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門司港タイムトラベル  作者: ハマ
2.中川大輔タイムリープ

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32/38

2-18

 警察から逃げた先には、莉子が立っていた。


 先に帰っていて欲しいとお願いしたのに、どうしてここにいるのだろうか? なんて疑問は浮かばなかった。

 彼氏が不良グループに連れて行かれたのなら、心配するのは当然だろう。反対の立場なら、俺だって助けるタイミングを窺っていたと思う。


 だから、これも莉子なのだろう。


「警察呼んでくれたのって莉子?」


「うんそう。まったく、無茶し過ぎ。あんなの、怪我だけじゃ済まないよ普通」


「すまん。でも、やらないといけなかったんだ」


「だからって心配掛けないでよ。途中で逃げることだって出来たでしょ?」


 移動している間に逃げ出すことは出来た。

 警察署の場所だって知っているから、そこまで走って行けば追っては来なかっただろう。


 だがそれだと、不良グループから聞き出せず、誰からの指示なのか分からないままだった。それに、これから先も狙われることになる。


 それは回避したい。


 もしそうなったら、莉子も巻き込んでしまうだろうから。


「腕、大丈夫?」


「大丈夫だ、ただの打撲だから」


 右腕が痛む。

 強がって言ってみたが、骨折していそうだ。

 いくら体が頑丈でも、バッドで腕を殴られたら無事では済まない。


「ちゃんと病院行って検査しなよ」


「おう、明日学校行く前に行って来るよ」


 それだけ言うと、二人で並んで歩き出す。

 腕は相変わらず痛いけれど、無視して莉子との会話を続ける。

 さっきまでの乱闘が嘘のような普通の雑談。まるで、暴れたことが無かったかのように接してくれて、俺の昂った気持ちが落ち着いて行く。


 そんな時、莉子がある話題を振って来る。


「大輔は、犯罪者は罪を償っても許されるべきじゃないって思う?」


「ん? その罪によるんじゃないか。あと、再犯しないとか」


「……人殺しとかは、許されるべきじゃないよね?」


「殺人は論外だろう。あと、結果的にそうなる犯罪とか」


「結果的にって、どういうの?」


「被害者にとって、殺されたも同然の行為」


 たとえば、前のあいつらが莉子にしたような罪。

 その結果、莉子だけじゃなく両親も後を追ってしまった。

 決して許しちゃいけない。

 奴らは、実質三人の命を奪っているのだから。


「それもそうだね……」


 莉子は俺の意見に同意してくれた。


 でも、次の言葉に俺は直ぐに反応出来なかった。


「……ねえ、私達別れない?」


「…………は?」


 思わず足を止めてしまう。

 何を言われたのか理解しようと、さっきの言葉を頭の中で整理する。


「……どうして?」


 苦しくても何とか理解して、絞り出した言葉がこれだった。


「たぶん、私と大輔の価値観合わないよ」


「いっ、いや、これまで付き合って来て、そんなこと無かっただろう……?」


 違っていたら、一年近くも付き合わないはずだ。それとも、莉子は無理して俺に合わせていたのだろうか?


「そうだね、気は合うと思うよ。でも、価値観は別。私ね、犯罪を犯したとしても、反省して更生してくれたらいいと思ってるんだ。じゃなかったら、救いがなさ過ぎるじゃない」


 喉が渇く。


「……それって、人を殺してもか? 人の尊厳を奪ってもか?」


「うん。私はそうであって欲しいと思ってる」


 血の気が引く。

 腕の痛みが増して頭痛がする。


「……あっ、待ってくれ……。すまん、頭が……」


 それを莉子が言うのか?

 あんな目に遭っていたのに、あいつらを許そうと思っていたのか?

 お前の親父さんと母親も亡くなったのに、そんなことを言うのか?

 残された人達の苦しみよりも、罪を犯した奴らを思うのか?


