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転移先で最初の職業選択を間違えてもリカバリーは効く  作者: 葵あさ
2章

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石化復活薬

「そのイゾルデさんはどうなったんだ?」

「どうにか命は助かった。里にあったポーションを全部使って、だったけど。今はフリアーデンの里…シュラーデンから少し離れた場所にある里で静養してるはず」

「そうか……。良かったな」

「うん……」


 言いたかったことを言い終えたのかしばし室内に沈黙が降りる。

 しかしなんでエレナは突然この話をしたのだろうか。

 世界樹やら魔神やら聞きたいことはいくつもあったが、取り合えずは率直な疑問をぶつけることにした。


「どうして俺にその話を?」

「トーカがギフト持ちだって知って、一方的に秘密を教えてもらうのが嫌だったから……」


 と、エレナがぶんぶんと首を横に振った。


「ごめん、違う。それもあるけど、多分聞いて欲しかっただけなんだと思う。共感とか、慰めて欲しい訳じゃなくて、ただ知っておいて欲しかった。私のこと。私の故郷のこと。私が姉さんにしたこと。……その、こ…、ううん。迷惑だった?」


 なんで怯えるみたいにこっち見るんだか。


「迷惑な訳ないだろ。意外かもしれないけど、俺は結構おしゃべり好きだ。それに」

「それに?」

「お前を怖いとも思ってない。安心しろ」

「――――」


 なんでそんな間抜けな顔でこっち見るんだか。


「怖く、ないの……?だって、石化させてしまうかもしれないんだよ?」

「そのギフトは扱いに注意が必要だとは思う。けど怖いとは別だ。知らないから怖く感じる。それは道理だ。確かに創造魔法については何も知らないけど、俺はエレナのことはそれなりに知ってるつもりだ。お前は創造魔法の危険性を知った上で不用意に使う奴じゃない。なら特別気にすることじゃないな。そうだな、料理人が包丁持ってても、そいつを危ない奴だとは思わないだろ?その包丁は肉や魚、野菜を切るために使うんだから。危険もクソもない。要は包丁を持ってる奴を信用出来るかだ。ちなみに俺はエレナのことそこそこ信用してる」

「…なに、それ。そんなに単純に割りきれるものじゃないでしょ…。それにそこそことか失礼。契約が反応してないところが本当に失礼」


 そう言ってエレナは柔らかく笑った。



 石化についてあまり詳しくなかった俺はエレナから詳細を教えてもらった。

 石化は呪いの一種であり、石化した部位が徐々に全身に広がっていく。その進行速度は呪いを受けた者の魔力が高いほど遅くなるが、完全には停止することはなく、ある一定期間を過ぎると急速に進行して全身が石化してしまう。


 治療法は二つ。

 石化して30日以内であれば石化()()薬で完全に治療することができる。

 しかし30日を越えてしまえば完全石化状態となり石化()()薬が必要になる。そして復活薬は人の手で作り出すことが出来ず、ダンジョンでの発見以外供給がないため非常に高価。運良くオークションに出品されても、その最低落札価格は金貨十万枚。とんでもない値段だ。

 その他石化()()薬という薬もある。これはエレナがダルキン・ゴートレスに掴まされた薬だな。石化の進行を緩やかにする効果があるが、治すことは出来ない。


 エレノアは魔力が図抜けて高く、その上石化抑制薬も服用しているため進行がかなり遅い。だが止まっている訳ではない。毎日、極僅かだが石化範囲は広がっている。


「石化復活薬か」

「うん……。マリア――この前知り合いになったシスターの子に見てもらったけど、エルフと人間じゃ魔力が違い過ぎてあとどれだけ猶予があるか分からないって言ってた。でも人間の魔法使いが全身石化するのは大体半年くらいらしいから、エルフの中でも魔法の得意な姉さんはまだ大丈夫だと思う。石化抑制薬も飲んでるしね」

「石化って徐々に進んでいくんだよな。それって大丈夫なのか?重要な臓器が石化したら……」

「それは大丈夫。生命活動に支障が出そうになったら魔法耐性を本能的に落として一気に石化が進むようにするんだって。だから石化で死ぬことはないの。ただ、全身が石化してしまうと何も見えないし何も聞こえない。でも意識だけはあって夜も眠れないから、全身石化を解いた後で精神が壊れていないことは……ほとんどないって」


 身動き一つ取れずに眠ることも出来ない状態で五感を遮断される。

 解呪されるかも分からず、ただ待つことしか出来ない。

 最悪の拷問だ。


「魔法で治せたりはしないのか?」


 毒や麻痺なんかの状態異常なら回復魔法で治せる。だが――


「それが出来ないのが呪いなんだよ」


 駄目らしい。

 状態異常と呪いの違いは回復魔法が効くかどうか。

 呪いの一種である石化を治すにはやはり石化復活薬が必要だという。


 ……そういえば、前に蟲狼迷宮で呪いの毒風を飛ばしてくる変異体に襲われたことがあったっけ。あいつの風に触れてたらかなり不味かったんじゃないか?

