2-27
不良グループは少し大変なことになってしまったようだ。
使っていた車が盗難車だったらしく、誘拐した上、事故まで起こしたので罪がかなり重くなった。
他にも余罪が出て来て、少年院に入るだろうと母さんが教えてくれた。
これでしばらくは平和になる。
なので、問題はあと一つだ。
俺は北方に会いに、家を訪ねる。
インターホンから母親らしき女性の声が届く。
『どちら様?』
「充君と同じクラスの中川って言います。充君はいらっしゃいますか?」
『ああ、あの子は今塾に行っていて居ないんですよ』
「夕方には帰って来ますか?」
『えっと……夕方はまた出掛けるから、また別の日に来てくれる?』
「……分かりました」
一度目はこうやって追い払われ、二度目三度目も同じように言われて会えなかった。四度目ともなると、インターホンを押しても誰も反応しない。
北方は、俺を避けている。
それも、親に言ってまで俺と会いたくないらしい。
俺が暴力を振るうと警戒されていると思い、ご両親に「話がしたいだけだとお伝え下さい」そう伝言を頼んだのだが、北方からの反応は無かった。
◯
俺にとっての二度目の年末が過ぎて、二度目の新年がやって来る。
あれからも莉子とは連絡をしており、初詣を一緒に行こうと約束していた。
彼氏彼女の関係じゃなくなったけれど、これくらいはいいだろう。
お正月というのもあり、多くの人で賑わっている。
俺達が向かうのは、学問の神様を祀る菅原神社。受験生なのだから、行くのならここが大正解だろう。
小倉城内にある八坂神社には去年行っているが、結局別れているから、残念ながら御利益は無かったのかもしれない。
御利益で考えるのなら、門司港にある和布刈神社だろうか?
過去まで送ってくれて、莉子を救うことも出来た。実感する御利益としては、間違いない神社だろう。
次に行くのは、受験に合格した時でもいいかもしれない。
受験生なら、太宰府天満宮に行くべきかもしれないが、あそこの正月は殺人的人の多さだ。それに遠い。とてもじゃないけど、行く気にはならなかった。
「明けましておめでとうございます」
「明けましておめでとうございます」
莉子が挨拶をして来るので、俺も頭を下げて新年の挨拶をする。
家の奥から父さんと母さんも出て来て、莉子に挨拶をしてお年玉を渡していた。
「莉子行こう」
「うん。じゃあ、行ってきます」
母さんの話が長くなりそうだったので、莉子を呼んで無理矢理中断させる。
不満そうにしている両親だけど、これから遊びに行くのに足止めしている方が悪い。
雑談しながら歩いていき、モノレールに乗る。
やはり人が多い。
みんな初詣か、デパートの初売りが目的だろう。
「人多いね」
「そりゃ正月だからな。でも、前よりはいいんじゃないか?」
去年の八坂神社は、かなり人が多かった。
それに比べたら、まだ人が少ない方だ。
とはいえ、三社参りという風習もあり、八坂神社の次にやって来る人達もいるだろう。もたもたしていると、去年のように人混みに流されてしまう。
さっさと初詣を済ませて、二人でぶらっと散策でもしよう。
神社に到着すると、すでに参拝の列が出来ていて、俺達も最後尾に並ぶ。
何をお願いしようか。
この前の事件もあり、普通に高校受験出来るかも怪しい状態になっている。学校にも連絡は行っているだろうし、新学期になってどう判断されるかだ。
莉子と同じ高校に行きたいのだけれど、それも諦めておいた方がいいだろう。
……まあ、それでもいいか。
莉子が無事に高校に行けたら、俺の目的は達成するのだから。
「大輔はなんてお願いする?」
「そりゃ、高校受験に合格しますようにってのしかないだろう」
「それもそうだね」
誰のとは言わないけどな。
順番が回って来ると、お賽銭を入れて一年の祈願をする。
しばらくしてから頭を上げると、莉子より早く振り返る。
すると、憎しみが込められた瞳と目が合った。
「っ⁉︎」
背中が痛む。
前に刺された場所に、鋭い痛みが走って息をするのも苦しくなる。
「大輔どうしたの?」
「あっ……いや、大丈夫。何でもない……」
呼び掛けられると、痛みは引いていき呼吸出来るようになる。
顔を上げて、その目を探すのだけれど、どこにもそれらしい人物はいなかった。
「本当に大丈夫? 顔色悪いけど……」
「大丈夫、少し立ち眩みがしただけだから……」
心配する莉子に笑って答える。
それでも今日は、もう帰った方がいいかもしれない。
