媚毒
ワーウルフゾンビの強さはライトニングキングウルフ並みかそれ以上だ。
正直一人で戦えば賭けに出ざるを得ない。アンデッド特攻の火矢を使えるエレナの援護はかなり心強いのは確かだ。
ただエレナの体調がどこまで持つか。
精神力で誤魔化すにも限界は存在する。だから取る戦法は――、
「速攻で決める。火矢の準備を頼む。絶対に抜かせないから良く狙って」
「うん。信じてる」
「グルゥア!」
俺達の会話が終わるのを待っていた訳ではないだろうが、そのタイミングでワーウルフゾンビが動いた。
ソニックウルフよりも更に速い。
目で追うのがやっとの速度。加えて姿勢を限界まで低くしているせいで一瞬でも気を緩めると姿を見失ってしまいそうだ。
高速移動を繰り返しながら狙ってきたのは――エレナ。
「だと思ったよ!」
毒と怪我で弱った相手を狙う。まぁ当然の判断だよな。
だがそんなのは分かり切っている。
「雷陣!」
エレナを囲うように雷が走る。
いくつか開発した雷魔法の中で雷閃と同等の発動速度を誇る防御魔法だ。
対象地点から半径数mをドーム状の雷で覆う。持続時間はごく僅か、威力も大した事はないが一瞬の硬直時間は戦闘において値千金だ。
アンデッドとは言えゾンビであるなら筋肉がある。電気信号で動かしているのか、もしくは魔力で直接操っているのか知らないが、雷陣で筋肉を強制的に収縮させてやれば動きは止まる。
「エレナ!」
「そこ!」
すかさずエレナが火矢のコンボを射かける。
「ガアアアア!」
凄まじい咆哮を上げ、硬直を脱出。
そんなこと出来んのかよ!という突っ込みをする間もなく、火矢を躱したワーウルフゾンビがエレナに迫る。
「やらせるか!」
雷陣の硬直時間のお陰でどうにか追いつけた俺が割って入る。
振り下ろされる剛腕を剣で捌く…が、重い!
剛力スキルを発動しても受け流しが精一杯だ。可能ならライトニングキングウルフの時みたいに高濃度アルコールをぶっかけてやろうにも、とてもじゃないがそんな隙はない。
ここで魔法が使えたら突破口になるんだろうが、近接戦闘しながら魔法を使うのは今の俺には難易度が高い。かなり集中しないと魔法が霧散してしまうのだ。
「トーカ!」
徐々に押され始める俺をエレナが泣きそうな顔で見ている。
ワーウルフゾンビとの距離が近過ぎて援護も難しいのだろう。
このままでは消耗戦になり、自力で劣る俺がやられるのは時間の問題だ。その前に手を打つ。
思考の端でステータス画面を起動、余っていたスキルポイントを割り振る。
名前:トーカ・フジクラ
レベル:30
ギフト:エナジードレイン
戦闘スキル:剣術Ⅱ、体術Ⅱ、身体強化Ⅲ、敏捷強化Ⅱ、剛力Ⅱ
魔法スキル:雷魔法Ⅱ
耐性スキル:電撃吸収Ⅰ、毒耐性Ⅲ、麻痺耐性Ⅱ、火耐性Ⅲ、打撃耐性Ⅱ
特殊スキル:アイテムボックスⅡ、遠見Ⅰ、暗視Ⅰ、危機感知Ⅰ、並列思考Ⅰ→Ⅱ
余剰生命力:1480→1508
スキルポイント:2→1
所持金:30万2200リラ
貸金:1350万リラ
これで、どうだ!?
