四天王の闇鍋と五重人格のバグ・フリッター
「おい……お前、自分のやってることの重大さが分かってるのか?」
昼休み、影山は目の下に濃いクマを作りながら、パンパンに膨れ上がった本格的な裁縫箱と、工業用の特殊布用接着剤を俺に突きつけてきた。
「お前が毎晩毎晩、女子たちの服を嬉々として切り刻んだり噛みちぎったりするせいでな、俺が毎晩こっそり裏ルートで手に入れた同系色の端切れを使って、徹夜でミリ単位の縫合と修繕作業をしてるんだぞ! 縫い目を隠すために泥や油を塗り直してダメージ具合を完全に偽装して誤魔化してる、俺の苦労が分かるか!! 俺の視力と睡眠時間を返せ!!」
「素晴らしい隠蔽工作だ、影山くん。君のその献身的な職人技があってこそ、僕の神聖なる探求は成り立っている」
「開き直るな!! 今日こそ絶対に服を大きく切るなよ! 特に特注品とか防塵服とか、生地の目を合わせるのがマジで地獄なんだからな!」
【放課後:ランドリールーム】
放課後。ランドリールームにやってきた第4班の女子四天王たちは、面倒くさそうに一つの巨大なランドリーバッグを俺たちの前にドサリと投げ捨てた。
「あんたたち、どうせ一緒に洗うんだからってことで、四人分の服、全部この袋にまとめといたわ。よろしくねー」
金髪の整備少女がニヤリと笑い、4人はさっさと実習棟へと消えていった。
残された袋の中を覗き込んだ俺と影山は、同時に息を呑んだ。
整備の重油、温室の泥と肥料、爆発寸前の化学薬品、そして無菌室の防塵白衣。
それらが一つの袋の中で無惨に絡み合い、この世の終わりみたいな異臭と化学変化を起こしていたのだ。
「……終わった。これ、全部の服に色が移って全滅だろ。明日、俺たち四人に殺されるぞ……」
絶望して膝から崩れ落ちる影山をよそに、俺は袋の奥底から立ち昇る「四大陸の衝突」とも呼べる混沌の香りに、恍惚とした笑みを浮かべていた。
【夜 22:30 禁断のランドリールーム】
「……回線オンだ。同接人数、いきなり15万人からスタートしてるぞ。完全にネットの伝説になりつつあるな」
漆黒の黒仮面を装着した俺の前に、共犯者たちの熱狂が滝のように流れ込んでくる。
【コメント欄】
靴下煮出し中: きたあああああ!!伝説の15万人スタート!!
出汁の探求者: 神!今日は何を調理するんだ!?
ママンバレ生存者: 背景の袋から毒の沼みたいな色の煙出てるけど大丈夫かww
抽出ジャンキー: 今日も俺たちを狂気の世界へ導いてくれ!
野良の特定班: アインズのネット回線、明らかに異常なトラフィックだぞww
全裸待機: 神の舌が待ちきれない!!
「……親愛なる僕の共犯者たち。今夜は、これまでの煮出しや直吸いといった野蛮な行為から一歩進み、至高の調理をお見せしよう」
俺はカメラの前に、カセットコンロと小鍋、そして例の混沌とした袋をセットした。
「今夜のテーマは『四大陸の融合』。アインズを支配する四人の乙女たちの極上のエッセンスを、この手で一つの料理へと昇華させる」
俺はハサミを手に取り、油まみれのツナギ、泥だらけの靴下、薬品で溶けたゴム手袋、そして純白の防塵白衣から、最も汚れが濃縮された部分を容赦なく、そして特大サイズでジョキジョキと切り取った。
「あああああっ!! バカッ!! そんな手のひらサイズで切り取ったら絶対バレるだろ!! !!」
カメラの枠外で、悲鳴を上げながら裁縫箱をガサガサと漁り始める裏方。
「静かに。……今から、この四つの布片に、化学少女が残した謎の薬品ジェルを衣としてたっぷりと絡ませる。糸を引くこの粘り気、たまらないね。そして、整備少女の重油をブレンドした特製オイルで、カラッと揚げていく」
ジュワァァァァァァァァァッ!!!
