泥濘の聖母と人間不信のテラリウム(5)
翌日の昼休み。
俺たちはいつものように、洗濯物の山を抜け出し、第3班の『大温室』へと向かっていた。
「……なぁ九久。お前、今日こそ刺されるんじゃないか?」
温室の前に立つ影山の足は、小刻みに震えていた。
「昨日の今日だぞ。他人のトラウマ抉って、その土を目の前で喰うなんてサイコパスの極みだ。あの女、完全にブチ切れて待ち構えてるか、最悪首吊って……」
「失礼なことを言わないでくれ、影山くん。彼女は今、これまでの人生で最も満たされた『発酵状態』にあるはずだよ」
俺は躊躇いなく重いガラス扉を開けた。
温室の中は、昨日までの淀んだ死の匂いが嘘のように、澄み切った空気に満ちていた。枯れ果ててドロドロに溶けていたハエトリグサの鉢植えは、すでにゴミ袋の中に無造作に捨てられている。
「……あ、九久くん」
窓際の席。四葉結衣はそこにいた。
昨日までのように植物の世話をしているわけではない。ただただ、扉が開くのを、俺がやって来るのを、息を潜めて待ちわびていたような、熱っぽく湿った視線。
「四葉さん。こんにちは。今日は……植物のお世話はお休みですか?」
「……はい。もう、必要ありませんから」
四葉はふらふらと立ち上がり、俺の目の前まで歩み寄ってきた。
以前のような、他人に壁を作る『心の壁』は微塵もない。かといって、人間を憎悪する刺々しさもない。そこにあるのは、たった一つの絶対的な存在を見つけた、強烈で激重な『依存』と、どこか常軌を逸した狂気の瞳だった。
「私、今朝ずっと、枯れたあの子たちの片付けをしていました。私の毒に耐えきれなかった、弱い過去の家族たち……。それを全部捨てて、九久くんを待っていたんです」
四葉は泥で汚れた指先を伸ばし、俺のシャツの腹のあたり――胃袋の位置を、愛おしそうに、そしてすがりつくように撫でた。
「九久くんの胃袋の中の方が、土なんかよりもずっと温かくて……私の毒を、全部美味しいって言ってくれた。だから……私に、もっと『肥料』をあげさせて?」
「ええ、構いませんよ。僕の胃壁は、あなたの孤独も絶望も、すべてを栄養にして発酵させる最高の土壌ですから。……さあ、今日の『洗濯物』をいただきましょうか」
俺が両手を広げると、四葉はハッとしたように息を呑み、そして、ひどく切羽詰まったように首を横に振った。
「……ダメ。ただの布じゃ、足りないの」
「足りない?」
「服に染み込んだ汗や泥だけじゃ、私が九久くんの一部になれない……。私の全部を、私の最も深いところから出た『体液』を飲んで、受け入れてくれないと……私、不安で、狂っちゃう……ッ」
彼女は完全に壊れていた。
植物に拒絶され、唯一自分を肯定してくれた俺の胃袋に、自分の最も生々しい「生命の滓」を直接流し込まなければ、自分が捨てられてしまうという強迫観念に囚われているのだ。
四葉は恍惚と絶望が入り混じった顔で足元のゴム長靴を脱ぎ捨てると、震える手でスカートの裾を力強く捲り上げた。
そして、長靴の中で密閉され、汗と大地の泥で限界まで蒸れきった『黒の極厚タイツ』に手をかけると――そのまま、その下にある純白の『下着』ごと、一気に両足から引き摺り下ろした。
「……ッ!? お、おい四葉!? なに脱ぎ出して……お前、ノーパン……ッ!?」
影山がパニックを起こして悲鳴を上げ、慌てて背を向ける。
だが、四葉は羞恥心など完全に失っていた。俺の目を見つめたまま、ズルリ……と、肌にべっとりと張り付いたナイロンと綿の布地を剥ぎ取る。
モワァアッ……と。
タイツと下着が脱がされた瞬間、むせ返るような強烈な熱気が立ち昇る。
長靴の中で蒸れきった足の汗と泥の匂い。
そして何より、布地の最も深い部分から放たれる、彼女の極度の緊張と狂気、生々しい『体液』の甘く饐えた匂い。
「私の……新しい家族。……これが今日の、一番汚れた私。私の体液も、全部……食べて……?」