上げたのはオルトロスゾンビから獲得していた並列思考のスキル。
これは同時に複数の思考が出来るようになるスキルだが、レベルⅠでは日常会話をしながら少し複雑な計算が出来る程度の効果だった。それでも中々便利そうではあったが、戦闘に活かせるほどではなかった。
しかしレベルⅡなら。
希望的観測だったが…どうやら俺は賭けに勝ったようだ。
「グガアアアア!?」
近接戦闘を繰り広げる最中、突如としてワーウルフゾンビが悲鳴を上げた。
その脚には雷閃が――通常よりも細く、力ないが――突き刺さっていた。
並列思考Ⅱで組み上げることの出来る魔法はかなり初歩的なもののみ。しかも威力が減衰し、複数の使用は困難なようだった。
だが今はこれで充分だ。
不意打ちに足を止めたワーウルフゾンビから距離を取る。
「今だ!」
「っ!」
燃料矢の束がワーウルフゾンビを襲う。
着弾すれば雷閃が着火剤の役割を果たして全身を炎が包むだろう。
それを正確に理解しているはずもないが、色濃く残った本能で危険を察知したワーウルフゾンビは肺を膨らませ、咆哮による感電の解除を試みようとする。
「それはさっき見たよ」
並列思考で準備していた、現状最速で発射可能である簡易版雷閃をワーウルフゾンビの胸に突き刺す。ダメージは期待出来ないが咆哮を僅かに遅らせる程度の効果はある。
そして燃料矢が着弾。
直後、燃え盛る炎。
ワーウルフゾンビは全身を炎に包まれた。
アンデッド系の魔物はこうなった時点で能力が劇的に下がる。それはこれまでの雑魚魔物やオルトロスゾンビで検証済みだ。
故に間合いに飛び込む。この機会を逃す訳にはいかない。
地面を転がったり何かスキルを使ったりして消火されたらまた火を点けるところから始めなければならず、そうなれば毒を食らっているエレナが持たない。
渾身の踏み込みと共に剛力スキルを全開。
腰だめにした剣を薙ぎ払う。
斬撃に突進力を乗せた、一切の防御を捨てた全力攻撃。
咄嗟に両腕をクロスさせ防御姿勢を取ったワーウルフゾンビの、その腕ごと首を斬り落とした。僅かに時間を置いて、身体も崩れ落ちる。完全に倒したようだ。
エナジードレインしている暇はないのでアイテムボックスにぶち込んでおく。
「エレナ!」
振り向くと高熱に浮かされるように倒れているエレナがいた。
気力だけで立っていたのがワーウルフゾンビを倒して緊張の糸が切れたのだろう。
脚の矢傷を上等連合からもらったローポーションで治療して、エレナの身体を抱き上げる。
……熱い。
見た目通りかなりの高熱があるようだ。
取り合えず抗毒剤を飲ませる。非常に苦いので渋い顔をするが我慢してくれ。体内の免疫が活性化して毒に対する耐性を強めてくれる薬だ。直接毒を無効化する訳じゃないので効くまでに時間がかかるし体力が残っていないと効果を発揮しない薬だが、広い種類に対応出来る薬だ。今はこれが効くことを願うしかない。
荒い息を吐くエレナを抱えながら30層へ続く階段を降りる。
階段を降り切るとそこは少々広めのセーフティゾーンになっており、すぐ傍にはボス部屋に通じる扉がある。今度は金色で威風堂々とした鎧武者が彫金がされていたが、兜部分は抉り取られていた。
ここなら身体を休めることが出来る。変異体が出現すれば安全とは言えなくなるが、変異体の出現率は非常に低い。セーフティゾーンに長期滞在すると出現率が上がるものの、24時間は安全と言われている。それまでにエレナの体調が戻ってくれると良いのだが。
「ん、はぁ……!」
防具を外したエレナを布団に寝かせて料理の準備をしていると、弱々しい…というより、妙に艶めかしい色気のある声が耳に入った。意識を失っているかと思ったが起きていたようだ。
「エレナ、今飯の準備してるからな。抗毒剤の効き目は体力次第だから食えるなら食って、く、れ…?」
「おかしいよ、これ…。こん、なぁ…変だよぉ…」
明らかに様子のおかしいエレナに目を向けると、布団の中でもじもじと身体を揺すっていた。…というか完全に致しておられる?
ファ?
ちょっと理解が追いつかん。
俺の存在が頭から抜け落ちてしまったのか、エレナは熱い吐息と共に一人快楽に呻く。
「これ、すごぃ…、指止まんない…」
「あの、エレナ、さん?」
「っ!!??」
だからと言ってエレナの痴態を鑑賞し続ける訳にもいかず控えめに声をかけると、身体をビクリ!と硬直させてこちらに目を向けた。そして瞳いっぱいに涙を溜め、
「うぐゅっ、な、な、ぐしゅっ、ど、え、わた、なにを…?」
ナニをしてましたね!なんてとても言えない雰囲気だ。
空気は読める方なんだ。あえて読まない時もあるけど。
しかしエレナがいきなりソロ活動を始めるなんて、露出のケが…!?