鍋に布片を投入した瞬間、ランドリールームに凄まじい破裂音と、鼻の粘膜を焼き切るような産業廃棄物の異臭が立ち込めた。
【コメント欄】
抽出ジャンキー: 揚げたああああああああ!!!
靴下煮出し中: 布を揚げるなwww狂気すぎるwww
煮出し職人: 天ぷらの音がしてるのに、視覚情報が完全にチェルノブイリだぞ!
ママンバレ生存者: 神が本物のクック(料理)を始めた!!
全裸待機: 揚げることで繊維の奥の成分を閉じ込めているのか!?天才だ!!
「……見てくれ。高温で熱せられたオイルと劇薬が反応し、衣が不気味な蛍光ピンク色に輝いている。完成だ。四天王の闇鍋フリッター」
俺はトングでその禍々しく発光する塊を摘み上げた。熱気と共に漂う、発酵した泥とヤバい化学物質の匂いが、俺の唾液腺を限界まで刺激する。俺はトングを捨て、素手でその熱々の塊を鷲掴みにした。
「……見よ!クック神は不滅なり!!!!」
火傷すら厭わず、大きく開いた口へ強引にねじ込む。
バリッ……!!
ジュルチュチュルルルルルッ!!!
噛み砕いた瞬間、衣の中からドロリとした半液状の「何か」が溢れ出し、口の端から顎へと伝い落ちる。
「……ッ!! ぐ、ふゅ、あああああっ!!」
美味い、不味いの次元ではない。
極薄の無菌白衣が舌にへばりつき、ゴム手袋の強烈な反発力が歯茎を痛めつける。
そこへ泥のジャリジャリとしたミネラルと、重油の暴力的なコクが、薬品の舌を焼くような刺激と共に脳天を貫いた。
俺は涎と油を撒き散らしながら、グチャグチャと咀嚼を続ける。
四つの強烈な個性が、俺の胃袋の中で全く融合することなく、大乱闘を始めたのだ。
「……あぁ? なに見てんだよテメェ! ぶっ飛ばすぞ!!」
俺の口から、突如としてガラの悪いドスの効いた声が飛び出した。
「お、おい!? どうした!?」
カメラの裏からドン引きした声が飛ぶ。
「……ふふふ、土に還れ……いや違う、爆発しろ!! ……汚らわしいですわ、近寄らないで!! アハ、あははははは!! もっと! もっと噛ませろ!!」
【コメント欄】
靴下煮出し中: 神の様子がおかしいぞ!?
出汁の探求者: 多重人格!?四人の人格が神の中で喧嘩してる!!
ママンバレ生存者: 脳内麻薬出すぎてバグったwwww 口からなんかヤバい色の汁出てるぞ!!
抽出ジャンキー: 同接16万超えた!!神がバグるたびに数字が爆伸びしてるぞ!!
全裸待機: これぞ神降ろし!!俺もそのフリッター食わせてくれ!!
俺はランドリールームの床をのたうち回り、油まみれの指をしゃぶりながら、一人で四役の口論を延々と繰り広げていた。
脳のシナプスが焼き切れ、四天王の残留思念が俺の体を乗っ取っていく圧倒的な快感。
白目を剥き、口元からは蛍光ピンクの泡がブクブクと漏れ出ている。
「……ハァ、ハァ……! 見えたよ……。僕の胃袋の中に、四つの大陸が建国された……!! 僕は神だ……新世界の創造主だ……ッ!!」
「建国するな!! ほら、もう配信切るぞ!! ! 俺の指先の疲労も考えろ!!」
ブツン、と配信が強制終了される。
静けさを取り戻した部屋の中で、俺は口の周りにピンク色の衣をつけたまま、天井に向かって満足げに微笑んでいた。
「……さあ。次は誰の服を調理しようか?(にやり)」
「だから切るなって言ってんだろこのクソ料理人!!」
夜更けの更生学園に、裏方の悲鳴と狂った料理人の笑い声が静かに響き渡っていた。
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