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転移先で最初の職業選択を間違えてもリカバリーは効く  作者: 葵あさ
1章

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31/86

結局タダ飯とタダ酒が一番美味い

 冒険者用の装備から黒のパンツ、白いシャツというシンプルな私服に着替えて銀の雀亭に向かった。

 銀の雀亭はイステリアの宿でもかなり上のランクだ。流石に風呂まではないが部屋が広くて普通にシャワーもある。上級冒険者や豪商、たまに貴族なんかも利用することがあるそうだ。やはりBランクパーティともなれば金回りも良いみたいだな。この宿なら一泊金貨4~5枚はいくだろ。まぁBランク相当の依頼は金貨3桁も普通にあるから支払いは余裕だと思うけど。

 受付で蒼天のジェイドを呼んでもらい、ロビーのふかふかなソファに身を預けて待つこと10分ほど。蒼天の4人が姿を見せた。

 全員が私服…杖さんがぴっちりとしたワンピースを着ているせいで胸元がけしからんことになっている。対して双剣さんは短パンに短めのシャツ。チラ見えするおへそと太ももが健康的で素晴らしい。大平原だが。


 そんな異世界格差社会は見て見ぬ振りをしてジェイドに声をかける。


「どうも、奢ってもらえると聞いてやって来ました」

「おう、待ってたぜ!それにしても『投げ網』はないだろ」


 ジェイドも他のメンバーも可笑しそうに笑っている。

 宿の従業員に俺の名を尋ねられた時に『投げ網』と答えたのを聞いたようだ。

 ダンジョンでは名乗っていなかったからトーカと聞いても「誰?」ってなるかと思ってそう伝えてもらったのだが、どうやら彼らのツボに嵌ったようだ。


「じゃあ改めて、トーカです。よろしく」



 蒼天はルカ共和国の西~南西に位置する大国『グランフォレスト王国』を拠点に活動しているパーティで、今は護衛依頼でイステリアを訪れているらしい。ふむ、最近はグランフォレストに縁があるな。蒼天といい、大森先輩の本といい。


 メンバーはワイルド系のイケメンで大剣使いのリーダー、ジェイド。

 長身で冷静そうな眼鏡の男、盾と槍を使うエリック。

 平たいが健康美溢れる元気な双剣使いのフェイ。

 おっとりお色気お姉さんの魔法使い、ナタリア。

 この4人だ。


 俺達は酒と料理を出すちょっとお高めの店で軽い自己紹介と世間話をしながら食事をしていた。個室なのでゆったりと食事に集中出来るのも良い。今度1人でも来よう。


 食事が一段落して食後の酒を舐めているとジェイドが切り出した。


「俺達はもうすぐグランフォレストに戻るんだけどよ、その前にイステリアでちょいと稼がせてもらおうかと思ってんだ」


 冒険者同士で敬語なんて使うなよ、水臭い。的なことを言われたので俺もタメ口で答える。


「そうなの?けどイステリアってあんまり割の良い依頼ないだろ」

「そうなんだよ。交易都市だけあって周辺の魔物はきっちり間引かれてるし、ダンジョンもCランクだからそこまでの稼ぎにゃならねぇ。護衛依頼は良いのがあるが、長期で拘束されちまうからな。んで、今朝ギルドで聞いたんだが、薬に使うってんで毒鱗粉の買い取り価格が上がってんだろ?」

「ああ、うん。砂漠熱ってのが入って来たんだって。知ってる?」

「いや、聞いたことねぇな。エリックはどうだ?」

「砂漠熱……砂漠の国ガルバハン王国の風土病だね。グランフォレストの南東部はガルバハンと接している地域があるから聞いたことあるよ。でもあれは媒介する魔物が限られてるし、その魔物も砂漠以外の環境を嫌うからガルバハン以外ではほとんど見ない病のはずだよ」


