するほど濃密な瘴気が溢れ返った。

 入室と共に扉が閉まる。閉鎖型のようだ。もう後には退けない。

 ボス部屋は広い空間だった。石を切り出したような石柱が並び、その間に等間隔に置かれているのは数多の棺。


地下墓地(カタコンベ)?」

「見て、あの奥!」


 ボス部屋の最奥は一段高くなっており、豪華な装飾を施された棺が一つ。

 そして棺の前には体格の良い黒馬に騎乗した首無しの騎士…じゃなくて鎧武者。

 戦国の侍を想起させるような暗色の甲冑に翡翠の陣羽織。手にするのは血管のように脈動する管が走った黒の大刀。


「分類的にはデュラハン…なのか?あれが『墓所の主』か」

「普通のデュラハンは銀の鎧だしあんなへんてこな形じゃないよ。剣だってすごく禍々しいし。亜種か上位種だと思う」

「へんてこではないだろ。あれは素晴らしい造形だ」

「知ってるの?」

「まぁな」


 当世具足。

 戦国時代に発展した鎧で、派手な兜飾り目が行きがちだが、実は槍にも鉄砲にも対応するために進化を遂げた日本式甲冑の到達点だ。造形美と機能美を両立させている…つまり芸術であり実戦武具でもある、非常に男心をくすぐる一品なのだ。

 ただ西洋風の地下墓地には全く似つかわしくない奴がボスなのは少し腑に落ちないが。


「見るからに強そうだけど、食いでもありそうだな」

「強がり?」

「ははっ、そうかも」


 正直、今すぐに逃げ出したい気持ちもある。あの和風デュラハンから感じる魔力。その質が異様なんだ。重く纏わりつくような、それでいて首筋に切っ先を突き付けられているような鋭い魔力。

 ただ同時にゲーム脳に侵された身としてはあれから奪えるスキルが楽しみで仕方ない。

 エナジードレインでスキルを再構築する確率はだいぶ低いが、対象が強いほど確率が上がる傾向がある。体感だけど。実際オルトロスゾンビやライトニングキングからスキルを再構築出来たし。直感的にこの和風デュラハンからもスキルを得られる気がした。


 ……まぁその前に、当然こいつを倒さないといけないんだけど。ダンジョンが閉じられている以上、逃げる選択肢もないしな。


 和風デュラハンが身体をこちらに向けた。

 頭がないのにはっきりと視線を感じる。

 大刀を掲げ……何をするつもりだ?


『………ッ!!!!』

「ぐっ」

「きゃっ!!?」


 咆哮。

 いや、声ではない。魔力の波動だ。それも空気を震わせるほど強力な。

 俺はボルケーノトータスの威圧を経験していたお陰で多少耐性がついていたみたいだが、エレナはすこし動揺しているようだ。


「エレナ、落ち着け」

「う、うん…大丈夫。びっくりしただけ」


 すぐに弓を構え直し、臨戦態勢を取るエレナ。

 威圧に対しては魔力操作で乱された体内魔力を調律するか、あるいは精神を強く持って抵抗するのが効果的な対応だ。エレナは持ち前の精神力で抵抗したみたいだな。流石だ。


 しかし和風デュラハンはどういうつもりだ?

 威圧を放った後は、竦んで動きの鈍った相手を攻撃するのがセオリーだというのに、奴は何故か動いていない。

 と、そこで魔力探知に反応があった。それも複数…いや、多過ぎる。


「エレナ、棺から離れろ!」

「っ!」


 エレナが飛び退いた直後、傍にあった棺の蓋が内側から力任せに吹き飛ばされた。

 そこから現れたのは全身鎧の騎士。それが30体。なんで手下は西洋甲冑なんだ。どういうコンセプトのダンジョンなんだか。

 和風デュラハンは……動かない。どうやら騎士達を倒してみろと仰せのようだ。


「高みの見物ですかそうですか。エレナ、まずは騎士達の方を片付ける。鎧相手に通常の矢は効きにくいだろうから――」


 ズガン。

 金属がひしゃげる音と共に傍にいた騎士が吹き飛んだ。

 プレートメイルが凹み、そこには先端に分銅のような重しのついた矢がめり込んでいた。


「え、何か言った?」

「うぇい、なんでもねぇっす姉御!」

「ふざけてないでトーカも戦う!」

「合点!」


 騎士達が殺到する。

 武器は両手剣、槍、ハンマー、片手剣に盾持ちなど様々だが――、


「ガンランスがいないなんて分かってないな!」


 最初に突っ込んできた大剣の騎士。その手首を斬り落とす…つもりで放った斬撃はギィン!と小手に弾かれる。騎士もバランスを崩しているが手は無事なようだ。


「堅い…けど」


 俺の持つ長剣は黒柘榴鋼製。

 その特徴は準一線級の切れ味と、鉄の倍近い重量。


「おらあああ!」


 力任せの振り下ろし。

 だが身体強化と黒柘榴鋼の重量。この組み合わせで放たれた振り下ろしは、大剣でのガードの上から騎士の腕を圧し折った。そのまま身体も両断出来れば良かったのだが、そこまでの威力はなかった。ブレストアーマーに傷を付けただけで終わった。

