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門司港タイムトラベル  作者: ハマ
2.中川大輔タイムリープ

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36/38

2-22

 “私が高校に行かなかったらどうするの?”


 この言葉を聞いた時、俺が言った願いを断る為の口実だと思っていた。


 でも違った。


 莉子は、親の借金で高校に行かずに働くつもりだった。


 これは、莉子から申し出たことではなくて、親父さんからお願いされたもの。

 終わらない借金に限界を迎え、莉子に働けと言い出したのだ。


 高校に行きたいと必死に訴えるが、その願いは通らなかった。


 親父さんも莉子の夢は知っているし、努力しているのも知っている。でも、高校を出たとしても、大学の医学部に進学させるだけのお金が無かった。


 なら、最初から諦めた方がいい。


 そう親父さんは判断した。





 俺は莉子の家まで行くと、呼び鈴を鳴らす。

 しばらくすると扉が開いて、親父さんが顔を出す。


 その顔が、あの最後に見たやつれた顔と重なる。


 “ すまない、本当にすまない……”


 この言葉の意味を、ようやく理解した。


 後悔していたんだ。


 莉子を高校に行かせなかったことを、これが最後の引き金になってしまったことを。


「大輔君、いらっしゃい。俺に話があるそうだが……」


「はい、莉子のことで相談があります。お邪魔してもいいですか?」


 そう言うと少し沈黙して、俺を中に招き入れてくれた。

 俺が入ると、莉子が続いて入って来る。まさか俺が一人で行くと思っていなかったのか、驚いている様子だ。


「待って! どうして大輔が知ってるの⁉︎」


「知ってるも何も、あんなにヒント出してたら気付くだろう?」


 本当は、母さんが話を聞いてきてくれたからだけど、そこは言わなくてもいいだろう。

 それに、俺も気付いたんだから。


 とはいえ、時間は掛かった。

 こんな遠回りせずに、莉子の口から聞きたかった。

 俺に関係無い話しだと思わずに、相談して欲しかった。

 莉子に信じてもらって、頼られたかった。


 これが俺の我儘なのは分かっている。


 分かった上で、この我儘を突き通す。


「だからって、大輔には関係無いでしょ⁉︎」


「ごめんな莉子、これは俺にも関係あることなんだ。だから、俺にチャンスをくれないか?」


 たとえ嫌われたとしても、俺は莉子を高校に進学させる。

 これが、俺にとっても生きることにも繋がるから。


 何か言おうとする莉子から顔を逸らして、親父さんの待つ居間に向かう。

 扉の梁が低くて身を屈めながら入ると、親父さんだけでなく、おばさんも待っていた。


「いらっしゃい」


「お邪魔します」


 頭を下げて挨拶をすると、そっちに座ってと誘導される。


 正面には親父さんがいて、その隣にはおばさんがいる。扉の前には莉子が立っていて、どうしたらいいのか分からないといった様子だ。


 そんな莉子を放置して、親父さんは促して来る。


「それで、俺に話って?」


 遠回りする理由も無いので、単刀直入に言おう。


「親父さんにお願いがあります。莉子を、高校に行かせてあげて下さい!」


 そう頭を下げてお願いするのだけど、親父さんに変化は無い。

 さっきまでの俺と莉子の会話で、何を言われるのか察していたのだろう。


 沈黙が流れる前に、俺は言葉を続ける。


「家庭の事情に口出しするべきじゃないのは分かっています。それでも、お願いです。莉子を高校に行かせて下さい」


 同じ内容を繰り返したからか、親父さんは不機嫌になる。

 指でテーブルを叩いて、どういうつもりだと言っているようで、圧を掛けて来ようとする。


 少しすると、親父さんは口を開く。


「それで、莉子は何を出来るようになるんだ? 医者になりたいって夢は知っているが、うちじゃ大学に行くまでの資金は出してやれない。大輔君も聞いているんだろう? うちが、今大変な状態にあるって。それなら、今のうちから莉子に働いてもらった方がいいとは思わないか?」


「いえ、まったく思いません。莉子なら間違いなく医者になれます。医者になれば、収入だって桁違いに多いはずです。借金を返すのだって難しくないはずです」


 そう告げると、親父さんはテーブルを叩いて激昂する。


「あのな、その大学に行かせる金が無いって言ってんだよ⁉︎ 俺だって行かせてやりたいよ! 大切な娘なんだからな! それが無理だから、今のうちに諦めろって言ってんだろうが‼︎」


