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転移先で最初の職業選択を間違えてもリカバリーは効く  作者: 葵あさ
2章

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魔法陣

 予想通りと言うかなんと言うか、拍子抜けするほど思い通りの展開になった。

 自分を強者だと思い込んでいる奴は慎重さを欠くのが常だ。

 数m先には電流の檻『雷獄』に囚われたヤリステンの姿。『雷閃』は発動速度重視で威力控えめの魔法だが、この雷獄は継続時間重視の魔法だ。電圧も雷閃の数倍。引き換えに大量の魔力を消費するし、発動までに要する時間は雷閃の比ではなく、今の俺の魔力制御では10分近くかかってしまう。

 では事前に魔法を組み上げておいて敵が現れた瞬間に発動させれば良いと思うだろうか?

 俺もそう思いついて試した。そして失敗した。

 魔法を発動せずに待機状態で維持するのはかなり難しい。発動させる魔法と、それを押さえつける魔法を同時に使うような感じだ。これが同じ魔法、例えば雷閃を二本同時に発動するのならかなりの集中力が必要だが不可能ではない。だが待機状態を維持するのはなんと言うか、鼻で息を吸いながら同時に口から吐き出すような複雑な魔力制御を求められる。正直今の俺にはどうにもならない。


 発動までに時間のかかる雷獄なんて実戦で使える場面はそうそうないだろう。

 そう言われてしまえばそれはその通りなのだが、俺は色々と実験を重ねていく内に一つの発見をした。それがヤリステン君の足元に描いた魔法陣だ。


 ある時、魔法を発動する際に体内を巡る魔力を観測していると一定の波形パターンがあることに気付いた。更に何度か同じ魔法を試していると、必ず出現する波形とそうではない波形があった。必ず出現する波形をアルファ波、そうではない波形をノイズと仮定してベータ波、そしてアルファ波からベータ波を引いたものをガンマ波とした。波の名前?もちろんかっこいいからだ。

 あの図形はガンマ波を象った陣、魔法陣だ。そしてなんと、魔法陣は魔力を通すだけで即時に描画された魔法をその通りに発動することが出来た。


 図形を描くのに時間がかかること、正確に描かなければ魔法が発動しないこと、一度発動した魔法陣は魔力が通る際に発生する魔力圧のせいで焼き切れてしまい再使用は出来ないこと、描いた通りの魔法しか発動しないので応用が利かないことなど欠点の多い技術だが、状況次第では非常に有力な武器になる。

 今この時のように。


「がアああ亜亜ア嗚呼あああアッ!!??」


 ヤリステンが雷の牢獄で絶叫を上げる。

 だが流石は変異体というべきか、致命傷にはなっていないご様子。

 ではここで追撃だ。

 アイテムボックスから投槍を取り出して投擲していく。

 

「ヤめろ!ひ、ヒキョウ、者がァ!」

「そんな褒めんなよ、照れるだろ。お礼だオラァ!」

「グフッ!?」


 しかし意外としぶといな。

 雷獄で相当ダメージが入っているはず。その上投槍がグサグサと刺さっているというのにまだ倒れない。人間の八本腕と蜘蛛の前側四本の脚で槍が急所に当たることだけは避けているせいか。


 魔法陣は魔力を流せば即時に魔法を発動可能だが、その効力は事前に指定した通りにしかならない。それ以上にも以下にも出来ない。つまり雷獄の効果時間を伸ばしたり、ここから威力を上げたりも出来ない。そもそも俺の魔力の大半をつぎ込んで発動させたのだ。これ以上魔法でダメージを加えることは難しいだろう。


