猿でも分かる魔法基礎2
ミリーシアとの逢瀬が立ち消えになった俺は宿の自室で魔法の訓練を続行することにした。夜の予定がなくなったが、他の娼婦と遊ぶ気にもならなかったので残りの時間は全部訓練だ。俺の熱いリビドーをパッションに変えてセンチメンタルをファラウェイするんだ。ちょっと何言ってるか分からないかもしれないが大丈夫。俺も良く分からん。ミリーシアに会えないのが残念過ぎて放心状態なんだ。
しかし魔力制御の訓練には、この放心状態がプラスに作用した。
真の放心とは一切の雑念が排除された状態のこと。それは魔法初心者である俺にとってこの上なく魔力感知と魔力制御がやりやすい環境でもあった。
つまり何が言いたいのかというと、魔法の訓練はめちゃくちゃ捗った。魔力ブーストをしなくても魔力感知できるようになったし、なんなら1時間くらいぶっ通しでも大丈夫。加えて魔力制御もだいぶ成長した。魔力の加速は通常時の2倍、遅延は1/3程度まで操れるようになった。その後は指先に集中させたり、逆に全身に均等に魔力を循環させたりと色々試しているうちにミリーシアに会えない悲しみが薄れていった。趣味で寂しさを埋めるのは悪くないんだけど、あまりやり過ぎると人に会わなくなるから気を付けないとな。
さて、魔力制御もちょっとは形になってきたし、そろそろ次を読んでみるか。
「またまたおめでとう!魔力制御も習得したみたいだね。熱心な弟子を持てて師匠は嬉しいよ。さて、ここまで来たら魔法の発動までは後少しだ。魔法の発動、つまり魔法構築は前述した通りイメージで行うんだ。そのイメージが具体的であればあるほど良い。ぼんやりと「すごく強い火の魔法」ってイメージじゃ全然火力が出ないし、無駄に魔力消費も多くなる。イメージするなら「直径50cmの火球、摂氏2000℃、手の平から150km/hの速度で射出、直進して障害物に当たった時点で爆散、周囲5mに炎をばら撒く」みたいな感じでやった方が良いね。もちろん魔力制御と魔力量が足りていなければいくらイメージしてもその通りには発動しないし、魔法の性能によって必要な魔力量は多くなるから、魔力欠乏には気を付けてね。まぁその辺の匙加減は実際にやってみて試行錯誤するしかないけどね。ちなみにワンポイントアドバイス。魔法の生成位置は自分の近くにした方がいいよ。生成位置が術者から離れるに従って消費魔力が指数関数的に増えるし暴発の可能性も高くなるんだ。精々50cmくらいまでが実用的な距離かな。例外は魔法発動に適した媒介が存在している場合かな。それと、いくら至近距離にいても他者の体内に直接魔法を生成したりも出来ないから注意ね。魔力抵抗が関係してるんだけど、これはまた別の機会かな。
それじゃあこの『猿でも分かる魔法基礎』はこれでおしまい。
魔法は無限の可能性があるし、鍛錬次第ではどんどん強くなるからしっかり励むように。
他にも本を書いてみるつもりだから、もしかしたらまた会うかもね。その時はよろしく。
願わくば、君がこの世界で大切なものを見つけられますように。
そして、それを守り通せますように。
同郷の先輩として暖かく見守っているよ」
後から来るかもしれない後輩のためにこんな有用な本を残してくれるなんて…。
大森先輩…。
あんた、偉大なお人やで…と感動していたら裏表紙の見返しに落書きを発見した。「ハーゲン〇ッツ食べたい!!」って書いてある。うん、こっちでは普通のアイスは作れてもハーゲンの再現は難しいだろう。大森先輩の無念さが伝わってくるようだ。気持ちは分る。俺も無性に牛〇を食べたくなる時がある。どうにか〇角のタレに近い物が手に入らないかランドに聞いてみたが、そもそも焼肉文化がないらしく入手の目途は全くない。
大森先輩の無念を想うと目頭が熱くなるな。他人事とは思えないし。
時計を見ると時刻は日付が変わって深夜2時。
かなり没頭していたみたいだ。
気になることはあるが今日はこのくらいにして寝るとしよう。
俺は本を閉じてベッドに寝転がった。随分疲れていたようで意識はすぐに沈んでいった。
◇
翌朝、今日は朝から魔法の訓練をしようと思いながら宿の食堂で朝食を取っていたところに、猫獣人ちゃんの従業員が声をかけてきた。
「トーカさんにお客様が来てますにゃ」
「お客さん?誰かな」
「万屋カーターのシュスカと名乗っていたにゃ。お通ししますかにゃ?」
「シュスカさんが?分った。もう食べ終わるから俺が行くよ。ロビーに行けばいい?」
「はいですにゃ」
食器の片付けを猫獣人ちゃんに頼んでロビーに向かうと見覚えのある20代後半の女性がいた。
万屋の従業員であるシュスカだ。
彼女は俺の顔を見るなり切迫した様子で切り出した。
「急に申し訳ございません、これからお時間を頂けないでしょうか。旦那様から緊急の依頼がございます」




