2-17
連れて来られたのは、不良グループが溜まり場にしているアミューズメント施設の駐車場。
ここは、警備員も配置していないことから、夜になると柄の悪い奴らが集まるようになってしまった場所だ。
あの時も、ここに乗り込んで暴れ回った。
容赦なく殺すつもりで、俺自身死んでもいいと思いながら暴力を振るった。
あれを再現するのか、また別の方法で解決するのかは、こいつら次第だろう。
バットを片手に持ち、背伸びをして身体をほぐす。
家で父さんとミット打ちをしていたおかげで、運動不足という感じはない。
不良グループを見ると、殺気立っている奴から、既に戦意喪失している奴までいる。
「なあ、俺のことは誰に聞いた? お前のお兄さんって、俺のこと知らないだろう? 警察も話さないって言っていたのに、どうやって知ったんだ?」
「はあ? そんなこと気にしてんの? これからボコされんのに、俺らのこと舐めてんだろう⁉︎」
「そんなのいいから教えてくれよ、俺に取っては重要なことなんだ。頼むよ……」
そうお願いすると、「だったらその場で跪け」と調子に乗って言って来る。
さっきまで、俺に踏み付けられた奴とは思えない強気な発言だ。
普通なら、そんなの無視してこいつから狙うだろう。
だが俺は、指示に従って膝をつく。
「頼む、教えてくれ」
そうお願いするのだけれど、まあ結果は予想した通りだった。
そいつは近付いて来ると、小馬鹿にした笑みを浮かべた。
「はっ、誰が教えるかよ‼︎」
蹴りが俺の頭部を捉える。
繰り出された蹴りは下手くそだったが、頭に当たり星を散らせた。
それだけで、大したダメージにはなっていない。
「まっ、こんなもんか」
起き上がりながら勢いよく踏み込み、拳を顔面に叩き込んだ。
前と同じように一撃で沈み、地面に転がる。
「さあ、次」
そう言いながら、残った不良グループを睨み付けた。
俺は体格に恵まれている。
中学三年では滅多にいないほどの高身長で、九十キロを越える体重がある。運動しているのもあり筋肉質で、首もそこそこ太い。
ベンチプレスも百三十キロ上げられるし、スクワットでもそこそこだ。
父さんから「軽トラに轢かれても無事そうだな」と言われるほどの体格で、同級生からしたら怪物のような存在だろう。
そんな俺だけど、流石にバットで殴られたら痛い。
そう、痛いんだ。
痛いだけで済んでいる。
「っらー‼︎」
フルスイングのバッドを掌で受けて、前蹴りを喰らわせる。
俺がバットを握っていたからか、蹴りを喰らった奴はその場に留まってしまっている。追加の蹴りを腹に叩き込んで、胃液と共に地面に転がせる。
今度はこちらからと、バットを持った奴に接近する。
「いやちょっ⁉︎」
まさか狙われると思ってなかったのか、不良は焦った顔をする。だが、そんなの知らんとフルスイングを体に喰らわし、痛みで動けなくさせる。
仲間を助けようと二人が仕掛けて来る。
持っている武器は、鉄パイプとバット。
攻撃を避けるのは無理で、頭部を腕で守るように防御する。
バットはまだ耐えられるが、鉄パイプはかなり痛い。でも、何とか痛みには耐えられる。
二度目の打撃を喰らう前に、バットで顔面を殴り鉄パイプの男を無力化する。
しかし、もう一人の男の打撃は俺の腕を狙っていて、殴られた衝撃で武器を手放してしまう。
勝ち誇った顔をする不良の一人。
そいつの胸ぐらを左手で掴んで、持ち上げる。
表情が一変する中、構わずに地面に叩き付けた。
「やっ、これヤバいって⁉︎ マジヤバいって⁉︎」
「話し違うじゃん⁉︎ 俺関係ないから‼︎」
「逃げよう! こいつ頭いかれてるっ⁉︎」
人数合わせで集められていたのか、五人倒した所で残りの三人が逃げ出した。
俺は、そんな奴らを追ったりしない。
まだ動ける奴と合わせて攻めて来られたら、結構ヤバかったから。
バットで殴られた右腕の感覚がおかしい。
打撲で済んでくれたらいいが、これは恐らく折れている。
この状態で三人の相手は、流石にきつい。
まあ、何はともあれ。
「さあ、話を聞かせてもらおうか」
少しは回復したのか、最初に殴り飛ばした奴がヨロヨロと起き上がっていた。
ふらふらの足取りなのに、俺を睨み付けて来る。
兄を病院送りにしたことを、心の底から恨んでいるのだろう。
でもな、怒っているのは俺も同じなんだよ。
俺はこいつらを、殺してやりたいほど憎んでいる。
容赦なく潰してやりたい。二度と歩けなくなるまで壊してやりたい。生きていることを後悔するほど、徹底的に追い詰めてやりたい。
そんな歪んだ感情が湧いて来る。
でもそれは前のこいつらの話で、今はまだ何もやっていない。
だから、必要以上に暴力に訴えるべきじゃない。
深呼吸をして、溢れる怒りを鎮めるよう努める。
落ち着け、落ち着け……。そう言い聞かせて、必死に頭を冷やす。
こいつからは、聞き出さなきゃいけないことがあるんだ。
怒りに任せるべきじゃない……。
何とか心を落ち着けると、睨み付けながら告げる。
「おい、俺のことをどうやって知ったか教えろ。もう決着は着いただろう?」
それとも、これ以上やるか?
そう尋ねると、こいつは立ち止まり倒れた奴らを見ていた。
何か思うことがあったのか、駐車場の天井を見て、直ぐに俺を直視する。
「分かった。教える。俺に中川のことを教えてくれたのは、SNSの名前が『パパラッチ』って名前の奴だ。そいつが誰かまでは知らない……」
これでいいか? そう目が訴えて来るが、余計に知る必要が出来た。
「待て。何て聞いてたんだ? 俺のことだけか? お前の兄が何をやっていたのか知ってんのか?」
「……」
無言というのは、案外いろんなことが伝わって来る。
こいつは、全部知った上で俺を襲った。
兄が最低な行為をやっていると知っていても、止めるでも責めるでもなく、無視し続けていた。
それなのに、兄がやられると俺を狙って来た。
「カスが……」
軽蔑の言葉が漏れてしまう。
他人が傷付こうがどうでもよくて、自分のことしか考えていない。こんな奴らを野放しにしていいのかと、本気で悩んでしまう。
ここで徹底的にやっておくか?
そう考えていると、誰かが通報したのか遠くに警察の姿が見えた。
「まずいな、逃げるか」
俺自身、捕まるのは別に構わない。
でもそれは、莉子が無事に日常を送れるようになってからだ。
踵を返すと、別の出口に向かって走り出す。
「ヤバい警察が来た⁉︎」
俺の逃走で警察に気付いたのか、不良グループも逃げ出した。
横目で最後に見たのは、取り押さえられている不良の姿だった。




