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門司港タイムトラベル  作者: ハマ
2.中川大輔タイムリープ

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37/38

2-23

 莉子の親父さんは、婿養子として浅野家に入った。

 理由は、おばさんが一人娘というのもあり、運送会社を継ぐ人がいなかったからだ。


 親父さんは元々、まったく違う業種に勤めていたようだが、莉子が幼稚園に入った頃に跡を継ぐ為に、運送会社に入社したという。


 入社したはいいが、その勤務実態は酷いもので、従業員を酷使している環境だった。言ってしまえば、昭和の名残りをそのまま引き摺っているような会社だった。


 親父さんが、この時代遅れな体質を改善しようとしていた時に、あのトラック事故が起きてしまった。


 社長は倒れて、その責任は莉子の親父さんに向かう。

 ここで、おばさんと離婚していれば、借金からは逃げられたかもしれない。でも、親父さんは最後まで責任を持つことを決めた。


 これは、残されたおばさんに全責任がのしかかるのを回避する為。

 そして、莉子から母親を奪わないようにする為だった。


 これまで、二人で必死に働いて弁済して来た。

 二人の絆は想像出来ないほど、強固な物だろう。


 その絆に、俺は綻びを作ってしまった。

 


   ◯



 莉子は高校に行く方針で、話は纏まった。


 でも、親父さんとおばさんが離婚する。

 そんな、後味の悪い終わり方を俺はしてしまった。


「気にしないでくれ。離婚するといっても、離れるわけじゃない。この生活は、このまま続けて行くよ」


「すみません。俺が首を突っ込んだりしたから……」


「莉子を思ってのことだろう? なら、俺達は何も言わない。寧ろお礼を言いたいくらいだよ」


 気を遣ってそう言ってくれるけれど、俺がやったのはひとつの家庭を壊す行為だ。

 目標は達成出来たけれど、こんな結末を望んだわけじゃない。


 前のような、悲劇的な展開は無くなったとしても、これで正解だったなんてとても言えない。


 もっと他のやり方があったんじゃないのか……。そう考えずにはいられなかった。


「あとは、うちで話すから」


 おばさんに促されて、頭を下げて俺は家を出る。


「大輔待って」


 呼ばれて立ち止まると、莉子が追って来ていた。


「莉子、ごめん。まさかこんなことになるなんて……」


 きっと責められるのだろう。

 それだけのことをやってしまった。

 謝って許されるものではない。


 そう思ったのだけれど、莉子にそのつもりは無いようだった。


「それはいいから。少し話さない?」


「……ああ、分かった」


 団地の中にある公園に移動して、そこにあるベンチに腰を下ろす。

 こうして、二人で並んで座るのは久しぶりな気がする。

 一月前までは当たり前のような光景だったのに、今では懐かしささえ感じてしまう。


「……ねえ、前にも聞いたけど、どうして私の為にそこまでしてくれるの?」


「俺がしたいから……じゃ納得しないよな?」


「そりゃね。高校行かないで働くなんて、普通言わないよ。それに、あの時、高校がどうのって……」


 それは、俺が救急車で運ばれた時のことだろう。

 あの時は、気が動転して変なことを口走ってしまった。

 何も聞いて来ないから、てっきり忘れているものだと思っていたけど、そうじゃなかったらしい。


 でも、ここまで来たら隠す必要も無い。

 正直に話そう。


「あのさ、これから荒唐無稽な話をするけど、信じるかは莉子に任せる。俺、この時間を過ごすのは二度目なんだ……」


 とても信じられないような話。

 喋っている俺でさえ、何を話しているんだろうと混乱しそうになる。


 莉子がいなくなって、高校では一人ぼっちで、莉子の両親もいなくなって、ただ空虚な日々が続いて行く。

 そんなある日、高校の同級生に過去に戻る方法を聞いた。


 二十時に関門トンネルの県境を跨越す。

 その時に、電子機器を持っていてはいけない。

 戻りたい時の写真を所持しておく。


「あとは、和布刈神社にお詣りしておくことかな」


 可能な限り簡単に説明したのだけど、時間を見ると三十分以上経っていた。


 説明する中で、どうして莉子が自殺したのかは知らないと誤魔化した。そう言っておけば、今回のような切っ掛けになりそうなことを話してくれそうだから。


「……とてもじゃないけど信じられないよ。私が自殺したって? それ、なんの冗談よ……」


「信じる必要は無いさ。俺も話していて、無理があるなって思ったし」


