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転移先で最初の職業選択を間違えてもリカバリーは効く  作者: 葵あさ
1章

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ロックゴブリン

 この世界の街は魔物の侵入を阻むために柵や石壁を築いている。イステリアほど大きな都市(人口は30万人ほどでルカ共和国では2番目の規模だ)ともなれば、周囲は立派な石壁で囲まれている。壁はイステリアをぐるりと円形に囲っており、東西南北にそれぞれ通行のための門が設置してある。

 北門を抜けて一時間ほど歩いたところで目的地に到着した。



 岩鬼の洞窟は全20層と比較的浅いダンジョンだ。

 1~9層までは出現する魔物もゴブリンの亜種であるアースゴブリンのみ。そして10層のボスはアースゴブリンの上位種であるロックゴブリン。アースがEランク中位、ロックがDランク下位なのでパーティを組めば新人冒険者でもそれなりに戦える。ただし、アースゴブリンからもロックゴブリンからも価値のある素材は取れないのでこの辺りで狩りをする冒険者は少ないらしい。


 ちなみに魔物も冒険者同様E~SSランクに区分されており、更に同じランクでも下位、中位、上位と細分されている。

 下位なら同ランクの冒険者がソロで対処可能、中位は2~4人以上を推奨、上位は十分な装備と知識を準備した上で2~4人以上推奨といった具合だ。ただ、Bランク以上、特にAランクやSランクになると飛躍的に魔物は強くなるのでこの基準が全てに当てはまる訳ではないそうだ。他にも単体では弱くても群れると厄介な性質があると高めの評価をされたり、強くてもあまり賢くなく、罠にかかりやすい魔物だと低めの評価をされたりと色々あるらしい。


「はっ!」


 呼気と共に鋼の剣を振ると、本日数十匹目のアースゴブリンが真っ二つになった。

 剣を振って血払いをして鞘に納める。

 この鋼の剣と、今装備している軽戦士用の革鎧はランドの店にあったものだ。初級者向けの素材だが丁寧に造ってあり、品質は上の下といったところで、切れ味は中々のものだ。他にもランド商店の品である携帯食料や水筒、傷薬、寝具なども格安で売ってもらった。ランドには足を向けて寝れないな。

 アースゴブリンが予想以上に弱いのと、武器以外はアイテムボックスに入れてあり身軽なためダンジョン攻略は思ったよりだいぶ順調だった。通路内も洞窟というわりには明るくて歩きやすい。ところどころ天井や壁、地面に『魔光苔』という苔が生えており、それが光源になっているお陰だ。殆どのダンジョンにはこの魔光苔があるらしい。ダンジョン外に持ち出すと光らなくなる不思議植物だそうだ。他にも『魔光石』が照らすダンジョンもあるとか。苔と同じくダンジョン外では光を失うとのことだが。

 気付けば半日ほどかけて10層目に到達していた。

 眼前には進路を塞ぐ岩の門。冒険者ギルドで購入した地図によればこの先がボス部屋だ。

 門が閉じているということはボスの再配置が完了しているということ。再配置が済んでいなければ門が開いており、ボス部屋は素通り出来るのだ。

 ただし素通りには戦力温存というメリットもあるが、デメリットも存在する。

 それは階層転移陣の登録が出来ないということだ。

 

 ダンジョンは広大だ。そして高ランクになるほど内部の広さは増し、複雑になる。

 低ランクダンジョンならば1階層進むのに数十分~数時間程度で済むが、高ランクのダンジョンともなれば1階層ごとに数日かかることもある。広大で、かつ何十階層も存在する高ランクダンジョンを1層から最下層(塔型なら最上階)まで連続で攻略するなんてことは運搬可能な物資の量的にも、体力や装備の耐久性的にも到底不可能だ。

 そこで冒険者が利用するのが階層転移陣――通称、転移陣である。

 転移陣は第1層から10層刻みで設置されており、一度その層に到達した者であれば自由に階層間を転移出来るのだ。ワープポイントみたいなものだな。

 ただし、転移陣は必ずボス部屋のすぐ奥に設置してあり、手前のボスを討伐、もしくは討伐に貢献した者でなければその階層にある転移陣を使用することが出来ない。ボス討伐者達の魔力をダンジョンが転移陣に登録して使用許可を与えている…という仮説が有力らしいが、実際のところは分かっていないらしい。

 まあ冒険者にとって重要なのは仕組みではなく、メリットとデメリット、そして使用条件だ。それだけ判明していればダンジョン攻略には十分だからな。


 ボス討伐のメリットは転移陣を使用可能になること。デメリットは特にない…いや、ボスは当然その辺の雑魚魔物よりも数段強いので返り討ちに遭う可能性がリスクとしてあるか。

