表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転移先で最初の職業選択を間違えてもリカバリーは効く  作者: 葵あさ
1章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

43/86

ボルケーノトータス

 時間は少し遡る。

 トーカがエレナを追ってイステリアの街壁を通った後、隊列を組んだ騎士・冒険者達は騎士長とギルド長の号令の元、ボルケーノトータス及び魔物の群れの迎撃に当たった。


「オラァ!まずは一匹目だ!」


 ジェイドの振り下ろした大剣が3mはあろうかという巨大なマグマゴーレムを袈裟懸けに両断――しかし二つに分かたれたその身体は溶岩のような粘液で繋がっており、徐々に互いを引き寄せようとする。


「詰めが甘いよ、ジェイド」

「世話が焼けるわね!」


 ジェイドの後方から飛び出たエリックとフェイがそれぞれ半分になったマグマゴーレムの身体をさらに細切れにする。すると燃え盛るように赤い魔石が姿を現した。


「ゴーレムは魔石を破壊しないと延々再生するから厄介だよねぇ。マグマゴーレムは素材にも不向きだし、普段なら相手にしないんだけどぉ、今日は討伐が目的だもんねぇ。――『フレイム・ハンマー』」


 ナタリアが放った炎の槌が魔石を打ち砕くと、マグマゴーレムは再生することなくその場で機能を停止した。


「はぁ、わたしの魔法では火耐性持ちに有効なのはこれくらいしかないんだけどぉ、ちょっと燃費悪いんだよねぇ」

「フレイム・ハンマーは高圧力の炎で圧し潰す魔法。火属性と物理ダメージの合わせ技だからね。まぁしばらくは僕ら前衛だけでも大丈夫だから温存しておいたら?本命の時に備えてさ」

「そうさせてもらうよぉ~」

「おいおい、俺の見せ場を奪うなよ!」

「そんなこと言ってる暇ないでしょ?ほら、黄金シャイニングはもう二体目に取り掛かってるわよ。桃紅果アンブロシアも一体目倒しそうだし、私達も稼ぐわよ」

「ぐぬぬ!良いか、次こそ俺の大剣でブッ倒してやるからな!」

「ほんとパワー馬鹿だよね、ジェイドって」

「筋肉馬鹿よ」

「ばぁかばぁか」

「お前らー!終いには泣くぞっ!つかナタリアのは単なる罵倒だろうがっ!」


 実際のところ、ジェイドの初撃がなければマグマゴーレムはこうまであっさり倒せる相手ではない。身体が非常に頑丈で生半可な攻撃は通らないのだ。

 しかしその頑丈さを上回る力で大ダメージを与えることが出来れば、身体の修復を行っている最中は強度が数段落ちる。それこそ手数勝負で力の劣るフェイでも切り裂けるくらいまで。

 そして蒼天には万全な状態のマグマゴーレムに大ダメージを与えられるのはジェイドだけだった。軽口を叩いているが、メンバー全員がジェイドの爆発的な膂力を頼りにしていた。


「次来るわよ、単純馬鹿!」

「くそぅ!見てろよ!」


 蒼天をはじめとするBランクパーティは順調にマグマゴーレムを撃破していき、残り僅か。C、Dランク冒険者もギルド長ガンドルフ指揮の元、負傷者を出しながらも優勢を保っていた。


 想定が外れたのは騎士隊だった。

 騎士隊は隊列を組み、魔法の使える者は魔法で攻撃、進路の誘導を。

 魔法の使えない者はボルケーノトータスの反撃を注視し、回避行動の指示。そしてマナポーションの運搬を担っていた。

 今回作戦に参加した100名の内18名が魔法スキルを有しており、騎士長の号令と供に一斉砲撃を敢行した。敵は巨大で、なおかつAランク上位の魔物だ。散発的に魔法を打ち込んでも効果は薄いと判断したのだ。

 魔法は直撃した。――しかし、


「無傷だと!?」


 副騎士長の驚きが響く。

 彼自身も風魔法の使い手だ。騎士として日々の研鑽を怠ってなどいないし、それはここにいる全ての騎士も同様だ。だが、そんな彼らの一斉砲撃で無傷。あまりの理不尽に叫ばずにはいられなかった。


「もう一度一斉砲撃を行う!魔法攻撃用意!目標、鼻頭!」

「「「はっ!」」」


 ローレンツ騎士長の号令に合わせ、


「放てっ!!」


 再度の一斉砲撃。ボルケーノトータスの鼻頭に直撃し、爆発が巻き起こる。

 今度こそ。全ての騎士がそう心の中で祈った。

 しかして、煙の中から現れたその巨体は……またしても無傷。


「くそ!どうなってるんだ!」

「魔法が効かないのか!?」

「じゃあどうする!あの図体だ、矢なんか無意味だぞ!」


 動揺が広がる中、一人の騎士が気付いた。


「おい…待て、おいおい!そっちじゃない!こっちだ!!」


 騎士隊はボルケーノトータスの進路を西側に誘導するように攻撃を加えていた。自身を囮にして、だ。しかしボルケーノトータスは騎士隊を意に介さず、直進を続けていた。このまま行けばただり着く先は――、


「イステリアに……」

「ふざけるな!こっちだ、こっちを向け!化け物!」

「街にはまだ家族がいるんだ!絶対に行かせないぞ!」


 隊列が崩れかけた時、騎士長の重い、しかし不思議と通る一喝が響き渡った。


「静まれ!!」


 その一声でパニックに陥ろうとしていた騎士達は冷静さを取り戻す。


「諸君、何の為に剣を取った。何の為に日々の過酷な訓練を耐えてきた。今!この時の為であろうが!我らは騎士。騎士が破れるは民が蹂躙されることと同義。いちいち狼狽えている暇などない!民を守るために最善を尽くせ!」