 だが両腕が折れた時点でこいつは戦力外。それで良しとしよう。

 と、思いきや。


「んっ?」

「嘘!?」


 両腕の折れた騎士は、その折れた腕で大剣を構える。

 そして何事もなかったかのように攻撃してきた。


「お、わ、なんだこいつ。折れてんのに変わらない威力の攻撃?どういうことだ?エレナが撃ったやつは――」


 見た目はフルプレートアーマーの騎士だが、鎧だけで中身がないとか?

 たしかリビングアーマーって魔物がいたよな。

 だとすればブレストアーマーがべっこり逝った奴は大ダメージを受けているはず…。


「――結構元気そうだな」


 エレナが最初に攻撃した騎士は起き上がって武器を構えている。

 動きが多少鈍っているが戦線離脱とまではいかないようだった。


 どういうことだ?

 戦闘中の興奮状態といっても思考は巡る。

 並列思考スキルの恩恵もあるのか、いつも以上に冷静に考えることが出来た。


 リビングアーマーは命の宿った鎧。

 Cランク下位で素早さはないが力はそこそこ。そしてかなり堅い。

 わらわらと出て来られたら厄介な相手だ。耐久性が高いので倒すまでに時間がかかる。

 ただし、魔石がブレストアーマーの中心、その内側にあるためエレナがやったようにべっこりと凹ませてやれば倒せるはず。


 人型魔物の相手は比較的得意だからなんとかなると思っていたが、腕を折っても攻撃してくる。胸を潰しても死なない。……どうしたもんかね。


「こいつらも上位種なのかな?」


 背後からエレナが聞いてくる。

 上位種にしてはあまり威圧感がない。


「多分違うと――っと!あぶなっ!」


 周囲を六体の騎士に囲まれてしまった。

 全方位からの攻撃が始まる。

 それをいなしながら考える。

 剣速、膂力はやっぱりCランク並み。上位種ではない。

 中には武術系スキルを持っていそうな鋭い攻撃をしてくる者もいたが、ワーウルフゾンビに比べるとだいぶ落ちる。

 つか囲んで袋叩きって。騎士道精神はどうした。


「トーカ!」

「だい、じょぶ!なんとか、ギリギリ!」

「援護する!」


 エレナの放った分銅矢が騎士の頭部直撃……せずに僅かに中心から外れた。

 しかし直撃しなかったため兜が吹っ飛び、――骸骨の頭が露出する。

 なるほど……。


「エレナ、こいつらリビングアーマーを着たスケルトンナイトだ!」

「っ、そういうこと」


 スケルトンナイトは亡者の騎士。

 骸骨が鎧を纏ったCランク中位の魔物だ。騎士だけあってそこらのスケルトンよりだいぶ強い。身体能力もそうだし、武器の扱いにも慣れている。ただし打撃系の攻撃に弱く、骨を折ることで戦闘力を大幅に削ることが出来る。頭を潰せば死ぬ。


