パーティ結成
ギルド長室を出て階段を降りると満面の笑みを浮かべたリディアが立っていた。
ちょいちょい、と手招き。
視線を逸らすと親指で「こっちに来い」とのご命令。ぐぬぬ、リディア様からは逃げられないみたいだ。
観念してリディアと共に会議室へ移動すると、ガッ!と股の間に脚を入れられ胸倉を捕まれた。ちょ、待って。肉食系上司かよ。てかそんなことしたらタイトスカートから美しいおみ足が……。
「どういうことなんですか?」
「え、脚フェチ?」
「どういう聞き間違いですか!?そうじゃなくて、ギルド長から聞きましたよ!Cランク昇格に蟲狼迷宮の正規ルート探索ですって?なんでそんなことになってるんですか!」
「……流れで?」
「そんな流れは存在しません!」
んなこと言われてもなぁ……。
リディアはぜーぜーと荒げていた息を整えてから手を離した。
「すみません、色々と処理しきれない事が重なって取り乱しました」
「あはは、気苦労の多い仕事ですもんね」
「誰のせいですかね!」
「ぐぇ」
再度ぐいっとされる。襟首離してくれ。苦しい。
しばし見つめ合う(一方的な睨みつけとも言う)とリディアは嘆息してから手を離してくれた。
「……でもトーカさんの実力を正しく見抜けなかったのは私の不手際です。ビギナーにするような対応をしてしまって申し訳ありませんでした。御不快に思われていましたよね?」
「まさか。親切に教えてもらって有難かったですよ。これからも変わらずに接して頂けると嬉しいです」
「それは……もちろんですけど」
「ところで」
「はい?」
「いつまでこの態勢なんでしょうか?」
「え……きゃあ!も、申し訳ありません!」
ぼん!と瞬間湯沸かし器のように真っ赤になって飛び退くリディア。
ほぼ密着してたもんな。
リディアは少し乱れたスカートを整えて取り繕うように早口で捲し立てた。
「こ、これは違いますからね!?受付嬢としての立場を利用して冒険者に迫るという不届き者もいますしどっちかというと優良株相手にはそういうワンチャン狙ってる子が多いのは確かですけど私はそんなつもりはないですからね!?」
「あ、はい」
ふむ、Cランク程度では優良株とは言えないということか。
図に乗るなよルーキーが。というリディアからの叱咤激励かもしれんな。
「ぎ、ギルド長からはトーカさんのサポートを命じられてますので、今後何か困ったことや相談事があれば私に言ってくださいね!」
「了解です。頼りにしてます」
まぁ、今までもそんな感じだったけどね。
なぜか挙動不審になったリディアと共に会議室を出ると、腰に手を当てた少女が立っていた。
肩の辺りで整えられた金髪に長い耳。動きやすい軽装と短めのスカート。革鎧で急所や腕、関節をカバーし、背には弓を背負っている。
絶世の美少女と言っても過言ではないその少女はどこか機嫌が悪そうだった。
「トーカ、遅いよ」
「悪い。待たせた」
「トーカさん、そちらは?」
「パーティを組むことになったエレナです」
「……へぇ?」
「トーカ、そっちの人は?」
「世話になってる受付嬢のリディアさんだ」
「……ふぅん?」
「???」
え、なんで品定めするみたいな目で見つめ合ってるの?
◇
エレナとパーティを組むことになった経緯を説明すると、エレナの姉、エレノアからの質問に端を発する。
借金奴隷となるはずだったエレナが契約から解放されたことを知ったエレノアは、その理由を俺に訊ねた。借金の肩代わりをしたことについて話すつもりはなかったのだが、エレノアの妙な迫力に負けた俺はすべてをゲロってしまった。
それを聞いたエレナとエレノアは見ていて可哀想なくらいに申し訳なさそうな顔になった。だから言いたくなかったのだが。
いくらか時間が経った頃、エレノアが言った。
「妹をパーティメンバーとして受け入れてもらえませんか?戦闘でも雑用でも荷物持ちでも夜伽でもなんでもしますから」と。
突然の爆弾発言に顔を真っ赤にして怒りを露わにする妹にエレノアは言い聞かせた。
「いい、エレナ?命も貞操も誇りも守ってくれた方に対して他にどんな恩返しが出来るの?エルフは頂いた恩に報いることの出来ない恥知らずな種族ではないのよ。分かるわね?」
「それは、分かるけど……」
「そして正当な口実があれば拒める殿方は少ないと聞くわ。グランフォレストの言葉で据え膳食わぬは男の恥というやつね。恩返しを口実に既成事実を作るの。分かるわね?」
「それは、分か――いや分からないよ!何言ってるの姉さん!?」
「本当はお姉ちゃんが恩返ししたいのだけど、この身体じゃそうもいかないし……」
「ほんと何言ってるの!?」
そんな一幕があり、紆余曲折の後、取り合えずパーティを組んで依頼をこなしてその報酬から俺に対して借金の返済を行うということになった。もちろん夜伽はなしだ。それをやったらエレナを騙して借金を負わせたクソ爺、ダルキン・ゴートレスと同じになってしまう。
そう告げた時、エレナがホッとしたような残念そうな複雑な顔をして、エレノアは「あらあら」と困った子供を見るような目をしたのは何だったのだろうか。
まぁともかく、そういう経緯でパーティを組むことになったのだ。
「正規ルートの調査か。面白そうだね」
「お、エレナは結構乗り気?」
「うん。私、あまり依頼って受けたことないんだよね。魔物を討伐して素材を売る方が安定して稼げたから」
「ああ…」
エレナは借金返すために金策ガチ勢だったもんな。
高難度の依頼は報酬も高いけど失敗すればおけらだし、モノによっては違約金を支払う必要もあったりする。確実に魔物を倒す自信があるならダンジョンで狩りまくった方が安定した収入になるのは確かだ。それにエレノアを放置して長期間留守にする依頼とかは受けられなかっただろうしな。
ただ、蟲狼迷宮で取れる素材はそれほど高価って訳じゃないから大きく稼ぐなら数が必要だ。エレナのダンジョン滞在時間は正直俺から見ても異常だった。しかもそれを一年も続けていたのだから敬意すら覚える。それほどエレノアのことが大切なのだろう。
「――だから、ちょっと楽しみかな」
「そうか」
今、こうして笑っている顔を見られて良かった。




