Dランク昇格
冒険者ギルド近くの大衆居酒屋に俺、クルト、シーナはいた。
木製ジョッキをぶつけてクルトが乾杯の音頭を取る。
「岩鬼の洞窟の攻略と、トーカさんのDランク昇格を祝って、乾杯!」
「「乾杯!」」
ジョッキに入ったエールは温いし味もぼやけてイマイチだが、冒険の後で、疲弊して僅かに高揚した身体はそれでも美味いと感じさせてくれた。
クルト達とパーティを組んで今日で4日目だ。
初日と2日目は11~19層で連携を確認し、昨日一日休みを挟んで、先程20層のボスを倒して岩鬼の洞窟を攻略した。
正直ボスは弱かった。
上位種であるソルジャー、アーチャー、モンクも普通のロックゴブリンと大差なかったし、連携もセンパイの言った通り『一応』してくる程度。クルトとシーナの方が余程上手く連携していた。当初クルトの剣はあまり精度が良くなかったが、その原因である大振りを直すようアドバイスすると素直に聞き入れ、それからは有効打を与えられるようになった。他人の、それも格下のアドバイスに素直に耳を傾けられるのは才能だよ。クルトは強くなりそうだ。
シーナは元々冷静なタイプで的確な動きをしていた。魔法もロックゴブリンに対して効果的だったので言うことなしだ。そんな二人と、おまけに俺もいてボス達は呆気なく屠ることができた。
受付嬢は難敵だと言っていたが、あれは新人に緊張感を持たせるための方便だったんだな。さっき岩鬼の洞窟の攻略報告とランクアップ申請にギルドへ寄った時にはあの受付嬢――リディアというらしい――はいなかったので、今度見かけた時に礼を言っておこう。
「二人はこれからどうするんだ?特訓を続けるのか?」
「んー、村のみんなが心配だし一旦村に戻るよ」
「魔物が活性化してるんだもんな」
「そうそう。イステリアから少し南にあるラーフ村ってとこ。ちっちゃい村だけど、少し前にアンドレイさん――大きな商会の人が来てくれて手助けしてくれたおかげで、珍しいチーズとか飲み物とか色々作れるようになったんだ。村の中だと結構安く買えるし、うちの実家も作ってるから今度ご馳走するぜ!」
チーズと、乳飲料?なんだろ、コーヒー牛乳とか?
チーズは市場で見たら結構高級品だったし、機会があれば行ってみるか。
「トーカさんはどうするんですか?」
「そうだなぁ、当面はもう一つのダンジョンに潜るかな」
イステリアには岩鬼の洞窟の他にもう一つダンジョンが存在する。
暫定Cランクダンジョン「蟲狼迷宮」だ。その名の通り虫系と狼系の魔物が多く出現する。
俺の回答に二人は「やっぱりかぁ」と納得した。
「蟲狼迷宮は魔物が群れで出ますから、気を付けてくださいね」
「シーナ達は行ったことあるのかい?」
「先輩のパーティに混ぜてもらって一度だけ。魔物の数が多いから大変でした。それに狼はいいけど蟲が…」
「だなー。俺も中層はもう行きたくない。経験は積めるけどでっかい蜘蛛とか蛾とか厄介なんだよな。キモいし。上層の芋虫くらいならいいんだけど」
うーん、俺もあんまり虫は得意な方じゃないんだけどな。
ゴ〇ジェットとか売ってないか?
「けどいつか攻略したいよな。俺達のパーティ名『炎狼の牙』は蟲狼迷宮に出てくる階層ボスから取ったんだ。いつかそいつを倒せるくらい強くなりたいってさ」
「へぇ、良い由来じゃないか」
「へへ、ありがとよ。あ、それと蟲狼迷宮はダンジョンボスがいないからランクアップは出来ないぜ?」
「ああ、ギルドの資料室で見たよ」
そう。蟲狼迷宮は全30層なのだが、最下層にボスが存在しないのだ。
基本的にダンジョンの最下層にはボスが配置されており、そのボスを討伐することでダンジョンの攻略が認められる。しかし稀に蟲狼の迷宮のようにボスが存在しないダンジョンがある。そういった場合、どこかに隠し通路や抜け道があり、その先にボスがいるのだそうだ。蟲狼の迷宮はボスへ続く隠し通路がまだ発見されていない。故に30層までの攻略難度から暫定Cランクダンジョンとされている。
ボスが未発見なので30層まで行ってもクリアとはならず、当然冒険者ランクを上げることも出来ない。それでもこの周辺では強い魔物が出るダンジョンだ。蟲狼迷宮産の魔石や素材はそれなりに良い値で売れるため、イステリアの実力のある冒険者は蟲狼迷宮を探索している。俺も一度行ってみたいと思っていた。
冒険者はCランクになってから稼ぎが良くなる。
なので早めにランクアップはしたいが、暫定とは言えCランクダンジョンで安定した狩りが出来るのならそこそこの収入にはなるはずだ。レベル上げや新スキルの獲得もしたいし、急いで他の街のCランクダンジョンに行く気は今のところない。
そんな感じで互いのこれからについて話し、食べて、飲んで、打ち上げを終えた。
良い感じに酔っ払ってクルト達と店を出た時には日はとっぷりと沈んでいた。
イステリアのような都会は魔石式の街灯が夜道を照らしているので、この時間でも比較的人通りは多い。
そんな中、いつかぶつかってしまったエルフの少女とすれ違った。
こちらには気付かなかったようだが、どこか思い詰めたような表情をしていたような…。
振り返って少女の背中を見つめていると、シーナが訊ねてきた。
「トーカさん、あの子と知り合いなんですか?」
「いや、そういう訳じゃないけど。イステリアに来るまでエルフを見たことなかったんだよね」
「エルフが森から出てくるのって珍しいもんなー」
あ、やっぱそうなんだ。
イメージ的には森の中に住んでいて他種族との交流をあんまりしないって感じだもんな。解釈一致だわ。
「じゃあちょっと変わり者ってことか。冒険者みたいだけど、クルトとシーナはあの子のこと知ってるのか?」
知ってたら紹介してくれてもいいんですよ、とエルフスキーの俺が顔を出したが、クルトは「見たことあるけど話したことはないなー」と言い、シーナはなぜか複雑な顔をした。
「…噂なんですけど、あの子――」