な訳ないよな。普通に考えてあのガスが原因だろう。恐らく催淫効果のあるガスだ。罠にかかった冒険者が発情しているところを魔物に犯された、なんて話も聞いたことがある。ここに出てくる魔物はほとんどがアンデッドだから犯されることはないにしても、今のエレナのようにまともに動けない状態になってしまえば抵抗出来ずに殺されてしまう。割とエゲツない罠だ。
そう言えばさっきの戦いでエレナは自分の脚に矢を突き刺していた。あれは催淫ガスで頭が快楽一色になるのを痛みで上書きしていたということか。その場凌ぎの力技だけど効果的な方法を取ったな。
さて、ガスの正体が判明したのは良い。だが新たな問題が浮上した。それは催淫ガスに抗毒剤が効かないということだ。
催淫ガス――媚毒全般の対処法は三つ。状態異常回復薬、状態異常解除魔法、性欲の発散だ。
一応時間と共に効果は薄れてくれるが、対処せずに時間経過に任せると媚毒成分が身体に残ってしまい後遺症が残ってしまうことがある。そうなると何の前触れもなく、突然全身の感度が異常に高まって日常生活が送れなくなるそうだ。薬でその発作を抑えられはするが、完治させるのは困難だという。
どうして媚毒についての知識があるのかと言うと、帝都の俺が通っていた娼館で不届きな客が娼婦に媚毒を盛った事件があったのだ。幸い娼婦が気付いて客の男はアレを潰されて奴隷堕ち。娼婦もすぐに同僚の娼婦に処置してもらい、後遺症も残らなかった。こういった騒ぎは下級の娼館ではままある事らしく、話をしてくれた娼婦も怒るというより呆れている様子だった。その時に対処法含め、色々と教えてもらったのだ。
ちなみに後遺症がないものが媚薬、あるものが媚毒と呼ばれている。媚薬は薬師が時間をかけて調合するので結構値が張る。媚毒はダンジョンで採取されるもので比較的安価なものが多い。
さて、問題は催淫ガスの対処法の内、先の二つが使えないこと。
状態異常回復薬は先程ワーウルフゾンビに叩き割られてしまったし、回復魔法の使い手を探そうにもこの新ルートには俺達以外に人は存在しない。転移陣が使えないことにはイステリアに戻ることも出来ない。
残された方法は性欲の発散。
しかしこれにも難点があり、限界まで身体を快楽に浸さなければならない。要は死ぬほど絶頂しないと効果がないということだ。性を知り尽くした娼婦でさえ同僚に処置を頼むのはこれが理由だ。自分では限界の手前でブレーキをかけてしまう可能性があるため、心得のある同僚にシてもらうのだと。
それでは本職でさえ難しい治療をエレナが出来るだろうか?
「ちが、これは、ちがくて…。私、そんないやらしい子じゃ…」
羞恥と発情で顔を真っ赤にしたエレナが涙をぼろぼろと零す。
年頃の――実年齢はともかく精神年齢で言えば十代半ばだろう――少女が自慰に夢中になっているところを男に見られたのだ。そりゃ恥ずかしくて消えてしまいたい気持ちにもなるだろう。
万全のコンディションであっても自信での治療は困難なのに、こんな状態ではおそらく無理だ。
だからそっと抱きしめる。
「え…?」
「理由は後で説明するから、今は身を任せてくれ。頼む」
「え、え、」
多分説明したとしても決心するまでに時間がかかる。
そうなれば後遺症が残る可能性が高まってしまう。
申し訳なく思いながら後は無言で愛撫を始める。
「ま、まって、とーか、え、なにを、ああ、だめ、だめっ、だめええええぇぇっ!!」
催淫ガスによって感度が狂った身体は少しの刺激で呆気なく頂点を迎えた。
しかしここで止めてしまっては意味がない。限界まで、具体的には排出される体液が薄い桃色になり、その後本来の色に戻るまで繰り返すのだ。
「!? ま、まっへ、い、いま、いっはから、いっはからまっへ…!んくああああ!?なんりぇええっ!?」
余韻で痙攣する身体に追撃を加える。
服は脱がさずシャツと下着の中に手を入れ、既にガチガチになった敏感な部分を優しく撫でるとあっという間に次の大波がエレナを襲った。
「くる…またくる、くるっ、ぎぢゃう゛う゛う゛う゛う゛っ!!」
身体を弓なりにして盛大に痙攣し、同時に噴水のように水飛沫が上がる。
エレナから出た水飛沫は透明。
完治の目安は本来の色→薄桃色→本来の色だ。
まだ全然足りないようである。




