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転移先で最初の職業選択を間違えてもリカバリーは効く  作者: 葵あさ
2章

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アンデッドワーム

 新ルートへ続く隠し部屋に入り、転移陣に乗ったところでエレナが呟いた。


「カルラの時も思ったけど、人間にも色んな人がいるよね」

「そうだな」


 イステリアに移ってからグスタフやダルキンのような屑とばかり接点があったせいか、エレナの人間に対する評価はだいぶ辛口だ。最近は緑の小竜亭の従業員や万屋、蒼天の面々と交流を持つことで若干心境も変わってきたようだが、それでも心の奥には人間に対する不信感を拭えないでいる。

 そんな中で、上等連合やカルラみたいなちょっと頭のネジが緩んでそうだけど善良な人間との付き合いが増えることは、サンプル数を増やすという意味で言えば良い方向に繋がると思う。数多いる人間は全てが悪人ではなく、それぞれ多様な性質を持っているのだと教えてくれるから。特に個性の濃い連中は。まぁ、あまり影響を受けて染まってしまっても困るんだけど。エレナがスケバンみたいな恰好するのは……ん?特攻服にサラシ、木刀。あれ、悪くないか。そんでいつもは強気だけどベッドの上では恥じらいを見せるとか。うん、アリだ。


「どうしたの、急に黙って」

「美人は何着ても似合うから得だなって」

「な、なんだよいきなりー」


 照れていらっしゃるところ心底申し訳ないが、純粋な下心からの発言である。

 ごめんね。


「私だって、人間が皆酷い奴だとは思ってないよ」


 おっと、話が戻った。


「ランドもルシアも、ジェイド達も良い人だもん。リディアやミリーシア、マリア、シャルもね」


 おや?

 ミリーシアとは俺と一緒にいる時に2~3回顔を合わせただけのはずだけどなんで高評価なんだ?天使だからか。納得。

 そしてシャーロットの名前は出るのにカルラは出ないという。理由はお察しだけど。


「私、エルフだし、ソロだったから()()()()()でばっかり見られてた。だから人間の男は正直嫌いだった。無神経で濁ってて、他人の気持ちなんて関係ないって感じで。でもそんな奴ばっかりじゃないって、最近はちゃんと分かってるし納得してる」


 ふむ……。

 これは耳が痛い。行動に移す移さないの違いはあるが、俺もしっかりゲスな目でエレナを見ているわけで。

 そんな風に考えたのが言葉にしなくても伝わったのか、エレナは少し呆れたように言う。


「ちなみにトーカが私や姉さんをそういう目で見てるのは気付いてるから」

「ヒェ……マジすまん」


 女性はその手の視線に敏感だっていうもんな。

 エレナの境遇からあまり露骨な態度は取らないようにしていたんだが、視線はねぇ…。どうしても追っちゃうんですよ。習性的にね。


「別に、トーカならいいけど」

「え」


 ぽつりとした呟きを聞き逃した「え」ではなく、内容に衝撃を受けたための「え」だ。

 エレナはそれ以上何も言わずさっさと転移陣を起動した。



 転移前の冗談なのか本気なのか判断の難しいエレナの衝撃発現はさておき、新ルートである。

 エレナも冒険者としてそれなりに経験があるからか、きちんと切り替えが出来ている。

 転移陣の出口はヤリステン君ver.蜘蛛を撃破した部屋。

 そこを出ると従来の蟲狼迷宮とは違い湿った感じのする土壁の通路が続いている。

 広さは同じくらいだが材質が違うと受ける印象もだいぶ変わるな。

 魔力探知を円形に発動させながら慎重に進み、幾度目かの分岐を過ぎた。


「トーカ、もう大丈夫?」

「……おっけ、待たせた」


 新ルートの情報は大抵どんなものでも冒険者ギルドが買い取ってくれる。

 ギルドで売っているような正確な地図を作るには専門のマッパーが必要だ。大抵の冒険者はそんな技術を持ち合わせていないため大雑把な地図くらいしか作れないが、それでも次の階層への道さえ分かれば銀貨数枚にはなるらしい。

 とは言え詳細な地図の方が買い取り価格も上がるため道順や分岐の数の他、道幅や高さも書き加えていく。こういう時俺の眼は便利だ。目視でもかなり正確に測定できるからな。


 しばらく進んだが、まだ魔物や罠の類は姿を見せない。

 ここは広大さで侵入者を疲弊させる層なのかもしれない。そんなダンジョンもあると聞いた覚えが……そう思い始めたのも束の間、魔力探知に反応。

 ――下!?


