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転移先で最初の職業選択を間違えてもリカバリーは効く  作者: 葵あさ
1章

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活路

 冴えないオッサンとか地味な若者が危機に瀕した美女・美少女を助けて惚れられるラブストーリーとか良くあるよね。うん、俺も割と好きだよ。

 そんな期待が全くなかったと言えば嘘になるんだけど、現実は厳しいね。


「誰も助けて欲しいなんて言ってない。近寄らないで、変態」


 現在、助けたはずのエルフ少女に弓を向けられております。

 場所は蟲狼迷宮の一角。

 エルフ少女があまりにも暴れるものだから充分に距離を稼いだところで降ろしたのだ。


「変態って、俺何もしてないけど」

「……男なんて皆同じ。あなたがイヤらしい店に通ってるの見かけたよ。助けたからお礼に抱かせろとか言いたいんでしょ?」


 おうふ、そういやエンジェルリップから出たところ二回もエルフ少女に見られてたな。

 エルフ少女は見た目15~16歳ってところ。ファンタジーだとエルフの外見と実年齢は一致しないことも多いけど、この世界はどうなんだろうな。見た目相応の歳なら娼館に嫌悪感持っても不思議じゃないし、そうでなくとも冒険者連中からさっきみたいなアプローチを日常的に受けていたのなら男性不信になって当然だとは思う。


「別に見返りを求めて助けた訳じゃない。個人的な都合だから感謝もいらない。それで、これからどうする?連中まだお前を諦めてないだろ」

「お前って呼ばないで。私にはエレナ・シュラーデンっていう名前がある」

「……エレナを諦めてないだろ。最短距離を走って行けば連中より先にギルドに到着してこの件について告発することも出来たけど」


 こんなところで足止め(自滅)食らってるんだから、あいつらはとっくにダンジョン外へ出ただろう。そんで俺達が戻ってくるのをギルドとか街の入口で張ってるんじゃないかな?

 いや、ダンジョンの出入口にいる可能性もあるか。必ず通るんだし。

 流石に他の冒険者に目撃されるのは避けたいだろうから少し離れた場所で監視しつつ、周りに誰もいなくなったら襲ってくるとか?

 ……ありそうだ。


「……私が悪いって言いたいの?」

「言ってない」


 思ってはいる。


「これからどうするかの話をしてるんだ。……なぁ、その弓下ろしてくんない?あんまり恩着せがましく言いたくないけど一応命の恩人だよ?エルフって恩には仇を返すのを美徳とする種族なわけ?」

「っ!エルフはそんな恩知らずじゃない!でも……」


 信用はできない、か。

 目つきは鋭いが、その奥にあるのは怯えの感情だ。

 そんな状態の奴に正論をぶつけても話は進まない。だから感情面で攻める。


「故郷に病気の妹がいるんだ。あいつの薬代を稼ぐためにイステリアまで来た。才能なかったけど頑張ってDランクまで上がって、どうにか毎月薬代を送ってる。俺が死んだら妹も死ぬ。だから俺はこんなところで死ぬわけにはいかないんだよ」

「……死ねないなら、なんで私を助けたんだよ」

「分からない。けど妹も同じくらいの歳なんだ。それで気付いたら飛び出してた」

「………」


 こちらの真意を問うような目線をまっすぐに見つめ返す。

 瞳を見ていると罪悪感で目を逸らしたくなるから眉間を見つめる。これ、結構バレないから他人の目を見れない人にはお勧めです。

 しばし沈黙が続き――、


「悪かったよ。それと、助けてくれてありがとう」

「いや、状況的にエレナが警戒するのも無理はない。気にしないでくれ」


 ようやく弓の構えを解いたエレナを見て内心ガッツポーズを取る。

 そして存在しない幻の妹に感謝の祈りを捧げた。ありがとう、幻妹。

 ついでにそんな苦労人で家族想いの奴がエンジェルリップなんて高級娼館に通ってることを疑問に思わないようにしてくれ、と祈っておく。


「俺はトーカだ。よろしく」

「握手は……ごめん」

「いいよ。気にしてない」


 手を差し出すも握手は拒否される。

 まぁ警戒(強)から警戒(弱)くらいになったと思えばだいぶマシだ。


「話を戻すが、これからについてだ。エレナは俺達だけであいつらを突破して冒険者ギルドまで辿り着けると思うか?恐らくダンジョンの入口、もしくは街とかギルドの入口で連中は網を張ってると思うが」

「多分無理。あいつらクズだけどCランクだし、リーダーのグスタフはBランク近い実力があるって言われてる。素行が悪くて昇級できてないけど。対して私もトーカ…さんもDランク。数も負けてるし突破は難しいと思う」


 そうか、センパイの名前グスタフだったわ。


「トーカでいいよ。なるほど、じゃあダンジョン内で誰か冒険者に助っ人を頼むってのはどうだ?ギルドまでの護衛を」

「それも、難しいと思う。私、ゴートレス商会に借金があるんだ。で、さっきの奴らはそこの子飼い。ゴートレス商会はイステリアを中心にルカで手広く商売してる大店だからトラブルに巻き込まれるのを嫌がって誰も手を貸してくれない…」