あの目を見たせいか嫌な予感がする。
取り返しの付かない、何か大変なことが起きるような、そんな予感が……。
「……ごめん、やっぱり今日は帰ろう。体調悪いみたいだ」
「うん、そうした方がいいよ」
どうやら、かなり顔色が悪いようで、俺の強がりな言葉は信じていなかったようだ。
せっかくのデートなのにごめんな。そう莉子に謝って、神社を出る。
周囲を気にしながら歩いて行くが、特に変わったところはない。人通りもそれなりにあるが、あの人物の姿は見当たらなかった。
心配のし過ぎか。
そう安堵して歩いて行く。
隣の元気な莉子を見て、雑談がしたくなった。
どうしてか、たくさん莉子の声を聞きたいと思ってしまった。
「莉子はさ、高校に行っても吹奏楽部に入るのか?」
「さあ、どうだろう。勉強に問題なさそうだったら入るかな? 大輔はどうするの? バスケ部入る?」
「俺はどうするかなぁ。もうバスケに未練無いし、バイクの免許取ってツーリングに出掛けるかな」
「高校ってバイク禁止じゃないの?」
「バレなきゃ大丈夫だって。そもそも、俺友達いないし」
「またその話? 大輔に友達いないわけないじゃない」
「ああそうだった、一人いたんだった。絶対に莉子と気が合うはずなんだよ。マジで良い奴だからさ、仲良くなれるよ」
「その人、関門トンネルのやつだよね? 本当に過去に戻れるの?」
「ああ、だからバイクも運転出来たんだよ。十六になった時に、バイクの免許取ってたからさ……。そうだ、バイクの免許取ったらさツーリングに行こう。綺麗な所とか知ってるからさ、いろいろ連れて行けるぞ」
「ええ、危なくない?」
「大丈夫、俺事故ったこと無いからさ」
「なら、良いかな……良いのか? まあ、大輔は安全運転してくれそうだし、いっか。じゃあ、楽しみにしてる」
笑いながらOKしてくれる莉子。
これで、高校に行けなかったとしても、繋がりは維持出来たかもしれない。
帰り道は、話が途切れることはなかった。
莉子を家に送り届けるまで、ずっと話をしていた。
どうでもいい話から、将来どうするのかなど真剣な話。
莉子は将来に明確な目標があるけれど、俺にはそういうのが無い。
俺に取って大事な目標は、もう直ぐ達成しようとしている。
なら、今のうちに次の目標を決めておいた方がいいかもしれない。
未来に生きる為の、大事な目標を。
「じゃあね大輔、送ってくれてありがとう」
「おう、またな莉子」
いつも通りの別れ方だった。
団地から離れて、家に向けて歩いて行く。
正月というのもあり、人の通りが多い。特に家族連れが多くて、みんなどこかにお出掛けしているのだろう。
公園では子供達が走り回り、元気に遊ぶ声が響いている。
だからだろう。
背後から迫って来る足音に気付くのが遅れた。
「は?」
ドンッ! という衝撃を受けて、間抜けな声が漏れてしまう。
タタラを踏みながら持ち堪えると、誰だと振り返る。
そこには、憎しみの目を持つあいつがいた。
「キャー⁉︎⁉︎」
近くにいた女性から悲鳴が上がる。
何だ? と疑問に思い女性を見ると、俺の背中辺りを見て怯えているようだった。
「ああ……くそっ、マジか……」
脇腹辺りを見ると、ナイフが突き刺さっていた。
遅れて痛みが走り倒れそうになる。
それを何とか踏み止まり、刺したであろう奴を見る。
「お前が悪いんだ! 全部全部お前が悪いんだ!お前が! お前がぁ‼︎」
狂ったように言う奴の顔は、関門トンネルで俺を刺した奴と同じ顔をしていた。
「北方ぁ……」
俺が睨むと、ビクッと怯えたように反応する。
よくもやりやがったなと、言ってやろうと口を開く。しかし、出て来たのは声じゃなくて、血だった。
「ガハッ⁉︎ ……こりゃ、まずいな」
足から力が抜けて行く。
このままじゃ、倒れてしまいそうだ。
早く、何とか、しないと……。
「ははっ、はははっ‼︎ お前が浅野さんと一緒にいるから悪いんだよ! 別れたのに、一緒にいようとするからっ⁉︎」
狂ったことを言う北方に向かって行き、胸ぐらを掴む。
「おっおい、何をっ⁉︎」
こいつは危険だ。
きっと、莉子を傷付ける。
だから、排除しないといけない。
朦朧とした意識の中で、俺は北方を背負い、思いっきり地面に叩き付けた。
息が抜けて行く音が聞こえる。
それが北方の物だったのか、俺の物だったのか、俺にはもう分からなかった。
分かるのは、俺はここで終わるんだな。ということだけだった。
俺の命は、唐突に終わってしまった。




