神威
「トーカ君…!」
騎士長ジェラルド・ローレンツは悲痛な声を上げた。
娘の恩人が目の前で喰われた。
こんな老骨の、古傷が原因でまともに戦えもしない壊れた騎士を庇って、だ。
噛み千切られ、風に晒されている彼の右脚が見間違いなどではないと雄弁に語っている。
死ぬべきは自分であった。
彼は死なせて良い若者ではなかった。
強大な魔物に立ち向かう勇気、そして病に苦しむ者の為に己を捧げる慈悲の心を併せ持った青年だ。このまま成長すればどれだけの人が救っただろうか。
「騎士長……」
「分かっている……。総員、彼の勇気に報いろ。この戦いで散っていった全ての者に報いろ!勝利は目前だ!我らがここにいると、奴に思い知らせてやれ!!」
「「「はっ!」」」
「「「おう!」」」
騎士と冒険者。両者の心が完全に一つになった。
そこからはもう後先など、ペース配分など度外視した猛攻を開始した。その結果ボルケーノトータスの注意を引くことに成功したが、息継ぎ無しの全力攻撃がそう長く続くはずもなく。攻勢は徐々に苛烈さを失っていく。
(くそ、ここまでか…)
騎士も冒険者もよくやっている。文字通り限界以上の働きを見せ、全員が倒れそうなほどに疲弊している。血を流していない者も存在しない。
だがこれ以上の引き付けは現実的に不可能。このままでは防御無視で攻撃を行っている攻撃隊に矛先が向くのは時間の問題。もう僅か先の未来だ。
――全滅。
騎士長の脳裏にそんな残酷な事実が過ぎった時だった。
山のような巨体、城壁の如く堅牢な身体を持つボルケーノトータスが、止まった。
そして不規則に痙攣を始める。
「グ、ギ、グ………ギグガアアアア!?!?」
何が起きた!?
そう思う前に騎士長は声を張り上げていた。
「蒼天ッ!!黄金ッ!!騎士達よッ!!」
火山の向こう側で戦う戦友達に、届け。
◇
魔法で吹き飛ばし、剣で切り裂き、槍で貫く。
何度目の攻撃か。
火山の傷口は攻撃すればいくらかは広がる。しかししばらくすると徐々に回復してしまう。
「これがAランク上位かよ!馬鹿でかい上に硬くて回復力もアホみたいにあるなんてマジでバケモンだな!」
「泣き言言ってないで削るわよ!囮部隊の方が持たないわ!」
「わぁーってるよ!ドラアアアアッ!!ぐ…!あっちいなァ、オラアア!!」
火山の内側、傷口はどす黒いぶよぶよとした肉になっており、生半可な攻撃では傷一つ付かない上、攻撃が通るとそこから吹き上がった高温の血飛沫が肌を焼く。
だがジェイドも、他の者たちも意に介さずに攻撃を続ける。
状況はあまり良くない。
この先に魔石があるのは魔法使いが確認したので確実だが、こうも頻繁に傷を回復されては魔石までの距離がいつまでたっても埋まらない。
タイムリミットを間近に感じながらも必死に攻撃を続けていた時、その異変は起こった。
「なん、だ!?」
火山が、ボルケーノトータスが小刻みに揺れている。
突然の出来事に全員の手が止まった。そこへ喉が裂けても構わないとでも言うように、鬼気迫る騎士長の声が届いた。
『蒼天ッ!!黄金ッ!!騎士達よッ!!』
「「「ッ!!!」」」
その声で理解した。
これが最後の好機だと。
全員が弾かれたように動き出す。
「イくわよレディ達~!気合いを見せなさいな。ウ゛オ゛オ゛オアアァァ!!『衝撃強化』ァッ!!ドッセイ!!ヴォラア゛ア゛ァ!!!」
「「「「ヴォラア゛ア゛ァ!!!」」」」
黄金の乙女は雄々しい雄叫びと共に、その鍛え上げられた肉体から繰り出す凄まじい拳打、蹴撃で肉を次々と破砕し、
「傷が…回復しない!やるぞ、お前たち!――放て!!」
騎士隊は副騎士長を先頭に魔法の一斉砲撃、一気に魔石までの道が拓く。
そして、
「みんな避けてねぇ!『メガ・フレイム・ハンマー!!』」
ナタリアの巨大な炎の槌が魔石を砕く――かに思えたが、ボルケーノトータスの最終防衛機能なのか岩石の盾が無数に生えて魔石の周囲を覆い隠し、魔法を防いだ。
「そんなぁ!」
「問題ないわ、剛腕符!」
言いながらフェイが文字列の記された二枚の紙片を破り捨てる。
フェイとエリックの腕が赤く輝く。
「エリック、合わせなさい!」
「了解だよ!」
「『鋭刃』!」
「『瞬刃』!」
ナタリアの魔法で岩石の盾は粗方消し飛んでいる。
残った岩が出来の悪い人型になり、歪な動きで異物を排除しようとこちらへ向かってくるが、それをフェイとエリックが見事な連携で切り落としていく。――再び道が生まれた。
フェイが岩人形を斬り飛ばしながら叫ぶ。
「ジェイド!」
「おおよ!『神威』!はああああッ!!」
ジェイドの身体が、そして大剣が激しく、神々しく光る。
最後の力なのか肉の壁が魔石の直前に築かれようとして、大剣に吹き飛ばされた。
「でりゃああああああッ!!!」
裂帛の気合いと共に振り下ろされた大上段からの一撃が巨大な魔石を一刀両断にした。
魔石は粉々に砕け、粒子となって霧散――ややあって、魔力の核を失ったボルケーノトータスは生命活動を完全に停止した。徐々に身体が魔素となって溶け始める。
こうして突如として始まったAランク上位の魔物、ボルケーノトータス襲来によるイスタリア防衛戦は幕を閉じた。




