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転移先で最初の職業選択を間違えてもリカバリーは効く  作者: 葵あさ
1章

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ごっこ野郎

「おい、兄ちゃん」

「はい?」


 冒険者ギルドを出ようとしたところで30代くらいの無精髭を生やした剣士風の男に声をかけられた。


「受付嬢との話が聞こえちまったんだが、兄ちゃん、ロックゴブリンをソロで倒したんだって?」

「まぁ、はい」

「やるじゃねえか!剣士のソロでロックゴブリンを倒せるとは良い腕だ」

「はぁ、どうも」

「俺はCランク冒険者のグスタフ・ドートだ。よろしくな」


 にやりと笑って手を差し出してくるグスタフ。

 断る理由もないので握手に応じる。


「Eランクのトーカです」

「ほう、お前さんEランクだったのか。俺は20年近く冒険者をやっているがお前さんからは尋常じゃない可能性を感じるぜ。そうだな…今でも俺と同じCランクぐらい力はありそうだが、潜在能力はBランク、いやひょっとするとAランクにも手が届くかもしれん」


 えーと、たしか冒険者ランクはE~SSまでで、

 Eランク…駆け出し。

 Dランク…初心者・若手。

 Cランク…一人前・中堅。

 Bランク…実力者・ベテラン。

 Aランク…達人。

 Sランク…超人。

 S Sランク…名誉称号。

 と、こんな感じだったはず。


 つまりグスタフは俺が達人レベルまで強くなれるかもしれないと言っているのだ。

 ……なにを根拠に?Aランクってゴリラ教官とか黒ドレスみたいな奴らのことを指すんじゃないの?いや、あれはSランクか?基準が良く分からないけど俺自身あそこまで強くなれる気は微塵もしないけどなぁ。

 ってかこの人めちゃくちゃ馴れ馴れしいけど笑い方がなんか嫌だな。腹に一物抱えてるというか、ハイエナみたいな雰囲気がある。いや、人を見かけで判断するのは良くないな。どう見ても野蛮人にしか見えない某帝国の教官はそれなりに良い奴だったし。


「えーと、まぁそうなれたら良いなとは思ってますけど。現状は受付嬢さんに岩鬼の洞窟の攻略さえ心配される程度の実力しかないですよ」


 そう答えるとグスタフはこれ見よがしに大きく溜め息を吐いた。


「なぁ兄弟」


 誰が兄弟だ。


「冒険者ギルドの受付嬢なんて節穴ばっかりだ。ランクだけを見て個人の実力なんざ全く見てねぇんだ。確かにただのEランクの剣士がソロで岩鬼の洞窟を攻略するのは不可能だ。だが兄弟の実力はBランクに近い。それなら岩鬼の洞窟なんざソロでも余裕だ。そうだな、俺が嘘吐いてると思うなら一辺試してみろよ」

「試す?」

「岩鬼の洞窟の20層に挑戦してみるんだよ。ボス部屋ってのは一度入ると入口の扉が閉まって戦闘が終わるまで開かなくなるタイプと開きっぱなしのタイプがある。岩鬼の洞窟は10層も20層も後者でな、様子見が出来る。ちょろっと戦ってみてキツそうなら引き上げりゃいい。ま、あそこのボスなんか道中の雑魚ゴブに毛が生えた程度だ。一応連携もしてくるが人間様から見りゃ雑もいい所。兄弟の敵じゃねぇよ」

「なるほど…」

「そうだ。これは冒険者ギルドにとっても良い事なんだぜ?ダンジョンをクリアしたら冒険者ランクが上がるってのは知ってるだろ?」

「はい」

「実力のある奴が相応しいランクにいないってのは色々と問題がある。高ランクの塩漬け依頼が増えたりすりゃ皆困るだろ?それに兄弟を止めたリディア――あの受付嬢だって兄弟の真の実力を知れば絶対に見直すぜ?ワンチャン良い仲になれるかもな。冒険者にとっちゃ高嶺の花だ。狙ってみるのも悪くねぇだろ?」


 そういうものか。

 先輩冒険者の話は為になるなぁ。

 その後いくらか雑談をして俺は冒険者ギルドを出た。その時には『一度20層のボス部屋をソロで様子見してくるか』という考えになっていた。


 けどおかしいなぁ。

 あの受付嬢は岩鬼の洞窟の20層は一度入ると出口が封鎖されてボスか冒険者が全滅するまで開かないから気を付けて下さい、とか言ってたはずなんだけど…。

 

 ◇


 トーカが冒険者ギルドを去った後、Cランク冒険者のグスタフはパーティメンバーの男に呆れたように声をかけられていた。


「グスタフ、またやってんのか?」

「いいじゃねぇか。あいつはEランクの剣士のくせにロックゴブリンをソロで倒したっていう期待の新人なんだからよぉ」

「どうせ()()()()()だろ?死ぬんじゃねえか?」


 冒険者ランクを上げるためにはダンジョン攻略が近道だが、攻略の証明はボスの落とす魔石によって行われる。そこで高ランク冒険者という箔が欲しい貴族や商人などがボスの魔石を購入して「討伐した」と報告し、冒険者ランクを上げるという不正が行われることがままあった。このように金でランクを買った者達は冒険者ごっこ、あるいはごっこ野郎と呼ばれ、冒険者からは冷やかな目で見られている。


 グスタフはトーカと話していた時には抑えていた醜い笑みを浮かべながら言う。


「ケヒヒ!いやいや!あいつがごっこ野郎なわけないだろ?だったら大丈夫なはずだぜ!まぁごっこ野郎なら死ぬかもしれねぇけどな!」

「ったく、良い性格してるぜ…」

「ハッ、俺はああいう冒険者を舐め腐った奴が一番嫌いなんだよ。金で何でも買えると思ってやがる。――まぁ俺の勘じゃあいつはごっこ野郎じゃねぇ。だから純粋な親切心で色々教えてやっただけだ。ケヒヒ!」

「良く言うぜ。お前の勘が外れるところを何回見たことか」

「ケヒヒ!覚えてねぇな!」

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