時代の先を行く(自称)
蟲狼迷宮8層。
9層へ続く最短経路からはだいぶ離れたL字通路には冒険者ギルドの職員と三名の柄の悪い冒険者が立っていた。
その中にいた顔見知りの男性ギルド職員に声をかける。
「こんにちは」
「トーカさん!ギルド長から聞いてますよ。早速探索に?」
「ええ」
「当然ですが何階層あるかも、脅威度も不明です。充分にご注意を。それと出現する魔物やトラップ、地図などの情報はギルドで買い取りますので可能な限り記録をお願いします」
「わかりました」
職員の男と会話が済むと、新ルートを遮るように立っていた冒険者達が寄って来た。エレナの顔に警戒が浮かぶが、敵意は感じないな。
「よぅ、兄弟。カワイ子ちゃん連れて新ルート探索とは随分余裕だなぁ?」
「てめぇみたいにダンジョン舐めてる奴はすぅぐくたばるのがオチだぜ」
「だからよぉ…」
冒険者の1人が腰に手を回す。
それに反応してエレナが咄嗟に弓を構えるが――、
「こいつを持ってけぃ!」
モヒカンの男が取り出したのは青色の液体が入った二つの小瓶だった。
エレナが気を削がれたような顔で質問する。
「……これは?」
「おう、こいつはロゥー!ポーションだ!品質的には下級だがマジックアイテムだからなぁ。切り傷くらいならすぅぐに治っちまうぜぇ?ちなみに俺が!蟲狼迷宮で見つけた!この、俺がなァ!」
「ええと、貰っていいんですか?」
「おおよ!」
「……ありがとうございます」
エレナは目を白黒させていたので俺が受け取った。
ローポーションって結構値段したはずだけどいいのか?
「ヘェイ!待ちなァ!」
ローポーションを受け取りその場を離れようとするとスキンヘッドの男に引き留められた。
「え?なんですか?」
もしかしてローポーションの代金でも請求されんのかな?
と思ったが違った。
「ハッハァ!前人未踏のダンジョンは何があるか分からねぇ。状態異常対策はしっかり練っておくのが冒険者の基本だ。だからこの状態異常回復薬セットをォ!プレゼントだァ!こいつは知る人ぞ知るとある商人から仕入れた品だ。中々流通しない高級品でな、効果は保障するぜぇ?ちなみに俺が!買いに行った!物取りと勘違いされて店員の女に殺されかけたがなんとか誤解を解いて買ってきた!この、俺がなァ!」
「ええと、これも貰っていいですか?」
「当然だァ!」
「当然ではないと思いますけど、ありがとうございます」
「良いってことよ!」
「おっと待ちな!まだ終わりじゃないぜ!」
最後の一人、右眼に傷跡があり他の二人と似たような柄の悪い不良スタイルの服装……の上からなぜかエプロンをかけたリーゼントの男がズズイと出て来た。
「地図のねぇダンジョンは迷う前提で挑んだ方がいい。食料は多めに持っておけ。だが単に食えるだけじゃ駄目だ。美味いもんを食わにゃ活力が湧かねぇ。そこでこのビスケット!ェアーンドゥクッキーの差し入れだ!ビスケットはシナモン、クッキーはクルミを混ぜてるからそれぞれの食感と味を楽しめるはずだ!おまけに疲労回復に効くキラービーのはちみつもセットだ!ちょいとつけて食ってみな。マジでトブぜぇ…?ちなみに菓子は俺が!作った!この、俺がなァ!」
「「流石だぜ、リーダー!」」
あ、エプロンリーゼントがリーダーなんだ。
しかしこいつら何なんだろう。外見とは違って良い奴らっぽいけど。
俺達が戸惑っているとギルド職員がやけに優しい顔で説明してくれた。
「彼らはCランクパーティ『上等連合』です」
「上等連合…」
「ださ」
「エレナ、シッ!」
確かに酷いパーティ名だが面と向かって言うんじゃありません!
聞こえてたらどうすんだよ!
「見た目は少し個性的ですけど実力は確かですし、依頼達成率が高く、細かい気配りもしてくれてギルドとしては非常に評価させて頂いております」
「「「よせやい、照れるだろォ!」」」
「ボォフ!?」
バシン!と三人に背中をだいぶ強めに叩かれたギルド職員がつんのめるも気を悪くした様子はない。
なかなか信頼関係が出来上がっているようだ。
「昨日トーカさん達から新ルート発見の報告を受けて、確認の為に向かって頂いたのも『上等連合』の皆さんなんです。その後、他の冒険者が立ち入らないよう追加でお願いしたんですが「どうせ新ルートに挑むんだろうから餞別を用意しなくちゃなァ!」と断られまして。つい先程準備が出来たとのことで依頼を受けて頂き、先任のパーティと交代したところだったんですよ」
「わざわざ俺達のために用意してくれたんですか?」
「おぅ!俺達はイステリア生まれのイステリア育ちでよ、今回のボルケーノトータス襲撃でダチが何人も逝っちまった」
「そうだったんですか…」
「へっ!そんなしみったれた顔すんな!冒険者やってりゃどこかでくたばるのは覚悟の上だ。だがまぁ、奴らがいなくなって、冒険者の数も減った。このままイステリアの冒険者は段々別の街に散っていくんだと柄にもなく感傷的になってたところに…だ!お前らが数十年越しに蟲狼迷宮の新ルートを見つけたっつービッグ!ニュース!が飛び込んできたんだ!これが正規ルートだとしたら各地から冒険者が集まってくる。新しい素材や発掘品目当ての商人なんかもな。今まで以上の活気が出るだろう。そうなったらよぉ、先に死んだあいつらに言ってやりてぇんだ。「お前らが守った街はこんなにも賑やかになってんぞ。さっさと死んじまって勿体なかったなァ!」ってよォ」
「「「リ、リーダー…!」」」
リーゼントの言葉にモヒカンとスキンヘッドのみならず、ギルド職員の男まで感動して涙を浮かべていた。仲良いね、君達。
「だからよ、新ルートを発見してくれたお前さんらに感謝の気持ちと、無事で帰って来いっつー願掛けだ。遠慮しねぇで受取りやがれ!」
「…分かりました。ありがとうございます」
「ごめん、ダサいって言って」
おいそれは言わなくていいよ!
聞こえてなかったかもしれないだろ!
「ダサ……」
「「「リーダー!まだ時代が追いついてねぇ(ない)だけだよ(ですよ)!!」」」
「そう、だな…。まぁ、良いってことよ。俺らがやりたくてやってんだ。それと兄ちゃん、嬢ちゃんも。さっきも言ったが新ルートは何があるか分からねぇ。慎重に行け。そんで退くも勇気だ。忘れんなよ」
リーゼントは真面目な顔でそう助言してくれた。
一つ残念だった点があるとするなら、渋い風のセリフなのにエプロンの中心に貼られたデフォルメ熊さんのアップリケのせいで雰囲気が限界まで温くなっていることだろうか。