 回復魔法は効かないし、呪いの毒は通常の解毒剤で治せるとは思えない。

 考えてみれば変異体はダンジョンの防衛反応だ。毒耐性に頼ってレッサーポイズンモスを狩りまくっていた俺を殺すための刺客なんだから、毒耐性を貫通する呪いの毒を使ってきたのは随分合理的に思える。


「……合理的過ぎる気もするけど」

「トーカ?」

「いや、なんでもない」


 今考えることじゃないな。

 逸れそうになった思考を戻してエレナに石化についての話をしてもらう。

 と言ってもこれ以上の情報はあまりなく、呪いを受けた人はあまり良い目でみられない、誤魔化さずに言えば疎まれるということくらいだ。なんでも縁起が悪いとか、厄を広げるとか、呪いが伝播するとか、そういった迷信があるそうだ。実際に呪いが他人に移るということはないらしいが。緑の小竜亭の従業員がエレノアに普通に接しているところを見ると本当に迷信レベルの話なのだろう。



「そういや他のエルフ達は大丈夫なのか?結界を突破できる魔物がまた出たら不味いんじゃないのか?」

「しばらくは大丈夫だと思う。里長が結界と完全に閉ざすって言ってたから、魔物はもちろん今は私たちエルフも一度結界を出たら入れない。それでも侵入されるようなら後はもう総力戦になるね。あの銀のキュクロプスみたいに魔法が効かない魔物が出て来たらエルフに勝ち目はないだろうけど」

「の割にはあんまり心配そうじゃないよな」

「完全に閉ざした結界を抉じ開けるのは多分無理だから」


 その結界を随分信頼しているようだ。

 条件付きで通行を許可している時と完全に閉ざしている時では全然違うということなのか。

 しかし世界樹にエルフの里か。

 エレナは随分とファンタジーな土地の出身なんだな。まぁエルフ自体がファンタジーの塊みたいなものだけど。


「ちょっと気になったんだけどさ、創造魔法の対価は誰かを石化させるってことなのか?」

「多分違う…と思う。あの時、姉さんから何かが流れ込んで来て、その何かが無くなったから石化した感じだと思う。はっきりとは分からないけど」


 ふむふむ。

 何かしらのエネルギーをエレノアから吸い取ったのか?

 エナジードレインに似た印象だけど、あれは石化させたりはしないから別物だよな。


「何か気になることがあるの?」

「いや、どういう仕組みなのかなって。もし対策が立てられるなら創造魔法を使ってエレノアさんの石化を治せるだろ?」


 なにせ『願望を実現する』魔法だ。

 それが本当なら石化を治すことだって可能なはず。てか何でも出来そうだな。ランプの魔人とかせシェン〇ンみたいだ。


「……それが出来れば良かったんだけど。あの日以降、創造魔法は使えないんだよね。グスタフ達と戦ってる時、自棄になって使おうとしたけど発動しなかった。まぁ、今となっては使えなくて良かったかも。また姉さんに何かあったら嫌だし」

「そうか……」


 何かしら条件が整わないと発動しないスキルなのかもしれないな。

 基本的にスキルは獲得した時点で使い方がなんとなく分かるものだが、俺が雷魔法の発動に難儀したように例外はある。対価が『他人の石化』という可能性がある以上気軽に試すことも難しいし、エレナが何か切っ掛けを掴むまでは封印しかなさそうだ。


「エレナ的にはあまり良い気はしないだろうけど、エレノアさんの石化を治す手段の候補でもあるし何か分かったら俺にも教えて欲しい」

「うん、ありがとう。でも創造魔法を使うよりは石化復活薬を手に入れる方が堅実かなって思ってる。頑張って稼ぐよ。あ、もちろんトーカへの借金返済もきちんとするからね?」


 いや、借金の方は後からでも良いんだけどさ。


「どのくらいか分からないけど、まだ時間はあるから。ゴートレスに騙されて手に入れた石化抑制薬のお陰でね。騙されたけど、あれがなかったらもしかするともう全身石化してたかもって考えると複雑だけど」


 そう言うエレナの顔には恨みや憎しみの影は見えない。

 迂闊にもゴートレスを信用してしまった自責の念はあれど、連中が公正な裁きを受けた今となっては既に切り替えが済んでいるようだ。そうやって割り切れるのはエレナの美点だな。俺だったらしばらく根に持つ自信がある。


 ちなみに首謀者であるダルキン・ゴートレスは違法な手段での奴隷売買、殺人未遂、殺人教唆、強盗教唆、脅迫、詐欺その他複数の罪で極刑。実行犯であるごろつき冒険者はリーダー格のグスタフ含め全員が鉱山奴隷として売り払われている。鉱山での仕事は過酷で有名だ。2~3年生きていれば運が良い方らしい。ただ殺すのではなく、迷惑かけたんだからその分働いて弁償してから死ね。という何とも合理的な刑である。現代日本でやったら炎上待ったなしだな。


 ともあれ、遺恨がないというのは素晴らしいことだ。

 目の前のことに集中出来るからな。

 しかしエレナは()()を失念しているようだ。上手く行けば借金完済して石化回復薬の費用も賄える可能性。あるいは石化復活薬自体を入手できる可能性があるというのに。


「なぁエレナ。『独占探索権』、忘れてないか?」

「……あ」


 蟲狼迷宮正規ルート発見時の報酬は金貨500枚と一週間の独占探索権。

 未知のルートを探索するには短い時間だが、一介のCランク冒険者への報酬としては破格だ。なにせ階層ボスの初回撃破時には通常数%程度で出現する宝箱が確定で出るし、レアドロップ率も僅かに高いのだ。もしかすると石化復活薬が出るかもしれない。おまけにマッピングしておけばその情報も買い取ってもらえる。出現する魔物の情報もだ。

 当然難度の高いダンジョンであれば一週間でダンジョンボスはおろか、階層ボスまで辿り着けるかも分からない。まぁそれは潜ってみてだ。


「明日の午前は準備。午後から潜るぞ。俺達で蟲狼迷宮を攻略してやろう」


 勢いは大事だ。ちょっとばかり吹かすのも良いだろ。

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