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距離を開けて二人の後ろを歩いているのだけれど、正直どうしたらいいのか分からない。
未来から来ました。なんて言えば、私は異常者として扱われて、話なんて一切聞いてもらえないだろう。
事故が起こるその時まで待とうかと考えたけれど、向かって来るトラックをどうにかすることなんて、私には出来ない。
ああでもないと考えながら歩いていると、幼い私と目が合った。
立ち止まったのもあり、手を繋いでいたお母さんも足を止めて振り返る。
油断していたせいで、隠れる暇なんて無かった。
「あれ? あなた、関門トンネルにいた子よね?」
突然呼びかけられて、後退りながら頷いてしまう。
完全に挙動不審な行動を取ってしまった。でも、こうなったら、正面から行くしかない。
私はお母さんに頭を下げる。
「黒崎沙織さん、先ほどはありがとうございました」
「え? 私の名前、どこかで会ったことあったっけ?」
「はい、幼い頃に、あなたと、一緒に、過ごしました……」
駄目だ。少し会話をしただけなのに、感情が溢れてしまう。
そんな姿を見せたせいで、お母さんが戸惑ってしまった。
「ごめんなさい、覚えてなくて……。あっ、あなた、香織に似てるわね」
私の泣きそうな顔を見て、幼い私と結び付ける。
どういう判断なのか聞きたい所だけど、それでも嬉しいと思ってしまった。
「私の、名前は、黒崎香織です。その子の十二年後が、私です」
「……え?」
理解されないのは分かってる。
でも、こうなったら全部言うしかない。
「信じてもらえないのは分かっています。私も、どうして過去に戻れたのか分かっていません。でも、これだけは伝えたくて! ……お母さん、あなたは三日後に事故に巻き込まれます。お願いです、三日後は家から出ないで下さい。お願いします」
頭を下げる。
信じて下さいと願いながら、必死の思いで訴える。
ゆっくりと頭を上げると、唖然としているお母さんがいた。
私は、幼い私に近付くとしゃがんで目線を合わせる。
「香織ちゃん、お母さん好き?」
「ん? うん、すきだよ」
「そっか、私もお母さんが好きなんだ。絶対守ってあげてね」
それだけ言うと、私はお母さんの前から去ろうと立ち上がる。
あとは、事故の当日にそこに行かないように監視する。
残金が心許ないけれど、ネットカフェでなら二日間は過ごせるだろう。
そう思って去ろうとしたのだけれど、手を掴まれた。
「待ちなさい! そんな一方的に言われても、何も分からないでしょう! ちゃんと説明しなさい!」
「お母さん?」
「あなたみたいな大きな子供を作った覚えはないけど、もし、今の話が本当なら詳しく教えて!」
真剣な表情を通り越して、必死な顔のお母さん。
「……信じてくれるんですか?」
「信じられるわけないでしょう? でも、本当のことだったら大変じゃない。この先にファミレスあるから、そこで話を聞かせて」
「え?」
絶対に離さないという強い力で、私の腕は握られている。
とても振り解けるものではなく、引っ張られるように某ファミレスに連れて行かれた。
「さあ、話して」
「えっと……」
そう促されるのだけど、急展開に付いて行けず何から話していいのか分からない。
こんな私に助け舟を出したのは、幼い私だった。
「お子様ランチたべたい」
「あっ、そうね、何か注文しないと。はい香織」
「ありがとうございます……」
メニュー表を渡されるのだけど、自分が呼ばれたと思った幼い私は不満そうにする。
「お母さん、かおりはわたしだよ」
「ああ、あははっ、そうだったね。どうしようか、こんがらがるねこれ」
お母さんはメニュー表を広げて、困った顔をする。
私と幼い私をどう呼び分けるか悩んでいるのだろう。
「じゃあ、自称香織のあなたは、カナって呼ぶけど良い?」
「はい、大丈夫です」
「じゃあ、カナも何か注文して。話しも聞きたいから」
お母さんの提案を受け入れて、私もメニュー表から注文する物を選ぶ。思い起こすと、晩御飯を食べていなかったから、結構お腹が空いていた。
それぞれが注文すると、私はお母さんに説明する。
これから三日後、暴走するトラックが歩道に乗り上げ、私を庇ってお母さんが死んでしまう。
亡くなった時間は正確には分からないけれど、家から出なければきっと命は助かるだろうと伝える。
「それは難しいわね、明々後日にはどうしても外せない仕事が入っているから」
「でも、お母さんが⁉︎」
「その仕事に行かなかったら、会社に大きな損失が出るの。起こるかも分からない事故で、迷惑を掛ける訳にはいかないのよ」
「起こるんです⁉︎ だから、私は……」
こんな辛い思いをしてる。なんて被害者みたいなことを言おうとして、情けなくなった。
そんな私を見て、お母さんはある提案をする。
「……分かった。じゃあこうしましょう、仕事が終わったら直ぐに帰る。香織は幼稚園に行かないで、お家でお留守番。これでいい?」
「えっと、お父さんが面倒を見るんですか?」
「旦那は出張中だから、明々後日まで帰って来ないよ」
「じゃあ、誰が?」
キッズシッターでも雇うのかと思っていたのだけど、お母さんは笑顔で告げる。
「あなたが見てよ。カナなら自分のことなんだから、面倒くらい見れるでしょ?」
「えっ、でも……信じてくれるんですか?」
「信じるかはこれから決める。香織、少しの間お姉ちゃんも一緒に暮らすから、仲良くしてね」
そう言われた幼い私は、よく分かっていないのか頭を捻っていた。
といより、私も驚いてしまった。
「暮らすって、私も家に行っていいんですか?」
「未来から来たんなら、帰る場所なんてないでしょう? それとも、本当はただ家出して来ただけの子なの?」
首を振って否定する。
そこに料理が運ばれて来て、食事をすることになる。
私は改めてお母さんを見る。
お母さんが明るい人なのは、何となく覚えているのだけど、こんなに強引な人だとは思わなかった。もっと柔らかいイメージがあったのだけれど、それは私が美化していただけなのかもしれない。
そう思ったのだけど、違っていた。
お母さんは、幼い私に「美味しい?」と優しく尋ねると、幼い私は「おいしい!」と嬉しそうに言う。
私の記憶にある、お母さんの優しい顔がそこにあった。
やっぱりお母さんは、私の思っていた通りの人だった。




