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門司港タイムトラベル  作者: ハマ
1.黒崎香織タイムスリップ

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7

 距離を開けて二人の後ろを歩いているのだけれど、正直どうしたらいいのか分からない。


 未来から来ました。なんて言えば、私は異常者として扱われて、話なんて一切聞いてもらえないだろう。

 事故が起こるその時まで待とうかと考えたけれど、向かって来るトラックをどうにかすることなんて、私には出来ない。


 ああでもないと考えながら歩いていると、幼い私と目が合った。


 立ち止まったのもあり、手を繋いでいたお母さんも足を止めて振り返る。


 油断していたせいで、隠れる暇なんて無かった。


「あれ? あなた、関門トンネルにいた子よね?」


 突然呼びかけられて、後退りながら頷いてしまう。

 完全に挙動不審な行動を取ってしまった。でも、こうなったら、正面から行くしかない。


 私はお母さんに頭を下げる。


「黒崎沙織さん、先ほどはありがとうございました」


「え? 私の名前、どこかで会ったことあったっけ?」


「はい、幼い頃に、あなたと、一緒に、過ごしました……」


 駄目だ。少し会話をしただけなのに、感情が溢れてしまう。


 そんな姿を見せたせいで、お母さんが戸惑ってしまった。


「ごめんなさい、覚えてなくて……。あっ、あなた、香織に似てるわね」


 私の泣きそうな顔を見て、幼い私と結び付ける。

 どういう判断なのか聞きたい所だけど、それでも嬉しいと思ってしまった。


「私の、名前は、黒崎香織です。その子の十二年後が、私です」


「……え?」


 理解されないのは分かってる。

 でも、こうなったら全部言うしかない。


「信じてもらえないのは分かっています。私も、どうして過去に戻れたのか分かっていません。でも、これだけは伝えたくて! ……お母さん、あなたは三日後に事故に巻き込まれます。お願いです、三日後は家から出ないで下さい。お願いします」


 頭を下げる。

 信じて下さいと願いながら、必死の思いで訴える。


 ゆっくりと頭を上げると、唖然としているお母さんがいた。


 私は、幼い私に近付くとしゃがんで目線を合わせる。


「香織ちゃん、お母さん好き?」


「ん? うん、すきだよ」


「そっか、私もお母さんが好きなんだ。絶対守ってあげてね」


 それだけ言うと、私はお母さんの前から去ろうと立ち上がる。

 あとは、事故の当日にそこに行かないように監視する。

 残金が心許ないけれど、ネットカフェでなら二日間は過ごせるだろう。


 そう思って去ろうとしたのだけれど、手を掴まれた。


「待ちなさい! そんな一方的に言われても、何も分からないでしょう! ちゃんと説明しなさい!」


「お母さん?」


「あなたみたいな大きな子供を作った覚えはないけど、もし、今の話が本当なら詳しく教えて!」


 真剣な表情を通り越して、必死な顔のお母さん。


「……信じてくれるんですか?」


「信じられるわけないでしょう? でも、本当のことだったら大変じゃない。この先にファミレスあるから、そこで話を聞かせて」


「え?」


 絶対に離さないという強い力で、私の腕は握られている。

 とても振り解けるものではなく、引っ張られるように某ファミレスに連れて行かれた。


「さあ、話して」


「えっと……」


 そう促されるのだけど、急展開に付いて行けず何から話していいのか分からない。

 こんな私に助け舟を出したのは、幼い私だった。


「お子様ランチたべたい」


「あっ、そうね、何か注文しないと。はい香織」


「ありがとうございます……」


 メニュー表を渡されるのだけど、自分が呼ばれたと思った幼い私は不満そうにする。


「お母さん、かおりはわたしだよ」


「ああ、あははっ、そうだったね。どうしようか、こんがらがるねこれ」


 お母さんはメニュー表を広げて、困った顔をする。

 私と幼い私をどう呼び分けるか悩んでいるのだろう。


「じゃあ、自称香織のあなたは、カナって呼ぶけど良い?」


「はい、大丈夫です」


「じゃあ、カナも何か注文して。話しも聞きたいから」


 お母さんの提案を受け入れて、私もメニュー表から注文する物を選ぶ。思い起こすと、晩御飯を食べていなかったから、結構お腹が空いていた。


 それぞれが注文すると、私はお母さんに説明する。


 これから三日後、暴走するトラックが歩道に乗り上げ、私を庇ってお母さんが死んでしまう。

 亡くなった時間は正確には分からないけれど、家から出なければきっと命は助かるだろうと伝える。


「それは難しいわね、明々後日にはどうしても外せない仕事が入っているから」


「でも、お母さんが⁉︎」


「その仕事に行かなかったら、会社に大きな損失が出るの。起こるかも分からない事故で、迷惑を掛ける訳にはいかないのよ」


「起こるんです⁉︎ だから、私は……」


 こんな辛い思いをしてる。なんて被害者みたいなことを言おうとして、情けなくなった。

 そんな私を見て、お母さんはある提案をする。


「……分かった。じゃあこうしましょう、仕事が終わったら直ぐに帰る。香織は幼稚園に行かないで、お家でお留守番。これでいい?」


「えっと、お父さんが面倒を見るんですか?」


「旦那は出張中だから、明々後日まで帰って来ないよ」


「じゃあ、誰が?」


 キッズシッターでも雇うのかと思っていたのだけど、お母さんは笑顔で告げる。


「あなたが見てよ。カナなら自分のことなんだから、面倒くらい見れるでしょ?」


「えっ、でも……信じてくれるんですか?」


「信じるかはこれから決める。香織、少しの間お姉ちゃんも一緒に暮らすから、仲良くしてね」


 そう言われた幼い私は、よく分かっていないのか頭を捻っていた。

 といより、私も驚いてしまった。


「暮らすって、私も家に行っていいんですか?」


「未来から来たんなら、帰る場所なんてないでしょう? それとも、本当はただ家出して来ただけの子なの?」


 首を振って否定する。


 そこに料理が運ばれて来て、食事をすることになる。


 私は改めてお母さんを見る。


 お母さんが明るい人なのは、何となく覚えているのだけど、こんなに強引な人だとは思わなかった。もっと柔らかいイメージがあったのだけれど、それは私が美化していただけなのかもしれない。


 そう思ったのだけど、違っていた。


 お母さんは、幼い私に「美味しい?」と優しく尋ねると、幼い私は「おいしい!」と嬉しそうに言う。


 私の記憶にある、お母さんの優しい顔がそこにあった。


 やっぱりお母さんは、私の思っていた通りの人だった。

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