2-25
倒れた北方の横で莉子に電話を掛ける。
だが、繋がらない。
倒れた北方の胸ぐら掴んで起こし、目の前で睨み付ける。
「どこに行ったか教えろ‼︎ 何か知っているんだろう‼︎」
焦る。
こうしている間にも、莉子が危険な目に遭っているかもしれない。
そんなの認めない、許さない。
もし何かあれば、関わった奴ら全員……。
俺の意思が通じたのか、北方はスマホを俺に差し出して来る。
それで察した。
北方のスマホを奪い取り、顔認証で画面を開かせると、不良グループとのメッセージのやり取りを確認する。
最後に連絡したのは三十分前。
内容は、これから外に出る莉子を待ち伏せするという物。
向かう場所は、不良グループが利用しているという廃墟だという。
その場所が、俺には分からない。
「おい北方! この廃墟はどこにあるんだ⁉︎」
だが、北方の答えはふざけた物だった。
「誰が教えるか」
「このっ⁉︎」
鼻で笑い、人を小馬鹿にする。
もう一度殴り倒そうと拳を握るが、ここで激昂しても何も変わらない。痛みで言うことを聞かせようにも、こいつは嘘を言いそうで信用出来ない。
歯を食いしばって踏みとどまり、どうするべきかを考える。
不良グループの溜まり場なんて、あのアミューズメント施設の駐車場くらいしか知らない。そこにいる奴に聞こうにも、今いるのか分からないし、そもそも関係無い奴の可能性もある。どちらにしろ、知らないふりをされたらその時点で終わりだ。
ひたすら、廃墟を当たるか?
そんなの現実的じゃない。廃墟になっている施設や住宅は山ほどある。全てを調べるなんて、到底不可能だ。
じゃあどうする……。
手元にあるスマホに目が行く。
「スマホ……あっ」
そうだと思い出し、自分のスマホで莉子の位置情報アプリを起動して確認する。
「……くそっ⁉︎ 遠い⁉︎」
スマホは西に向かって移動しており、かなり離れた場所いた。
この速度からして車に乗っているだろう。とてもじゃないが、追いつくのは不可能だ。
「……」
「何だ? 諦めたのか? 全部お前が浅野さんと付き合うから悪いんだよ!」
喚く北方を無視して、俺は家に走った。
家に帰り着くと、リビングを見回す。
残念ながら父さんも母さんも出掛けていて、家には誰も居ない。
棚の上に置いてあるバイクの鍵を取り、ブーツを履くとガレージに向かう。
シャッターを開けると、そこには慣れ親しんだバイクの姿があった。
ドラッグスター。
父さんの愛機であり、俺に取って初めてのバイクだ。
この時代に俺のヘルメットは無く、あるのは父さんのだけ。
父さんのフルフェイスのヘルメットを被ると、バイクに跨りエンジンをかける。
強い振動と排気音が気持ちを高揚させる。
それどころじゃないと言い聞かせて心を落ち着かせると、クラッチを握りギアを入れて発進する。
「莉子、直ぐに助けるからな」
バイクを走らせて、莉子を追う。
◯
俺と莉子がいる場所は、距離にして十キロ以上離れている。
自分の足だと一時間弱掛かる距離も、バイクなら十五分と掛からない。
可能な限り飛ばした甲斐があり、かなり近付いて来た。
少し先の交差点で、下手くそに左折するミニバンがある。
セットしているスマホを見ると、交差点で曲がっていた。
見つけた‼︎
車の後方に付け、ナンバープレートを確認すると、インカムで警察に連絡して俺は仕掛ける。
今走る道は、バイク乗りがよくツーリングに使っている。
昼間に通ると貯水池の周辺でウォーキングしている人達がおり、夜は静かで幽霊が出て来そうな不気味な道だ。
この先には肝試しに使われるような廃墟があり、奴らが向かっているのはそこなのだろう。
家に置いてあったセーフティハンマーを取り出すと、ミニバンの横に付けて後部座席の窓を叩く。
ガラスは簡単に割れて、驚いた顔の男と目が合う。
そいつの顔には見覚えがあり、以前殴り倒した奴の一人だった。
そして、そいつは莉子を押し倒していた。
一瞬で頭に血が上ってしまった。
更に後方の窓を叩いて破壊して、直ぐに止まれと指示を出す。
だが止まらない。
それどころか加速して、俺を振り切ろうとする。
「ヤバい⁉︎」
今度は逆に血の気が引いた。
車は立派でも、ドライビングテクニックが著しく劣っている。それこそ、免許を持っていない素人が運転しているかのような技量だ。
カーブで対向車線に飛び出して、正面からやって来ている対向車と衝突しそうになる。
左側はガードレールを挟んで貯水池になっていて、もし落ちれば助からない。
加速するミニバンは、ガードレールを擦りながら走る。
火花が散り、車内から悲鳴が聞こえて来る。
これはまずいと、一気に加速して横に並走して運転席に座る奴を見る。
そこに居たのは、俺が病院送りにした奴の弟だった。
前方を確認すると、小さいが駐車場があり車は一台も停まっていない。
止めるならここだ‼︎
運転席の窓ガラスを破ると、ビビっている男に呼び掛ける。
あそこに止めれば、事故は回避出来るはずだ。
「おい! そこに止めろ!」
「……中川? 中川ぁ⁉︎⁉︎」
「何やって⁉︎」
しかし、俺の願いとは裏腹にそいつはハンドルを右に切った。
きっと、車を俺にぶつけようと思ったのだろう。
だが、車は俺に体当たりするのではなく、操作を誤って正面から山側の塀に当たってしまった。
「莉子⁉︎」
エアバッグが起動して、運転手と助手席の男は守られるが後部座席はそうではない。速度もそれなりに出ていて衝突した。
最悪を想像してしまう。
俺はバイクを降りると急いで駆け寄る。
「莉子⁉︎ 莉子‼︎」
ミニバンの前方は潰れていて、事故の衝撃を物語る。
運転していた奴は無事なようで、エアバッグの中でもがいていた。莉子はと覗くと、後部座席にもエアバッグを備えていたようで、膨らみが衝撃を和らげていた。
変形した車体だが、まだ扉は開いてくれる。
「莉子! 莉子大丈夫か⁉︎」
もがいている男を引き摺り出すと、その奥にいる莉子を抱き上げる。事故した衝撃で気を失っており、見た目だけなら怪我した様子は無い。着衣の乱れも無くて、まだ何もされてはなかったのだろう。
そう、まだだ。
もし、もし追い付くのが遅れていたら、莉子はあの時のような悲惨な目に遭っていた。
あの映像を思い出してしまう。
頭が怒りでどうにかなってしまいそうだ。
俺が引き摺り下ろした奴が起き上がり、首をさすりながら車を見る。
「いってぇー……事故ってどうすんだよ……は?」
そいつに近付くと、問答無用で殴り倒した。
暴力に訴えるな。
冷静になれ。
今は莉子の無事を確かめるのが先決だろう。
そう頭の中で真っ当な意見が流れて来るが、その全てを怒りが消してしまう。
車から這い出て来る奴らを見る。
俺は、自分自身を抑えることが出来なかった。




