ジャイアントデビルスパイダー
三人組の冒険者に絡まれた翌日、俺は蟲狼迷宮にいた。
通路は岩鬼の洞窟とは違い煉瓦で作られていて人工的な印象を受ける。
幅も横に5m、縦に4mくらいあって結構広い。この広さで群れに囲まれたら厄介そうだ。
岩鬼の洞窟にはあまり人がいなかったが、こちらは結構他の冒険者とすれ違う。やはり稼げるダンジョンということか。ほとんどはパーティで潜っているのでソロの俺は珍しいらしくじろじろ見られることも多かった。因縁をつけられるのもリディアにバレるのも嫌だったので蟲狼迷宮では常にローブのフードを被ることにした。もちろん岩鬼の洞窟に出現した変異体とは関連付かないように新たに購入した茶色のローブだ。
「キシャアア!」
「シッ!」
現在は9階層。
1mほどの大蜘蛛、デビルスパイダーに囲まれていた。
短く息を吐いて6匹いた最後の生き残りの頭を斬り飛ばす。
ドサっと倒れて動かなくなるデビルスパイダー。
「ふぅ、数が多いと面倒だな」
聞いてはいたが蟲狼迷宮は敵の数が多い。
エンカウントする敵はE~Dランクなので3匹程度ならまだ余裕があるが、5匹を超えてくると消耗が激しい。敵の動き自体は俺の『眼』で追えているのだが、いかんせん身体がついてこない。身体強化スキルがあるのにこの体たらくということは、ソロで挑むにはレベルが足りていないのだろう。
それにしてもここの魔物はバリエーション豊かだ。
1~3層はEランク中位のグリーンキャタピラーという巨大芋虫。耐久力はあったが動きが鈍くて弱かった。粘度のある糸を吐いていたので、あれを食らうと不味そうだったが。
4~7層はグリーンキャタピラーに加えてDランク中位のレッサーポイズンモスとレッサーパラライモス。50cmくらいの蛾の魔物だ。鱗粉に毒があり近寄れないので近接職には厄介な相手だ。俺は万屋で購入した投げ網で一纏めにして、毒を受けないよう呼吸を止めて殺していった。モス退治に投げ網を使う冒険者はいないらしく、ランドに怪訝な顔をされたが上手く行って良かった。一度誤って毒を食らってしまったが、解毒ポーションで回復した。金貨2枚が吹っ飛んだ。ポーション類って高いんだよな。これでもランドの好意で安くしてもらってるんだけど。
8~9層はDランク上位のデビルスパイダーとファイアアント。デビルスパイダーは巨大蜘蛛で動きが素早い。鋭い爪と牙には毒があり、尻から糸を飛ばしてくる。ファイアアントは30cmくらいの小さめの魔物だが数が多くて一度戦っただけでその後は逃げるようにした。火魔法を撃ってくるから遠距離攻撃手段のない状態だと苦労する。一応アイテムボックス内にあった剣やら斧やらを投げつけて倒したが、時間がかかるからその間に他の魔物が寄って来そうなのでその後はスルーだ。
<ステータス>
名前:トーカ・フジクラ
レベル:9→12
ギフト:エナジードレイン
スキル:剣術Ⅱ、体術Ⅱ、身体強化Ⅱ、危機感知Ⅰ、剛力Ⅱ、暗視Ⅰ、アイテムボックスⅡ、遠見Ⅰ、毒耐性Ⅱ、麻痺耐性Ⅱ、火耐性Ⅰ
余剰生命力:886→972
スキルポイント:0.5→1
魔物が多いお陰でレベルも上がったし新スキルも獲得した。
パーティで攻略することが前提の魔物の出現率だからか、レベルの上がりも早い。
倒した魔物の半分はエナジードレイン、もう半分は素材と魔石確保にしているのだが、それでもスキルを3つ獲得できた。ダンジョンは金策にも戦力強化にもうってつけのようだ。岩鬼の洞窟ではそれほど強化出来なかったのでダンジョンにもよるんだろうけど。
ちなみにスキルを獲得には魔石込みでのドレインが必須と結論付けた。結構な数の魔物を倒したが、魔石抜いた魔物からは一度もスキル獲得出来なかった。
新スキルはこんな感じ。
毒耐性Ⅱ:微毒を無効化。弱毒によるダメージを大幅に軽減。強毒によるダメージを僅かに軽減。
麻痺耐性Ⅱ:毒、電撃による麻痺を確率で無効化。麻痺状態からの復帰時間を軽減。
火耐性Ⅰ:火炎、熱によるダメージを僅かに軽減。火傷を低確率で無効化。
毒耐性はレッサーポイズンモス、麻痺耐性はレッサーパラライモス、火耐性はファイアアントから獲得した。
耐性系はいくらあってもいい。