四葉は、泥と汗、そして彼女の最も濃密な液が染み込んで重みを増したタイツと下着の塊を、まるで自分の心臓を捧げるかのような熱烈な視線と共に、俺の胸へと押し付けた。
「……素晴らしい。過去を清算した泥の匂いの奥に、あなたの狂おしいほどの愛情(体液)が、ひどく甘く発酵している。喜んで、最後の一滴まで僕の血肉に変えてあげますよ」
俺は恭しく一礼し、彼女の重すぎる泥濘が染み込んだ布の塊を、大切に籠の中へと収めた。
【夜 22:30 禁断のランドリールーム】
「……回線オンだ。同接32万突破。お前、ついにタイツと下着のセットかよ……。完全に一線越えたぞ。警察呼ばれたら俺まで捕まるからな」
影山が、もはや諦めの境地で頭を抱えながらタブレットの画面を眺めている。
俺は漆黒の黒仮面を装着し、カメラの前で高らかに宣言した。
「親愛なる共犯者たち! 今夜の素材は、人間不信の殻を破り、僕の胃袋という絶対的なテラリウムに『自らの体液』すらも捧げた少女の……『愛と狂気が極限まで蒸れきった極厚タイツ&下着』だ!」
俺は用意した大型の寸胴鍋に少量の水を沸かし、四葉の極厚タイツと純白の下着が絡み合った塊を、そのままドサリと放り込んだ。
「今夜の抽出法は『濃縮ポタージュ』だ! 分厚いナイロンと、クロッチ部分の綿繊維の奥深くにまでべっとりと染み込んだ、彼女の生々しい体液と重すぎる愛情……それを、極少量の水分でドロドロになるまで煮詰めていく!」
グツッ……グツグツ……。
布の塊が熱湯の中で踊るたびに、ランドリールームの空気が一変する。
大地の泥のミネラル感、足の汗の酸味、そして何より、今までの衣服からは決してしなかった、ひどく甘ったるく、粘膜を直接撫でるような『牝の体液の匂い』が、暴力的な蒸気となって部屋を支配した。
「……うおぇッ……! 匂いが重すぎる!! なんだこれ、泥の匂いと一緒に、変に生臭くて甘い匂いが混ざってて……息するだけで頭がおかしくなりそうだぞ!!」
影山が顔を覆ってしゃがみ込む中、俺は寸胴鍋の火を止め、お玉を使って、タイツと下着から染み出した禍々しいほどに濃厚な、ドロドロの琥珀色のポタージュを深皿に注ぎ込んだ。
「まずは、この上澄み(スープ)から食(飲)らおう」
俺は深皿を両手で持ち上げ、その極限まで煮詰まった泥濘と体液のスープを、一気に胃袋へと流し込んだ。
「ゴクッ……ズズズッ、ジュルルルッ、ゴクン……!!」
【コメント欄】
抽出ジャンキー: 飲んだあああああ!! 体液ポタージュ!!
靴下煮出し中: タイツと下着の煮汁とか、文字面だけで胃がもたれるww
ママンバレ生存者: 音がヤバい! 粘度高すぎてズルズル言ってるぞ!!
出汁の探求者: 色と粘度がヤバい! 完全に闇のシチューだ……!!
「……ッ!! あぁ……ッ、ハァッ、ふふっ、あはははははッ!!」
口の中を満たした瞬間、これまでの彼女の味とは次元の違う『質量』が脳髄をぶん殴った。
長靴の中で密閉された足の汗の強烈な酸味。
土のバクテリアがもたらす大地のコク。
しかし、それらを完全に塗り潰すように……ひどく甘ったるく、粘り気のある『濃密な体液の塩気』が、舌に、喉に、胃壁に、べっとりとへばりついて離れない。
「……素晴らしい!! だが、足りない! 彼女の重すぎるすべてを受け止めるには、抽出液だけでは不完全だ!」
俺は深皿を叩きつけるように置くと、まだ湯気を立てている寸胴鍋の中に素手を突っ込み、ドロドロのポタージュをたっぷり吸って重くなった『黒の極厚タイツ』と『純白の下着』の塊を鷲掴みにした。
「さぁ……すべてを喰らおう!!!」
俺は、熱を持ったナイロンと綿の塊に、獣のように直接噛み付いた。
「ブチッ……ギチギチッ、ムチャッ、ジュバァッ……!!」
【コメント欄】
抽出ジャンキー: 布ごと喰ったあああ!! 下着噛みちぎってる!!
