浪漫は地下にある
「イステリアはダンジョンのお陰で年中ウルフ系の材料が採れるから安価だし性能も悪くない。他には大森林の方にいるスタンプボアとか、ツリースネークなんかも良いね。後最近出回ってる変わり種としてはデザートフロッグとか。まぁあれはここいらでは珍しいし、なんでか教会の連中が浄化魔法かけたってんで高値が付いてるけど、そこまで強い魔物じゃないから性能もそこそこになるけどね。正直防具じゃなくてアクセサリー向けかな。鞣しに2~3ヶ月かかるし今回は除外でいいか。さて、次にウルフ系の特徴だけど――」
エレナとシャーロットが採寸している間に、俺が適当に描いた設計図を見事な手際で製図したカルラ。次いでそれぞれの素材の説明も分かりやすくしてくれる。
……?
こいつ、単なるアホの子じゃなかったのか。
製図の手際なんて熟練のそれだし、素材の理解もかなり深いように思える。
「カルラってちゃんとした職人だったのか」
「おいおいトーカ先生、そりゃないよ!自分で言うのもなんだけどイステリアの革職人で私を知らない人はいないくらいだよ」
「……イカレてるから?」
「腕が良いからさ!」
カルラのどや顔が炸裂したところでクスクスと控えめな笑いが聞こえた。
振り向くと採寸が終わったのかエレナとシャーロットがいた。
「姉さんが腕の良い革職人というのは本当ですよ。特に女性用の装備は機能面とデザインを両立させていると褒めて下さる方も多いです。イステリアで革製品にスキル付与が出来る唯一の職人ですし。本人の言動があれなので信じられないかもしれませんけど」
「確かに信じがたいが、ランドさんの紹介だし、シャーロットが嘘を言ってるとも思えない……。そうか、本当に凄い職人だったのか」
高レベルの職人系スキル保有者が作成した物には稀にスキルが付く。しかしスキルレベルが高いだけでは付与は起こらないそうだ。はっきりとした理由は不明だが、恐らく職人の才能やら熱意が関係しているのでは、というのがランドの談であった。
カルラも意図してスキルを付与することは出来ないし、特定のスキルを狙って付与することも出来ないそうだが、せっかく作る装備なのだから何かしらのスキルが付けば儲けもの、という事でランドに紹介してもらったのだ。ランダム性がガチャみたいで嫌いじゃないしな。
「信じてもらえたのは良いんだけど、なんか釈然としないなぁ」
不服気だけどどう考えても自業自得だからな?
エレナと相談し、素材はソニックウルフを使うことにした。
防御性能はそれなりだが非常に軽く、弓の連射速度や取り回しに影響はほぼ出ないそうだ。エレナの今の戦闘スタイル的には極力敵を近付けずに弓で仕留めるのが理想だから硬さより弓の邪魔にならないことを優先した。
「それにしても妙なデザインだよね?このシリンダーポケットって何入れるの?」
「木簡。もしくは金属板」
「……なんだってそんなもの」
「内緒」
俺の回答にハァとカルラがため息を吐く。
「まぁあれこれ詮索はしないよ。特に冒険者は隠し事が多いしね。けど私は半端な仕事はしないからね。そこそこお金と時間かかっちゃうよ?」
「どれくらい?」
「んー、エレナちゃんの装備だから大負けに負けて左右合わせて金貨20枚かな。他の仕事もあるから出来上がりは10日前後。特急料金払ってくれるなら4日で仕上げるけど」
10日だと蟲狼迷宮の独占探索期間に間に合わない。
出来れば早めに欲しいが、先立つものがなぁ…。
あ、そうだ。
ちょいちょい、とエレナを手招きして耳元でこそこそと囁く。
「……それを言えばいいの?」
「そうそう」
「どうしても?」
「そうそう」
「……はぁ、分かった」
「値引き交渉かい?さっきも言ったけどこれでも利益をギリギリまで削ってるんだ。これ以上の値引きは勘弁して欲しいなぁ」
「そうじゃなくて」
「ん、なにかな?」
少し溜め、死んだ魚のような目でエレナが言う。
「カルラの作った装備どれも素敵だから早く着けてみたいな」
「ぶっ!」
あ、また鼻血吹いた。
これでいいの?とこちらに冷めた目線を送ってくるエレナ。
文句なしだ。見てみろ、致命傷だぞ。オーバーキルかもしれんが。
「ふふふ、2日で作りゅかりゃあああああ!!」
鼻血を撒き散らしながら工房へ駆け込むカルラ。完全に目が逝ってた。
それを見てシャーロットが目頭を押さえる。
「あの、姉が悪いんですけど、ほどほどでお願いします」
正直やり過ぎたとは思った。
ごめんね。
◇
カルラが工房に籠ってしまった。
一心不乱に作業をしているので邪魔する訳にもいかないし、手付金だけ置いてお暇しようかと思った時、俺は思い出した。
「そうだ、シャーロット!」
「ひ、ひゃい!?」
突然の大声に驚かせてしまった。悪いとは思うが気にしてる余裕がない。
ことは重大で火急でマストなんだ。
カルラのキャラが濃過ぎて忘れるところだった。
「看板に錬金工房ってありましたけど、シャーロットは錬金術師なんでしょうか!?」
「錬金術……? 錬金魔法なら使えますけど。なんで敬語なんですか……?」
「ふおおおお!錬金術師キター!!」
「!?」
「ちょっとトーカ、カルラみたいになってるよ」
「!? なん…だと…?」
エレナに言われて愕然とする。
俺があの変態と同レベル…?