 エリックは見た目通りクールで知的なタイプらしい。砂漠熱についてもかなり詳しい。


「エリックの言う通りなんだけど、魔物の活性化の影響なのかイステリアの南部にデザートフロッグが出たんだって。そこからイステリアに持ち込まれたみたいだよ」

「なるほど……活性化の影響で風土病が他の地域に蔓延する可能性もあるのか」


 ふむふむと興味深そうにしているエリック。

 ジェイドが話を続ける。


「困ってる奴らを放って置けないし多少は金にもなるってんで俺達も毒鱗粉を集めようっつー話になったんだが、中々上手くいかなくてな」

「そうそう。あいつらポイズンとパラライがコンビで出てくるじゃない? 2~3匹ならなんとかなるんだけど5匹とか来られると鱗粉も躱しきれないんだよね。状態異常になったら解毒剤で赤字になるし。前潜った時は楽だったなぁ。ナタリアの魔法で一発だったもんね」

「採取だと私の火魔法も相性が悪いんだよねぇ。鱗粉ごと燃やしちゃうからぁ」


 ナタリアは火魔法使いなのか。確かに鱗粉の採取が目的だと火魔法は相性最悪だな。

 ジェイドがため息を吐く。


「4~7層に潜ってた他の連中も似たようなものだったな。一組良い感じに採取してる奴らもいたが、弓持ちが2人いたから俺達じゃ参考にならん。で、もっと下の階層で上手くやってる奴がいないか見てみようって話になって見つけたのがお前だ」

「ああ、俺の投げ網か」

「くくっ、そうだ」


 投げ網、と言うと宿でのことを思い出したのかジェイド達が吹き出しそうになった。

 おうおう、そんなにツボったのか。


「まぁそんで、本題なんだけどよ。俺らもアレ使って良いか?」

「ん?投げ網を貸してくれってこと?」

「違う違う。モノはこっちで用意するさ。俺が言いたいのは戦闘スタイルを真似てもいいかってことだよ」


 なんで俺に許可を求めてくるんだ?

 投げ網の特許なんて持ってないぞ。


「良いんじゃない?てか許可なんか取らんでも真似たらいいじゃん」

「そんなあっさり。良いのか…?」


 戸惑い気味のジェイド達に詳細を求めると話が見えてきた。

 どうやら俺が24層でソロ狩りをしていたのは投げ網を使った効率の良い毒鱗粉採取法を秘匿するためだと思っていたらしい。しかも暫定Cランクダンジョンの24層にソロで潜っていたことから俺を高ランク冒険者だと誤認した。偶然俺の狩り方を知ってしまったジェイド達は悩んだ。投げ網を使えば自分達も毒鱗粉を集められるが、地元の高ランク冒険者の秘匿している狩り方を外様の自分達が勝手に真似しては角が立つのではないか、と。

 そこでジェイドの機転(ジェイド談)によってこの懇談会を開き、俺に投げ網使用の許可を求めることになったそうだ。


「誤解があるようだから訂正しておくけど、俺は高ランクじゃないよ。ほら」


 そう言ってDランクのギルドカードを出すとジェイド達は驚いたようにそれを見た。


「D!?なんでDランクが蟲狼迷宮の24層にソロで潜ってんだよ!どんだけ危険か…あ、いや、お前なら問題ない…のか?ん?」

「落ち着きなよジェイド。トーカは何らかの事情でランクを上げていないんじゃないか?普通のDランクじゃないことは僕らが実際に見ただろう?」

「お、おう。そうだったな。あんな大量のモス共に囲まれて平然と狩りを続けてるんだから実力は疑うべくもねぇ。しかしDとは驚いた。最低でも俺らと同じBランクだと思ってたからよ」

「高く評価してもらえて嬉しいけど、見ての通り俺は下級冒険者だよ。それに24層に居たのも狩り方を独り占めしようとしたんじゃなくて今の上層だとまともに毒鱗粉が集まらないと思ったからだし」


