↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転移先で最初の職業選択を間違えてもリカバリーは効く  作者: 葵あさ
1章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

38/86

魔法契約

 強行軍で20層のボス、キンググラスウルフを撃破した俺達は21層のセーフティゾーンで休息を取っていた。23層を目指してから既に16時間が経過していた。俺は余剰生命力を消費して疲労を回復出来るが、エレナはそろそろ限界だ。むしろ良くここまで弱音も吐かずについて来たものだ。


「はい、スープ出来たよ。あと干し肉。悪いね、こんなものしかなくて」

「ううん、ありがとう…」


 魔石式の簡易コンロで暖めたスープと狼の干し肉を渡す。

 一応アイテムボックスにはまだ食材も食品も残ってるんだけど、無制限に出すとトラブルの種だからな。出しているのは偽装用のバックに入れておいた物だけだ。

 しばらく無言で食事をして、やや経ってから膝を抱えながらエレナが切り出した。


「トーカって何者なの?」

「何者って言われてもな…」

「だっておかしいよ。ソニックウルフとグレートグラスウルフの群れを簡単に倒しちゃうし。キンググラスウルフだって10分もかかってなかった。それでDランク?あり得ない。しかも私を庇いながら戦ってたでしょ?どうにかDランクになれたって言ってたけど嘘じゃない。私、嘘吐かれるの嫌いだよ。大嫌い…」


 そう言って顔を伏せる。

 こりゃだいぶ参ってるな。ここで下手な対応したら決定的な決別になるか、もしくはエレナの心が折れそうだ。

 けど本当のことだけを話す訳にはいかない。それは俺のアキレス腱を晒すようなものだから。


「悪いけど言えないことが多い」

「そう…」

「でも言える範囲なら、エレナに嘘を吐かないと約束するよ」


 幻妹は約束する前だからノーカンな。


「そんなの」

「信じられないか?なら魔法契約でもするか」

「魔法の契約紙なんて持ってない」

「俺は持ってる」


 取り出したのは重要な契約に使われる魔法契約紙。

 これに記載された内容を反故にすると、契約内容に従って罰が下る。

 質は様々あるが俺の持っているのは下級で個人間契約のみに使えるものだ。


「なんでそんなもの持ってるの」

「念の為だよ。ほら、確認しろ」

「………」


 その場で考えた契約内容を書いて渡すとエレナはまじまじと、穴が開くほどに契約紙を確認する。

 大体A4サイズ1枚の契約紙を表、裏、表、裏と何度も細工が無いか調べ、魔力苔に透かしてみたり、息を吹きかけて湿らせてみたりした。破かないでくれよ?それ1枚で金貨10枚もするんだから。

 本当にすごい警戒心だな。これは契約紙を使って騙されたクチか。

 しばらくして確認を終えたエレナが戸惑ったように言った。


「良いの、こんなの?」

「まぁ、実害ないし黙秘を禁止してる訳でもないからな」


 契約内容は『互いに嘘を吐かないこと。意図的に誤解を与えないこと。嘘を吐いた場合、契約魔法にて相手に嘘を吐いたことを知らせる。双方の同意があった場合、本契約を破棄する』というもの。

 言えないことは「言えない」で良いし、黙っていても良い。

 エレナの胸に刺さっているのは虚偽、欺瞞、謀への嫌悪感、トラウマだろう。

 そこを魔法的に縛っておけば彼女の心にかかる負担はだいぶ軽減される…かな?と思いつきで提案してみたのだが…。


「どうだ?」

「契約する」


 と、食い気味に言われた。

 はいよー。

 物珍しさで買ったものだが一度試してみたかったし丁度良い。

 契約紙に互いに名前を書き込んで中央にある魔法文字に同時に手を置く。

 すると契約紙が発光し、魔法文字から俺達へ魔力が伝わって来た。契約の魔法だ。

 光はすぐに消え失せ、これで契約完了となるようだ。


「試してみるか。エレナ、いいえって答えてくれ。君の名前はエレナか?」

「【いいえ】」

「ちゃんと作用してるみたいだな」

「今ので嘘だと分ったの?」


 エレナは不思議そうな顔をしている。

 契約魔法の効果は嘘を吐かれた方にしか伝わらないからエレナは普通に聞こえたみたいだ。


「ああ」

「次!私も!あなたの名前はトーカ?」

「【違う】」

「っ!じゃあ、トーカは本当にDランク冒険者なの?」

「【Dランクじゃない】」

「じゃあじゃあ!」

「おい、いつまでやるんだよ。あとにじり寄ってくるな。妙に迫力あって怖いぞ」

「良いじゃない、今は運命共同体でしょ?互いの事を知るのは有意義だと思うけど。それに怖いとか失礼。契約が反応してないところが本当に失礼」


 失礼失礼言いつつもその表情は笑っている。

 その笑顔は花が咲くようで、不覚にも見惚れてしまう。まだ子供っぽさが抜けていないとはいえ絶世の美少女にこんな至近距離に来られては意識してしまう。こちらの価値観に染まった身としてはエレナくらいの年齢の子でも全然いけるとは言え状況が状況だ。TPOを弁えるのが正しい紳士の姿。弁えた上でゴーサインが出たら全力出動するのも正しい紳士の姿ではあるが、今は違う。

 ううむ、自戒自戒。滅せよ煩悩。こういう時は天国のじいちゃんとばあちゃんを思い出すのだ。

 ……ふぅ、落ち着いた。ありがとう、じいちゃんばあちゃん。

 と言うか急にフレンドリーというか、垣根がなくなったな。それほど『嘘を吐かない関係』を求めていたのか。


「仮眠を取れ。あと2層だけどここからは魔物の数が増える。少しでも回復しておけ」

「まだ聞きたいことあるのに。ねぇ、いつもは1人で潜ってるの?20層以降も来たことある?剣はどこで習ったの?故郷はどこ?」

「ね!ろ!」

「……変な事しない?」

「今日の所はそのつもりはない。天国のじいちゃんとばあちゃんに誓う」

「そう、ご先祖様に誓ってくれるなら安心だね」


 エルフ的には先祖への誓いは重要なのね。

 

「じゃあ少しだけ、休ませてもらおうかな…」


 その言葉の直後、規則正しい寝息が聞こえてきた。

 やはりかなり無理をしていたみたいだ。

 こうして寝顔を見ているとどこにでも……は、いないな。超絶美少女だし。うむ、年相応の穏やかな寝顔ではある。これがどうしたらあそこまで怯えや怒り、恨みを混ぜた険のある表情を生むのか。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。