ぐえっ、脳が理解を拒絶してるのか吐き気が…。
「あの、大丈夫ですか?」
「シテ……」
「え?」
「…コロ……シテ……」
「殺しませんよ!?」
その後二人に宥められてどうにか落ち着いた俺はシャーロットに錬金魔法について教えてもらった。
「錬金術…錬金魔法について教えてくれるか?どんなことが出来るんだ?」
「そうですね――」
シャーロットの説明によると錬金術――正しくは錬金魔法は物質に何かしらの変化をもたらす魔法だそうだ。
硬度や重量、靭性などを変えたり、複数の物質を融合して新たな物質を生み出したり、逆に分離して特定の物質を抽出してみたり。
「平凡な鉄の剣をめちゃくちゃ切れ味が良くて刃毀れしにくい、それでいて軽くしたりとかは?」
「使う素材、触媒、それとどの程度の性能を求めるかにもよります。ただ御伽噺に出てくるような伝説の剣を錬金魔法で作るのは現実的ではないです。時間とお金をかければそれなりのものを作ることは出来ますけど、それなら初めから腕の良い鍛冶師に高ランクの素材で打ってもらう方が断然良いかと。錬金魔法は今あるものを少し強化したり便利にするための魔法、といった感じでしょうか」
なるほど、確かに錬金魔法でチート武器が作れるなら武器屋でその類を取り扱っているはずだが、俺が普段使っているゴーシュ武器店でも他の武器屋でも「錬金魔法で鍛えました!」なんて触れ込みの武器は置いていなかった。
錬金魔法で強化するより上位の素材で剣を作った方が安上りなら当然だろう。
「シャーロットはどんな物を作ってるんだ?」
「基本的には契約した商会や職人さんから依頼を受けた物ですね。多いのは薬師さんが作ったポーションや薬剤の調整、色々な素材の作成、塗料の調合とかですね。あとご存じか分かりませんが煙玉とかにおい袋などを作ったり」
「ん?もしかしてランドさんのとこで売ってる煙玉とにおい袋ってシャーロットが?」
「あ、そうです。え、もしかして」
「使わせてもらってるよ。いやぁ、どっちもかなり助かってるよ!」
「え、そ、そうですか?ウルフ系に効くにおい袋はともかく、煙玉はイステリアではあまり需要ないと思ってたんですけど。継続時間も短いですし」
「そんなことないって。あれで助けられたこともある。な、エレナ」
「うん。シャーロット、ありがとう」
煙玉は蟲狼迷宮でグスタフ達に囲まれた時やカストーニ君から逃げる時なんかにもお世話になっている。まさかシャーロットが作っていたとは。
「そんな、お礼なんて。私の方こそ買って頂いてありがとうございます。錬金魔法で作った道具って値段の割に効果がぱっとしないからあまり売れないんですよ。だから使って頂いた方に直接感謝されるなんて初めてで…。うわ……嬉しいですね」
恥ずかしそうにしながらもシャーロットがはにかむ。
ええ子や……。
あんな変態の姉がいるとはとても思えん。
エレナも同じことを思った…のかは不明だが、シャーロットのことは気に入ったみたいだった。
「シャーロット。シャルって呼んでいい?」
「あ、はい。私もエレナさん、って呼んでいいですか?」
「エレナでいいよ」
「呼び捨てはちょっと恥ずかしいのでエレナちゃんでもいいですか?」
「ん」
変態の姉よ。仕事に熱中して気付いていないだろうが、貴様の推し二人が手を取り合ってきゃいきゃいしてるぞ。この尊い場面を目撃出来ずにさぞ無念であろう。代わりに俺が網膜に焼き付けといてやるから安心して成仏しろよ。
その後、シャーロットに錬金魔法について色々と教えてもらった。
いくつか試したいことも出来たが、シャーロットはボルケーノトータスに破壊された街壁を補修するための素材を作らなければならず、しばらくはの手が空かないとのこと。
錆に強く硬度もある無錆鋼を粉末状に分解し、それを鍛冶師が煉瓦に混ぜて街壁に使う強化煉瓦を作るそうだ。
崩れた街壁は全体から見れば極一部だがそれなりの範囲だし、無錆鋼の粉末化に必須の錬金魔法持ちが希少ということもあって数週間はかかりきりになるみたいだ。
おのれボルケーノトータス。丸呑みトラウマを刻みつけてくれただけじゃ飽き足らず、ここでも祟ってくるのか。
ちなみにここは地下が錬金工房になっているらしい。錬金魔法に使う触媒は日光に弱い物が多いため窓のない部屋や地下室を工房にするのが一般的とのこと。いずれ錬金工房を見学させてもらいたいな。きっと大量の試験管とか難しそうな本とか床に錬成陣とかがあるに違いない。大きな鎧もあれば完璧だ。