 ボス部屋を素通りすることのメリットは更に深層の攻略を目指す場合に体力を温存出来ること。他には格下の低ランクダンジョンにギルドの依頼などで潜る時には時間短縮になる。デメリットは当然その層の転移陣を使用できないこと。

 しかし基本的には10層ごとにボスを討伐することが多い。それだけ転移陣は便利なのだ。


 さて、そういう訳で折角時間をかけてボス部屋手前まで到達したので、どうせならボスを倒して転移陣に俺の魔力を登録してから帰りたい。体力にはまだ十分余裕がある。試してみるか。

 俺は扉を開いた。



 扉の向こうは造りの雑なコロシアムのようだった。

 円形の大部屋の中央にはゴツゴツした肌をした人型――ボスのロックゴブリンだ。

 子供のような背丈のアースゴブリンよりも身長があり、大体160cmくらいか。手には巨大な出刃包丁のような剣を持っている。


「ぎゃぎゃぎゃ!」


 俺がボス部屋に入ると同時、ロックゴブリンが吠えて向かってきた。威嚇か?犬みたいだな。

 こちらも剣を抜いて構える。

 数舜睨み合い、そして同時に互いに向けて駆け出す。

 距離は一気に詰まり、ロックゴブリンが出刃包丁を振り上げた――ところを下から切り上げる。

 ひゅるん、と宙を舞うロックゴブリンの右腕。

 それを見て呆けたような表情をするロックゴブリン。

 隙だらけの右胴に回し蹴りを放って転倒させる。ここでようやく自身の右腕が斬り飛ばされたことに理解が追いついたのか、乱杭歯の口から悲鳴が上がる。


「ぎぎぃぃぃいいい!!?」

「ちょっと、うるさいよ」


 ロックゴブリンは仰向けにひっくり返った状態で肩の傷口を反対の手で押さえている。その腕ごと身体を足で踏みつけ、身動きを封じる。

 ロックゴブリンの表皮はほとんどが岩のように強固で、いくら造りが良くても鋼鉄製の剣では刃が通らない。だから岩の表皮が覆っていない部位を狙う必要がある。

 例えば脇。肩は全面が岩で覆われているが裏側の脇は柔らかい肌が露出している。

 そして口。体内までは岩で覆うことは出来ない。

 俺は叫びを上げるロックゴブリンの口に剣先を突き込み黙らせた。

 最期に「ぐっぎっ」と少しだけ声を漏らして、その目から光が消えた。

 

 ここのボスはロックゴブリン一匹のみ。これで転移陣を使えるようになる訳だが…。

 

「弱い、よな?」


 正直もっと苦戦することを覚悟していた。

 ロックゴブリンはDランク下位だ。

 Dランクの魔物と言えば駆け出し冒険者には荷が重い相手のはずだが…。

 いや、俺はエナジードレインでスキルを複数獲得しているから、身体能力的にはDランク以上と考えていいのか?ううむ、よく分からん。

 この世界はレベルの高低、スキルの有無で能力に雲泥の差がつく。

 レベルは肉体強度こそあまり強化してくれないが、それ以外の筋力、魔力、瞬発力、動体視力なんかは強化してくれる。ゴリラ教官なんて良い例だ。あれは片手で大剣を振り回していたからな。それも軽々と。あと思い出したくもないが、黒ドレスの槍使いもとんでもない膂力だった。あれも相当な高レベルだと思う。

 

 俺はロックゴブリンの死体から魔石を取り出してアイテムボックスに回収した。

 死体にドレインを使ってみたがスキルの獲得は出来なかった。ボスからは確定でスキルが貰えるとかボーナスがほしいよ。

 若干落胆しながら俺はボス部屋の奥へ進んだ。

 通路を抜けると小部屋があり、正面には11層に繋がる階段、そして右手には複雑な魔法陣が刻まれた石板があった。ダンジョンの入り口にも同様の石板があったので、これが転移陣だとすぐに分かる。


 石板の上に乗ると転移陣が青白く発光した。

 たしかこの状態でどの階層へ移動したいか念じれば転移出来るって話だよな。便利な仕組みだ。


「1層へ」


 別に声に出す必要はないのだが、なんとなく。

 足元の光が強まり、弾ける。

 光が収まると周囲の景色が少し変わっていた。岩肌の洞窟なのは同じだが、左手にはボス部屋へ続く通路ではなく外から入る光が見える。無事1層へ戻ってきたようだ。

 洞窟の外へ出ると日が傾いていた。急げば夜になる前に街へ戻れそうだな。

 俺は少し速足で帰路についた。

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