「エレナ、下がれ!」

「!」


 二人でバックステップ。次の瞬間、先程まで俺達が立っていた地面の下から、成人ほどの幅を持つ巨大ミミズが飛び出して来た。


「牙すごいなぁ。あれ、ちょっと腐ってる?」

「アンデッドワームだね。Dランク上位。地上に出たらそこまで素早く動けないけど、地中の移動は結構速いし、音も静かで、奇襲が厄介な魔物だよ」

「詳しいな」

「ハイファテイル大森林にもたまに出るんだよ。アンデッド化する前のジャイアントワームは土壌を豊かにしてくれるけど、アンデッドワームは土地を腐らせるから嫌い」


 ジャイアントワームはまんまミミズみたいな感じなのか。


「私がやる」


 そう言ってエレナが駆け出す。

 アンデッドワームは敵意を感じたのかエレナに向かって顔を向けるも、その動きは鈍い。

 速さで翻弄して射かけるのかと思いきや、エレナは急制動、弧を描くように旋回し始める。

 なにやってるんだ?

 と、疑問に思っていると、エレナを追うアンデッドワームの身体が地面から全て出て来た。それを確認したエレナはようやく矢を放った。狙いは頭部。眉間を正確に貫くもアンデッドワームは意に介した様子がない。アンデッドだから頭を破壊しても死なないのか?いや、もう死んでるんだけど。

 しかしエレナは気にせず攻撃を続けた。ミミズの節だった場所に一本ずつ。四本目の矢が節を貫いたところでアンデッドワームが突然力尽きた。


「おおー」


 ぱちぱちぱち、と拍手を送るとエレナは突き刺さった矢を引き抜きながら解説してくれた。


「ジャイアントワームやアンデッドワームは脳がないって言われてる。だから頭を潰しても死なない。その上唯一の急所である魔石は身体のどこにあるか個体ごとに違うから狙って壊すのは難しいんだよね。でも頭と節をいくつか潰すと何故か倒せるんだ」

「なるほど」

「なにか分かったの?」

「ミミズって頭に脳があるわけじゃなくて身体の各部に神経節が分散して脳の役割を果たしてるんだ」


 ……って、中学の生物教師が言ってたような気がする。


「節のところに神経節があるって考えると、それがいくつか破壊された時点で生命活動が出来なくなるって感じなんだと思う。もしかしたら節に魔石があったのかもしれないけど」

「ふぅん。トーカほんと色んなこと知ってるよね。冒険者の前は学者さんだった?」

「なわけないない。たまたま知ってただけ。合ってるかも分からんし話半分で聞いておいてくれ」

「そう?」


 矢を抜き終えたエレナがアンデッドワームを指しながら言った。


「これもドレインするの?」

「そうだな……。使える素材ってある?」

「アンデッドワームは魔石だけだね。ジャイアントワームなら外皮は防具に出来るし、牙もアクセサリーになるけど、これは腐ってるから」

「そうか。じゃあ貰っとくわ」

「あ、待って。ドレインって吸収するってことだよね?お腹壊さない?」

「別に食べる訳じゃないからな…?」


 エナジードレインを発動するとアンデッドワームの死骸はあっという間に塵になって消えた。

 その様子を見ていたエレナが「おー」と気の抜けた歓声を上げる。


「これでスキルが手に入ったの?」

「いや、スキル獲得はかなり確率が低い――」 


 <収奪した構成要素から「打撃耐性」スキルを再構築しました。「打撃耐性」スキルを獲得しますか?Y/N>


「――んだけど、手に入っちゃいましたね」

「ちゃいましたか」


 うん。しかも割と有用そうだ。


 打撃耐性Ⅰ:打撃によるダメージを僅かに軽減。


「私のギフトもだけど、トーカのも別の意味で壊れてるよね。スキルをそんなぽんぽん獲得出来るなんて」

「今回は運が良かったってのもあるけど、それを差し引いてもまぁ、自覚はしてる。だから秘密にしてたんだしな」

「そうだね。それで、どうする?同じ魔物を倒せばスキルを強化出来るかもしれないんだね。ここでもう少しアンデッドワーム狩ってく?」

「いや、今回はパスかな。同じ魔物からだと二回目からはかなり獲得率が下がるんだ。それに――」

「え?」

「さっきの奴の友達が来てる。うじゃうじゃと」

「うわ……」


 魔力探知に反応。

 地面だけでなく壁や天井からもだ。

 俺達が無言で一目散に駆け出すのと同時、アンデッドワームの群れが飛び出して来た。

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