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転移先で最初の職業選択を間違えてもリカバリーは効く  作者: 葵あさ
2章

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プレゼント

「ひゅー!上玉じゃん!」

「俺らCランク冒険者なんだけどさぁ、これから飯でもどう?美味い店知ってんだよね。奢っちゃうよ?」


 そろそろ帰ろうかという段になって緑の小竜亭に向かっていると、冒険者風の男2人に絡まれた。ナンパか。こっちでもあるんだね、こういうの。

 男達は鼻の下を伸ばしてエレナを口説いている一方、俺のことは完全に無視だ。一緒に歩いていたんだけど、ただの通行人だと思われたのかな?

 というか、エレナの目が害虫でも見るような感じで冷たくなっているんだが。

 これだけの美貌だし、ナンパには辟易しているのかもしれないな。


「なぁいいだろ?最高の夜にしてやるから――ぁぎっ!?」


 ナンパ男の片方がエレナの肩に触れようとした時、その手首をエレナが掴み捻じり上げた。おお、あれはこの前教えた拘束術。見事な手際だ。

 後ろ手に拘束されて動けない状態の男の首に解体用のナイフを這わせてエレナがボソボソと呟く。


「死にたいの殺されたいのどっち?」

「ひぃっ!?」

「て、てめぇ!カストーニを離せ!」

「おっと、剣を抜くのは駄目だろ」


 もう片方が剣の柄に手を伸ばしたのを見て、そいつの背中に指をつける。

 背中の感覚は割と鈍感だ。

 彼も状況的に剣を突き付けられていると錯覚してくれたようだ。もう一人、カストーニ君からも見えない位置に立っているのでどちらにもバレていないようだった。


「くっ、なんだてめぇ!」

「いや、なんだって言われても。その子の連れ?かな」

「てめぇみたいな冴えないおっさんが?見え透いた嘘吐いてんじゃねぇ!」


 おっさんて。一応まだギリ20代なんだけど……。


「俺のことはどうでもいいだろ。それより女性の身体にみだりに触るべきではないし、剣を向けるなんてもっての外だ。ナンパならマナーを覚えてからやってくれ」

「ぐっ!」

「どわ!?」


 俺が男を軽く押し出すのと同時にエレナもカストーニ君を突き飛ばしていた。かなり乱暴に。相当ナンパが嫌いみたいだな。


「クソ、このまま帰れると思うなよ!」

「待て、カストーニ。ここじゃ不味い」

「けどよヤリステン!」


 騒ぎを聞きつけた通行人が集まってきていた。ヤリステン君は衆人環視の中で暴挙に出るほど直情的ではないらしい。


「分かってる。俺達を虚仮にした報いは受けてもらうさ。おい、おっさん。それと女。顔覚えたからな。俺達はアルヘイム王国のCランク冒険者だ。この街には来たばかりだが冒険者連中にはそれなりに顔が利く。これからは外出する時は気を付けた方が身の為だぜ」

「トーカはおっさんじゃない!」


 え、そこ……?

 フォローしてもらえるのは嬉しいけどさ。


「けっ、覚えてろよ!」

「じゃあな、()()()()()


 去り際にヤリステン君が聞えよがしに俺の名を口にした。

 こりゃ完全にロックオンされてますわ。

 相手に名前を教えてしまったエレナが今になって失敗を悟ったようにあたふたし始めた。


「ごめん。私余計なこと言っちゃった……」

「良いよ別に、名前くらい。黒髪は珍しいし、ギルドで聞き込みでもしたらすぐに分かることだしな」


 それ以上にエレナの存在感が大き過ぎる、とは言わないでおこう。

 ギルドに限らずイステリアでエルフの少女を探したらすぐにエレナに行き着く。

 エレナはその容姿から人目を惹くし、何よりエルフの数は非常に少ない。イステリアでも片手で数えられるくらいしかいないはずだ。


 気にするなと言ったが、エレナは自分を責めているようで肩を落としていた。

 折角のリフレッシュだったというのに最後がこれではあんまりだ。

 本当は宿に戻ってから渡そうと思っていたが、まぁ良いか。


「エレナ、これ」

「え……」


 渡したのは銀の三日月に青い小さな宝石が二つ付いたデザインの髪飾りだ。


「私に?」

「いつも頑張ってるからな。プレセントだ。あ、デザインそれで大丈夫だったか?エレナの髪って綺麗で月みたいな色だろ。宝石も瞳の色と同じでイメージに合うと思って深く考えないで選んじゃったけど。もし別のが良かったら交換して――」

「これでいい!」


 エレナが掌の上に乗せていた髪飾りをバッと引き寄せる。

 取り上げたりしないって……。


「これがいいの」

「……そうか。良かった」


 髪飾りを耳の上に付けたエレナが顔を僅かに紅潮させて言う。


「似合う……?」

「ああ、どこかの国のお姫様みたいだな」

「ふふ、ありがと。トーカもどこかの国のCランク冒険者みたいだよ」

「そりゃどうも。お褒めにあずかり光栄だ」

「ふふふ。行こう?早く姉さんに見せたい」

「お、おん。転ぶなよ?」

「分かってるー!」


 小走りに宿への道を進むエレナを追いかける。

 良かった。折角の休日がナンパ君たちのせいで嫌な思い出にならずに済みそうだ。

 エレナの機嫌も直ったようで良かった。



 その夜、緑の小竜亭にて。

 頬を膨らませたエレナがこちらを睨んでいた。

 対して満面の笑みを浮かべるエレノア。その髪には紫千花(アムリム)という花を象り、赤い宝石の付いた髪飾り。


「あらあら、私にまでプレゼントを買っていただけるなんて……。トーカさん、ありがとうございます。おかしく…ないですか?」

「もちろん。とても似合ってますよ」

「あらあら、うふふ。照れてしまいますね……」

「……トーカのすけべ」


 それは理不尽じゃない?

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