 恨むような、諦めるような表情で語るエレナは、今までも同じ理由で手を差し伸べてくれる人はいなかったのだろう。


「あ、勘違いしないでね!借金を踏み倒そうとした訳じゃなくて――」

「分ってる。あいつらの下半身が暴走しただけだろ?」

「そ、そういうこと、です」


 つい先程、グスタフ達にはもっと過激なワードをぶつけていたくせに、こんなことで赤面するエレナが少しおかしかった。いや、気を張っていただけでこっちが素なのかもしれない。


 しかしエレナの言うことも尤もだ。

 大商会に睨まれるようなリスクを承知で助けてくれる冒険者がどれだけいるか。

 下手をすれば商会に恩を売るため一旦は護衛を了承しておいて裏切られかねない。


「……あ」

「どうしたの…?」


 考えてみればルカを拠点にしていない高ランク冒険者に伝手があるじゃないか。


「いけるかもしれない」


 問題はどうやって接触を図るかだ。



「ねぇ、本当にやるの?」

「やるよ。なに、ビビッてんの?」

「ビビッてない!でも10層突破はDランク2人でもぎりぎり行けるかもしれないけど、20層なんて……」

「いけるいける。Cランク冒険者4人相手にするよりは全然楽だって」


 そう言ってダンジョンをどんどん進んでいくのは命の恩人、とまでは言えないけれど貞操の恩人であるトーカと名乗る青年だ。

 グスタフ達に犯されそうになっていた私を助けてくれた。

 どうせ下心あってのことだと思ったけれど、どうやら妹さんと私を重ねて助けてくれたみたいだった。それなのに随分と酷いことを言ってしまったと反省した。


 トーカから提案されたのは、彼の知り合いの冒険者に助力を乞うこと。

 なんでも国外の冒険者らしく、もしかすると協力してくれるかもしれないと彼は言った。


 しかし案の定と言うべきか、1層の出口と転移陣付近にはグスタフ達が陣取って私達を待ち構えていた。これでは脱出も1層で件の冒険者達に接触することも出来ない。

 ではどうするか。

 トーカは言った。


「ジェイド達は23層で狩りしてるはずだから、そこまで行こう」


 この人、馬鹿なんだ。

 そう思った。

 Dランク2人で20層越え?なんの冗談?

 20層のボスであるキンググラスウルフはCランク中位。これはCランク冒険者2~4人での討伐を推奨される強さだ。Dランク2人でどうにかなる魔物ではない。

 確かに実質Bランクであるグスタフを含む4人と戦うよりは可能性があるけれど、それでも酷く分の悪い賭けだ。

 なのに何でこの人こんなに落ち着ているの?

 ――馬鹿だからか。 

 そんな失礼な結論に帰結する。


 でも極度に楽天的とも言えるトーカの態度を見ていると、自分の慌て様が滑稽に思えて来た。そうだ、私にはもう後がないんだ。退けばクズ共に捕まる。諦めて時間が過ぎれば契約魔法で奴隷堕ち。それならやれるだけやってみるのも悪くない。

 半ば自暴自棄になっていると自分でも理解している。

 それでも残された選択肢の中ではこれが一番前向きだとも思った。

 力及ばず朽ち果てようとも下衆共に身体を穢されるよりはマシだ。ただ巻き込んでしまったトーカと石化に苦しむ姉を想うと願わずにはいられなかった。

 どうか奇跡を、と。

 



 ――その願いは呆気なく叶った。

 10層のボス、Cランク下位のジャイアントデビルスパイダーと4匹のデビルスパイダー。

 ソロの私は絶対に挑戦しなかった相手だ。

 毒持ちで攻撃力も高い。その上複数体相手となれば弓しか取り柄のない私では勝ち目がないから。

 ボス部屋を開く前に何か作戦はあるのかとトーカに訊ねたが彼は「危なくなったら助けて」と言った。本当に馬鹿だ。そんなの作戦なんかじゃない。引き留めようとする暇もなくトーカは扉を開いてしまった。

 そして2分が経過した現在。私達の足元には首を綺麗に飛ばされて動かなくなった5匹の魔物の死骸が転がっていた。


 何が起きたの…?

 いや、分っている。見ていた。

 敵の素早い攻撃を、連携を、全て回避して脚を斬り落とし、首を斬り飛ばしたその光景を。

 ギリギリで、しかし全く危なげなく攻撃を避ける様はまるで予めどこに攻撃が来るのか知っているかのような動きだった。

 そして剣術も並みではない。以前見たCランクの剣士にだって劣らない。むしろ鋭さで言えばそれ以上かもしれない。


「綺麗…」


 呆然とした声が出る。

 その動き、足運び、剣閃。それらが一つの芸術のような美しさを持っていた。

 小さな呟きだ。届いてはいない。

 

 心を凍てつかせ、人を信じることをやめた。

 けれど微かに今、その心が熱を帯びた。

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