 言葉だけ。

 されど、苦楽を共にし、信頼を預けた騎士長の言葉は騎士全員に染み込んでいった。

 パニックは鳴りを潜め、騎士たちは使命に燃えた。

 副騎士長が口を開く。


「しかしこれからどうすれば。魔法は効きませんでしたし……」

「うむ…何か案のある者はいるか?」


 騎士達はしばし無言で考え、ややして一人の若い騎士が意見を出した。


「先程は頭に魔法を撃ちましたが、別の場所ならどうでしょう?」

「……なるほど、脆い場所があるかもしれん。半数は私について右から、もう半数はギルバートについて左から奴を観察する。僅かでも可能性を発見したらすぐに報告しろ」


 即決した騎士長に、意見を出した若い騎士が戸惑う。


「自分は思いつきを言ってしまったのですが……」

「構わん。現状有効な手段がないのだ。思いつきでもやってみる価値は充分にある。よく意見した」

「はっ!ありがとうございます!」

「では諸君、行くぞ」

「「「はっ!」」」


 巨体から容赦なく放射される熱波。

 騎馬が耐えられるギリギリの距離を保って騎士達はボルケーノトータスの周囲を走る。

 そして右後方、背の火山の裏側に辿り着いた騎士達は呆然とした。


「な、なんだこれは……!」


 巨大な火山が、大きく抉れていたのだ。



 背中の火山が抉れている。

 Aランク上位の魔物にどうやったらこれほどまでの傷を付けられるのか。騎士達はそれをしでかした者が存在すると知り戦慄した。もしボルケーノトータスに大怪我を負わせるような存在がイステリアに向かって来たら…と。

 しかし騎士長は不敵に笑った。


「これなら魔法が通るかもしれん」

「し、しかし騎士長。これをやった奴は……」

「そんなものはこいつをどうにかしてから考えろ!こいつを止めねばその先もないのだ!魔法攻撃用意!目標、火山の傷口!――放て!!」


 三度目の魔法一斉砲撃。

 直撃、爆発。

 ここまでは前回までと同じ。しかし、


「ゴアアアアアアッ!!!」


 前二回とは異なりボルケーノトータスの絶叫が轟いた。

 煙が晴れるとそこには傷口が一回り広がり、血を吹き出す火山の姿があった。


「…よし!よしっ!効いたぞ!」

「化け物め!イステリアの騎士を舐めるな!」


 騎士達が歓喜するのも束の間、歴戦の経験から不穏な空気を察した騎士長が警戒を強めた。


「各員、警戒態勢!何か来る!」


「キアァァァッ!!!」


 先程とは音程の異なる、甲高く耳を突き刺すような叫びがボルケーノトータスから上がった。

 

「ぐうっ!?これは…!」


 高濃度の威圧を含んだ叫びだった。

 絶対的強者の威圧に訓練を積んだ騎馬さえも暴れ出し、騎士達はその手綱を必死に抑えようとする。落馬が数名で済んだのは弛まぬ訓練の賜物と言えよう。

 

 だが冒険者の被害は甚大だった。

 Cランク冒険者の一部、そしてDランク冒険者の半数が戦意を喪失し、その場で棒立ちになった。

 その決定的な隙を見逃してくれるほど魔物たちは優しい存在ではない。

 無防備な冒険者に襲いかかる魔物達。戦場はあちこちで阿鼻叫喚の様相を呈した。


「ぎゃああ!腕があああ!」

「やめ、やめろ!来るなあああ!ぎゃああ!」


 それまで優勢を保っていた魔物の軍勢との戦闘は、一転劣勢を強いられることになった。

 戦場にいる冒険者の一割、20名ほどが戦死。更に約30名が負傷により戦闘継続が不可能になった。そして――


「ぎゃああ!放せ、放せよおおお!」


 戦死した亡骸、そして負傷して動けない者魔物たちは攫って行く。

 その行きつく先にはボルケーノトータス。

 まさか、と誰かが言った。


「やめろおおおおお!」


 ぐしゃり!


 巨大な口が冒険者を一飲みにした。

 次々運ばれてくる冒険者達を、その生死に関わらず喰らっていく。その様は女王蟻に餌を貢ぐ働き蟻のようだった。


「傷が…」


 火山にあった傷が小さくなっていることに騎士の一人が気付いた。


「回復しているのか…!」


 魔物も生物である。傷を治すには栄養を摂取する必要がある。

 そしてボルケーノトータスは見つけていた。おあつらえ向きにある程度レベルが高く、栄養価の豊富な餌を。

 見る見るうちに火山の傷口は塞がり、三度目の魔法攻撃を撃ち込む前と同等まで小さくなってしまった。


 騎士長が苦々しく歯を食いしばる。


「この回復力、やはり変異体か」

「騎士長、これではいくら攻撃しても…」

「狼狽えるな。幸い火山の傷の修復は途中だ。魔法攻撃はまだ有効のはず。急いで態勢を整え、第四撃を――」


「ゴオアアアアアッ!!!」


「――なんだ!?赤い、紋様…!?」


 ボルケーノトータスの背にある火山上に巨大な幾何学模様が出現した。

 火山の噴火口から断続的に大きさ2m~4mほどの赤熱した岩塊が無数に射出され、幾何学模様に接触し、岩塊はそこで一旦停止。次の瞬間、ベクトルを変え、目にも止まらぬ速度で軸線上にいた冒険者、魔物、そしてイステリアの街壁を爆撃した。

 戦場は地獄と化した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