ソロで状態異常は致命的だからな。
解毒ポーションや麻痺直しポーションはあるけど、切羽詰まった状況じゃ使えないこともあるだろうし、後で周回してスキルレベルを上げておこうかな。
それとグリーンキャタピラーから糸吐きなるスキルを獲得したが、これはスキルポイントに回した。どこから吐くんだ。
スキルポイントが1になったことで、保有しているスキルにポイントを振ってスキルレベルを上げられるようになった。対象はレベルⅠのスキルのみだったので、レベルⅡのスキルを上げるには2ポイント以上必要なのだろう。取り合えずまだ上げずに保留しておく。
まぁ取り合えずは10層のボスだ。
俺は10層に進み、ボス部屋の扉を開いた。
◇
蟲狼迷宮10層のボスはデビルスパイダーの上位種、Cランク下位のジャイアントデビルスパイダーだ。
2mほどの巨大な大蜘蛛で通常のデビルスパイダーが4匹取り巻きにいる。
「シャアアア!」
「「「「シャアア!」」」」
ジャイアントデビルスパイダーが甲高い声を上げるとデビルスパイダーが一斉にこちらに殺到する。ボスに統率されているのか8~9層で出てきた奴らより連携が取れている。
周囲を取り囲もうとするデビルスパイダーの先頭に交叉するように斬撃を一閃、二閃加えて頭を斬り飛ばす。その間に左右に回り込んだ敵の爪をバックステップで回避。
正面から噛みつきをしようと大口を開けた取り巻きにパラライモスから採取した鱗粉(瓶詰)をプレゼント。噛み砕いた。麻痺ってな。
「うお!?」
いつの間にか距離を詰めていたジャイアントデビルスパイダーの爪を躱す。
こいつ、巨体のくせに普通のデビルスパイダー並みに素早い。その上膂力はかなり強いらしいので攻撃は受け止めより回避が正解だ。
「シギギギ!」
苛立ったように唸るジャイアントデビルスパイダー。
口の端から涎が垂れていて気持ち悪い。というかあの涎、地面に落ちるとジュっと音がして煙が出ている。牙に毒があるとは聞いたけど涎もなのか。
「シャアアア!」
「「シャアア!」」
再度ジャイアントデビルスパイダー吠え、取り巻きが左右から挟み撃ちをしてくる。
何度も同じ手を使うなよ。所詮は虫か。
アイテムボックスから斧を取り出し、左の敵に投擲。剛力も発動しているのでかなりの威力だ。斧が命中したデビルスパイダーは頭がざっくりと割れて沈黙した。
右の敵は普通に剣で斬り殺す。集団で来るのが厄介なだけで単体なら余裕で対処可能だ。
麻痺させたデビルスパイダーも忘れずに止めを刺して、残りはボスだけだ。
「シギャアアア!!」
怒り狂っている様子のボスが鎌のような爪を振り降ろしてくる。
それを二回、三回と回避して背後へ回り込む。ついでに脚を一本斬り飛ばす。
「なんだ、結構脆いな」
下位とは言えCランクなのだからもう少し固いかと思ったが、案外すんなりと剣は通った。素早さと攻撃力が脅威の魔物みたいだ。あと数か。
「ギギャアアア!!」
俺の言葉を理解したのか、もしくは脚を斬られたことが原因か。
ジャイアントデビルスパイダーは激高したように吠えた。
「はは、うるさいよ」
◇
八本の内四本の脚を失ったところでジャイアントデビルスパイダーは自重を支えられなくなり地面に落ちた。それでも残った脚を振り回したり噛みつこうとしてきたので、全ての脚を斬ってから頭を潰した。
「ふぅ」
ジャイアントデビルスパイダーが動かなくなったのを確認して息を吐く。
苦戦したってわけじゃないが、かなり気を張っていたから疲れたな。
このダンジョンの素材や魔石は冒険者ギルドに持ち込む訳にはいかない。俺がソロで潜ったとバレたら悪目立ちするってのもあるが、リディアあたりにお叱りを受けるからだ。少し安くなるかもしれないがランドに買い取ってもらうことも出来る。まぁどうせボスも時間が経てばリポップするので何回か周回するつもりだ。という訳で今回はエナジードレインしておこう。
<収奪した構成要素からスキル「毒耐性Ⅱ」を再構築しました。既にスキル「毒耐性Ⅱ」を所持しています。併合しますか?Y/N>
<収奪した構成要素からスキル「毒の牙Ⅱ」を再構築しました。スキル「毒の牙Ⅱ」を獲得しますか?Y/N>
ほう?
