説明(釈明とも言う)
あれからエレナは何度達しただろうか。
たぶん30回は越えたと思うが、その頃になってようやく治療が終わった。
身体から出る体液が完全に元に戻ったのだ。
治療を終えた後のエレナの状態は酷いものだった。目は虚ろで理性が感じられず、口元からは力無く涎が伝う。身体も不規則に痙攣を繰り返して、時折思い出したように色々な液体を吹き出していた。
やり過ぎてしまった感はある。
白状すると治療を終えた感じがあってから追加で5回ほど追撃したのは、完治の確信がなかったというのが半分、絶世の美少女の痴態をもっと見ていたいと思ってしまったとうのが半分である。これは殴られてもしかたない。刃傷沙汰までは勘弁してほしいが。
しかし治療行為とはいえ、エレナが淫らに喘ぎ果てる姿を一晩中見せつけられ――というか自分でやっていたのだが――ながらも一線を越えなかった俺の自制心を誰か褒めてほしい。歯を食いしばって舌やら唇を噛み千切る勢いで噛みながら耐えていたんだぞ。いや、マジで誰ぞ褒めてつかわせ。
「言いたいことはそれで全部?」
「……」
治療後、気絶するように眠ったエレナが目を覚ましたのは昼過ぎ。
そして昨夜の説明(釈明ともいう)をしたのがつい先程。
現在、俺は氷のように冷たい目をしたエレナに睥睨されて正座していた。
しかしエレナの問いにどう答える?
嘘は契約魔法でバレるし「正直役得だったとも思ってる。大変貴重な経験が出来ました、本当にありがとうございます」なんて素直に言ったら火に油というか、逆鱗に飛び膝蹴りというか、惨劇は免れないだろう。
ここは平謝りが最善手。年間頭を下げる回数世界一の日本人の血がそう言っている(適当)。
だが、ただ謝るだけだと相手も怒りの納め時が分からなくなってしまう。そのせいで変に溝が出来たりしないよう、なんとかエレナの思考を誘導したい。
「エレナには本当に申し訳ないことをした。治療のためとはいえ、無許可でお前の身体を触ってしまったんだ。怒って当然だ」
まずは謝罪。そして共感。
この共感が大事だ。あるのとないのとで心証がかなり違う。
「もし今後似たようなことがあれば出来る限り前もって話をするよ」
未来に向けての解決策の提示を挟み、
「ただどうしようもない緊急事態の場合は、今回みたいに事後承諾という形を取ってしまうかもしれない。でもそれはエレナの身を第一に考えてのこと(第二の目的がないとは言っていない)なんだ。それだけは信じて欲しい」
最後に今後のための予防線張りと責任回避をブッ込む。
意訳すると。
マジごめん。嫌だったよね?
今回は緊急事態だったし、事後承諾でも仕方ないじゃんね?
でも努力はするけど今後も同じような場面になったら報連相すっとばして同じことするっスよ。エレナの為だし、いいよね?
的なことを殊勝な顔で都合の悪い箇所を端折って言った訳ですが。
「ま、まぁ、トーカが私のこと助けてくれようとしたのはわかったから、そうね、そこは斟酌してあげてもいいかもしれない……」
「チョ――超ありがとう。分かってもらえて良かった」
「? ……でも次は本当に説明してよね」
「ああ、可能な限り。約束する」
あぶねー。危うくチョロって言いそうになった。
こんな騙されやすくて大丈夫かエレナ。ちょっと真剣に心配になってきたわ。今度エレノアに相談しようかな…。
「でも、あのさ……」
「ん?」
途端に言葉を探すように目を彷徨わせるエレナ。どうした?謝礼金か?そうだな、金貨500枚くらいなら支払ってもいい。それくらいの価値はあったと、手に残る感触と脳内フォルダが言っている。
しかし、しばし言おうか言うまいか迷っていた風だったエレナの口から出て来たのは予想外の言葉だった。
「あの、昨日、さ。最後までしなかったよね?……なんで?」
「なんでって……」
え、最後までして良かったの?
俺血涙流しながら我慢してたんだけど。
「いや、分かってるよ?理性のある人ならああいう状況で酷いことしないって。それは理解してるけど、流石にあんなことまでしておいて最後までしないって、私に魅力がないんじゃないかなとか思うじゃん!普通あそこまで状況整ったら男の人って『ぐへへ、この機に乗じて行けるとこまで行ったるで…』ってなるんでしょ!?」
お、おぅ。
急にアクセル踏んできたな。誰だその変態おじみたいな奴。……俺か。
まぁエレナの男性像は多少歪ではあるがそれほど間違ってもいないけど。
「私、あんなことされるの初めてだったのに、それで何もなかったんだから、不安になるのも当然だと思うの!」
「ちょっと落ち着け。俺はエレナのこと充分魅力的だって思ってるよ」
「じゃあ何で昨日しなかったんだよ!」
「して良かったの?」
「良いわけないでしょ、バカ!」
「えぇ……?」
矛盾んんんー。
でも契約魔法が発動していないからどっちも本心…ってこと?複雑だってばよ…。
何言っても怒られそうだからこっちも本心だけ伝えておこう。
「エレナ、俺だって男だ。エレナみたいな可愛い女の子のあられもない姿を見て、何も思わない訳ないだろ。必死で我慢したんだよ。俺達の関係が壊れるのが怖くて。あんまり言わせないでくれ、かっこ悪い」
「かわっ……! 本当、みたいだね……?」
「そりゃ、嘘吐けないからなぁ」
あんまり余裕のないことを言うのは男として情けないくも思うのだが、エレナには強がりすら通じないので仕方ない。
エレナはジトォ…とした目で見てからそっぽを向いた。
「…すっごい恥ずかしかった」
「ごめん」
「死ぬかと思った」
「ほんとごめん」
「トーカじゃなかったら殺してるからね」
「はい…」
「でも、助けてくれたし、最後までは、その、しないでくれたから……【許す】」
「え…と」
「【許す】!」
僅かに涙を浮かべ、親の仇かのように睨みつけながらやけっぱちのように叫ぶその顔は羞恥と怒りと色々な感情でごちゃまぜだった。
「え…いいの?」
「よくない」
「よくないですか」
「よくないけどいいの」
「よくないけどいいの?」
「そう。【許す】」
「…有難き幸せ」
「調子に乗るな」
ぽす、と軽く殴られる。
許す、というのが嘘だと契約魔法が知らせてくる。エレナの中でもまだ整理がついていないのだろう。
だが言葉の上では許してくれた。それは許したいと思っているということ。それだけで充分だ。
「ありがとうな」
「……こっちこそ、また助けてもらっちゃった。ありがとう」
拗ねたように言うものだから可愛くなって頭を撫でてしまった。
するとぺシっと払いのけられた。
「子供扱いしない!」
「ごめん」
「……も少し続けて」
「え」
乙女心は複雑だ。