 脱げた兜とスケルトンナイトの頭部からは別種の魔力を感じる。

 鎧を身に纏っている時は二体の魔力が混じって分からなかったが、気付いてしまえば単純なことだった。

 四肢の骨が折れてもリビングアーマーは関係なく動ける。

 鎧が砕けてリビングアーマーが死んでも普通の鎧としてスケルトンナイトは動く。

 なら狙うべきは――、


「頭と胸!両方潰せばいいんでしょ!」


 エレナの分銅の矢が飛ぶ。

 頭と胸をほぼ同時に潰された騎士がその場に崩れ落ちた。


「トーカ、重撃錘残り4本しかない!火矢使う?」


 火矢は不味い。アンデッドには有効だがこれだけ敵が密集しているところで使えば俺達も巻き添えになる。


「火矢はなし!重撃錘は出し惜しみなしでいい!回収する!」

「了解!」


 転がってる重撃錘を回収して再利用。

 そのためには騎士の包囲を抜ける必要があるのだが、いかんせん長剣はこいつら相手に相性が悪い。

 間断なく迫る攻撃。その中に手頃なサイズのメイス持ちがいた。


「いいなそれ」


 攻撃の合間を縫ってメイス持ちに急接近。振り下ろしてくるメイスを担ぐように背負い投げをお見舞い。するとあら不思議。なぜか俺の手にはメイスがあるじゃないか。


「え、くれんの?悪いねぇ」


 至近にいた騎士の胸部に叩きつける。

 べこ!と鎧がひしゃげ、間髪入れずエレナの重撃錘が頭部に入る。ナイスー。

 同様に三体を撃破。

 メイスの破壊力は凄いけど重いから攻撃頻度は下がる。それに戦棍スキルもないので動きが力任せの素人感が否めない。複数体に囲まれている状況で一体につき二か所を破壊するのは正直難しい。エレナの援護は非常に助かる。

 メイスをぶん回しながら落ちている重撃錘を拾ってはエレナに渡しリサイクル。環境に優しくいこう。

 前衛の俺を抜いてエレナを叩こうとする騎士もいたが、そうはさせん。

 落ちていた騎士の武器を投げつけて牽制。その間にエレナが立ち位置を調整して安全地帯に移動する。上手いな。パーティでの戦い方を覚えてそう時間も経っていないのにエレナの立ち回りはかなり理に敵っている。元々センスが良かったのに加えて素直な性格だから上達が早いのだろう。

 危な気なく30体の騎士を撃破した。

 その頃にはリサイクルしまくった重撃錘は使い物にならなくなっており、同様にメイスも役割を終えたかのように砕けた。

 アイテムボックスから黒柘榴鋼の長剣を取り出して和風デュラハンに目線を向ける。


「見物は終わりか?」


 倒れた騎士達を見下ろしていた和風デュラハンが馬を進めた。


『……!!』

「っ」


 またしても魔力の咆哮。

 しかし今度は棺から騎士を呼ぶためではなく、戦うに値する敵を目の前にした歓喜の色が見て取れた。


「ぐっ…!?」


 突進。

 フル装備の和風デュラハンを乗せ、自身も鎧を纏っているというのにキングライトニングキング並みの速度で突進してきた。

 撥ね飛ばされないよう回避しながら斬りつけるが、大刀でガードされ――逆に吹っ飛ばされる。


 力ヤバいな。小手調べで剛力スキル使っていなかったけど、使ってたとしても単純な力比べじゃ敵いそうにない。

 空中で一回転して姿勢を整え着地。そこに首を狩るかのように大刀の切っ先が迫っている。くそ、速いし殺意が高い!

 水平に振られる大刀を仰け反って回避。そのままバク転で距離を取る。


 一瞬睨み合うが、その均衡は飛来した矢によって崩れた。

 完全に背後からの奇襲だったが、僅か風切り音を察知したのか和風デュラハンは馬上で上半身を捻じり、矢を斬り落とした。だがそれは悪手。斬った矢から燃料が零れる。

 すかさずエレナが着火矢を射る――が、和風デュラハンは馬を動かして回避した。

 危機察知能力が高いようだ。

 が甘い。


「雷閃」


 回避運動での急加速。方向は馬の正面に限られる。

 そこへ雷閃を飛ばす。

 和風デュラハンはそれすら超反応で回避。しかし完全には避け切れず肩を掠めた。

 ワーウルフゾンビにやったように燃料が燃え上がる。

 デュラハンもアンデッド系の魔物。これでだいぶ弱体化して――、


「なっ!?」


 くれなかった。

 陣羽織を一振り。それだけで身体を包む炎が消え去った。


「マジかよ。いや…」


 馬の方は炎が消えていない。

 あの羽織で消せるのは自分の炎だけのようだ。

 炎に焼かれ馬が地に伏せる。下馬した和風デュラハンが馬の頭をひと撫ですると馬は粒子になって消えた。馬を撫でる所作には確かな慈しみがあった。


 大刀を担ぎ、反対の手で人差し指をこちらに向ける。

 そしてかかって来いと言わんばかりにクイっと指を曲げた。


「エレナ。手出さないで」

「私も…ううん、分かった。気を付けて」


 有効打になる攻撃がないと分かっているからか「私も戦う」とは言わなかった。

 和風デュラハンも近接戦、タイマンがお望みのようで俺にアピールしてきている。


「任せろ。後でドレインするから騎士一纏めにしといてくれる?」

「っ、わかった」

「頼む。さて――待たせた」


 向き直ると和風デュラハンは「気にするな」とでも言うように肩を竦めた。

 意外と人間味のある反応するな。それに余裕が感じられる。

 まぁいい。

 格上だろうと負ける気はない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