毒耐性はありがたいな。もちろん併合しておこう。
毒の牙は、俺の犬歯から任意で毒を出せるようになるスキルか。要らねぇ…。噛みつき攻撃とかしないよ。これはスキルポイント行きだな。
<ステータス>
名前:トーカ・フジクラ
レベル:12→13
ギフト:エナジードレイン
スキル:剣術Ⅱ、体術Ⅱ、身体強化Ⅱ、危機感知Ⅰ、剛力Ⅱ、暗視Ⅰ、アイテムボックスⅡ、遠見Ⅰ、毒耐性Ⅱ→Ⅲ、麻痺耐性Ⅱ、火耐性Ⅰ
余剰生命力:972→1001
スキルポイント:1→2
ふふふ、レベルと毒耐性が上がった。
毒耐性Ⅲ:微毒、弱毒を無効化。強毒によるダメージを軽減。
これで毒にはかなり強くなった。
余剰生命力も結構余裕が出てきたな。
それとレベルⅡのスキルをポイントに還元したら1ポイントになった。レベルの半分がポイントになるってことでいいようだ。スキルポイントでレベルⅡのスキルをⅢに上げられるようになったけど、これはまだ保留にしておこう。必要になった時に上げることにする。
さて、今日の探索はこのくらいにするか。
俺はボス部屋の奥にある転移陣で1層に転移した。
イステリアに戻って来たのは夕方の少し前。
万屋で今回の収穫を買い取ってもらうことにした。
「もう蟲狼迷宮に?流石ですな」
「はは、なんとかやってます。今回はこんな感じですね」
「拝見致します。…おお、グリーンキャタピラーの血液に、毒鱗粉、痺れ鱗粉、デビルスパイダーの牙ですか。魔石もこんなに。トーカくんは今もソロで?」
「ええ。少しだけ臨時パーティは組んでいましたけど、蟲狼迷宮はソロで潜ってます」
「ふぅむ、ソロでこんなにも戦果を上げるとは。既にBランクくらいの実力はありそうですよ」
「おだてないでくださいよ。調子に乗って無茶したらどうするんですか」
「おっと、それは失礼しました」
冗談めかして言うとランドも笑いながら謝ってきた。
ふふ、年齢が近いからか同じ苦労を味わったからか、ランドとは気の置けない友人のような関係になっていた。この世界で繋がりのある人間が少ない俺にとっては貴重な相手だ。
しばらく素材と魔石を査定していたランドが顔を上げ、明細書を書いて見せてきた。
「合計で大金貨2枚と金貨1枚、銀貨8枚でいかがでしょう」
「そんなに?ランドさん無理してないですか?」
「ははは、ちゃんと儲けさせてもらっていますとも。鱗粉は薬の材料になりますが、弓使いがいないと採取が難しいので割と値が張るんですよ。魔法使いだと鱗粉ごと焼いたり吹き飛ばしたりしてしまいますし、近接職の方々は戦闘を避けますからね。それに素材や魔石の数も多い。これは四人パーティが一度に持ち込むくらいの量ですよ。少し色を付けていますが、それでも妥当なところかと」
ほう、四人で一日21万8000円。一人当たり5万5000円くらい。ランドは俺に甘いから普通だと一人5万円くらいか。蟲狼迷宮に潜るのはCランク冒険者が多いみたいだから、Cランクの一日当たりの稼ぎが5万円で、週に2~3回潜るとするとひと月50万円くらいの稼ぎになるのか。やっぱり一人前とされるCランクからは稼ぎが良いんだな。
いや、装備品の修理や新調に金がかかるし、命懸けの仕事だ。一概にリスクに見合ったものとも言えないか。ダンジョンに潜る頻度を上げれば稼ぎは増えるけど、命懸けの戦闘は身も心も削るからな。多くても週3回程度だろうし。
「分りました。じゃあその金額でお願いします」
「商談成立ですね。今後とも御贔屓に」
握手をして金を受け取る。
ランドはアイテムボックスのことを知っているのでそのままアイテムボックスに仕舞う。
「あ、そうだ。こんなこと既婚のランドさんに聞くのもどうかと思うんですけど」
「なんでしょう?」
「イステリアでお勧めの娼館ってあります?」