「嘘だったの? 信じ掛けたんだけど……」


「本当のことだよ。ただ、現実味が無いって話し」


 話し方が曖昧で、勘違いさせてしまった。


「その方法教えてくれた人って誰なの? 本当に人だった?」


「人だって、俺にとって高校唯一の友達だし、莉子とも気が合うと思うぞ」


「へー、どんな人だったの?」


「明るくて綺麗な子だったよ。隣のクラスの中心人物で人気もあったみたいだ」


「えっ、女子?」


「女の子だよ、いろいろ抱えてたみたいで、あの……はっ、ん?」


 俺にとって唯一の友人の顔を思い出す。

 とても美人で、芯が通っている女性だ。

 自分を偽るのを辞めて、輝いていたあの子。


 それなのに……。


「どうかした?」


「……あいつの名前が思い出せないんだ」


 肝心の名前が出て来ない。

 どれだけ思い出そうとしても、姿形だけしか記憶に残っていない。他は思い出せても、彼女の名前だけが出て来ない。


 嫌な汗が出る。


「大輔、大丈夫?」


 一点を見つめて黙ったからか、莉子が心配そうに見ていた。


「あっ、ああ、大丈夫だ……」


 嫌な予感がする。

 刺された箇所が、ジクジクと痛み出す。

 それが、まだ終わっていないぞと言っているようで、薄ら寒い物を感じてしまった。


 話は終わりと莉子を送り届けると、俺も家に帰る。


 吐き出す息が白くなり、すっかり冬の季節になっていた。

 息を吸い込むと、頭の中を冷やされてスッキリとする。

 おかげで、嫌な感覚が薄れてくれて、何をするべきなのか考える余裕が出来る。


「やっぱり、放置出来ないよな……」


 ポツリと呟くと、俺の中で覚悟が決まった。



   ◯



 期末テストが終わっても授業はこれまで通り続く。

 本番は年明けてからの受験であり、そこを乗り越えるまで緊張が途切れることはない。


 莉子もこれまでを取り戻すように勉強に集中しており、休み時間も教科書を開いていた。

 ただ、友人との交流は再開しており、これまでのように孤独ではなくなっていた。また、以前のように笑えている。


 そんな莉子に、ある奴が話し掛ける。


「浅野さん、考えてくれた?」


「北方君……」


 北方は親しげに話し掛けるが、莉子はどこか硬い。

 友人の元彼で、苦手意識を持っている相手なのだから、こうなるのも仕方ないのかもしれない。


 それに気付かない北方は、話を続けていた。


 二人を眺めながら、横目で二島と汐井を確認する。


 二島は明るく振る舞っているが、二人が話をしているのを見て元気を失っている。


 汐井は眉を顰めたあと、見ないようにと机に突っ伏していた。


 再び視線を戻すと、北方は莉子から離れて行く所だった。




 放課後、席を立つと莉子がやって来た。


「大輔帰ろう」


 これには流石に驚いた。

 俺達はもう別れていて、用事が無い限り一緒に帰ることはないと思っていたからだ。


 そう思ったのは俺だけでなく、隣の席の汐井も同様だった。


「あれ? 二人って別れたんじゃなかったっけ? より戻したの?」


「戻してないよ、勉強教えてもらう約束してただけだから。大輔行こう」


 そんな約束していない。と思ったのだけれど、北方がこっちを見ているのに気付いて、俺は了承する。


「ああ、行こう」


 教室を出るまでの間、北方は無表情で俺達を見ていた。


 学校を出ると、莉子は大きく息を吐き出す。


「何かあったのか?」


「ん? 何でも無いよ……。じゃないよね、何も言わなかったら大輔が心配するんだよね?」


「そうだな、些細なことでも教えてくれ」


 北方のことなら特に知りたい。


「北方くんに、勉強会するから来ないかって誘われたんだ。別に悪いことじゃないんだけど、何だか警戒しちゃって……」


 別におかしなことではない。

 警戒しているのは、元々持っていた苦手意識と俺の話を聞いたからだろう。


「それだけだから気にしないで。あっ、大輔の名前使っちゃってごめんね」


「いいよそれくらい。話してくれてありがとな」


 隣を歩く莉子に感謝を告げると、莉子は頷いてある要求をして来る。


「うん。……あのさ、図々しいかもしれないけど、勉強教えて欲しいなぁーって、本気で思ったりするんだけど、これからどう?」


「それが目的だったんだろう?」


 そう言うと、莉子は笑って頷く。


「よろしくね、大輔先生」


 前は教えてもらっていたのに、今度は俺が教える番か。

 そう苦笑しながら、「分かったよ」と頷いて了承した。

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