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転移先で最初の職業選択を間違えてもリカバリーは効く  作者: 葵あさ
1章

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33/86

人面蛾

 毒鱗粉集め四日目。

 今日も今日とて朝から蟲狼迷宮24層でモス狩りである。

 魔力感知が磨かれたお陰でかなりのペースで毒鱗粉が集まっている。

 昼頃になって蒼天が顔を出したので休憩を兼ねて少し会話をした。

 昨日ランドの万屋を紹介したのだが、早速彼らは店を訪ねて投げ網を購入したそうだ。

 昼までダンジョンに潜らなかったのは万屋に寄っていたからかと訊くと、どうやらジェイドが二日酔いでダウンしていたせいらしい。だいぶ飲んでたからな。今も少し顔色悪いし。寝坊もしたらしくフェイにクドクド言われていた。 


 軽く会話をした後、蒼天は狩り場を23層の大通路にすると言って去って行った。この大部屋ほどではないがモス系ばかりがハイペースで出現する通路だ。まぁ彼らならDランクの魔物に不覚を取ったりはしないだろう。別れ際にフェイから「無理しないでね」との言葉と一緒に小さな袋に入ったクッキーを渡されたのだが、もしかしてモテ期というヤツでしょうか?うん、勘違いだろうな。なんか可哀想な目で見られてたし。なんなんだ。


「腹減ったな」


 もうすぐ夕食時だ。

 魔力探知の精度がどんどん上がっていくのが楽しくて熱中してしまった。魔力制御はそこまで伸びていないのだが、そっちも少しずつは成長している。

 こうやって目に見えて成長が感じられるのはモチベーションに繋がるな。

 対してステータスの成長はここに来て停滞していた。


 名前:トーカ・フジクラ

 レベル:23→24

 ギフト:エナジードレイン

 戦闘スキル:剣術Ⅱ、体術Ⅱ、身体強化Ⅱ、敏捷強化Ⅱ、剛力Ⅱ

 魔法スキル:雷魔法Ⅱ

 耐性スキル:電撃吸収Ⅰ、毒耐性Ⅲ、麻痺耐性Ⅱ、火耐性Ⅰ

 特殊スキル:アイテムボックスⅡ、遠見Ⅰ、暗視Ⅰ、危機感知Ⅰ

 余剰生命力:675→2403

 スキルポイント:2.5

 所持金:408万2000リラ


 毒鱗粉納品依頼を受けてからモススレイヤーと化していた俺はポイズンとパラライを合わせて2000匹くらい倒している。しかし上がったレベルはたった1のみだ。モスではこれ以上レベル上がらないようだ。

 国民的RPGであるボールでモンスターを捕まえるゲームとかドラゴンをクエストするゲームなら雑魚を倒しても経験値が入るけど、この世界のレベリングシステムは力量差があり過ぎると経験値入らない。加えてパワーレベリング対策もされているので高レベルを目指すとなればリスクを取るしかない。


 本日の収穫は45瓶。過去最高だ。

 35瓶でもランドは狂人を見る目を向けてきたからどんな顔されるかちょっと心配だな。


「今日はこの辺で切り上げるとするか――ん?」


 脳内に危機感知の警報が突如鳴り響いた。

 ボス部屋でもないのに危機感知が反応するのは初めてだ。というかここはモス系しか出ないはずじゃ?

 魔力探知で索敵を行うと大部屋の奥に魔力が集中していくのが伝わって来た。どうやら天井と床から魔力が溢れているようだ。

 膨大な魔力が渦を巻いている。


 なんぞ、これ。


 ダンジョンの構造物は大抵魔力を帯びているものだが、あんな風に魔力を吹き出しているのは見たことがない。

 呆気に取られて眺めていると、魔力の奔流が徐々に形を持ち始め物質化していくではないか。

 姿を現したのは歪な人面を持った巨大な蛾。

 人面以外はレッサーポイズンモスに似ているが2m程と巨大で、羽根の模様もどこか禍々しい。


 なんだこいつ。こんなのが出るなんて情報なかったけど…。

 いや、もしかして変異体か?


 戸惑いながら様子を見ていると、眼球のない落ち窪んだ眼窩がこちらを見た。

 その瞬間――


「ギュギャギャギャギャ!!」


 うわ、キッモ。

 落書きのような口から唾を飛ばして耳が痛くなる不協和音を発してきた。

 ポケ〇ンの技で言えばいやなおとだな。


 人面蛾は俺をターゲットに定めたらしく、こっちへ向かってくる。

 速さはレッサーモス達と同等。これなら投げ網で余裕でしょ、と油断があったのは確かだ。

 放った投げ網は人面蛾に届く寸前で不自然な風に阻まれて落下してしまった。


「風魔法を使えるのか!」


 人面蛾は羽ばたきと共に風の刃を撃ち出してきた。


「うおっ!?」


 風魔法は無色透明なので目で見て対応するのは難しいが、魔力探知を使っていれば回避することはそう難しくはなかった。

 初撃は面を食らったが2発、3発と連続射出される風の刃を転がりながら躱す。

 何とかなりそうかな。そう思った時、風の刃が地面を抉った。

 ジュ!と焦げるような溶かすような音が耳朶を打つ。

 見ると風の刃が当たった場所はドロドロに溶けていた。しかもなんかぶくぶくと泡立っている。


「なんだ…?」


 酸?毒?