 金に釣られたのか地元愛なのかレッサーポイズンモスの出る4~7層には冒険者が大挙して押し寄せている。しかも毒鱗粉の採取などやったことのない者が大半だ。

 その混沌具合はジェイド達も見て来たのだろう、納得の表情を浮かべた。


「ま、まぁあの状況じゃ落ち着いて狩りなんか出来ねぇよな…。けどそうか、Dか。なんでランク上げねぇんだ?」

「色々あるんだよ。詮索しないでくれると助かる」


 そう、ソロでダンジョンに潜ってると知れたらとある受付嬢に雷を落とされるとか。

 ギルドに素材の納入をしてないから貢献度が上がらなくてランクアップも出来ないんだ。

 などと説明するのは面倒なので適当に濁しておく。


「他人の事情を詮索するのはナシでしょ、ジェイド」

「そうだねぇ。冒険者なら特にねぇ」

「ああ、悪りぃなトーカ。この通りだ」


 女性陣の追撃もあり、ジェイドが頭を下げる。

 別に深い理由がある訳じゃないのでそんなに謝罪する必要はないんだけど…。


「気にしてないから謝らなくていいよ。それより話を戻すけど、投げ網のことなら使って良いよ。というか俺にそれを制限する権利なんてないし、真似たからと言ってこの都市で活動しづらくなることもない」


 誰も文句言わないからね。


「なんなら俺が投げ網を買った店も教えるよ」


 つーかそこで買ってくれ。たまにはランドに恩返ししないと。


「対価は?」

「対価なんて」

「要らねぇとか言うなよ。投げ網で得られる利益を考えたら流石にこっちが貰い過ぎだ。冒険者は持ちつ持たれつだけどよ、一方的に良い思いをすんのは良くねぇ。具体的には俺らの精神的に」


 律儀な奴だなぁ。

 それに同意している他のメンバーも。似た者同士のパーティのようだ。


「ならこの店の払いと、イステリアにいる間はなるべく他の依頼を受けないで毒鱗粉を集めてくれないか?もちろんそっちのパーティ的に可能な範囲でいい」

「そりゃ良いが、それだけか?」

「うーん、そうだな。対価はそれだけで。もう一つ、こっちはお願いというか提案なんだけど」

「…言ってみてくれ」


 あ、ちょっと警戒されてる?

 変な話じゃないぞ。


「実はさっき話してた砂漠熱の感染経路を特定したと言うか、ここなんじゃない?って見当付けたの俺なんだよね。で、都市議会から表彰されそうなんだけど、俺Dランクじゃん?あんまり目立つとこれからやり辛くなるから代わりに表彰されてくれないか。あ、報奨金はこっちで貰うんだけど」

「……マジ?」

「マジマジ。結構困ってる」

「そら困るよな。冒険者って奴は性根の腐った奴も多いしよ。…ちょっと相談させてくれ」

「もちろん」


 蒼天の相談タイムのようだ。

 俺はオーク肉の燻製を摘まみにエールを流し込んでその成り行きを眺める。

 

「私は…まぁ良いと思うよ。けどちょっとバランス悪いかな」

「わたしもフェイと同意見ねぇ。トーカくんはお願いって言ってたけど、タダで名声を得られるんだからこっちの取り分が多過ぎかなぁ」

「僕も異論ないよ」

「皆の意見は分った。俺も賛成だ」


 どうやら意見が纏まったようだ。


「聞いての通りだ。トーカの申し出を受けるぜ。それとやっぱり俺らの方が貰い過ぎだ。謝礼は支払わせてもらうぞ。悪いが貸し借りは極力避けたいんだ」

「お、おん…じゃあ有難く頂くよ」


 有無を言わせないジェイドの口調に頷く。確かに貸し借りを有耶無耶にしていたら後でトラブルになる可能性もあるもんな。もしかしたら蒼天はそれで嫌な思いをしたことがあるのかもしれない。

 と、真面目な表情から一転、ジェイドは人好きのする笑顔を見せた。


「うし、固い話はこれで終わりだ!さぁもっと飲めトーカ!ここの支払いも情報料の内なんだ!遠慮すんな!」


 その後たらふく飲んだジェイドは路地裏で勢いよくリバース。同じくらい飲んだ俺は全く酔いが回っておらず蒼天のメンバーから慄かれた。毒耐性のせいかあんまり酔えなくなってんだよね。

 消毒用に買った高濃度アルコールならそれなりに酔えるんだけどお高いからなぁ。

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