天使の本領
呪毒結晶の確保によって毒鱗粉採取の緊急性がだいぶ下がったこともあり、ここ数日はまったりとモス狩りをしている。狩りのついでに魔法の練習をしたり、蒼天と情報交換をしたりと充実した時間を送っていた。
そして、ついにその時が訪れた。
「うおおおお!キィタキターッ!」
「うるさいにゃー。他のお客の迷惑になるなら締め落としてやろうかにゃ?」
「ヒィェッ!?ごめんなさいすみません黙ります!」
「分かったら良いですにゃ。ほれ、掃除の邪魔ですにゃ」
「イエス、マム!失礼しまっす!」
なんか猫獣人ちゃんの俺に対する対応が雑なような…。
というか一瞬垣間見えたあの殺気は何なんだ。宿の従業員が出して良い殺気じゃねぇよ。怖ぇよ。
俺はそそくさと自室に戻り、猫獣人ちゃんに渡された手紙を読む。
差出人はエンジェルリップの副支配人。
内容は……やった!予想通りだ!
そこに書かれていたのは体調不良だったミリーシアが快復したので仕事に復帰すること。
もう一つ、こちらは全くの予想外だったのだが、復帰後最初の客に俺を指名したいので都合の良い日に来て欲しいとのこと。ホワイ?ワットハプン?
分からんけど俺の方はいつでも準備万端!という訳で今夜の予定は全てキャンセルだ、セバスチャン!俺は愛を探す旅に出る!
と、そんなテンションでエンジェルリップに向かった。
久しぶり…というほどでもないが、訪れたエンジェルリップは以前来た時よりも客の入りが少ないように感じた。女の子達に砂漠熱が広まったらしいから仕方ないのかもな。
入口のガードマンに会釈すると、屈強で強面の彼は俺の顔をマジマジと見つめ――ガシッと腕を掴まれた。ちょ、待ってくれ。僕は悪いお客じゃないよ!
「トーカ様ですね」
「そ、そうですけど…?」
「どうぞこちらに。副支配人がお待ちです」
「え、ええー?」
連れて行かれたのはスタッフオンリーの事務所。先に入ったガードマンに呼ばれて入室すると、そこには若いスーツの男性、副支配人と数名の黒服の姿があった。そしてこちらを見るやいなやなぜか全員が腰を90°に曲げた。
「えっと…?」
「トーカ様!」
「は、はい!?」
「この度は砂漠熱の特効薬に必要な毒鱗粉を調達して頂き、誠にありがとうございました!それだけでなく、トーカ様が採取した毒鱗粉を使用して精製した特効薬を我がエンジェルリップに優先的に回すよう交渉して頂いたとも聞き及んでおります!重ねて感謝申し上げます!ありがとうございました!」
「「「ありがとうございましたッ!!!」」」
うおっ!?凄い声量だな。体育会系かヤ〇ザって感じだ。副支店長はイケメンだけど目つきが鋭いし、他の黒服は明らかに堅気じゃないオーラ出してるし、顔に刀傷みたいなの付けてる人もいるしちょっと怖いよ。
しかしミリーシアの復帰後最初の客に選んでくれたことについては合点がいった。
エンジェルリップでも砂漠熱が広まっていると聞いた俺は、特効薬を優先してエンジェルリップに売ってくれるようランドに頼んでいたのだ。お気に入りの店で病気が流行るのは嫌だし、知り合いの女の子が病気に罹ったり、まして後遺症が残るなんてことになったら目も当てられない。材料を調達しているのだから少しばかり融通を利かせてくれないかな、と駄目元で頼んだのだけどランドはこれを快諾してくれた。このくらいの便宜はなんでもないとのこと。日本だったら袋叩きにされてSNSは大炎上しそうなものだけど、やっぱり倫理観とか常識って国とか地域で違うよね。
一応面倒なことにならないようにと思ってランドには口止めしてたんだけど、当事者の副支配人には伝えても良いと判断したのかな?その辺は商人であるランドの判断を信じてるから別にいいけど。
「俺も縁のある皆さんが病気で苦しむのは悲しいですから。少しでもお役に立てたなら良かったです」
「おお、なんと慈悲深いお言葉…。砂漠熱は治療が遅れては命に関わり、運良く助かっても後遺症が残り娼婦として働けなくなる恐ろしい病と聞いております。エンジェルリップはまさに存亡の危機と言っても過言ではなかったのです」
致死率は高くないけど後遺症の麻痺は治療が遅れるほど現れる可能性が高くなるし、程度も強まるらしいからな。麻痺がある身体では娼婦として働くのは厳しいだろう。
「それと、もう一つ個人的なお礼を」
「個人的な?」
「トーカ様もお気づきかもしれませんが、ミリーシアも砂漠熱に冒されていたのです」
「やっぱり…」
あのタイミングで体調不良となれば砂漠熱と結びつけるのは自然だ。
「そしてあろうことに、どうにか手に入れた特効薬をミリーシアは拒絶しました。自分よりも未来のある若い娘に使って欲しい、と」
「え?」
ミリーシアらしいと言えばらしいけど。天使みたいだもんな、あの人。
つかミリーシアだって全然若いけど、まぁそういうことじゃないんだよな。もっと年下がいるからってことだろ?
