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門司港タイムトラベル  作者: ハマ
2.中川大輔タイムリープ

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33/38

2-19

 襲われた日から二日後、右腕にギブスをして久しぶりに登校する。


 受験生の身として、利き腕が使えなくなるのはかなり辛い。

 このままじゃノートは取れないので、何とか左手で書けるように練習する必要がある。


 二度目の授業なんだから、大丈夫だろうと思うかもしれないが、残念ながらそういうわけにはいかない。

 授業内容なんて、もうほとんど覚えていないからだ。


 テスト内容は結構覚えているのに、この違いは一体何なのだろうか。


 とまあ、そんな疑問はいいとして、莉子だ。


 クラス見回してもまだ来ておらず、クラスメイト達が俺の方を見ているだけだった。


「おお! 大輔来た⁉︎」

「不良グループの奴らと喧嘩したんだって? しかも、勝ったらしいじゃん⁉︎」

「腕折れてる⁉︎ 大丈夫なの⁉︎」


 クラスメイトが興味津々といった様子で聞いて来るが、「大丈夫大丈夫」と適当に流して席に座る。


 誇るつもりはない。

 喧嘩になった原因を質問されると、行き着く先は汐井になるから、そこは伏せていたかった。


 あの日の出来事は、汐井だって思い出したくないはずだ。


 しばらくすると、汐井がやって来る。

 特に変わった様子は無いのだけれど、いつもより明るく溌剌としている。


 次にクラスに入って来たのは二島。

 二島は汐井とは逆で、俯いていて落ち込んでいるようだった。


 何かあったのだろうか?


 クラスメイトの女子に二島のことを尋ねると、「彼氏と別れたらしいよ」と小声で教えてくれた。


 北方と別れたのか?


 先に来ていた北方は、友人と普通に会話をしており、二島を気にした様子は無い。


 付き合っていることを秘密にして欲しいとお願いされたから、誰にも言わなかったのだけれど、別れたのなら教えて欲しかった。付き合っている前提で会話をしていたら、いろいろと気まずくなっていたから。


 それにしても、別れた原因は何だろうか?


 俺との写真を撮られたからというのは……、無いと思いたいな。

 二島が必死に否定していたから、大丈夫だと思っていたけれど、一応確認はしておいた方がいいだろうか?


 席を立ち、北方と声を掛けようとする。

 しかし、莉子がやって来たので向きを変える。


「莉子、放課後話がしたいんだけど、いいか?」


「うん……」


 メッセージは送っていたけれど、返信が無かった。

 既読は付いていたから、見てないということはないはずだ。


 この日の授業は、いつもより短く感じた。

 自分から言い出しといて、放課後に来る話し合いの時間が嫌なようだ。


 情け無いなと、自嘲する。


 本日の授業が終わり放課後。

 これまでと変わらず、莉子を連れて歩く。

 いつも通りなのだけれど、緊張しているのか言葉が出て来ない。


「……この前、倒れてごめんな」


「うん」


「救急車呼んでくれたんだろう? 助かったよ、腕も折れてたし……」


「……うん」


「そういえば、二島と北方別れたんだって? 知ってた?」


「……知ってる。少し驚いた」


「原因は何だったんだろうな? 俺、関係あったりするのか?」


「北方君が、勉強に集中したいんだって。チサ泣いてたけど、仕方ないって諦めてた……」


「……そっか」


 期末テストまで、もう一ヶ月を切っている。

 高校受験も年が明けて少ししてだ。

 狙う高校次第では、今からラストスパートをかけるのは寧ろ遅いくらいだろう。


「北方はどの高校狙ってるのか知ってる?」


「さあ……あっ、前に小倉高校に行きたいって話ししてたよ」


「おお、凄いな」


 小倉高校は北九州でもトップの高校だ。

 あそこに進学出来たら、将来も安泰だろう。


「……」


「……」


 会話が途切れる。

 他人を話しのダシにしているのに、こんなに盛り上がらないものだろうか。


 はあーっと息を吐き出すと、腹を括る。


 この空気を、さっさと終わらせよう。


「莉子、別れよう」


「……うん」


「言っておくけど、俺は今でも莉子が好きだからな。それだけは忘れないで欲しい」


「うん、私も好きだよ」


 照れ臭そうに莉子は呟く。

 嬉しいこと言ってくれるけれど、もう無理なんだろう。


 俺が別れるのを決断したのは、莉子から言われたからじゃない。病院で父さんに叱られたからだ。


 あの喧嘩は、俺の責任だった。

 なのに莉子を巻き込んでしまった。

 危険に晒してしまった。

 それに、怒られてからようやく気付いた。


 情けなくて仕方ない。

 莉子を守ると心に誓っていたのに、実態は危険な目に遭わせているのだから始末に負えない。


 もっと、ちゃんと守れるようになりたい。

 そう考えると、別れるという選択肢しかなかった。


「あのさ、別れるって言っといて悪いんだけど、俺の我儘を聞いて欲しい」


「うん、いいよ。私に出来ることなら、何でもするよ」


 そう言ってくれるのなら、俺も遠慮せずに言おう。


「これからも、莉子を守らせて欲しい」


「え?」


「何かあったら、必ず俺に相談するって約束してくれ。頼む」


 ここにいる理由。

 過去に戻って来た理由。


 莉子が不幸な目に遭わせないようにする。それが、俺の存在している理由だ。


 俺の願いを聞いて、莉子は戸惑っている。


「ねえ、大輔はどうして私を守ろうとするの? 事あるごとに、『何かあったら言え』って言うけどさ、私ってそんなにか弱く見える?」


「そうじゃない、ただ莉子を守りたいんだ。高校に入学するまででいい。それまでの間、俺を信じてくれないか?」


 そう言うと、莉子の表情が曇った。

 どうしたんだと尋ねようとするけれど、直ぐに元通りになってしまった。そして、意地悪な質問をする。


「じゃあさ、私が高校に行かなかったらどうするの?」


 悪戯っぽい表情を浮かべている。

 まるで、俺がどう答えるのか試しているようだ。


 でも、何か違和感を覚える。

 どうしてだろう?


 違和感の正体は分からず、俺は本心から答える。


「それは……、高校に行くまで、ずっと守るよ。好きな女の為なら、それくらいするさ」


 この言葉に、莉子は微笑みを浮かべる。

 それから、予想外の返答をされる。


「じゃあ、守らせて上げられないね。私は、私の道を行くからさ、大輔は、大輔の道を行ってよ。私と大輔はここでお別れしよう……。そうじゃないと、お互い不幸になるよ……」


 莉子が俺の胸元を指先で押して、お互い一歩離れる。


 手を伸ばせば届きそうな距離。


 それなのに、途轍もなく遠くに感じてしまった。


「じゃあね、ばいばい」


 莉子は、いつものように手を振って帰って行く。


 俺は引き留められず、見ていることしか出来なかった。





 期末テストが終わると、ある噂が流れた。


 莉子の親が人殺しだという噂が。

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