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転移先で最初の職業選択を間違えてもリカバリーは効く  作者: 葵あさ
2章

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物欲センサーはしっかりと仕事をする

 小休憩とステータスの確認を終えた俺達はボス部屋の扉を開き、中を覗き込む。

 ボス部屋はここまでの通路と同じく土の空間。

 その中央には…


「イソギンチャク?」


 巨大なイソギンチャクが鎌首をもたげていた。

 体毛のように生えた複数の触手、先端にある口にはびっしりと鋭い牙。

 そして身体全体がヌルヌルとした粘液で濡れている。

 卑猥だ。非常に良い。


「メガローパーだね。湿気の多い場所に生息して、腐肉を好んで食べる魔物だよ。好戦的ではないけど縄張りに入ってきた相手には攻撃してくる。触手に毒があるし射程も長いから厄介かも」

「強いの?」

「結構ね。Cランク上位だもん。それ以上にメガローパーがいるってことは地中や壁に子供のローパーが潜んでるはず。その数によってはBランク冒険者でも苦労するって話だよ。トーカの魔力探知で分かる?」

「ちょっと待って……うわ」


 思わず出た声にエレナが嫌な顔をする。

 察しが良いね。その通り、豊作だよ。


「200以上はいるな。地中とか壁の中は探知精度下がるから絶対とは言えないけど、分かる範囲でもそれだけいる。数十年放置されてたせいで異常繁殖してるとかある?普通に仕様か?」

「分からない……。でもローパーはDランク下位だけど200以上もいるなら二人だけでの攻略は無理だよ。残念だけど、戻って報告しよう。決壊を起こすかもしれないし」

「……」

「トーカ?」


 確かに正々堂々と戦うのなら中々骨だ。でも、


「ここからメガローパーを狙撃出来ないか?ボスを倒せば取り巻きのローパーも混乱するだろ?」

「ボス部屋は完全に別の空間らしいから外からの攻撃は無効化されるよ」


 一撃で殺せるなら入口付近からの狙撃でも良いけど、メガローパーの急所がどこか分からない以上それも難しそうだ。


「そっか……。じゃあ正面突破しかないな」

「うん、残念だけど………え、話聞いてた?その耳、飾りなの?」

「聞いてたよ。けど俺はヌメ子さんをドレインしたい。きっと素敵なスキルを持っているはずなんだ!」


 粘液生成とか!

 こっちの世界にはローションがない。どこかにはあるかもしれないけど、俺が行ったことのある夜のお店にはなかった。もし粘液生成があればミリーシアとヌルヌルプレイが出来るのだよ!この機会を逃すわけないだろ!粘液生成なんてスキルがあるのかは知らないけど!


「え、ちょ、なに?ヌメ子さんってメガローパーのこと?なんでそんなテンション上がってんの!?」

「大丈夫!俺達なら出来る!」

「話聞けよ!?」


 確かに、勢いだけで突撃する訳にもいかないか。

 少し冷静になった俺は作戦をエレナに伝える。


「ううん、それならまぁ……。でも本当に出来る?」

「俺を信じろ。絶対に守るから」

「うっ、……もうっ。わかったよ!」


 おや、もう少し反対されるかと思いきや意外とすんなり納得してくれた。

 まぁ本当に勝算はあるから安心してくれ。


 という訳で俺が先頭でボス部屋に入室。

 即座に地面から触手が襲いかかる。なるほど、本体は地中に身を潜めたまま触手を伸ばして攻撃してくるのか。

 Dランク下位であるローパーの攻撃にそれほどの速さはない。しかし数十という数が一斉に向かって来たら回避は至難。こんな三十路間近の男相手に触手プレイとはどこに需要があるのか。いや、エレナが犠牲になったらそりゃ紳士諸君は嬉しいかもしれないが、残念ながらそうはいかん。