「ミリーシアは私にとって妹のような存在なのです。以前は首都テラリウムで共に働いておりまして、当店の支配人に誘われてからはここでも。頑なな所があるのは知っていたのです。だからこそ運命を呪いました。なぜミリーシアが、と。そんな時です、ランド殿が特効薬を抱えて訪れてくださったのは。天の救いのような思いでしたとも。しかし聞けばトーカ様からの願いであると言うではありませんか。トーカ様、私の家族を救って頂き、本当にありがとうございました」
再度、ゆっくりと頭を下げる副支配人。
本当にミリーシアを大切に思っているのが伝わってきた。
黒服たちも感涙している。申し訳ないけど強面のお兄さん、おっさん達が号泣しているのはちょっと引く。
「我々は恩には恩を。仇には仇を返すと誓っております。しかしこの大恩、どのように返したら良いか…」
「いや、本当に俺が好きでやったことなんであまり恩とか感じなくても」
「そうは参りません。我らの仁義が懸かっているのです」
仁義て。やっぱ任侠か。ヤ〇ザなのか。
何かしら提案しないと納得してくれなそうな雰囲気だけど、うーむ、思いつかん。
「じゃあ何かあった時に力になってもらえたら…」
トラップカード発動、先送りの術!
問題は先送りにされる!
これで有耶無耶にするのが日本人クオリティだ。
副支配人は神妙な顔で頷いていたが、そんな重く受け止めないで欲しいよ。マジで。
◇
強面軍団に直角お辞儀感謝攻勢をなんとか凌ぎ切ってロビーで一息ついていると、清楚さと色っぽさを最大限引き出すような度合でミックスしたドレスを纏った天使が現れた。
「お待たせ致しました。トーカ様」
「こんばんは、ミリーシアさん。待ち焦がれましたよ」
「ふふ、私もです」
またまたお上手なんだから。
いたずらっ子みたいなその笑顔100万点ですよ。
「この度は私を含め多くの娘を救って頂き、本当にありがとうございました」
「どういたしまして。副支配人さんにも言ったけど、自己満足でやったことだから気にしないでください」
「そうは言いましても…」
「どうしても気になるというなら、今夜は俺のことだけを想って頂けると嬉しいです」
「まあ!……分かりました。私の出来る最大限のおもてなしをさせて頂きますね?今宵は体調も万全ですので、トーカ様がご満足ゆくまでいつまでも愛し合いましょう」
ミリーシアは穏やかな笑顔なのになぜか背筋がゾクゾクッと来た。
最上級娼婦のオーラが滲み出たのか?
まぁ、こちらとしても盛大に望むところなので頷いて差し出された手を取り、ミリーシアの部屋へと向かった。
結論から申し上げよう。
――――凄かった。
前回もそのテクニックには舌を巻いたが、今日のミリーシアはその比ではなかった。
焦らされ、焦らされ、最高潮で爆発させられる。
こちらの性感帯を全て把握し、かつ意志を持つ別の生き物のようにくねり動く腰。
こちらが攻めたいと思えば直後には思った通りの体位になっているという不思議。
きっとミリーシアは天使なんだ。だから心の声も聞こえるのだろう。
溺れるような快楽の津波。しかしそれは一方的に与えられるものではなく、ミリーシア自身も感じ、その見事な身体を跳ね乱れさせていた。一緒に気持ち良くなれることが心を充足させてくれる。
「出ますよ、ミリーシアさん!」
「来てッ、来てくださいトーカ様!んああああああッ!!」
何度目になるか、数えるのも忘れた。
覆い被さったままミリーシアの最奥に欲望を吐き出す。
ミリーシアのミリーシアが痙攣し、締め付けが一気に増す。こちらに絡みついた細い手足にも痛いくらいに力が入る。
のけ反った喉も、上気した肌も、圧し潰されて形を変えた胸も、谷間を滑る汗も、口元から零れた唾液も、額に張り付いた前髪も。
頭がくらくらするほどの色香を放っている。これが天使か。最高です。
途中、何度か休憩を挟みながらも結局朝までヤッてしまった。猿かな?猿だね。ごめんなさい。ベッドもミリーシアの身体も色んな体液でグチャグチャになってしまった。途中で着替えてもらった黒セーラーも同じくグチャグチャになってベッドの端に置かれている。黒セーラーのミリーシアもどこか背徳的でヤバかった。ヤバヤバのヤバである。語彙?知らん。幸せ過ぎると人間語彙を失うんだよ。
ミリーシアはダウンせずに最後まで付き合ってくれた。しかも疲れた顔も見せないんだから流石超一流だよね。
朝になって、ミリーシアと階下のレストランで食事を摂っていると十数人の女性に囲まれた。
聞くと彼女達は砂漠熱に感染していたここの娼婦だという。特効薬の件で感謝を述べられ、お礼に無料でお相手するのでいつでも指名してほしいと言われた。あらまぁ、そんな気はなかったけど据え膳喰わぬは男の恥じだってじいちゃんも言ってたからその内お世話になることにしよう。じいちゃん、俺、人生楽しいよ。
「他の娘ばかりじゃなくて、私も指名してくださいね?」
別れ際、耳元で吐息多めで囁いてきたミリーシアは天使ではなく小悪魔の顔だった。
ふむ、色んな属性を使いこなせるのか!最強だな!
大満足でエンジェルリップを出たところで周囲を見渡す。
右、左、もっかい右!
……うん、あのエルフ少女はいないみたいだ。
エンジェルリップから出る度にあの子に見られてたから変に警戒してしまった。
別にやましいことはないんだけどね。
さて、宿に帰って寝るとしますか。今日は良い夢見れそうだ。