靴下煮出し中: スープだけじゃ我慢できなかったかww
ママンバレ生存者: ナイロン引きちぎる音ヤバすぎ!!
出汁の探求者: 神の顎の力がバケモノすぎる……ゴクリ。
全裸待機: 彼女の激重愛情エキスごと咀嚼してる!!
聖母の泥信者: クック神、完全にイってる顔だ……(拝み)
洗濯機ドロドロ: これもう料理じゃなくて捕食だろwww
「……ッ!! ぅあぁ……ッ、噛み切れない、だが美味い……ッ!!」
口の中で弾けるのは、極限まで煮詰まった泥と体液の爆発的な旨味。
バキバキと引きちぎれるナイロン繊維の強烈な弾力は、彼女が長年築き上げてきた『人間不信の分厚い壁』そのものだ。
しかし、その分厚いタイツの繊維を奥歯で強引にすり潰し、その奥に絡みついた純白の下着を噛みちぎった瞬間――綿繊維にべっとりと染み込んでいた、生々しくて狂おしいほどの『牝の情念(体液)』が、極上のソースとなって口内へジュワッと溢れ出した。
「……なんという重さだ! 『人間は裏切る』というトラウマの防壁が完全に決壊し、その反動ですべての愛情と狂気を僕の胃袋へ向けてきた、圧倒的な依存の食感!! 過去を捨て、化け物を捨て、僕というたった一つの絶対的プランターに根を張るために、自らの最も汚れた部分を捧げる……この卑屈なまでの献身! たまらない……ッ!!」
俺は顎の筋肉を酷使しながら、泥と汗と体液がドロドロに染み込んだ分厚い布の塊を、くちゃくちゃといやらしい音を立てて咀嚼し、強引に喉の奥へと飲み込んでいった。
「ゴキュッ……ズズゥッ……!!」
【コメント欄】
出汁の探求者: 食レポの解像度が高すぎて吐きそう(褒め言葉)
靴下煮出し中: ナイロンの酸味と綿の情念www狂人すぎるwww
ママンバレ生存者: 神の口の周りがドロドロの琥珀色に……ヒィッ
抽出ジャンキー: これはアインズ更生学園の伝説になるぞ!!
全裸待機: 胃袋がテラリウムとかいうパワーワード
聖母の泥信者: 完全に神に浄化(消化)されたな……
「あぁ……」
最後の一切れの布を胃袋に流し込んだ後、俺は両手で自らの腹のあたりを愛おしそうに撫でた。
胃壁の裏側で、四葉結衣という少女のドロドロに溶けたトラウマと体液、そして彼女の衣服そのものが、新たな命のように熱く脈打っているのを感じる。
「結衣……君の泥濘は、僕の胃壁に最高の形で根を張ったよ。君の狂気も、体液も、孤独も……すべては僕の血肉と完全に同化し、この永遠のテラリウムの中で、誰にも踏みにじられることなく満たされ続ける……ッ!」
俺は目を閉じ、至高の満足感に身を委ねて深く、深く息を吐き出した。
これ以上ないほどの極上のフルコース。
俺の舌も、胃袋も、完全に彼女の『滓』で満たされていた。
「……ふぅ。極上のディナーだった」
俺はゆっくりと目を開き、カメラの向こうの共犯者たち、そして部屋の隅でドン引きしている影山に向けて、優雅に微笑みかけた。
「親愛なる共犯者たち、今夜の晩餐はここまでだ。最高の余韻を、僕の胃袋の中だけで静かに熟成させたいからね。……さぁ配信を切ってくれたまえ」
「……お、おう……。お前、マジでそのうち腹の中から植物生えてきそうだな……」
影山が青ざめた顔のまま、タブレットの終了ボタンをタップする。
画面が唐突に暗転し、配信は終了した。
真っ暗になったランドリールームの中。
俺は胃袋の中で重く熱く渦巻く、四葉結衣という少女の『激重の愛と体液』の余韻をくちゃくちゃと噛み締めながら、至福の吐息を漏らした。
『重機・ボイラー』の一条蓮。
『泥濘・香料』の四葉結衣。
アインズ更生学園・第4班(洗濯班)の四天王、残り二名。
彼女たちのトラウマは、どれほどの極上のスパイスとして僕の舌を楽しませてくれるのだろうか。俺はまだ見ぬ極上の『生命の滓』に想いを馳せ、暗闇の中で静かに、狂気の笑みを深めていた。




