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転移先で最初の職業選択を間違えてもリカバリーは効く  作者: 葵あさ
1章

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7/86

油断大敵はどの世界でも共通

 俺は弱い。

 軍では厳しい訓練を積んだ。スキルも手に入れた。

 しかしあの戦場で出会った銀髪の死神には到底及ばない。

 百回戦えば消費税込みで百十回殺される。

 あんな化け物がうじゃうじゃいる世界ではないと思いたいだが、それでも考えてしまう。

 外にいる護衛の中に1人でもあのレベルの化け物がいたら、と。

 俺の中の弱気な部分が怯えている。


「すぅ――はぁぁぁ」


 深呼吸をひとつ。儀式だ。それで恐怖と怯えを思考から切り離す。

 逆に考えろ。あんな化け物はそうそういない。あの死神に比べればそこらの兵士や冒険者だって可愛いものだ。ましてやランドは言っていた。護衛とは名ばかりのゴロツキどもだと。

 …そんなの、全然恐怖に値しないな。

 震えの止まった足で俺は一歩踏み出した。


 警戒しながらドアをくぐると、その瞬間、右手から剣が振り下ろされた。まあ、流石にドアが壊れる音がしたら不審に思って様子を見に来るよな。


「トーカくん!」


 ランドさんの悲鳴が聞こえる。

 でも、大丈夫だ。

 危機感知スキルで敵がいるのは分かっていた。

 

 あくびが出るほど遅いその振り下ろしを体捌きで躱し、鳩尾、鼻頭、顎と打撃をお見舞いする。


「がっ、ごっ、ぎっ…!」


 見張りの男は殴られる度に細かいうめき声を上げ、更に数発急所を攻撃すると白目を剥いてひっくり返った。

 気絶した?あらら、気絶しちゃったね。じゃあサクッとのどをかっ捌いてドレインさせてもらおうか。護衛があと3人もいるんだから余剰生命力は多い方が良い。人攫いをして違法に人身売買をするような連中だ。慈悲はない。この世界の法も正当防衛には寛容だ。結果的に相手を殺してしまっても罪に問われることはない。――相手が貴族とかだとちょっと違うらしいが。

 懸念と言えばランドに見られることだが、自身の安全には変えられないしな。

 どうやらあの戦場を経て現代日本人の精神は随分とこちらの世界に適応したみたいだ。殺しもドレインも罪悪感がまるでない。


 という訳でエナジードレイン発動。

 ゴロツキは見る見るうちに干乾びていく。それを見たランドは案の定驚きに目を見開いた。


「なっ、トーカくん、それは…?」

「ええと、後で説明します。今はこっちを片付けないと」


 そう言って奪い取ったゴロツキの剣を確認。うん、量産品だね。帝国軍の支給品よりも切れ味悪そうだが、この際贅沢は言ってられない。

 さて、次だ。


 ◇


 焚火の前であぐらをかいて酒を飲んでいる男が一人。

 見張りはさっきのと合わせて二人か。しかし見張りのくせにアルコールとは余裕だな。この辺りは弱い魔物しか出ないのかね?

 まぁ、好都合だ。

 俺は男の背後まで足音を立てないように気を配りながら忍び寄った。

 このまま剣で――そう思った時、男は酔った手から酒瓶を滑らせた。その瓶を追うように男の視線が俺の足元に来る。

 しかし俺の存在に気付いた見張りの男は仲間のゴロツキと勘違いでもしたのか、臨戦態勢を取ることもなく酔った口調で気安く話しかけてきた。


「んん、なんだ、戻ったのかぁ?俺の言った通りだったろ?連中には隷属の首輪をしてあるんだから逃げられるわけねぇんだよ。お前の聞き違い――え、お前、なん」

 

 気付くの遅いよ、はいざっくり。これで二人目。

 なんで外に?とか言いたかったのかな。どうでもいいけど。


 残りの護衛と違法奴隷商もっと簡単だった。

 なにせぐっすりと寝てたからな。口を押さえて奪ったナイフでサクッ。

 動かなくなったらエナジードレインを発動して、ハイ終了の3秒クッキングだ。

 しかしエナジードレインの効果で違法奴隷商からアイテムボックスのスキルを再構築出来たことは僥倖だったな。アイテムボックスは剛力以上に珍しい。その効果は異空間にアイテムを収納できるというもの。生物は収納出来ず、低レベルの内は異空間に入っている物の時間が止まったりはしないが非常に便利なスキルだ。

 ちなみに収納出来る容量はスキルレベルと魔力に関係するようだ。俺の場合は大き目の旅行鞄二つ分くらいだと思う。なんとなく直感で。

 そう大量に物を運んだりは出来ないが旅をする上で荷物が減るのは大助かりだ。これからレベルが上がって魔力が増えたらそれに比例してアイテムボックスの容量も増えるしな。


 俺が新たに獲得したスキルに満足していると、背後に気配を感じた。

 振り返ると何故か表情を引き攣らせたランドが立っていた。


「ひっ」

「ああランドさん。もう大丈夫、全員死んでますよ」

「そ、そのようですね。()()はトーカくんのスキルで?」


 これというのはミイラ化した違法奴隷商たちのことだろうから俺は素直に頷いた。正確にはギフトだけど同じようなものだし。


「そうです。でもあんまり詮索しないで頂けると助かります」

「そうですね…これほど強力なスキルがあると知られれば利用しようと考える輩は大勢いるでしょう。無闇に人に見せない方がよろしいでしょう。勿論、誓って私も誰にも言いません」


 ん?

 そんなに強力なスキルに思われたのか?

 ……ああ、ランドは俺のエナジードレインで敵を倒したと思われたのか。確かに問答無用で相手をミイラ化するスキルがあれば滅茶苦茶強力だ。そんな奴がいれば軍や騎士団、いや貴族すらなんとしても抱え込もうと動いて面倒事に巻き込まれる可能性もあるか。

 色々条件があってそこまで使い勝手は良くないんだけどな。

 まぁミイラ化させるスキルなんてイメージあんまり良くないし、黙っててくれるっていうならそれでいいか。俺はランドに礼を言ってから今後の方針について相談する。なにせ現在地すら分からないからな。その点ランドは流石商人と言うべきか、自身が捕まった場所、売却される予定だった鉱山の町、そして経過日数や周囲の風景から現在地の予想はついているようだった。頼りになる商人だ。

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