 机を叩いた親父さんは立ち上がり、俺を睨み付ける。

 その目から真っ直ぐに見て、俺は言う。


「俺が働いて稼ぎます」


「……なに?」


「俺が働いて、莉子の学費を稼ぎます。高校も大学の費用も、全部俺が出します。だから、どうか莉子を高校に行かせてあげて下さい。お願いします」


 頭を下げる俺を見て、親父さんは言葉を見失っている。

 それはおばさんも同じで、何を言われたのか理解していないようだった。


 でも、莉子は理解して反応する。


「大輔なに言ってんの⁉︎ これ、うちのことなんだから、大輔には関係無いでしょう⁉︎」


「さっきも言ったけど、関係あるんだよ。莉子が高校に行かなかったら、俺は生きていけないんだ。俺の為にも、莉子には大学まで出て医者になってもらわないといけないんだ」


「何それ……意味分かんない……」


 そうだろうな。

 いきなりこんなこと言われても困惑するよな。


 俺にとって、莉子の居ない時間は地獄のようだった。

 怒りと憎しみ、後悔に苛まれて生きながらに死んでいた。


 あんな時間、もう二度と味わいたくない。


 だから決心したんだ。

 どんな手を使ってでも、莉子を守り切るって。

 人生を懸けてでも、莉子を救うと決めたんだ。


 俺は、もう一度親父さんに向き合う。


「お願いします! これは、俺と莉子の一生を決める選択なんです! どうか! 莉子を高校に行かせて下さい! 俺の一生を捧げても構いません! お願いします! お願いします!」


 立ち上がり、頭を下げる。

 親父さんが受け入れてくれたら、俺は高校には行かずに働こう。

 体力には自信があるから、引越し業者なんか良いかもしれない。給料も良いと聞くし、うってつけの仕事だろう。


 頭を元に戻すと、眉を顰めた親父さんがいた。


「……大輔君の気持ちは良く分かった。娘のことを思ってくれて、とても嬉しく思うよ。でもな、よそ様の子供を働かせるなんて真似は絶対に出来ない。そもそもの話、君の親御さんは知っているのか?」


 親父さんの問いに首を振って答える。


「親は知りません。でも、莉子が高校に行かないというのは、母から聞きました。俺に言うのなら、俺にどうにかしろと言っているようなものです。なら、こういう選択をするのも、両親は予想していたはずです」


「……いや、それはないんじゃないか? 後で聞いたら、卒倒すると思うぞ」


「そうだとしても、説得してみせます」


 きっと殴り倒されるだろうけど、俺は貫き通す。


 俺の意思が固いと思ったのか、親父さんは息を呑む。

 それでも、意思が固いのは親父さんも同じだった。


「大輔君……すまないが、それは出来ない。俺が君の父親だったのなら、とてもじゃないがその考えは認められない」


 申し訳なさそうに言っているけれど、それでは駄目なんだ。

 莉子には高校に行って、その先まで行ってもらわないと、莉子だけでなく親父さんとおばさんまで居なくなってしまうんだ。


 もっと良い方法はないか?

 親父さんを説得出来るだけの方法は……。


 そう考えていると、別の所から声が上がった。


「あなた、大輔君がここまで言ってくれてるのよ。莉子を高校に行かせてあげて」


 それは、莉子の母親からの言葉だった。

 まさか俺の願いを汲み取ると思ってなかったのか、親父さんは驚いておばさんを見る。


「何を言っているんだ‼︎ 大輔君にまで負担を掛けるつもりなのか⁉︎」


「そうじゃないの。ねえ、私達離婚しない?」


 急な話に困惑する。

 隣を見ると、俺以上に莉子は驚いており、ふらふらと俺に寄り掛かって来る。それだけ、おばさんの提案はショックだったのだろう。


 当然ながら、親父さんはそんな提案拒否すると思っていた。


 でも違った。


 親父さんは逡巡した後、おばさんに尋ねる。


「……それでいいのか? これまでやって来たのに……」


「いいの。元々私の親の責任なんだから、あなたや莉子にまで背負わせるべきじゃなかった」


 言葉を聞くと、親父さんは驚いている。

 そして、悲しそうな表情をする。


「そんなこと言わないでくれ。あの時、お義父さんを止められなかったのは、俺の責任なんだ。もっと強く言っていれば、あんなことにはならなかったのに……」


 話は、俺が口出し出来る内容ではなくなってしまった。


 

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なろうの中で揉まれるうちに淀んでいた心が安らいでいく感覚を覚えます。文芸っていいなぁ
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