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門司港タイムトラベル  作者: ハマ
2.中川大輔タイムリープ

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2-浅野莉子

 大輔が殺された。


 初詣を終えたあと、私を送った帰り道に脇腹を深く刺された。

 ナイフの刃渡りは十五センチもあり、内臓を傷付けてしまったのが死因だという。


 刺したのは、同じクラスの北方君。

 彼は私と同じように吹奏楽部に所属していて、部長まで勤めた人物だ。

 成績も優秀で、運動神経も良くて、多くの人から信頼されていた人物だ。


 そんな人が大輔を刺した。


 当初は、大輔が北方君に何か恨みを買うようなことをしたのだろうと、世間の人は憶測していた。


 私達は違うと知っていたけれど、世間の声は正反対のことを言い続けた。


 この誤解が解けたのは、北方君が目覚めてからだった。


 北方君が目覚めると、大輔を刺した理由を嘘偽りなく話をした。


「中川が目障りだったんだよ。俺の浅野さんに近付きやがって! あいつが居なければ、好きでもない女と付き合おうなんて思わなかった! 全部あいつが悪いんだ! 俺は悪くない! どれだけ引き離そうとしても、元に戻るあいつらが悪いんだ!」


 警察の取り調べを受けた時に、そう語っていたという。


 私はその話を聞いて、心が冷えて行くのを感じた。


「……大輔を殺したの……私だ」


 私が、北方君をフッたから、大輔は死んでしまった。


 あんなに、私のことを思ってくれた人なのに、私のせいで死んでしまった。


 吐き気を覚える。

 目眩がして、手足が急速に冷えて行く。

 立っていられなくて、壁に寄り掛かりながら腰を下ろす。


 大輔がいなくなって毎日泣いていたのに、心を守るように、世の中全てを遮断してしまう。


 私は、部屋から出られなくなってしまった。




   ◯




 夢を見る。


 それは中学三年の夏からの出来事で、夢とは思えないほどの絶望の日々だった。


 バスケットボール部最後の試合で負けてしまい、悔しかったのか大輔はバスケに熱中するようになる。

 私は、そのうち熱も冷めるだろうと眺めていた。


 私も、大輔にばかり構ってはいられない。

 吹奏楽部の大会も近いから、しっかりと練習しないといけないんだ。そのあとは、私は私の夢の為に勉強に集中する。


 私の夢は、医者になって多くの人の命を救うこと。


 お父さんとお母さんが必死に働いているのは、過去に二つの命を奪ってしまったことが原因だ。

 両親の責任であの事故が起こったわけではないのは知っているけれど、世間はそう見てはくれない。


 私達は周りから、人殺しの家族として見られている。


 それでも、時間が経てばその視線も和らぎ、今では言って来る人はほとんどいなくなっていた。

 それでも、人殺しの子供と呼ばれた過去の言葉は、私の心に深く突き刺さっていた。


 人殺しという汚名を拭い去る為に、私は人の命を救いたいと思った。


 この夏から受験まで、勉強に集中して過ごす。

 目標の為に、やれることは全てやっておきたい。

 失敗した時の、言い訳に使いたくはなかった。


 だから、勉強に集中する。


 そうなるはずだったのだけれど、友達のチサから夏祭りに行かないかと誘いを受ける。


 どうしてもという誘いだったので、少しくらいいいかなと了承した。


 わっしょい百万夏祭りは、相変わらずの盛況で、人混みに酔ってしまいそうだった。一緒に回ったのはチサだけじゃなく、同じクラスメイトもいたのだけれど、ほとんどチサと喋っていた。


