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転移先で最初の職業選択を間違えてもリカバリーは効く  作者: 葵あさ
1章

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雷狼

 ここ5日ほど蟲狼迷宮20層のボス戦を周回する日々が続いている。

 ここのボスはリポップが早く、討伐後約1時間でリポップする。ただ、ボスに挑むには19層側から扉を開けないといけない。20層の転移陣から戻って20層のボスと戦おうとしても扉が開かないのだ。そのため一度ボスを倒したら10層に転移し、また20層まで進む必要がある。

 エンカウントを極力回避しながら全力で進んで、10層から20層までは大体3時間。

 ゴーシュ武器店で購入した新装備、黒柘榴鋼くろざくろこうの長剣が中々攻撃力あるのでボス戦は15分ほどまで短縮出来た。金貨60枚もしたけど、狩り効率を考えれば良い買い物だった。


 一周3時間15分。休憩も挟むとおおよそ3時間半~4時間だ。

 これを一日3周繰り返した。

 素材を持ち込んでいるランドには正気の沙汰ではないという顔をされたし、実際に言われたが俺としては全然苦にならない。金も経験値もどんどん貯まるし、エナジードレインを使えば疲れ知らずだ。普通は精神的な疲労だってあるだろうけど、俺はこの生活を楽しんでいるためか全く疲れない。好きなゲームを一日中やっても大して疲れないだろ?ちょっと肩凝ったり目の奥痛くなることはあるかもしれないけど疲労困憊でもうやりたくないとはならないはずだ。そんな感じ。


 そして17周目の今。

 俺はようやく『当たり』を引いた。


「よっしゃああああ!」

「グルゥ!?」


 20層のボス部屋にいたのは見慣れたキンググラスウルフではない。

 狼に違いはないがキングほどの巨体ではなく体長は2~2.3mほど。黄色の体毛で周囲に電流をバチバチと放電している。俺の叫びにちょっと驚いているのがキュートだね。


 リディアの情報通りだ。この蟲狼迷宮20層のボスは約2%の確率で属性付きの亜種が出る。俺の狙いはその亜種だった。

 確率は低く、しかも出現する属性もランダムという話だったが、雷属性は当たり中の当たりだ。なにせ浪漫がある。ギガデ〇ンとか使いたい。

 でも事前に調べた中で雷属性の亜種の情報はなかったはずだ。火、水、土、風、それとなんだっけ?

 まぁいい。今は目の前に集中だ。久しぶりに危機感知スキルも反応している。気を引き締めていこう。


「という訳でスキル寄越せええぇぁあ!!」

「グル…!グラアアアア!」


 欲に駆られて突撃しようとすると、ボス――名前が分からないから取り合えず雷狼と呼ぶ――の周囲に電気の柱がいくつもせり上がり、雷狼の周囲を円を描くように回り始めた。


「うわっと!?」


 慌てて急ブレーキをかける。

 下手に突っ込んだら感電してしまう。いや、柱の数は多いが速度はそんなに速くないからタイミングを見計らえば掻い潜ることは難しくない。

 だが雷狼は俺のタイミングを待ってくれるほど気長ではなかったようだ。


「グルルァ!」


 吠えるのと同時にバレーボール大の雷の玉が出現し、こちらに射出される。

 速度はそれなりだし連射出来るようで中々近づけない。不用意に接近すると電気の柱があるし、攻めるのが難しいな。

 けどこのまま回避を続けてもジリ貧だ。手持ちで何か使えるものあったか?

 俺はアイテムボックスを意識して収納されているアイテム一覧を脳裏に表示した。


 これ、使ってみるか。


 遠距離攻撃手段が欲しくて試しに購入した投槍を投擲したが、雷玉に弾かれてしまった。

 くそ、当然だけど迎撃してくるか。


「グルル…グラアアアア!!」

「どわ!」


 それまで遠距離で一方的に攻撃をしてきた雷狼が力を溜めるようなモーションを取り、次の瞬間一気に距離を詰めてきた。しかも体中を帯電させてのチャージアタックだ。

 ソニックウルフよりも素早い動きに回避行動が追いつかない。

 苦し紛れに剣で爪を受けると、身体を電流が貫いた。


「ぐううううう!?」


 痛ってぇ!熱っ!?

 どうにか爪を弾いて慌て距離を取る。

 感電していたのはほんの僅かな時間だったが、俺の身体から肉が焦げるような臭いがしている。速度も威力もかなりやばい。救いがあるとすれば感電時に麻痺が起きなかったことか。もし麻痺ってたらそのままなぶり殺しになってただろう。

 たぶん麻痺耐性のお陰だと思うけど、レベルⅡだと確率で無効化なんだよな。その確率がどの程度か分からない以上、今の攻撃をもう一度食らう訳にはいかない。


 あの帯電突進は連発出来るのか?

 いや、あれだけの技だ。そう多用は――バチバチとまた帯電を始める雷狼。

 嘘だろファ〇ク!

 余剰生命力を使って負傷を完全修復、次いで剛力を全開で回して脚部を強化。

 雷狼が突撃してくるのに合わせて、回避!…って、はぁ!?一度避けた雷狼が雷のようにジグザグに軌道を変えながらまたこっちに向かって来やがった!

