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転移先で最初の職業選択を間違えてもリカバリーは効く  作者: 葵あさ
1章

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猿でも分かる魔法基礎1

『猿でも分かる魔法基礎』


「やあやあ、この本を読んでるってことは君は日本人か、もしくは地球出身で日本語が読める人ってことだね。どうも初めまして。私は大森朱莉(おおもりしゅり)。こっちではシュリ・グランフォレストと名乗っているよ。この本を書いてる時点で結構有名人だから知っているかな?まぁ君がいつこれを読んでるか分からないけど、グランフォレスト王国がなくなっていないといいな。一応私が仲間と一緒に興した国なんだ。もしこの本を読んだ君が少しでも私に感謝してくれるなら、グランフォレスト王国がピンチの時には力を貸してほしい。褒美はあげられないけどね。何せその頃私は墓の下だ。アンデッドにでもなっていれば話は別だけど。ははは、異世界ジョークさ。面白かったかい?


 さて、前置きはこのくらいにして本題に入ろう。

 魔法の使い方だ。君、魔法スキルを持っているのに魔法が使えないだろう?ああ、驚かないでくれ。この本には魔法がかけてあってね、そういう条件の人の元へ行くようになってるんだ。希代の大魔法使いにして私の親友、アルテマ・イルヒュテンの魔法だからね。問題なく作動している前提で話を進めるよ。


 この世界の人間は魔法スキルを手にした時点で魔法を扱える。もちろん習熟には相応の鍛錬や勉強は必要だけど、スキルを持っているのに全く使えないってことはない。けど私達異世界からやって来た人間は別でね、スキルがあってもどうやって発動したらいいか分からないんだ。私も愕然としたよ。せっかく魔法スキルを手に入れて魔法少女になったというのに魔法が使えないんだもの。そんなの魔法が使えるのに敵を殴り飛ばす日曜朝の変身ヒロインと一緒じゃないか。まぁ私はあれも好きだけど、せっかくなら魔法が使いたいだろう?そこでアルテマと一緒に色々と検証して、私達異世界人(こっちの人から見たらね)でも魔法が使えるようになる訓練方法を編み出したわけだ。それをこれから教えてあげよう。感謝の祈りを捧げながらありがたく読み進めるように」


 ……うむ。色々とツッコミどころや驚愕の事実があるな。

 著者が日本人だったり、それがグランフォレスト王国を興した人物だったり、性格が随分とフランクだったり。

 俺としては魔法が使えるようになればいいから、あまり他の情報は気にせずに読み飛ばしていこう。


「まず魔法を使うには魔力感知、魔力制御、魔法構築の3工程が必要になるんだ。魔力のない世界で生きていたせいか、その内の魔力感知と魔力制御が私達はちょっぴり下手でね。こっちの人達がほとんど無意識に出来ている感知と制御はかなり意識的にやらないと魔法発動まで持っていけないんだ。例えるなら、そうだね。魔法スキルを持った地球人は、脚ひれとシュノーケルをつけた水泳経験ゼロの人って感じだ。泳ぐための準備は整っているけど、泳ぎ方を知らない。伝わるかな?

 だから泳ぎ方、つまり魔力感知と魔力制御を訓練する方法をこれから説明していくよ。ちなみに魔法構築はどんな魔法を発動させるかイメージするってだけだから、君には簡単でしょ?形状、威力、効果時間、速度、範囲、弾数なんかを詳細にイメージ出来ればそれだけ精度も威力上がるし、即座にイメージが出来れば連射することも出来る。こっちの人は逆に魔法構築が苦手みたいだから魔力感知と魔力制御をしっかりマスターできれば腕利きの魔法使いとしてやっていけるはずだよ。


 それじゃあ早速、魔力感知からだね。

 魔力の源は魔素。この世界の様々なものに含まれている魔素を取り込んで、身体の中で魔力を生成しているんだ。それは空気だったり、食べ物、水。体内に取り込むほとんどの物に魔素は宿っている。取り込んだ魔素は体内…特に心臓に蓄積され、魔力を生み出す。食事でも微量に魔素保有量は増えるけど誤差程度かな。大幅に上げたいならレベルアップが必要になるね。

 魔力感知の方法だけど、心臓に意識を集中して。平時、人体で一番魔素が集中していて魔力が濃いのが心臓なんだ。そこから送り出される血液は魔力を豊富に含んでいる。だから血液の動きを追ってみよう。全身を巡る血管を意識して。心臓から伸びる動脈、身体の隅々まで行き渡る毛細血管、そこから静脈を通り心臓へ。肺動脈から肺を経て酸素と魔素を取り入れて心臓へ戻ってくる。心臓を起点に血液が循環しているのと同じく、魔力も循環してる。楽な姿勢でその循環だけに意識を傾けて。そうすれば自然と魔力の存在を理解できるはずだよ。もし君の魔力が少なくて分かり辛いようなら魔力ブーストを試してみようか。細胞一つ一つから魔力を生み出すようなイメージするんだ。生み出した魔力が血管を流れるのは同じ。私はこれをした方が魔力を出せるんだけど、この世界の人は細胞についての具体的にイメージ出来ないせいか逆効果だったんだよね。まぁ合う合わないがあるから色々試してみてよ。続きは魔力感知が出来たら読めるようにしておいたから、まずは魔力感知からやってみよー」

 

 続きを読もうとしたが日本語がバラバラに配置されていて意味をなしていない。

 魔力感知を習得したら読めるようになってるのかね?

