蚤の市にはお宝が眠っている
リディアの要件は情報提供と注意喚起だった。
普通、冒険者は依頼の受諾・達成、魔石や素材の売却などで頻繁に冒険者ギルドに立ち寄る。そこでついでに情報交換をしたり、時にはギルド職員から伝達を受けるのだが、俺はしばらく蟲狼迷宮に通い詰めていた。さらに売却もランドの店でしていたのギルドには全く顔を出していなかった。
数日振りにやって来た俺を見つけたリディアが世話を焼いてくれたという訳だ。
一つ目の情報提供は岩鬼の洞窟で変異体が発見されたという報告が誤報だったということ。
Bランクパーティ1組とCランクパーティ5組が数日に渡って捜索したが、変異体には遭遇しなかったそうだ。これをもってギルドは変異体について『見間違い』との結論を下した。変異体発見の報告をした新人パーティは赤っ恥をかいただろうが、被害者もいない、実物もいないでは仕方ない。
俺には全く関係ないことなんだけど、もし彼らに会う機会があれば酒でも奢ってやろう。
二つ目の注意喚起について。
冒険者が三人ほど姿を消したそうだ。
根無し草の冒険者が蒸発することは珍しくないが、彼らの荷物は宿屋に放置されており、街壁を通った記録もないため、街中で消息を絶ったようだ。
素行の良くない連中だったらしく、何らかの報復を受けたのではないか、あるいは金次第で何でもする犯罪集団『無影鬼衆』が関わっているのではないか、などという噂まであるそうだ。
なんにせよ彼らと仲の良かった冒険者が殺気立っているので気を付けるように、とのことだった。
冒険者が街中で消える、ね。怖い話もあったものだ。
きっと普段の行いが悪かったんだろうな。勝手な想像だけど、路地裏で恐喝とかしてたんだろ。自業自得だな。
◇
さて、せっかく魔法スキルを手に入れたのに、俺は魔法を使えなかった。
宿の庭で色々試してみたがうんともすんもとも言わず、魔法ってどうやって使うの?とリディペディアに尋ねたところ、スキルを持っていればある程度は使えるはず、とのこと。え。俺使えないんだけど…。
もっと専門的に学びたいのであれば首都テラリウムの『魔法学院』がお勧めだそうだ。流石はリディペディア、何でも知っている。けど俺は初歩の初歩で躓いているのだ…。
イステリアは交易都市と呼ばれるだけあって商業が盛んだ。
メインストリートには大小様々な店が軒を構えているし、少し歩けば地面に布を敷いて商品を広げている店や、簡易テントで商売をしている区画もある。
そんな賑わいを見せる通りをふらふらウィンドウショッピングするのも俺の楽しみの一つだ。蚤の市では偶に掘り出し物があるようだが、ランドなら兎も角、俺に目利きは出来ないのでいつもは見るだけだった。
「おん?」
魔法が使えなかった悲しみを癒そうと蚤の市を冷やかしていたら『それ』を見つけた。
古着を売っている露店で見つけたのは上下セットの服だ。上は半袖で特徴的な襟、下は短めのスカート。
「なんでセーラー服が?しかも黒とはマニアックな…」
「兄ちゃん、その服が気に入ったのかい?」
「え?ええまぁ。気に入ったというか気になるというか」
店のおっちゃんが話しかけてきた。カモだと思われてんのかな?
「珍しい形してるだろ。そいつはグランフォレストから流れて来たもんでな。生地もしっかりしてるし多分どこぞの貴族が道楽で作ったもんだぜ。珍品好きってのは結構いるから今買わないとすぐ売れちまうぞ」
「へぇ、いくらですか?」
元の世界で俺みたいな大人がセーラー服買ってたらちょっと不味い絵面なんだけど、こんな露骨に元の世界との繋がりを見つけてしまったら買うしかないじゃないか。別にミリーシアに着て欲しいとか思ってないよ。念の為に言わせてもらうけど。でも着用したら元の世界とのアレがああなってアレするかもしれないから一度くらいは着てもらおうかな!
「そうだな、この特異なデザイン、生地の上等さからいって金貨10枚でどうだ!」
高い。
古着の相場は銀貨数枚から高くても金貨2枚といったところだ。
明らかに吹っ掛けてきている。
「たっか。古着でその値段はないですよ」
「良いのか?ここで買わないと二度と手に入らんぞ?」
「珍しいからちょっと気になっただけなんで。売れるといいですね」
「ま、待て待て!」
興味を失ったふうに立ち去ろうとすると慌てたおっちゃんが待ったをかけてきた。
駄目だよ、そんなに感情を表に出しちゃ。高値で売れると思って高めの原価で仕入れたのに全然売れなくて困ってるって思われるよ?そういうの勘付かれると足元見られちゃうよ?
「確かにこの服は金貨10枚の価値はあるが、兄ちゃんはウチの店初めてだもんな。今後の関係を築くって意味で金貨5枚でどうだ!?」
「いや、高過ぎですって。防具でもないただの古着に金貨5枚も出す一般人なんていないですよ」
「これを兄ちゃんの彼女にプレゼントしてやるんだよ。珍しい服をもらったら女だって喜ぶぜ?」
「それは…良いかもしれないですけど」
やはりミリーシアか。ううむ、高いが別に金に困ってる訳でもないしなぁ…。
見込み有りと踏んだのか店主は更に攻めてきた。
「おっし、兄ちゃんとの今後の付き合いを考えてこいつもオマケにつけてやる!」
「これは?」
店おっちゃんが取り出したのは厚い革で綴じられた本だった。
どこか得意げに店主は言う。
「こいつはグランフォレストの骨董屋で仕入れた本だ。誰も読めない文字で書かれているが、骨董屋のオヤジ曰く古代文字らしくてな」
ん?小声で「かもしれない」って言った?言ったよな?
「こいつを解読出来りゃあ宝の在処でも載ってるかもしれんぞ?男なら浪漫がくすぐられるだろ!」
「誰も読めない本ねぇ」
表紙を見て疑問が浮かぶ。
え?だって表紙には『猿でも分かる魔法基礎』って…あ、これ日本語だ!
「買います。服と本のセットで金貨5枚ですね?」
「お、おう。……いいのか?返品は受けつけねぇぞ?」
「服のデザインは珍しいし本も面白そうですから。また似たようなのあったら買いますので取っておいて貰えますか?」
「兄ちゃん物好きだなぁ。まぁ俺は不良在庫…じゃなくて、商品が売れるなら何でもいい。分った、変わったもんがあったら教えてやるぜ!また来いよ!」
俺は露店を離れて本をパラパラと捲る。
やはり日本語で書かれている。
ここじゃ落ち着かないし宿屋でじっくり読むか。
突然降って湧いた元の世界に関係した本を前に、俺は逸る気持ちを押さえて宿へ急いだ。