 分からないけどあれに当たるのは不味い。

 人面蛾は自身の有利を確信しているのかニマニマと嗤っている。


「ゲギョギョギョ!」


 距離を取って風の毒刃を乱射してくる人面蛾。安全地帯からの一方的な遠距離攻撃かよ。効率的でいいよね。ただやるのは良いけどやられると癪に障るな。

 まぁ、そこは安全地帯でも何でもないんだけど。

 俺は宝箱から回収し、アイテムボックスにストックしてあった投槍を取り出して構えた。

 彼我の距離は約30mと少し。この距離なら高校生でも届く。

 投槍を見た人面蛾は馬鹿にしたように嗤う。きっと風魔法で妨害するか躱せばいいと思っているのだろう。

 果たしてそう上手くいくかな?

 左手を前に狙いを定め、槍を持った右手をぐぐっと後方へ引く。

 降り注ぐ毒風の刃は最小限の動きで躱し、一瞬の隙をついてステップ。

 脚から腰、背、肩、腕、手首へと力を伝導させ槍を解き放つ。

 身体強化と剛力スキルマシマシであるのと、戦場で黒ドレスのフォームを観察した経験が活きた。槍は轟ッ!と大気を引き千切りながら高速で飛んで行き、人面蛾の風魔法を容易く粉砕、人面の眉間に突き刺さった。


 ドゴオッ!


「違うな…」

「ギ、ギョギョ…?」

「あいつのはもっと静かで、鋭かった」


 流石に見様見真似で達人の技を盗むのは難しいか。もう少し近くで何度か見れば違うのだろうが、その条件が整った場合俺は確実に死んでいるだろうし。

 壁に磔になった人面蛾は何が起こったのか分からないと言いたげな声を上げたが答えてやる義理もない。そのまま止めを刺そうとして近寄ると、人面蛾の身体は光の粒子になって消えてしまった。どうやら魔石を砕いたようだ。

 魔石は急所であり、砕かれた魔物は即死するため生命力の強い魔物や防御の堅い魔物を倒す際は魔石を狙うことが多い。魔石を砕いた分収入は減るが、状況次第では選択肢に入ってくる。


「……変異体は死体残らないんだったか」


 変異体は死ぬと身体が魔素に還元されてしまうため素材の剥ぎ取りは出来ないし、魔石を避けて倒しても魔石を回収することも出来ない。

 強力な力を持った代償だとか、本来存在してはいけないものだからとか諸説があるそうだ。


「ドレインできたらあの毒風のスキル手に入ったかもしれないのに勿体ない。うわ、槍も壊れてるじゃん。まぁ木箱から出た奴だもんなぁ」


 ただ、変異体との戦闘が骨折り損のくたびれ儲けという訳ではない。魔石も死体も残らない代わりにアイテムがドロップすることがある。

 人面蛾がいた場所になにか落ちている。暗い紫色の結晶のようだ。


「これは…?」



「これは呪毒結晶ですね」


 ランドはルーペ型の魔道具を覗き込みながら言った。


「呪毒結晶?」

「毒の性質を持った呪いが結晶化したものです。使いようによっては少し危険なものですが…どこでこれを?」

「蟲狼迷宮です。モス系の変異体と遭遇して討伐したんですけど、魔石を壊したみたいで魔物は完全に消滅しました。その後に残されてたんでドロップアイテムだと思います」


 通常、魔石を砕かれた変異体は魔素へと還元されて何も残さないが、魔力を強く帯びた身体の一部を残すことがある。それがドロップアイテムだ。

 ドロップアイテムが残る確率は変異体の強さや様々な影響で変わるらしい。今回は運が良かった……いや、危険な物だって言うし運が悪かったのか?


 人面蛾について説明するとランドは得心がいったように唸った。


「なるほど、確かに変異体ですね。トーカ君なら遭遇して当然でしょうな」

「変異体ってセーフティゾーンにしばらくいると出てくるっていう滅茶苦茶強い魔物って聞いたんですけど。俺、別にセーフティゾーンに居座ったりしてないですけどね」

「変異体はダンジョンの防衛反応と言われているんですよ。セーフティゾーンの長時間滞在もそうですけど、ダンジョンにとっての不都合なこと、例えば同じ種の魔物を大量に狩ったりダンジョン自体への破壊行為なんかでも変異体は出現する可能性があります。ギルドで教わりませんでしたか?」

「あー、そう言えば…」


 思い返してみればリディペディアがそんなことを言っていたような?

 あんまり関係なさそうだなと思って忘れてた。てへ。


「ともあれ、この呪毒結晶があれば特効薬の生産はかなり捗りますよ。これも買い取らせて頂いて大丈夫ですか?」

「買い取りはもちろん。けどソレも特効薬の精製に使えるんですね」

「この呪毒結晶にはモス種の毒が高濃度で封じられているので、錬金魔法で少しずつ抽出して使うことになります。これで大体毒鱗粉100瓶分くらいですかね」

「そんなに!?」


 100瓶と言ったらレッサーポイズンモス1000匹分に相当する。

 というか錬金が存在するのか!

 錬金術っていいよな。某鋼のおチビさんみたいな人もいるのだろうか。

 非常に興味があるが今はこっちに集中だ。

 

「恐らく今確認されている砂漠熱の患者に投与する分の特効薬は、この呪毒結晶があれば足りるでしょう。ただこれからも患者は増える可能性がありますし、ストックは必要です。トーカ君にはもうしばらく毒鱗粉を集めて頂きたいのですが…」

「ええ、もちろん。乗り掛かった舟ですし、一区切りつくまではやりますよ」

「ありがとうございます。さて、では呪詛結晶の買い取り価格ですが――」


 交渉の結果、呪毒結晶は金貨120枚で買い取ってもらうことになった。

 懐が温かいなー。

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