 クソ!化け物め!お前本当にCランクか!?出鱈目過ぎだ!

 この20層に出る属性付き亜種はCランク上位らしい。Cランク中位のキンググラスウルフの一つ上だし大して変わらないだろ、と思っていたがとんでもない誤算だった。


 こっちは無理やりな回避行動取ったせいで態勢がかなり崩れている。

 もう一度回避は無理だ。俺はアイテムボックスに手を突っ込み、選んでいる余裕もなかったので適当に中身をばら撒いた。


 出てきたのはいくつかの魔石、寝間着、水筒、そしてにおい袋。

 雷狼に触れた瞬間、魔石は砕け、寝間着は燃え、水筒は弾け飛んだ。

 だがにおい袋は半ば燃えながらも、その悪臭を放ったようで雷狼が鼻を抑えて藻掻いてる。突進が中断した。


 あっぶねー。

 運良く助かったけど、におい袋はもうない。

 この機会を逃す訳にはいかない。


「すぅ――ふっ!」


 息を深く吸い込み全身の筋肉に酸素を行き渡らせる。

 余った空気を鋭く吐き出して踏み出す。身体は前傾姿勢。当然剛力を限界まで使用した最大速度だ。

 雷狼は悪臭に身悶えながらも雷玉を乱射してくる。それを旋回するように躱しながら接近。雷の柱は出ていない。どうやら帯電突進は雷の柱が解除されてしまうようで、その後もにおい袋で集中が途切れていたのか解除されたままだった。

 至近まで到達した俺は首を狙って袈裟懸けに斬りつけた。


「セェアア!」

「グルゥ!?」


 黒柘榴鋼の刃は雷狼の首元を深々と切り裂いた。

 ハゲマッチョのお勧めだけあって良い剣だ。黒柘榴鋼は硬くしなやかな金属だ。切れ味もミスリルには及ばないが中々のもの。難点は重量があるので使い手にそれなりの筋力が要求されることと、加工が難しいので値段が張るということだ。しかしその汎用性からBランク冒険者でも好んで使う者が多いらしい。

 結構派手に血が出ているがまだ致命傷ではないようだ。

 雷狼の目にははっきりと闘志が見える。


「グルアアア!!」


 咆哮と同時に三度目の帯電を始める。


「何回も同じ手を食うか!」


 至近距離から雷狼の顔目掛けて瓶に入った液体をぶちまける。

 力を溜めている雷狼はそれを回避できずに浴びるも、特段ダメージがないと気付いて犬歯を出して嗤った。

 そうやって歯茎出すのはフラグだぞ。

 俺がぶちまけたのはランドから購入した度数の高い酒だ。飲んだ感じス〇リタスに似た感じだったので相当強い酒だろう。これは飲用ではなく消毒用として買った。余剰生命力を使えば怪我を治すことは出来るが、治癒した時に雑菌を残したままだったら感染症にならないとも言い切れないからな。

 さて、当然のことだが高濃度のアルコールは非常に燃えやすい。

 そして現在、発火に必要な火種は雷狼が自分で作っている。帯電状態でこちらを威嚇するようにバチバチと鳴っているスパークだ。


「ギャウ!?」


 頭部から背中が一気に燃え上がり、火の手はさらに全身へ広がる。

 おまけもどうぞと、日本人ならではのおもてなし精神を発揮した俺は残りの酒とついでに油を投げ網に染み込ませて火を消そうとのたうち回っている雷狼に放った。――よし、顔面に張り付いた。これで噛みつきは出来ないし、炎も強まり一石二鳥だ。

 投げ網の先端には重りがついており、一度絡まったら易々とは剥がれないはず。


「ガアアア!」


 怒りなのか悲鳴なのか分からない咆哮を上げた雷狼が帯電突進を繰り出すも、俺を捉えていないのか有らぬ方向へ突撃していった。ボス部屋の壁にぶつかり、重い衝撃音が響く。

 ――違う、あれは火を消そうとしているのか!

 一回や二回では鎮火しないだろう。だが何度も繰り返せばやがて…。


「させるか!」


 壁に向かって帯電突進をしようとする雷狼の首――先程とは反対側――に剣を振り下ろす。帯電状態のため俺も感電するが、ダメージを負う傍から余剰生命力を使って回復する。

 麻痺は――していない!もう一撃!


「ああああ!」


 渾身の突きを喉元に叩きこむ。

 雷狼を覆っていた電気がパチンと霧散し、身体が倒れる。

 開いたままの瞳は光を失っていた。


「はぁ、はぁ、はは、勝ったぞちくしょうー」


 全身の力が抜けてその場にへたり込んでしまった。

 なぜか笑いが込み上げてくる。一歩間違えばこっちが死んでたはずなのに妙に笑えてくる。ドーパミンとかめっちゃ出て興奮してんのかな。やべ、笑い止まんない。寝転んだ床が冷たくて気持ちいことさえ面白く感じる。


 その後もしばらく「ひひひ」と笑い続けた。

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