 開いたまま本を置き、俺はベッドの上で横になって目を閉じた。

 本に書かれていた通りのイメージを頭に思い浮かべる。

 思い浮かべるのは中学の理科で勉強した血液の循環図だ。

 呼吸で魔素を取り込み、肺から心臓へ。

 魔素から魔力を作り出して全身へ送る。

 深く集中する。深く、深く。もっと深く。

 一切の情報を遮断し、呼吸と循環だけに集中する。

 そうしてどれだけ時間がたっただろうか、体内に異物を感じた。いや、異物ではない。俺が作り出した俺の魔力だ。視覚では捉えられない魔力が脳内イメージで青白い光として認識出来た。


「これが俺の魔力…」


 確かに心臓を起点にして全身を廻っている。

 魔法使いへの一歩が踏み出せて喜んだのも束の間、魔力の光はふっと視えなくなってしまった。


「はぁはぁ…。こりゃ疲れるな」


 集中力が少しでも途切れると魔力感知は働かなくなってしまうようだった。

 これ、魔法使う時はずっと極限まで集中してないと駄目なのか?


 何度か魔力感知を試した後、本に書いてあった細胞から魔力を引き出すイメージをしてみることにしたのだが…。


「これはっ…!」


 発生する魔力が明らかに増えた。

 増えはしたのだが、先程までとは比較にならないほどの疲労感が襲ってきた。

 例えるなら100m全力ダッシュを10本連続でやった後のような感じ。

 魔力が増えたということは俺にもこのイメージは合っているということなのだろうが、流石に一瞬で疲労困憊してしまえば実用性はない。 

 何か解決策はあるのかと、本を読み進めることにした。さっきまで文字がランダムに羅列されていたそのページは、魔法の力なのだろう、きちんと意味のある文章に変わっていた。


「おめでとう!これが読めたってことは魔力感知は出来たみたいだね。魔力感知は基礎中の基礎だけど、魔法を使うにはめっちゃ大切な技術だから鍛錬を疎かにしちゃ駄目だよ。最初は数秒しか使えなくても毎日続けていればその時間は伸びていくし、一日中だって出来るようになるよ。最終目標は無意識下で常に魔力感知を発動出来るようになることだね。頑張って!


 あと、これは少し応用編なんだけど、魔力探知ってのも知っておいた方がいいね。魔力感知は自分の魔力を視るための技術。魔力探知は自分以外の魔力を視る技術だよ。探知はこっちの人でも苦手な人が多い技術なんだけど、慣れたら目を閉じてても相手がどこにいるのか分るし、奇襲なんかも防げるから便利だよ。なんと言ってもこっちで魔力を帯びていない生物なんていないんだからね。でもやり方の説明は難しい。私もアルテマも自然と出来たから練習方法とかも分からない。そういうのがあるってだけ書いておくよ」


 魔力ブーストに関する追記はない、か。

 レベルを上げて魔力総量が増えれば解決するかもしれないし、取り合えず普段は使わないようにするか。

 しかし魔力探知ね…。

 これはかなり便利そうだ。でもまずは魔力感知の練習かな。せめて魔力感知をしながら動けるようならないと実戦投入は出来ない。そっちにばかり気を取られてヘマしそうだ。

 

 続きは…魔力制御についてか。


「次は魔力制御についてだね。私的にはこっちの方が魔力感知より簡単だったよ。魔力感知で魔力の流れは把握出来たよね?その流れを加速させたり遅延させたり、どこかに集中させたり。まぁ色々と動かしてみて。その動きを自在に操ることが魔力制御だ。魔法の発動には発動位置で魔力を静寂な水面のような状態に保つ必要があるんだけど、魔法を構築する段階で魔力がとても不安定になるんだ。魔力制御は、魔力を運び、暴れる魔力を抑え込むための技術だね。これは特に魔法の発動速度や連射にすごく関係してるから頑張って練習してね。慣れたらガトリング砲みたいに高速連射が出来たりして面白いよ。ただ、制御に失敗すると魔法が発動しなかったり、威力が弱くなったり、最悪暴発なんてこともあるから充分気を付けるように!続きは魔力制御が出来たら読めるからね。ガンバ!」


 なるほど、魔力感知で把握した魔力の流れに干渉するのか。

 しかし暴発はぞっとしない。

 慎重にやってみよう。

 俺は集中するため呼吸を深くする。

 魔力感知は……出来た。さっきよりも僅かだけどスムーズにいった。

 心臓から送り出される魔力の速度を、まずは加速!……加速、したか?

 ほんのちょっとだけしたような気もする。

 じゃあ今度は遅延させる。もっとゆっくり!……うーむ。良く分からん。

 なんの。何回でもやってやる。この技術をモノに出来れば魔法が使えるんだ。それにこういう地味な訓練も嫌いじゃない。うむ、魔法の訓練は俺に向いてるかもしれない。


 今夜はエンジェルリップに予約を入れているからあと3時間くらいは訓練出来る。

 やったるでー、とやる気満々で意気込んでいたところ、ノックの音が響いた。

 ドアを開けて宿の従業員であるメイド服の猫獣人ちゃんに手渡されたそれはエンジェルリップからの手紙だった。

 そこには今夜予約しているミリーシアが体調不良のため休養を取らせる旨が丁寧な謝罪付きで記されていた。


「そん、な…!」


 俺は膝から崩れ落ちた。


「床はばっちぃですにゃよー」

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