「トーカ!」

「任せろ」


 背後も側面も、地中すら視えている。

 魔力探知は本当に便利だ。そして俺の眼と相性が良い。

 魔力探知によって360°から入ってくる情報を処理するのは慣れるまでだいぶ気持ち悪さがあった。膨大な情報を一気に脳に叩き込まれる感覚だ。最初の頃は探知範囲を狭めたり、ある程度までの魔力は検出しないよう制限をかけて負荷を抑えていた。

 しかしある時気付いた。

 この感覚はいつも俺が視ている世界の延長なのだと。先天的に与えられた俺のもう一つのギフト。異常に発達した空間認識能力で視ている世界と。

 それに気付いた時、魔力探知が。 

 更にモスを相手に延々と練習、実験を繰り返した結果、半径20m以内であれば実際に目で見ている以上の解像度で360°全ての方向を認識出来る。

 魔力探知の存在を教えてくれた大森先輩は向き不向きがあると綴っていたけど、俺は向いている方だったのか。それとも更に広範囲を探知出来るのが普通なのか。比較対象がいないから分からないな。

 ただ言えるのは。今、この場においては20mで充分だということだ。


 襲い来る触手の群れをスパスパと斬り捨てながら進む。隙を見て地面に隠れているローパー本体も潰していく。

 身体強化スキルがⅢに上がったお陰で、身体の動きが意識の速度に間に合う。

 斬り、逸らし、躱し、斬る。足元には夥しいほどの触手の残骸。背後からエレナの「すご…」という呆気に取られた声が聞こえた。当然エレナにも触手は牙を剝くが、その悉くを斬り伏せていく。

 メガローパーに近付くにつれて潜んでいるローパーの数も増していくため、あまり近付くと対応が間に合わなくなる。俺の対応力で進める限界まで歩を進める。


「エレナ、ここから届きそうか?」

「ギリギリいける……と思う」

「よし、頼む」


 エレナは頷きを返し、事前に渡していたやや太い矢をメガローパー目掛けて放つ。その数、見事な早業で三本。それらはメガローパーの触手を掻い潜り本体に命中。次の瞬間、メガローパーは炎に包まれた。


「ギイイイイイィッ!!?」


 堪らず悲鳴を上げるメガローパーに追い打ちの矢が迫る。

 また燃やされると判断したのか触手で矢を迎撃するが、折れた矢の中から液体が零れ落ち、そこに炎が走る。


「おおー、試し撃ちの時も思ったけど『火矢』はヤバいな。流石にちょっと悪い気がする」

「魔物相手に罪悪感なんて必要ないと思うけど、確かにこの光景はちょっと…。対人には使えないね」


 エレナが放ったのは中心が空洞になっており、そこに油や可燃性の薬剤を混ぜた『燃料矢』と、同じく空洞に衝撃によって発火する鉱石の粉末を詰めた『着火矢』だ。

 エレナの戦力強化のため準備したものだが内容物を入れるため大きく、重くなってしまったため飛距離は普通の矢の1/3程度で、速度も出ず、大きく弧を描くようにしないとまともに飛ばない。素早い魔物相手には恐らく使えないような代物だ。それに加え、燃料矢を矢筒に入れておいてまかり間違って引火しようものなら大惨事だ。現状、静電気対策なども出来ないので普段は俺のアイテムボックスで保管して、使用時のみエレナに渡すことにしている。

 使いどころの難しい矢だが、メガローパーのように的が大きく動きが鈍重(メガローパーは殆ど動かないが)な相手には有効な武器と言える。

 ちなみに火矢の開発はゴーシュ武器屋の親父である。アイデアを話したら面白そうだと作ってくれた。筋肉の塊なのに意外と手先器用なんだよな。

 資材提供はいつものように万屋カーターだ。大体なんでも取り扱ってるんだよなぁ、あの人。


 メガローパーの断末魔が消え、後には統率を失ったローパーが残る。

 烏合の衆と化したDランク下位の魔物なんて数がいようと大した脅威にもならない。

 先程までとは打って変わって散発的な攻撃をしてくるローパー達を作業感覚で狩っていく。

 混乱したのか地中から出てくる個体もおり、それらはエレナが通常矢で仕留めていった。

 5分とかからずに全滅させ、メガローパーの死骸に近付くとエレナが尋ねた。


「これもドレインするの?」

「まぁ、初めての魔物だしな!なにか有用なスキルがあるかもしれないしな!」


 粘液生成とかね!