「グ、クク!解る、ワカるぞ!モウすぐ、ま、ま魔法ハ、キえる。その、ソノ時が、ヲ前の、オわりダ!」


 魔法陣が徐々に輝きを失っていくことでそう見做したのか、ヤリステン君が勝利を確信したように吠える。

 魔法が続かない。それ自体は正解だがちょっと早とちりだ。

 確かに雷獄はもうすぐ切れるし、俺はこれ以上魔法を使えない。投槍もストックがない。

 だが攻撃手段がないとは言ってない。


 魔法陣の利点は二つ。

 一つは前述した通り、準備さえしておけば難度の高い魔法でも即時発動が出来ること。

 そしてもう一つは、魔法陣に流す魔力は俺のものじゃなくても構わないということ。

 つまり、充分な魔力さえあれば誰でも魔法陣を利用できるのだ。


 部屋の奥、ヤリステンの背後で隠蔽効果のある帝国製哨戒用ローブを纏い身を隠していたエレナが音を立てずに矢を番える。

 弓を引く。

 矢の前方に出現したのは雷の円環。それが三つ。

 矢を解き放つ。

 円環を通過する度に爆発的に加速、三段階の多段加速を得た神速の矢がヤリステンの頭部を貫き、爆散させた。



 ギフト、エナジードレイン。余剰生命力による回復力。そしてスキルの再構築。

 どれ一つ取っても凄い能力だ。物語の勇者ほど出鱈目じゃないけど、紛れもなく異才だと思う。世間に知られたら絶対に面倒なことになるだろうと、森育ちの私でも予想が出来る。そんな大切な秘密を打ち明けてくれたことに信頼を感じて嬉しく思ったのと同時に、私は私のことを何も言えていないことにとても申し訳ない気持ちになった。

 ここから出られたら。宿に帰ったら言おう。

 それで気味悪がられても、恐れられ嫌われても仕方ない。

 秘密を明かしてくれたトーカに、隠し事をして一緒にいることはとても不誠実な気がして我慢できなかった。

 そのためにもまず、あの変異体を倒さなければ。


 ここまで全て、トーカが言った通りの展開になっている。

 変異体は私たちを侮っているから小細工無しで転移陣を使ってくる。

 もし先にファイアアントやデビルスパイダーの群れを転移させてきたらこの作戦は使えなかったけれど、そうはならなかった。

 変異体は単独で、何の警戒もなしで転移してきて、そして雷獄に囚われている。


 雷獄は凄い魔法だけど、トーカが開発した『魔法陣』はもっと凄い。

 雷獄なんて上級魔法使いでも発動に時間がかかりそうな大魔法を瞬時に発動出来るのだから。

 魔物が魔法を使う時に魔法陣を作ることがあるけど、どんな原理かは分かっていないはず。それを解明したことになるの?公表したら大事になるよ、絶対。

 

 それに、これも。

 視線を落とせば魔法陣の描かれた革のアームガード。

 つい先程トーカが描いてくれた。これで私も魔法が使えるらしい。使えるのは一回きりみたいだけど、エルフなのに風魔法も水魔法も使えない私には夢のような道具だ。

 現代の魔道具でも魔力を注いで魔法を行使することは出来るけど、精々が生活魔法レベル。つまり戦闘にはまったく使えない。アーティファクトと呼ばれる古代魔道具は戦闘用のものもあるらしいけど、トーカはそれを再現してしまったということになる。

 再現不可能と言われてるのに、だ。

 

 トーカの説明だと雷の力でじりょく?を発生させて矢尻を加速させる魔法が使えるらしい。こいるがんと同じ原理って言ってたけどよく分からない。けれど、トーカが言うなら問題ない。きっと上手くいく。

 気を付けるのは致命的な隙が出来るまで変異体に気付かれないように隠蔽効果のあるトーカのローブで隠れていること。

 そして弓で狙う位置。

 急所と思われる人間の頭部を狙うけど、この魔法を使った矢は普通に撃った時と違って放物線を描かないらしい。厳密には違うけれど、この距離ではほぼ直線で飛ぶらしい。

 だから狙いを調整する必要がある。

 そんなのやったことないし、上手くいくか分からないよと言ったら「エレナならやれる。信じてる」だって。胸の奥がもぞもぞして変な気持ちになるからそういうこと言うのやめてほしい。

 嘘だ。

 やめなくていい。

 もっと言ってほしい。

 もっとトーカの言葉が欲しい。

 だから邪魔な変異体はさっさと殺そう。それが良い。こいつ気持ち悪いし。


 トーカはきっと天才というやつなんだと思う。

 でもそう言ったら嫌そうな顔をされた。

 知ってることを繋ぎ合わせてるだけだって。

 良く分からない。照れてる?

 じゃあもう口に出さないでおこう。でも心の中で思うのは良いよね。


 解き放たれた矢は、まるで雷のような速度で変異体に迫り、頭部を容易く撃ち抜いた。


 雷の力を帯びたその軌跡は、とても綺麗だった。

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