Cランク昇格と指名依頼
2章スタートです。よろしくです。
大陸歴1468年の初夏。
交易都市イステリアにAランク上位という化け物のような魔物が襲来して2週間ほどが経った。街行く人々もようやく落ち着きを取り戻しつつある中で俺は冒険者ギルドのギルド長ガンドルフ・ウェルバークに呼び出しをくらっていた。
入室した執務室には積み上げられた書類の山に隠れるようにヤ〇ザ顔負けの凶悪面をしたオールバックの男、ギルド長ガンドルフの姿があった。いつも不機嫌そうなその顔はどこかやつれているように見える。
「失礼します」
「おう来たか。悪りぃな、わざわざ」
「いえ。それで、何の御用でしょうか」
「用件は二つ。取り合えずこれを受け取れ」
投げ渡された物を受取って見るとCランクのギルドカードだった。
……なぜか俺の名前が入っている。
「俺、昇格試験受けてませんけど。というか貢献度的に受験資格すらないと思いますけど」
冒険者ランクを上げるには基本的に二つの方法がある。
一つは俺がDランクに上がった時のようにダンジョンをクリアする方法。
もう一つは地道に依頼をこなして貢献度を貯め、昇格試験を受ける方法。蘇生魔法もセーブ・ロードもないこの世界では後者の方が主流だ。
俺は依頼を受けていないし、ダンジョンで獲得したアイテムも全てランドに売っていたので貢献度はゼロのはず。昇格する理由が分からない。
「お前、トーカといったか。都市防衛戦でジェラルドの奴を助けただろ?」
「ジェラルド?」
「ジェラルド・ローレンツ。堅物の騎士長だ」
ああ、騎士長殿のことか。
「あれはたまたまと言うか……」
「フレイムリザードを1人で倒したのもたまたまか?」
うえっ。調べはついてるんだぞ!ってか?
確かにあの時は冒険者とか騎士に見られてたけど……。
ガンドルフはふん、と鼻を鳴らして続ける。
「お前が実力を隠したいのなら別に良い。だがせめてCランクには成っておけ。Dランクのままじゃ逆に不自然に思われるぞ。今回の件でお前の実力はそこそこ広まってるから丁度良いだろ」
「え、なんですかそれ」
「命を救われたジェラルドはもちろん、『蒼天』の連中や『桃紅果』のモニカなんかも話に出してるらしいからな。都市防衛戦で頭角を現した新人って感じの噂になってるぞ。二つ名が付くのも遠くねぇかもな」
二つ名ねぇ…。
ジェイドの『英雄』みたいな感じなら悪くないかもだけど、『ドブ鼠』とか『チキンハート』みたいな不名誉な二つ名もあるんだよな。まぁ周りが勝手に言い出すものだからどうにもならんけど。
「それに今回の防衛戦で冒険者は大打撃を受けた。実力がある奴を遊ばせておける余裕はねぇんだ。働け。文句あるか」
「…ないっす」
俺は大人しく新しいギルドカードを懐に仕舞った。別にガンドルフの威圧にビビった訳じゃない。有無を言わせぬ目つきで睨まれたがそんなの無関係だ。
先日の防衛戦では数十人単位で冒険者が犠牲になったし、怪我で今も動けない人も多いらしい。人手が足りないのは間違いないしな。
「よし。次だ」
鷹揚に頷いたガンドルフが一枚の紙を渡してきた。
内容は……蟲狼迷宮の追加探索?なんじゃこりゃ?
「蟲狼迷宮の正規ルートが未発見なのは知っているな?」
「ええまぁ。30層にボスがいないからどこかに別の通路があるはずだって」
「その正規ルートを探してほしい。おめでとう、Cランクになって初めての依頼が指名依頼だぞ」
指名依頼はCランクからだ。
絶対それ目的で昇格させただろ、このヤ〇ザ。
「……今まで散々探して誰も見つけられなかったんですよね?なんで今になって俺が」
蟲狼迷宮が出現してから約40年経つし、その間何度も正規ルートの捜索は行われている。
それでも発見されていないのだから相当分かりにくい所にあるか、もしくは出現に何らかの条件が必要なルートではないかと言われている。そんなもの、発見できる見込みなんてほとんどないだろうに。
ガンドルフはため息を吐いてから言った。
「この間の防衛戦で冒険者が何人死んだか分かるか?」
「……いえ」
「62名だ」
そんなに……。
「重傷者を含めるとイステリアの冒険者は一時的とは言え100名以上の戦力を欠いた状態だ。周辺の街に応援を頼んではいるが追いつかんし、いつまでも世話になる訳にもいかねぇ。そこで、蟲狼迷宮の正規ルートが新たに見つかったという材料があれば――」
「イステリアに拠点を移す冒険者も出てくると?」
「そういうことだ」
「そんな大事な仕事なら尚更俺みたいなぽっと出じゃなくて実績のある人達に頼んだほうが」
ぶっちゃけ面倒と言うか……。
「イステリアのBランクは『黄金の乙女』と『桃紅果』の2パーティだが、黄金の乙女は指名依頼で首都。桃紅果はメンバー2人が怪我で活動休止中だ。『蒼天』に依頼しようかとも考えたが、あいつらもうすぐ別の街に行くらしいからな」
そう。
蒼天は護衛依頼でアルヘイム王国に行くらしい。あんな戦いの後で忙しいことだ。
送別会は既に済ませてあり、他の冒険者も巻き込んで盛大の飲んで騒いだ。
冒険者仲間を喪った奴も多く、そんな悲しみを吹き飛ばすように皆飲んだ。
いつの間にか飲み比べ大会になり、最後まで残っていたのは俺とジェイドだったが、やはり毒耐性のお陰か俺が飲み勝った。まぁ毒耐性なしで樽二つ空けたジェイドも大概だけど。
ちなみに都市長主催の慰霊祭と共に行われた論功行賞で大々的に表彰されたジェイドは都市長から正式に『英雄』の二つ名を授与されていた。正装で決めているというのにあの時の間抜け面は笑えたな。本人的にはポーズではなく相当嫌だったらしい。
ついでに砂漠熱の感染経路特定の功も表彰されていたから市民からは完全に英雄扱いだった。身代わりありがとう。俺にとっても英雄だ。
「それと、お前に依頼したのは推薦もあったからだ。お前、魔法を齧っているらしいな?」
「え……な、なんのことですか?ひゅ、ひゅーひゅー」
「惚けるな。その下手な口笛もやめろ。イラつく。前歯蹴り砕くぞテメェ」
「ひぃ!ごめんなさい!」
なんだよこの凶悪なおっさんは!キレやす過ぎだろ!
こんなのがギルマスで良いのか!?
責任者出てこいよ!あ、こいつが責任者だったわ。
「俺とジェラルドは餓鬼の頃からの付き合いでな。今も偶に飲む。そしてあいつは嘘を吐かない。――まぁ、このことを他言しようとは思わねぇよ。ジェラルドだって俺を信用して話したんだ。そこは裏切らねぇ。お前が断るならこの件についてはきっぱり忘れるし、禍根も残さん」
猛禽を思わせる鋭い目つきが俺を真っ直ぐに射貫く。
「どうだ。力を貸しちゃくれねぇか」
「力になりたいのは山々なんですけどぉ」
ぶっちゃけ超面倒臭そうっていうかぁ。
「ちなみに成功報酬は金貨500枚だ」
「やらせて頂きます!!」
金の亡者?
権力の犬?
違うね。ただの借金冒険者だ。