 だとしたら、何の為に……。


「大輔⁉︎ 大輔大丈夫⁉︎」


 息が苦しい。

 目眩がして壁に寄り掛かってしまう。


 倒れそうな俺を支えようと莉子が寄り添ってくれるけれど、それが不快だった。


 俺は莉子の肩を掴んで問う。

 朦朧とし始めた頭を必死に働かせて、莉子に聞く。


「なあ、莉子。だったら、だったら、俺は……どうしたらよかったんだ?」


「え? 何、が?」


「莉子が居なくなって、どうしたらいいのか分からなくなった。後から知って、莉子に酷いことした奴らを潰した。それもやるべきじゃなかったって、言うのか?」


「私が?」


「高校に入っても、ずっと考えてた。どうして俺を頼らなかったのかって、どうして気付かなかったのかって、ずっと後悔しっぱなしだった。なあ、俺はどうするべきだったんだ? 教えてくれよ……頼むよ、莉子……」


 立っていられなくて、その場に座ってしまう。


「大輔⁉︎ 大輔⁉︎」


 心配する声を聞きながら、意識が遠のいて行った。



   ◯



「……やっちまった」


 病院のベッドの上で後悔する。


 莉子が知る必要のないことを話してしまった。

 具体的には言っていないとはいえ、話すべきじゃなかった。


 それに、あそこで倒れてしまったのはまずかった。


 救急車で運ばれて、病院で検査をすると腕が折れていた。それはいいのだけれど、どうやって折ったのかという話になった。


 転んで、と誤魔化したのだけれど、莉子が説明していたようで喧嘩したことがバレた。おかげで、警察に事情を聞かれるハメになってしまった。


 その結果、両親がブチ切れている。


「大輔、喧嘩したんだってな。どういうつもりだ! 莉子ちゃんまで巻き込んで、何考えている‼︎」

「あんた受験前だってのに何考えてんの⁉︎」


「ごめん……」


 目を覚まして早々、話を聞かれ怒られた。

 そこに莉子の姿は無く、どうしたのかと話を聞くと「女の子をこんな時間までで歩かせるのか?」と、真っ暗になった外を見ながら言われてしまう。


「莉子ちゃんにも迷惑かけたんだから、ちゃんと謝っておきなよ」


「ああ、そうするよ……」


 まずは、巻き込んだことを謝らないとな。

 警察呼んでくれたこともお礼言わないと。

 あと、変なことを言ってしまったのも謝らないと。


 でも、俺が話しかけてもいいのだろうか?


「大輔、あんた泣いてんの⁉︎」


 母さんが俯いた俺を見て驚いている。


「泣いてねーし」


 そんな訳ないだろうと否定するが、視界が歪んでしまった。


 どうやら俺は、かなりショックを受けているようだ。


「どうした? どこか痛いのか?」

「先生呼んで来ようか?」


 心配してくれている両親だけど、二人にも報告しないといけない。


 二人とも、莉子のことを気に入っていたし、とても仲が良かった。でも、その関係も終わってしまう。


「ごめん、父さん母さん。……莉子とは、別れたんだ」


「はあ⁉︎ またどうして?」

「受験前だから?」


 こういうのは話したくはないけれど、ちゃんと説明しておいた方がいいだろう。


「価値観が合わないってさ。罪を償った犯罪者は、許されるべきだって、莉子が言うから……」


 莉子とのやり取りを説明すると、両親はたった一言だけ告げた。


「それは、大輔が悪い」


 まさか俺の考えが、親にまで批判されるとは思わなかった。


 とはいえ、否定もされなかった。


 犯罪者を許すなというのが、おかしな考え方なのかと訴え掛けると、


「莉子ちゃんには言うな」


 と言われてしまった。


 何だよそれ。そう反発するのだけれど、後になって、この言葉の意味をもっとよく考えておけばよかったと後悔する。


 莉子がどうして、そう考えるようになったのか。

 何があって、その考えに至ったのか。


 いくらでも気付けるタイミングはあったのに、俺は全てを見逃してしまっていた。


 

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