 ローパーも数匹ドレインしてみたが何も獲得出来なかった。しかしボスなら、と期待を込めてエナジードレインを発動させる。

 エレナが嫌そうな顔をしているが気にしない気にしない。

 そして結果は――スカ。


「……そんな」

「なんで世界の終わりみたいな顔してんのさ」

「ぐぬぅ…、ううぅっ、なんでも、ない……」


 くそ、時間が出来たらその内周回してやるからな。

 待ってろよ!



 ダンジョンの階層ボスを撃破すると低確率で宝箱が出現する。 

 かく言う俺も数回だけだが宝箱が出たことがある。岩鬼の洞窟では多少マシな(ボロい)武具、蟲狼迷宮では魔石の詰め合わせや低級ポーションだった。

 宝箱の中身はボスのランクや種類などによって変化し、確率でレア度が上下する運試し的な要素が含まれている。

 これはダンジョン内に稀に設置されている宝箱も同じ仕様だ。高難度ダンジョンほど宝箱の中身は期待できるものの、下振れしてゴミアイテムが出たなんてのは良く聞く話だ。

 

 さて、俺達の目の前には宝箱がある。

 新ルート10層にいた全ての魔物を倒したと同時にどこからともなく出現した。

 普段だったら「ヒャァッハァッー!ルゥァッキィー!↑↑」と小躍りするところだが、今回に限っては宝箱が出てくるのが分かっていたのでそれほどまで舞い上がったりはしていない。初回撃破ボーナスで宝箱確定なのは知っていたからな。

 問題は中身の方だ。

 初回撃破ボーナスは宝箱確定と、レア排出率微増なのだ。

 どの程度レア排出率が上がるのかはっきりしたことは分からないのでとりあえず祈っておくことにした。


「レアレアレアレアレアレアレアレアレア…」

「ちょ、なにその呪文。呪いかけてるの?」

「お祈りだよ」


 呪いとは失敬な。

 さぁ、何が出る?

 カパリ、と宝箱を開ける。

 そこにあったのは複数の魔石。


「ハズレかぁ…」


 大きさと数から金貨50枚分くらいか?

 臨時収入としては良いけど、宝箱の中身としてはやや下振れだ。

 魔道具まではいかなくても質の良い装備品くらいは期待していたんだけどな。


「うーん、残念だったね。トーカの呪いは効かなかったか」

「真摯な!お祈り!」


 肩を落としつつも魔石を回収。

 ボスを倒したことで解放された奥の通路を進み、転移陣に乗る。転移陣の登録をしておかないとな。

 すると脳内にアナウンスが流れた。


『裏10層の攻略を確認。転移陣を起動……成功。現在表層から裏層への転移が制限されています。制限を解除しますか? Y/N』


 エレナと顔を見合わせる。エレナにも聞こえたようだ。

 階層ボスの初撃破後に休眠状態になっている転移陣を起動するのは討伐者の役割だが、制限の解除とやらは初耳だった。


「これって新ルートへ繋がる転移陣のことかな?再使用まで2時間のスパンがあったけど、それを解除出来るってこと?」

「そうかもな。取り合えず解除しとこうか。今後のこと考えたら再使用まで2時間待ちは長過ぎる」


 ギルド長はこの新ルートを餌に他の街から冒険者を集めようとしている。利便性を考えたらこの制限は解除しておいた方が良いだろう。

 という訳で解除するにはどうしたらいいんだ?宣言すればいいか?


「制限を解除してくれ」


『了承。……エラー。魔力不足のため制限の解除が出来ません。封印墓所に供給している魔力を転用……完了。転移陣の制限解除に成功しました。魔力不足により封印が弱体化したため墓所の主が目覚めました。……。報告。ダンジョンが闇の魔力に包まれました。墓所の主を討伐するまで転移陣を起動することが出来ません』


 え、俺何かやっちゃいました?

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