 お祭りも終わり、私達は家に帰る。


 私の地獄は、この時から始まる。


 帰り道で一人になると、公園の方から呻き声が聞こえて来る。


 何だろうと興味本位で見に行ってしまった。


「やべ⁉︎」


 男の人の声が聞こえると、茂みの方から二人が飛び出して来た。

 二人は私の横を通り過ぎると、公園の前に止めてあったバイクに乗ってどこかに行ってしまった。


 何があったのかと茂みの中を覗くと、女の子が乱暴された後だった。


 警察を呼ぼうとスマホを取り出したのだけれど、それは被害者の女の子に止められた。


「待って、お願い、大丈夫だから、黙ってて、お願いします……」


 その声には聞き覚えがあり、目を凝らしてみると、その人物は同じクラスの汐井旭さんだった。


 髪は金髪に染めていても、クラスメイトの顔を間違えるはずがない。


 私はどうすればいいのか分からなくなった。

 警察に連絡するべきなのは分かっていても、汐井さんの気持ちも分かる。

 誰にも言わずに、この出来事を無かったことにしたいのだ。

 それに、親に心配を掛けたくない。

 誰にも知られたくない。


 その思いを理解してしまい、私は通報しなかった。




 残りの夏休みは、モヤモヤとした日々を過ごす。

 勉強しても集中出来ず、あの時の判断は正しかったのかと自問してしまう。


 それでも時間は過ぎて、二学期がやって来る。


 汐井さんは髪色を戻しており、これまでと変わらない様子だった。

 だから、もう大丈夫なのだろうと勘違いしてしまった。


 ある日から、私の荷物が無くなるようになる。

 しかも、次の日には戻って来るという気持ち悪さだ。

 先生に相談しても、戻って来るのなら犯人探しは出来ないと言われてしまった。


 先生が当てにならないので、自衛の為に、余計な荷物を持たないようにした。


 そんなことがありながら、汐井さんに声を掛けられる。


「浅野さん、いきなりごめん。相談したいことがあるんだけど、いい?」


 私が頷くと、放課後一緒に帰ろうという話になった。


 普通に会話をしていると、ある場所に案内される。

 そこはあまり人が来ないような所で、じめっとした空気が嫌な気持ちにさせる建物だった。

 中に入ると、汐井さんから背中を押される。


「え?」


「浅野さん、ごめんね。私、もう耐えられないの!」


 扉が閉められる。

 建物の中を見ると、そこには悪い噂の不良グループがいた。



 意識が飛ぶ。



 映像を撮られて脅されて、何度も同じような行為を強要される。

 自分の身体が、自分の物ではないような感覚に陥り、私は本当に生きているのか分からなくなる。


 助けを求めようにも、誰かに知られるのが怖い。

 ただ、早く終わって下さいと願うことしか出来なかった。


 そんなある日、大輔がいつもの調子でやって来る。


「悪い莉子、勉強教えてくれないか?」


 何も知らずに、呑気に聞いて来る。

 それがいつも通り過ぎて、私は日常に戻れたような気がした。


 唯一の救いの時間。

 安心出来る唯一の時間。


 でも、それが終われば、私は地獄に落とされる。


 そんな日々の中で、私は物を盗まれているということを忘れてしまう。

 油断したせいで、鞄に入れていたスマホが無くなっていた。


 次の日には戻って来たけど、中身を見られた痕跡があった。


 最悪。

 あの中には、脅されているメッセージのやり取りなんかもあって、見られたとしたら私は生きていけない。


 でも、その心配はなかった。

 何も変わらず、最悪な日々は過ぎて行く。



 私には夢がある。

 医者になる夢だ。

 その為には、偏差値の高い学校に行かないといけない。


 この最悪の日々も、高校に行けば終わるはず。

 あいつらは、レベルの高い高校に行くだけの頭は持っていないのだから。


 それだけが、私の希望だった。

 それだけに縋って生きている。


 でも、その願いを打ち砕かれてしまった。


「莉子、悪いが高校進学は諦めてくれ。家計が厳しくてな、中学を卒業したら莉子にも働いてもらいたい……」


 お父さんからの言葉は、途中から聞こえなくなった。


 じゃあ、私は何の為に……。


 急な吐き気に、我慢出来ずに嘔吐してしまう。


 驚いたお父さんに、高校に行かせてくださいと懇願するけれど、許してはくれない。お母さんを見ても、視線を逸らすだけで力になってくれない。


 ……誰か……助けて……。



 この願いは、最悪の形で叶えられる。


 三学期に入ると、北方君から話があると呼び出された。


 嫌な予感がして断ろうとすると、「あのことバラしてもいいのか?」と脅される。


 あのこととは、あれのことだろう。

 それを聞いて、私の荷物を取っていたのは北方君だと分かった。


 話の内容は、私はもう襲われないという物だった。これだけなら、とても嬉しいのだけど、その方法は? と聞くと、最悪な言葉が返って来た。


「あいつらの相手はチサにやってもらってる。だから、もう大丈夫だよ」


 何を言っているのか理解出来なかった。


 チサは北方君と付き合っていたはずだ。

 夏休みに、嬉しそうにメッセージを送って来たのを覚えている。


 それなのに、チサをあいつらに?


「浅野さん、これからは俺が守るから。だから、俺と付き合ってくれ」


 血の気が引いて、倒れそうになる。

 それを支えられるのだけれど、受け止めた手が、余りにも汚くて嫌で嫌で仕方なかった。


「安心した? これからは、全部俺に任せてよ」


 ああ、汚い。

 この人の手も顔も声も、その心も汚い。

 あいつらの方がマシと思えるほどに、余りにも汚い。


「嫌っ! 離して!」


 その汚い手を振り解くと、私は逃げ出した。


 隠れて息を整えると、チサに電話する。

 何度かかけるけれど出なくて、メッセージを送る。すると、直ぐに既読が付いた。

 だけど返信は無くて、どうしたらいいのか分からなくなってしまう。


 そもそも、


「チサに連絡して、私に何が出来るの……」


 自分の無力さに嫌気が差す。


 もっと力があったら、もっと頭が良かったら、もっと心が強かったら、もっと早くに覚悟を決めていたら……。


 私は、私の全てが嫌いになってしまった。



 薬局を回って、市販の薬を購入する。

 親がいない時間帯を見計らって、その全てを飲み干す。


 変化は直ぐに現れて、一瞬の高揚感の後に呼吸が苦しくなる。

 私の呼吸は段々と細くなって、苦しくて苦しくて、苦しみながら動けなくなり、息が止まってしまった。




   ◯




 夢にしては現実感のある夢。

 大輔が語っていた、私が死んだという世界。

 まるで、それを再現しているかのようだった。


「大輔……」


 もし、もしも本当に過去に戻れるのなら。


 私は、大輔を助けることが出来るだろうか?


「大輔が生きていてくれるなら、私は……」


 生きるべきなのは大輔の方だ。

 私なんかじゃなくて、大輔が生きるべきなんだ。


 私は起き上がると、お父さんにあるお願いをする。


 それは、門司港に住むお祖母ちゃんの家に住まわせて欲しいというもの。

 お母さん達は、こっちにいると辛い思いをするからだと勘違いしていたけれど、受け入れてくれるならどうでもよかった。


 関門トンネルで過去に戻る。

 過去に戻って、大輔を救う。


 私は、その為だけにこれからを生きる。


 医者になる夢は、大切な人が一緒にいる時に叶えたい。


 私の願いは、それだけだった。

 

 

ごめんなさい。もう一人の話しで完結なんですけど、二人目が想定の倍以上の文字数になったので、時間が足りなくなってしまいました。

作業がひと段落したら続きを書きますので、お待ちいただけたら幸いです。

ハマ

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― 新着の感想 ―
2章目はどきどきサスペンスでしたね 読み直すといくつかハッとさせられる点もありこの先の展開が楽しみです
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